エンパワーメントとは?意味や注目される背景、メリットを解説

ビジネスにおけるエンパワーメントとは、「権限委譲」を意味します。権限を与えることで、意思決定の迅速化や管理者不足の解消、従業員の自主的な能力向上などさまざまなメリットが享受できます。

本記事では、権限委譲を用いた組織づくりや教育法の具体的な実践方法について網羅的に分かりやすく解説します。

【お役立ち資料】エンパワーメントを成果に結びつける観察のポイント

エンパワーメントを実現するには、「ただ任せる」だけでは不十分です。マネージャーの役割は、他者を動かして成果を出すこと。そのためには、メンバーの特性や状況を正しく把握し、適切なタイミングと内容で仕事を任せていく必要があります。

本資料「メンバーに仕事を振る前にマネジャーがすべきこと」では、成果につながるエンパワーメントの前提となる「観察力」に焦点を当て、マネージャーがメンバーに仕事を任せる前に確認・観察すべきこと、観察の方法をまとめています。新任マネジャーから現場の管理職まで、すぐに活用できる実務ガイドです。ぜひダウンロードしてご活用ください。

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目次

企業におけるエンパワーメント(権限委譲)とは

エンパワーメントは英語で「empowerment」と表記します。これはpower(力)に接頭辞em-(〜にする)がつき、「力をもたせる」「力を引き出す」といった意味をもちます。広い意味では「湧活」とも訳され、経営学ばかりではなく心理学や教育学などの分野でも用いられる言葉です。

例えば臨床心理・健康心理といった心理学の分野では、パワーレスな(権限・力がない)状態からくる「無力感」が、健康を損ねる要因の一つと考えられています。そこで、自分の意思・態度や行動を自分自身で決定し変えていくために、権限・手段・資源などといった「力」を与えていこうと思案するのです。これが心理学におけるエンパワーメントで、ヘルスプロモーションやストレスマネジメントの考え方や手法のひとつでもあります。

一方、教育分野におけるエンパワーメントの考え方には、従来の教育にあった父権主義、すなわち父親が子どもを支配するような関係性を廃そうとするものがあります。父権主義のもとでは個人や集団としての子どもたちが権限や力を与えられずに、いつまでたっても自分の人生の主人公になれずじまいになってしまうためです。このような状況を解消するため、子どもたちに権限・力を与えることで内発的に動機づけ、成功体験をさせて有能感を醸成し、自ら学習して自分の長所を伸ばしてもらおうとします。

広義では、エンパワーメントには8つの原則があるとされています。

エンパワーメントの8つの原則

エンパワーメントの8つの原則

【出典】「エンパワメント科学:誰もが主人公 新しい共生のかたち」(安梅勅江)

特にビジネス分野でエンパワーメントという言葉を用いるときは、権限委譲を意味します。企業では組織づくりの一環、教育の一環としてエンパワーメント(権力移譲)が実施されるのが一般的です。

エンパワーメントとデリゲーションの違い

エンパワーメントと似ている用語に「デリゲーション」というものがあります。これらの用語はどちらも仕事を任せる点では似ていますが、その目的とアプローチに大きな違いがあります。

簡単に言うと、エンパワーメントは「自律的に行動できる権限を与え、能力を引き出す」こと、デリゲーションは「特定の仕事(タスク)を任せる」ことです。

具体的には、以下のような違いがあります。

エンパワーメント デリゲーション
目的 人材育成、組織の活性化 業務効率化
焦点 個人の能力 仕事
関係性 信頼・支援(ボトムアップ) 指示・命令(トップダウン)
責任の所在 部下にも責任が伴う 主に上司

【関連記事】デリゲーションとは?意味やエンパワーメントとの違い、進め方を解説

構造的アプローチと心理的アプローチ

エンパワーメントには権限を委譲する制度・仕組みである「構造的アプローチ」と、従業員の内面に着目する「心理的アプローチ」の2つの側面があります。

構造的アプローチとは、上司が部下の成長段階に応じて「指示」から「委任」へ段階的に権限を与えていくような、客観的な権限委譲の仕組みを指します。

これに対して心理的アプローチは、権限を与えられた従業員本人が「自分にはこの仕事をやり遂げる能力がある」「自分の裁量で仕事を進められる」というように、能力と自己決定を実感している状態を目指すものです。

