2025年02月28日
妊娠・出産・育児に伴う女性労働者への不当な扱いは、マタニティハラスメント(通称:マタハラ)として社会問題化しています。この記事では、マタハラの定義や分類、関連法規、予防のための事業主の取り組み方などについて詳しく解説します。
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マタニティハラスメント(マタハラ)を含むハラスメントを放置すれば、訴訟リスクや企業イメージの失墜につながります。
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法令や国の指針などでマタニティハラスメントといった言葉は使用されず、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と呼んでいます。これは、女性労働者が妊娠・出産・育児に関連する制度を利用する、またはそのような状態にあることを理由として、職場で受ける嫌がらせや不利益な取り扱いを指します。
マタハラの対象となるのは、妊娠中や出産後の女性労働者、育児休業を取得する女性労働者など、妊娠・出産・育児に関連する状況下にある女性労働者です。パートタイム労働者や派遣労働者なども含まれます。
マタハラは、被害を受けた女性労働者の心身の健康や仕事へのモチベーションに深刻な影響を及ぼします。出産や育児は本来喜ばしいことであるにもかかわらず、職場で不当な扱いを受けることで、大きなストレスを抱えてしまいます。
また、マタハラによって優秀な人材が離職してしまうことは、企業にとっても大きな損失となります。そのため、多様な人材が活躍できる職場環境の整備は、企業の成長と発展に不可欠です。
マタハラは、個人の尊厳を傷つけ、仕事と妊娠・出産・育児の両立を阻む許されない行為です。企業は積極的にマタハラ防止に取り組み、はたらきやすい職場環境を整えていく必要があります。
マタハラには大きく分けて、『制度利用への嫌がらせ型マタハラ』と、『状態への嫌がらせ型マタハラ』があります。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
制度利用への嫌がらせ型マタハラとは、妊娠・出産や育児に関連する法律で定められた制度の利用に対して、上司や同僚などから嫌がらせを受けることを指します。
例えば、妊娠・出産に関連する制度としては、出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から出産後8週間までの期間、仕事を休むことができる制度である産前産後休業や、妊娠中や出産後の女性労働者の健康管理のために、医師などの指導に基づいて事業主が講じる母性健康管理措置などがあります。
また、育児に関連する制度には、育児休業や時間外労働の制限などがあります。育児休業は、子どもが1歳(一定の条件を満たせば2歳)になるまで継続して休業できる制度です。子育て中の労働者は、時間外労働を制限することもできます。
これらの制度を利用しようとする労働者に対し、「周りに迷惑がかかる」などと言ってプレッシャーをかけることが制度利用への嫌がらせ型マタハラに当たります。事業主は、これらの制度が利用しやすい環境を整備する義務があるのです。
状態への嫌がらせ型マタハラとは、女性労働者の妊娠・出産という状態そのものに対する嫌がらせです。仕事上の不利益な取り扱いや、就業環境を害する言動などが含まれます。
妊娠・出産を理由とした解雇、契約更新拒否、降格、減給などの不利益な取り扱いは法律で禁止されています。
上司や同僚から、妊娠・出産に関する不適切な言動を受けることで、就業環境が害されるケースが状態への嫌がらせ型マタハラに当たります。「妊婦はミスが多い」「妊娠して役に立たなくなった」などの発言がその例です。
このような言動は、女性労働者の尊厳を傷つけ、モチベーションを下げ、就業継続を困難にします。
事業主には、マタハラを防止するためのさまざまな義務が課せられており、違反した場合には法的責任を問われることがあります。以下では、マタハラに関する法的規制の詳細について解説します。
事業主は、女性労働者の妊娠・出産・育児に関連して、以下のような不利益な取り扱いを行うことは男女雇用機会均等法や育児・介護休業法で明確に禁止されています。
事業主がこれらの行為を行った場合、不当解雇の場合の賃金支払義務や損害賠償責任を負う可能性があります。
事業主は、マタハラを防止するために、以下のような措置を講じる義務があります。
具体的には、相談窓口の設置、研修の実施、ポリシーの文書化、周知活動、迅速な対応体制の構築などが求められます。事業主がこれらの義務を怠った場合、安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性があります。
男女雇用機会均等法は、第9条、第11条の3、第11条の4において、マタハラに関する規制を定めています。
第9条:事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
第11条の3:事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
第11条の4:国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「妊娠・出産等関係言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。
2 事業主は、妊娠・出産等関係言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、妊娠・出産等関係言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 労働者は、妊娠・出産等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。出典:厚生労働省「男女雇用機会均等法のあらまし」
この法律は、女性労働者の妊娠・出産などを理由とする不利益な取り扱いを禁止し、事業主に対してマタハラ防止措置を講じることを義務付けています。
男女雇用機会均等法に基づく指針では、事業主が職場における妊娠、出産などに関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置が具体的に示されています。
育児・介護休業法では、第10条、第25条、第25条の2において、マタハラに関する規制を定めています。具体的な記載は以下の通りです。
第10条:事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
第25条:事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
第25条の2:国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行ってはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「育児休業等関係言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。
