2021年01月27日
2025年05月26日
コアコンピタンス(Core Competence)とは、「競合他社には真似することができない核となる能力」のことを指します。コンピタンス(Competence)には「能力」「力量」「適正」などの意味がありますが、企業が持つさまざまなコンピタンスの中でもコア(Core)=核となるものがコアコンピタンスです。
将来の展望に向けて事業の集中・拡大を行い、市場の勝者となるためには、コアコンピタンスの把握と、それに基づく戦略策定が重要です。本記事では、代表的な企業事例や強みの絞り込み方、戦略策定方法について解説します。
【お役立ち資料】新規事業立ち上げノウハウ完全ガイド
新規事業を立ち上げる際には、自社事業のコアコンピタンスに基づいた戦略を立案することが重要ですが、どのように戦略設計を行えばいいか分からない方も多いのではないでしょうか。
パーソルグループでは、新規事業を立ち上げるためのフローとノウハウ、そして成功に導くコツをまとめまたノウハウガイドを無料で公開しています。新規事業の戦略設計に課題をお持ちの方はぜひご覧ください。
目次
コアコンピタンスは、著名な経営学者のゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードが1990年「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌に寄稿した論文の中で提唱した、経営戦略における重要な考え方です。この論文はその後アップデートされ、共著『コア・コンピタンス経営』(日本経済新聞出版社 1995年)として刊行されています。
技術が進歩して市場が成熟すると、さまざまな製品やサービスはコモディティ化を免れません。企業は競合他社との差別化を図らなければ生き残ることができないという状況において、コアコンピタンスを定義する重要性が高まっています。
コアコンピタンスを生かした経営が「コアコンピタンス経営」です。コアコンピタンス経営は、特にものづくりを行う企業にとって大きな意味をもちます。競合他社が真似できない技術力があれば市場において優位な地位を占め、顧客にも大きなメリットをもたらすことができるからです。
コアコンピタンス経営においては、目先の状況への対応だけではなく自社が事業領域とする産業の未来をいかに描くことができるかが決め手となります。未来を見通す想像力が、企業の競争力につながると期待されるからです。
コアコンピタンスと同様、経営戦略を語る上での重要な考え方として、ケイパビリティ(Capability)があります。ケイパビリティには「能力」「才能」「素質」「手腕」といった意味があり、企業が得意とする組織的能力や強みのことを言います。
ケイパビリティという考え方は、1992年にボストン・コンサルティング・グループのジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス・シュルマンの3人による論文で発表されました。
コアコンピタンスは「競合他社には真似することができない核となる能力」でした。一方、ケイパビリティはコアコンピタンスよりも上位の視点でとらえた「企業として持っている能力」を指します。
コアコンピタンスが特定の技術力や製造能力を指すのに対し、ケイパビリティはビジネスプロセスを指す点で違いがあるようです。しかしながら、コアコンピタンスもケイパビリティも企業の競争優位性を保つために発揮すべき能力という点では、同じ重みがあると言えます。
【関連記事】ケイパビリティとは?意味や使い方・具体例をわかりやすく解説
【お役立ち資料】新規事業立ち上げノウハウ完全ガイド
新規事業を立ち上げる際には、自社事業のコアコンピタンスに基づいた戦略を立案することが重要です。
パーソルグループでは、新規事業を立ち上げるためのフローとノウハウ、そして成功に導くコツをまとめまたノウハウガイドを無料で公開しています。新規事業の戦略設計にお悩みの方はぜひご覧ください。
「競合他社には真似することができない核となる能力」とは、具体的に何を指すのでしょうか。ゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードはコアコンピタンスの定義として次の3つの条件を挙げています。
1.顧客に利益をもたらす能力
2.他社から模倣されにくい能力
3.複数の商品や分野に応用できる能力
それぞれについて具体的に考えてみましょう。
