中小企業の人材育成における現状と課題
大手企業に比べ、中小企業はより限られた資金と人員で人材育成に取り組まなければいけません。まずは、中小企業の人材育成における現状と課題について考えていきましょう。
商工中金の「中小企業の人材育成の状況について」の調査によると、約7割の企業が複数の人材育成施策を実施しており、社内研修や資格取得等の金銭的支援を行っていることがわかります。
人材育成の施策別取り組み状況(複数回答)
一方で、人材育成を進める上での課題については「時間的余裕」や「育成プログラムの策定」という回答が多く、人材育成にかける時間やコストの捻出が難しい現状がわかります。
人材育成を進める上での課題(複数回答)
人材育成に注力すべきだとわかっていても、注力できていない企業が多いのが実情と考えられます。
中小企業の人材育成で重要な考え方
中小企業が人材育成の施策を検討する際、重要な2つの考え方について解説します。
優先順位をつける
中小企業では、予算や人的リソースに限りがあるため、優先順位をつけて進めることが重要です。企業における組織・人材の重要課題は、以下の通り階層別・機能別に分けることができます。
企業における知識・人材の階層別・機能別重要課題
すべての課題には着手できないため、「影響範囲」と「即効性」の二つの観点から優先度を検討しましょう。
まず、「影響範囲」の観点から考えると、上の層から着手することが鉄則です。
基本的に組織の人的課題は、上位階層が下の階層に影響を及ぼすからです。しかし、役員クラスから切り込むのはなかなか難しいでしょう。一方、「即効性」の観点で考えると、新しい施策の浸透が早いのは若手・新人層ですが、その影響範囲は限定的です。
このことから、管理職・中堅層をターゲットとした「次世代リーダーの育成のためのサクセッションプランニング」や、「伸び悩み防止のためのストレッチアサインメント」から着手するのがお勧めです。企業における中間管理職の役割は多岐にわたるため、この層の意識が変われば会社全体に与える影響範囲も広く、結果として投資対効果も高まります。
人材育成の方針は中長期に立てる
多くの中堅・中小企業は、成長市場の中でよい製品やサービスを生み出して勝ち残ってきた一方、組織力は弱い傾向にあります。激しい市場変化の中でこのまま何も手を打たなければ、「下りのエスカレーター」に乗り続けることになりかねません。
そして、人材育成は時間がかかるため、「3~5年かけて次の新しい管理職を作っていく」取り組みに、一刻も早く着手することが求められます。
人材育成につながる取り組み例
本章では具体的な人材育成の取り組み例を3つ紹介します。
新規プロジェクトへの若手社員のアサイン
新規で発足するプロジェクトや部署に若手社員をアサインすることで、プロジェクトを通じて新たなスキルが身に付き、成長につながります。特に、ITや建設などプロジェクト型で業務が遂行される組織で有効です。
ある企業では、月に1度「プロジェクトのアサイン&育成会議」を開催しています。部門をまたいで部長、課長などの管理職同士が定期的な話し合いを持つことで、若手社員の個々のスキルや抱えている仕事の状況などが共有されます。それらを踏まえて、今後のスキル拡張を見据えたアサインができます。
また、若手社員の成長だけではなく、管理者のマネジメント力強化にもつながります。
OJTの強化
メンターやブラザー・シスターといったOJTを取り入れている企業は、指導担当者の先輩社員に対するフォローアップを強化しましょう。
役割認識や1ランク上への成長に必要な要素は「Off-JT研修が1、上司や先輩のアドバイスが2、現場経験が7」と言われるほど、OJTは重要です。
役割認識と成長への必要な要素
しかし、OJTのやり方は現場任せになっていることが多くあります。OJTは、上司や先輩の指導スキルによって効果に幅が出るため、指導担当者のフォローアップが必要です。
OJTの強化は、嘱託や再雇用社員など、熟練層からの技術継承にも効果的です。
1on1ミーティングの導入
上司と部下が定期的にマンツーマンでミーティングを行う1on1ミーティングの導入もおすすめです。
1on1ミーティングは、15〜30分ほどの短時間、かつ週1回や月1回といった頻度で定期的に行います。業務を通して感じたことや得たことを部下に共有してもらい、上司は適宜アドバイスやフィードバックをします。上司が問題解決を支援することで部下の成長が促進されるだけではなく、定期的にコミュニケーションをとることで信頼関係の構築にもつながります。
予算の考え方~他社平均はどのくらい?助成金利用の注意点
従業員1人あたりの年間教育研修費用は、2022年度の予算において下記のようなデータがあります。
企業規模 | 従業員1人当たりの額(平均) |
---|---|
1,000人以上 | 40,048円 |
300~999人 | 49,452円 |
299人以下 | 43,591円 |
一見すると妥当な予算と思われるかもしれません。しかし、その大半を新人研修と管理職研修が占め、結果として多くの日本企業で30代~40代前半の中堅層に対する人材教育が行き渡らず、キャリアの方向感を失わせる要因になっているのです。
また、新人研修以降の若手社員に対する教育制度の少なさが、早期離職につながっています。
こうした課題を解消すべく、人材育成を支援する法律や助成金が用意されています。アウトソーシングや外部研修を実施する場合は費用がかかりますが、条件を満たせば助成金を使える可能性があります。
ただし、利用に際してはかなり複雑な申請書類の提出などが必要です。また、研修終了後に申請し、支給審査を経て不支給になる可能性もゼロではないことに留意してください。
人材育成を支援する法律・助成金
① 人材開発助成金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
② キャリアアップ助成金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
③ 教育訓練給付金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html