2 事業主は、育児休業等関係言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 労働者は、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。出典:e-Gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
この法律は、女性労働者の育児休業などの制度利用に対する不利益な取り扱いを禁止し、事業主に対してマタハラ防止措置を講じることを義務付けています。
育児・介護休業法に基づく指針では、事業主が職場における育児休業などに関するハラスメントの防止のために雇用管理上講ずべき措置が具体的に示されています。

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マタハラなどの職場リスクに備えるために、ハラスメントやコンプライアンス違反に関するリスクとその実態、社内外で講じるべき対策を専門家の視点から解説しています。
マタハラが発生した場合、被害者、事業主、加害者それぞれに適切な対応と責任が求められます。ここでは、マタハラ発生時の各当事者の行動指針と法的責任について解説します。
マタハラの被害を受けた場合、まずは自身の権利を認識し、適切に行動することが重要です。具体的には、事実関係を記録に残し、信頼できる人に相談することから始めましょう。
社内に相談窓口が設置されている場合は、そちらに相談するのが有効です。社内に適切な相談先がない、あるいは社内での解決が難しい場合は、以下のような外部の専門機関に相談するのも一つの方法です。
マタハラの加害者は、被害者に対する不法行為責任や使用者責任を負う可能性があります。使用者責任とは、従業員が職務遂行に関連して他人に損害を与えた場合に、使用者がその損害を賠償する責任のことです。加害者の責任について、具体的な法令をご紹介します。
民法709条(不法行為による損害賠償責任):故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法715条1項(使用者等の責任):ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。出典:e-Gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ「民法」
従って、マタハラの加害者個人だけでなく、事業主も責任を問われるリスクがあります。加害者に対しては、懲戒処分などの厳正な対応を取ることが重要です。
マタハラによって被害者が精神的苦痛や経済的損失を被った場合、加害者や事業主に対して損害賠償を請求できます。また、マタハラを理由とした解雇は不当解雇として無効となります。これは労働契約法16条に定められており、事業主は解雇期間中の賃金支払義務を負います。
労働契約法16条(解雇):解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
出典:e-Gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ「労働契約法」
被害者は、これらの民事上の権利を裁判で主張することが可能です。ただし、訴訟には時間とコストがかかるため、まずは社内での解決や行政機関の利用を検討すべきでしょう。
マタハラ発生後の適切な対応手順は、次のようになります。
事業主は、これらの対応を迅速かつ適切に行う必要があります。特に、被害者の保護を最優先し、プライバシーにも十分配慮しながら対応することが求められます。
マタハラを予防するためには、事業主による積極的な取り組みが不可欠です。ここでは、マタハラ防止のための具体的な措置について見ていきましょう。
まず、事業主は、マタハラを発生させないための明確な方針を定めることが重要です。この方針は、経営トップ層の強いリーダーシップのもと、全社的な取り組みとして推進されなければなりません。
策定した方針は、社内報や社内研修などを通じて、全ての従業員に周知徹底することが求められます。経営層から現場の社員に至るまで、マタハラ防止の重要性を共有し、一丸となって取り組む体制を構築しなければなりません。
次に、マタハラに関する相談を受け付ける窓口を設置し、適切に運用することが必要です。相談窓口は、人事部門や労働組合、外部の専門機関など、従業員が相談しやすい環境を整えましょう。
相談窓口の存在は、社内に広く周知し、利用方法についても明確に示すことが大切です。また、相談者のプライバシーを厳守し、不利益な取り扱いを受けることのないよう配慮することが求められます。
マタハラ防止には、管理職と一般従業員の双方に対する教育・啓発活動が欠かせません。特に管理職は、部下の妊娠・出産・育児に関する制度の理解と適切な対応が求められるため、重点的な研修が必要です。
研修内容としては、マタハラの定義や具体例、関連する法令・ガイドライン、相談窓口の利用方法などを盛り込むことが効果的です。全社的な研修に加え、管理職向けの個別研修を実施するのも有効でしょう。
【関連記事】ハラスメント研修の目的や内容、義務化を解説!カリキュラム例も
事業主は、マタハラ防止に関する基本方針をはじめ、関連するルールや手続きを就業規則などの社内規程に明文化することが求められます。文書化されたポリシーは従業員が誰でもアクセスできる場所に掲載し、従業員に周知します。
加えて、ポスターの掲示や、ハンドブックの配布など、さまざまな媒体を活用した継続的な啓発活動も重要です。マタハラ防止が企業文化として根付くよう、地道な取り組みを続けることが重要です。
マタハラの疑いのある事案が発生した場合、事業主は速やかに事実関係を確認し、適切な措置を講じなければなりません。被害者の保護を最優先としつつ、加害者への厳正な対処も必要です。
企業内ホットラインの設置など、社内の関係部署が連携し、迅速かつ的確に対応できる体制を平時から整えておくことが大切です。
マタハラの発生を抑制するには、表面的な対策だけでなく、その原因や背景にも目を向ける必要があります。長時間労働の常態化や、男性の家事・育児参加への理解不足など、組織や社員の意識に潜む問題点を洗い出し、改善を図ることが重要です。
アンケートやヒアリングを通じて、従業員の声に耳を傾けることも有効でしょう。
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マタニティハラスメント(マタハラ)をはじめとする職場のハラスメント問題は、企業の信頼を大きく損なう重大なリスクです。社会全体でハラスメントへの意識が高まる今、企業には早期発見と予防に向けた仕組みづくりが求められます。
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本記事では、マタニティハラスメント(マタハラ)について、分類、関連法規、予防のための事業主の取り組み方などを詳しく解説してきました。マタハラは、女性労働者の妊娠・出産・育児に関連する制度の利用や状態を理由とした職場での嫌がらせや不利益な取り扱いを指します。
マタハラ防止のためには、以下のような事業主の取り組みが重要です。
マタハラのない職場環境を実現するには、経営トップのリーダーシップのもと、全社一丸となった取り組みが求められます。妊娠・出産・育児を理由とした不当な扱いを許さない企業文化を根付かせていくことが何より大切です。はたらく女性が安心して仕事と妊娠・出産・育児を両立できる社会の実現に向け、職場からマタハラをなくす努力を続けていきましょう。