従業員が自律的に動くことができるようになるためには、従業員本人が、「自分にはそれをする力(パワー)がある」と認知している必要があります。これまでの研究からも、認知の高い人ほど、「自分は仕事をコントロールできている」という感覚をもちやすい(Spreitzer、2008)ということが報告されています。

“心理的にエンパワーされた従業員は、自身の潜在可能性を最大限に引き出すことができ、結果的に組織の有効性を高めるといわれている(Conger and Kanungo, 1988;Maynard, Luciano, D’Innocenzo, Mathieu, and Dean, 2014;Singh and Sarkar, 2012)”

【出典】「心理的エンパワーメント研究の現状と課題」(吉野有助、松尾睦)

エンパワーメントを受けた人が「自分は従来よりも権限を与えられ、自分にはそれをする力がある」と感じている状態は「心理的にエンパワーされた」状態ということができます。心理的エンパワーメントは従来のエンパワーメントよりも拡大された概念です。以前は客観的な権利の委譲だけをもってエンパワーメントと捉えられていましたが、研究が深まり、エンパワーメントの心理的側面も注目されるようになってきました。

この心理的エンパワーメントは、「意味」「能力」「自己決定」「インパクト」という4つの認知的な動機づけからなる、と考えられています。4つの要素それぞれで以下のような3つの質問をすることで、従業員の心理的なエンパワーメント度合いが高いかどうかを判定できます。

【意味】
・私の仕事は自分にとって重要であるか
・仕事内容は個人的に有意義であるか
・私が行っている仕事は自分にとって意味があるか

【能力】
・私は仕事を実行する能力について自信があるか
・私は仕事上の活動を行う能力をもっていると確信しているか
・私は仕事に必要なスキルを習得しているか

【自己決定】
・私は仕事の進め方について裁量権をもっているか
・私は仕事をどのように進めるかを決めることができるか
・仕事の方法を自由に決める機会が多いか

【インパクト】
・職場で生じることに対し、私の影響力は大きいか
・私は職場で生じるたいていのことを統制できるか
・私は職場で生じることに対して大きな影響力をもっているか

【出典】「心理的エンパワーメント研究の現状と課題」(吉野有助、松尾睦)より図1:心理的エンパワーメントの測定尺度(Spreitzer、1995)を適宜編集

ぜひ自社の従業員に問いかけて、有効活用してください。

エンパワーメントが注目される背景

ここでは、エンパワーメントが注目される背景について説明します。

迅速な意思決定の必要性

現代のビジネス環境は市場の需要が絶え間なく変化し、技術革新のスピードも速い「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれています。予測困難な状況において、トップダウンで上層部の判断を待っているだけではビジネスチャンスを逃しかねません。

そのため、現場の従業員に権限を委譲し、顧客や市場の変化にもっとも近い立場の担当者がその場で判断・実行できる体制を築くことが重要です。結果として、企業全体の意思決定のスピードを高め、激しい環境変化に対応するためにエンパワーメントが必要となります。

次世代リーダーの育成ニーズの高まり

多くの企業で、将来の経営を担う次世代リーダーの不足が深刻な課題となっています。従来の指示待ち型の組織では、従業員は与えられた業務をこなすだけで、経営的な視点や当事者意識が育ちにくいのが実情です。

エンパワーメントを通じて、若手や中堅社員に責任ある立場や裁量権の大きい仕事を任せることは、リーダーとしての当事者意識や意思決定能力を養う絶好の機会となります。これは計画的なOJT(On-the-Job Training)として機能し、将来のリーダー候補を早期から育成することにつながります。

【関連記事】リーダーシップ研修とは?目的やカリキュラム例・得られるスキルを解説

エンゲージメント・定着率向上への効果

労働人口の減少やはたらき方の多様化を背景に、優秀な人材の確保と定着は企業にとって重要な経営課題です。エンパワーメントは、従業員に「会社から信頼され、期待されている」という実感を与えます。

自分の判断で仕事を進められる裁量権や業務への影響力を感じることは、仕事へのやりがいや満足度を高める上で非常に効果的です。これにより従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)が向上し、結果として離職率の低下と人材の定着につながります。