企業が目指すのは自社の利益の追求です。しかしそれだけでは十分ではありません。自社が提供する製品やサービスは、顧客にとっても利益を感じられるものであることが必要です。他社と比べて優れた能力や強みを持っていても、顧客の利益にならなければ自社の利益につながらないからです。
自社が提供する製品やサービスが他社に簡単に真似できるようなものであれば、その技術は自社の武器にはなりません。競合他社は常に目を凝らし、自社に応用できないか考えているからです。自社で開発した技術がその時点では新しくても、その後、他社に真似されてしまえば、優位性はたちまち失われてしまいます。特に競合他社がひしめく分野では、他社に真似されない能力であることが求められます。
他社に真似されていない技術であっても、それがひとつの製品や分野にしか使えなければ優位性が高いとは言えないでしょう。万が一その製品や分野の需要がなくなれば、武器であったコアコンピタンスもその能力を発揮する場を失ってしまいます。このようなことにならないよう、技術は複数の製品や分野に応用できるものであることが欠かせません。
一般的に、企業は他社に対して何らかの強みを持っているものです。しかし、その強みが何なのかを把握していない企業も少なくありません。また、肝心のコアコンピタンスが他社と似通っていて取って代わられてしまうようでは、コアコンピタンス経営は実現しません。
そこで「自社の核となる能力」が、コアコンピタンスとして定義するにふさわしいかを判断する必要があります。その判断基準については、ゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードが共著『コア・コンピタンス経営』の中で掲げている5つの視点が参考になります。
模範可能性とは、他社が真似できる可能性のことを指します。自社が強みとしている能力や技術力を発揮し、顧客にとって価値の高い製品やサービスを生み出しても、他社に簡単に真似されてしまっては市場での競争優位を保つことは難しくなります。特定の製品やサービスが他社に模倣される可能性が低く、他社が追いつけないような状況であればあるほど、コアコンピタンスとして定義できるでしょう。
移動可能性とは、自社が提供する特定の製品やサービスだけに通用する能力や強みではなく、他の製品や分野にも応用可能なことを指し、応用性、汎用性とも言い換えられます。コアコンピタンスに応用性や汎用性があればビジネスチャンスが広がり、他社に対して競争優位なポジションに立つことが期待できます。
代替可能性とは、自社の製品やサービスが他のものと置き換えることができるかという視点です。求められる機能が他の製品で代替できれば自社の強みにはなりません。コアコンピタンスであるためには、技術や能力が代替できない唯一無二のものであることが求められます。代替がきかないオンリーワンとも言える技術や能力を持つ企業は、市場で独占的なポジションを占めることが可能になるでしょう。
希少性とは、文字通り自社の技術や能力が珍しいことを指します。自社が提供する製品やサービスがあまり市場に出回っていないものを指す場合もあります。似たような製品やサービスが数多く市場に出回っていれば、いくら自社の技術力を生かした製品であっても市場では埋没してしまいます。一方、希少性は市場で注目され、希少性のある製品やサービスに対する需要は大いに高まることが期待できます。
耐久性とは、長期に渡って他社の追随を許すことなく優位に立つことができる能力を指します。いくら優れた技術や能力であっても、短期間で強みが消えてしまうようであればコアコンピタンスにはなり得ません。しかし、技術革新のスピードは速く、耐久性を維持しながら市場で競争優位に立つことは至難の業です。そんなハードルを乗り越えるためにも、常にイノベーションを起こすような姿勢を継続することが、特にものづくり企業にとって重要と言えるでしょう。
自社のコアコンピタンスを見極めるには、次の3つのステップを踏むのが一般的とされます。
自社の強みを洗い出すための手法としては、自社の強みを思いつくまま抽出するブレーンストーミングがあります。能力や技術だけでなく、人材や企業文化などの視点も加えてみましょう。経営者だけでなく、広く社員も参加することによって新たな気づきが生まれる可能性があります。
また、SWOT (スウォット)分析やPPM分析など、マーケティング分析で用いる手法も活用しましょう。SWOT分析は、自社の内部要因(強みと弱み)と、自社をとりまく外部要因(機会と脅威)を照らし合わせて分析することで企業や事業の現状を把握する手法です。PPM分析とは、自社の製品やサービスを市場の成長率、占有率という視点で自社がどのポジョションにあるかを客観的に分析する手法です。