【関連記事】エンゲージメントとは?定義や注目される背景、高めるための施策を解説

エンパワーメントのメリット

エンパワーメントのメリットには、以下のようなものがあります。

  • 意思決定スピードの向上
  • 従業員の主体的な能力向上
  • チームの生産性・成果の向上
  • 次世代リーダーの育成

それぞれについて解説します。

意思決定スピードの向上

現場の従業員に権限が委譲されることで承認プロセスが大幅に短縮され、顧客や市場の変化に対して即座に対応できるようになります。

これによりビジネスチャンスを逃すことなく、変化に強い俊敏な組織へと変貌します。将来的には組織の隅々まで迅速な判断が浸透し、企業全体の競争力が飛躍的に向上する未来を描きやすくなるでしょう。

従業員の主体的な能力向上

従業員は「自分ごと」として仕事に取り組むようになり、指示待ちの姿勢から自ら課題を発見し解決策を考える主体的な姿勢へと変わります。成功体験や失敗から学ぶ経験を通じて、スキルや知識が急速に向上するのです。

この状態が組織全体に広がると、全社員が常に学び成長し続ける「学習する組織」が実現し、持続的なイノベーションが生まれる土壌が育ちやすくなります。

チームの生産性・成果の向上

各メンバーが自律的に動くことで、チーム内での情報共有や連携が活発化し、新たなアイデアや相乗効果が生まれやすくなるのが特徴です。上司にとっても、マイクロマネジメントから解放され、より重要な戦略的意思決定に集中しやすくなります。

結果としてチームは個人の能力の総和をはるかに超える成果を出すようになり、常に高いパフォーマンスを発揮する自律的な集団へと成長します。

次世代リーダーの育成

従業員は日々の業務を通じて、当事者意識や責任感、経営的な視点を自然と身につけていきます。権限委譲された環境で意思決定の経験を積むことは、リーダーシップ能力を養うための最高のトレーニングとなります。

これによって特定の人物に依存することなく、組織のあらゆる階層から次々とリーダーが生まれる状態となり、企業の永続的な発展を支える人材パイプラインが構築されるのです。

エンパワーメントを導入する際の注意点

実際にエンパワーメントを導入する際に、いくつかの注意したい点があります。具体的には、以下の4点です。

  1. 会社のビジョン・経営目標を共有する
  2. 権限と責任の丸投げしない
  3. 成熟度に見合った権限を委譲する
  4. 権限委譲にともなう環境を整備する

1. 会社のビジョン・経営目標を共有する

エンパワーメントは従業員一人ひとりの自律的な判断を促しますが、その判断の拠り所となる共通の指針がなければ、組織全体がバラバラの方向を向いてしまう危険性があります。そのため、会社のビジョンや経営目標を明確に示し、全社で徹底的に共有することが不可欠です。

これによって従業員は、「会社が目指すゴール」という大きな枠組みの中で安心して裁量権を行使し、一貫性のある意思決定ができるようになります。

2. 権限と責任の丸投げしない

エンパワーメントにおける典型的な失敗例が、部下のスキルや経験を無視した「責任の丸投げ」です。部下の能力に見合わない過大な権限と責任を委譲しても、それは「仕事量と責任の増加」としか受け取られず、モチベーションの低下を招きます。また、管理職が部下を信頼できずに権限を渡したがらない場合においても、エンパワーメントは機能しません。

部下の成熟度や習熟度を正確に見極め、成長段階に応じて徐々に権限を委譲していくことがエンパワーメントを成功させる鍵です。

3. 成熟度に見合った権限を委譲する

エンパワーメントは、部下のスキルや経験(=成熟度)を無視しては成功しません。部下の育成段階を正確に見極め、それに合わせて委譲する権限の範囲を調整することが重要です。

例えば最初は具体的な指示から始め、成長に応じて徐々に裁量権を広げていくといった段階的なアプローチが求められます。また、管理職側が部下を信頼できずに権限を委譲したがらないケースも、部下の成長機会を奪う失敗要因となります。

4. 権限委譲にともなう環境を整備する

権限委譲にともなう環境整備を怠っても、エンパワーメントは失敗することが研究結果により明らかにされています。なかでも指摘されているのは、以下がともなわない場合の失敗です。