【関連記事】SWOT分析のやり方とは?具体例やビジネスへの活用方法を解説
強みの評価にあたっては、先に挙げたコアコンピタンスの3つの条件に照らし合わせて行います。
洗い出した強みに対し、この3つを判定の基準にして点数をつけ、リスト化します。点数をつけることによって、コアコンピタンスとしてふさわしいかどうかを定量的に確認できるようになります。点数の高い強みが、自社のコアコンピタンスと定義できる可能性が高いと言えるでしょう。
コアコンピタンスとなる可能性が高い強みを、さらに絞り込みます。具体的には次の項目を当てはめて考えます。
コアコンピタンスの絞り込みは、最終的には経営判断になります。長期にわたって市場での優位性を発揮するコアコンピタンスを定めることができれば、会社の継続的な成長と発展に貢献してくれることは間違いないでしょう。
企業のコアコンピタンスとして、代表的な成功事例を2つ紹介します。
世界的な自動車メーカーであるHONDAにとって、競合他社を圧倒するコアコンピタンスとなったのは高性能エンジンの製造技術です。
1960年代に日本やアメリカで深刻化した自動車の排気ガスによる大気汚染の問題を受け、1970年には自動車の販売許可において厳しい基準が設けられることとなりました。多くの自動車メーカーが苦戦を強いられるなか、1971~1972年にHONDAが世に送り出したのが低公害のCVCCエンジンでした。CVCCエンジンが世界で最も早くアメリカ環境保護局に認定されたことで、HONDAは高い技術力を持った自動車メーカーとして世界中から一目置かれるようになったのです。
デジタルカメラやスマートフォンの普及によって写真フィルム事業の市場規模が縮小していくなかで、富士フィルムがコアコンピタンスとして優位性を発揮したのは、スキンケア化粧品事業です。
カメラのフィルム開発・製造に用いられる高純度コラーゲンは、従来のコラーゲンに比べて潤い成分の浸透に優れています。これを応用した富士フィルムのスキンケア化粧品「アスタリフト」は、市場参入後、多くの消費者から一気に高い評価を得るまでに至りました。アスタリフトは、現在も同社を支える中核の事業として成長を続けています。
コアコンピタンスが求められるのは、大企業だけではありません。むしろ中小企業こそ、ブランド力や社会的イメージに依存しないコアコンピタンスを活かした成長戦略が不可欠と言えるでしょう。
実際、日本にはグローバルニッチトップ企業と呼ばれる中小企業が少なくありません。グローバルニッチトップ企業とは、比較的ニッチな分野に特化することで、国際市場で競争優位を確保している超優良企業のことを指します。グローバルニッチトップ企業の成功要因としては、コアコンピタンス経営の考え方が根底にあると考えられます。
中小企業白書によると、イノベーションに向けて研究開発に積極的に取り組んでいる中小企業は利益率が高い傾向にあります。中小企業のなかには、その強みを発揮して、大企業の利益率を上回る企業も実際に存在するようです。企業の規模にかかわらず、確固たるコアコンピタンスを持っている企業は業績のパフォーマンスが優れていることがわかります。
また同白書では、中小企業は自社の強みとして「個別ニーズにきめ細かく応じる柔軟な対応力」「経営における迅速かつ大胆な意思決定能力」などを調査結果として挙げています。これらの条件が、中小企業が市場での競争優位性を獲得するための重要ポイントと言えるでしょう。
【お役立ち資料】新規事業立ち上げノウハウ完全ガイド
新規事業を立ち上げる際には、自社事業のコアコンピタンスに基づいた戦略を立案することが重要ですが、どのように戦略設計を行えばいいか分からない方も多いのではないでしょうか。
パーソルグループでは、新規事業を立ち上げるためのフローとノウハウ、そして成功に導くコツをまとめまたノウハウガイドを無料で公開しています。新規事業のご担当・自社のイノベーション創出に課題をお持ちの方はぜひご覧ください。
コアコンピタンスは自社の強み、特に核となり他者に真似できない能力のことです。自社のコアコンピタンスを見極めるときに有効なのが、5つの視点と3つのステップです。
5つの視点とは(1)模倣可能性(2)移動可能性(3)代替可能性(4)希少性(5)耐久性のことで、3つのステップとは(1)自社の強みの洗い出し(2)自社の強みの評価(3)自社の強みの明確化を指します。
中小企業には、大企業に比べて経営層の迅速な意思決定が可能であり、従業員が少ない分、小回りのきくフットワークの良さがあります。これらを活かして、コアコンピタンス経営を実現していきましょう。