<p03366;">(1)共通のルールや基準
(2)情報などの資源
(3)給与システム
(4)評価システム


権限委譲にともない、これら環境を適正化しないことには、エンパワーメントは機能しないと考えられています。

また、エンパワーメントが無秩序を生む可能性を述べましたが、「ルール化とコントロールの強弱はエンパワーメントが機能するかどうかに相関する」とした研究もあります。

ルール化とコントロールが強く行われたときと弱く行われたときにはエンパワーメントが機能し、中途半端に行われたときに機能しない、ということです。その理由は明らかにされておらず、今後の課題とされています。

【出典】「エンパワーメントとコントロール」(青木幹喜)「エンパワーメントの失敗と活性化」(青木幹喜)

企業内の教育・エンパワーメントの進め方

エンパワーメントは部下の成長度合いに合わせて、段階的に進めることが重要です。 いきなり権限を丸投げするのではなく、以下の4つのステップを踏んで、徐々に自律的な人材へと育てていきましょう。

企業内の教育・エンパワーメントの4段階

企業内の教育・エンパワーメントの4段階

1. 指示

このステップで対象となるのは、業務の知識やスキルがまだ身についていない新人や未経験者です。この段階では、権限は委譲しません。
まずは仕事の進め方やルールを具体的かつ丁寧に示す「指示」が中心となります。業務の基本を確実に身につけてもらうための、重要な土台作りの期間です。

2. 合意

合意のステップは、ある程度の知識や技術が身につき、自走し始めた部下が対象です。ここでは業務の目標や進め方について上司と部下が「合意」した上で、限定的な範囲で権限を委譲します。
部下は一定の裁量権を持ち、主体的に仕事を進める経験を積むことで、責任感と判断力を養い始めます。

3. 援助

このステップの対象となるのは、十分な業務知識とスキルを備え、安定して成果を出せるようになった部下です。上司はマイクロマネジメントから完全に離れ、より大きな権限を部下に委譲します。
ここでの上司の役割は、部下が困ったときに相談に乗ったり必要なリソースを提供したりする「援助」に徹することです。部下は、自らの判断で業務を完結させる能力をほぼ確立します。

4. 委任

ここは、業務に関するすべての権限を部下に委任する最終段階です。このレベルに達した部下は知識・スキル共に成熟し、上司と同等の職務を遂行できる後継者と見なします。
上司は安心して仕事を任せることができ、自身はさらに上位の戦略的な業務に集中できるようになります。1つの教育プロセスが完了した状態です。

メンバーに仕事を振る前にマネジャーがすべきこと

【お役立ち資料】メンバーに仕事を振る前にマネジャーがすべきこと

マネージャーの役割は「他者を動かして成果を出すこと」。そのためには、メンバーを理解し、適切な仕事を任せることが欠かせません。しかし実際には、業務成果とは直接関係のない要因によって、判断を誤っているケースも少なくありません。本資料では、仕事を任せる前にマネージャーが確認・観察すべきポイントをまとめています。

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まとめ|経営層・上司が部下の教育度合いと環境に配慮しつつエンパワーメントの導入を

エンパワーメントは、委譲する側・委譲される側・環境整備の面で適正に行われるならば、不確実で複雑、かつめまぐるしく変転する時代に適応した有効な経営マネジメント手法です。

適切に導入すれば、意思決定と行動の迅速化、管理者不足の解消、部下の自律的な行動と学習による教育効果、顧客満足度の向上といったメリットを享受できます。

実際に導入時で注意したいのは、「権限を丸投げしないこと」と「部下の育成度合いに見合った権限と責任を委譲すること」、「経営目標を広く周知徹底すること」、そして「ルールと基準を明確化して部下がアクセスできる情報資源を拡大し、給与システム・評価システムを権限委譲に合わせて適正化すること」です。

【無料DL】マネジャーのためのエンパワーメント実践ガイド

エンパワーメントを実現するには、「ただ任せる」だけでは不十分です。マネージャーの役割は、他者を動かして成果を出すこと。そのためには、メンバーの特性や状況を正しく把握し、適切なタイミングと内容で仕事を任せていく必要があります。

その前提となるのが「観察力」です。日々の関わりのなかで、メンバーの状態を捉え、任せ方を調整することが求められます。

本資料では、仕事を任せる前にマネージャーが確認・観察すべきポイントをまとめています。 現役マネージャーの方はもちろん、これからマネジメントを担う方もぜひご覧ください。

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