管理職になりたくない社員がなぜ増えるのか|原因と対策を解説

近年、「管理職になりたくない」と考える一般社員が増えていると言われています。実際に、管理職のポストに空きがあるにもかかわらず、肝心の候補者がいないという悩みを抱えている企業は少なくないのではないでしょうか。

本記事では、一般社員が管理職になりたくないと考える背景や原因をはじめ、管理職候補者を増やすための施策、パーソルグループの支援事例について解説します。組織の継続的な成長・発展につながる取り組みとして、ぜひ参考にしてください。

【調査レポート】マネジメントの取り組み実態調査

労働人口の減少など企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、人材育成に課題を抱える企業が増えています。パーソルグループでは、人材育成やマネジメントの実態について調査し「マネジメントの取り組み・実態調査レポート」を公開しました。

レポートでは、離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、各社のマネジメント状況やパフォーマンスの高い企業の特徴をまとめています。
組織をどのように改善すべきか、ヒントを得られる内容になっていますので、人材育成に課題を抱えるマネージャー・人事の皆様はぜひご一読ください。

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目次

管理職になりたくない一般社員の割合

株式会社パーソル総合研究所が実施した「働く10,000人の就業・成長定点調査 2024」によると、「今後どのようなキャリアを考えていますか?」という質問に対して、「現在の会社で管理職になりたい」と回答した人は17.2%でした。2021年の調査では24.0%でしたが、右肩下がりで推移しており、わずか3年で6.8ポイント下降しています。

出典:株式会社 パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」を基に作成

中でも20代の若手社員で管理職を希望する人の割合については、2021年の36.4%から2024年は28.2%と、大きく低下しています。これからキャリアを拓き、活躍が期待される若い世代ほど、「管理職になりたくない」という考えが強くなっているようです。

出典:株式会社 パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」を基に作成

また、性別で見ると、「管理職になりたい」と回答した人は男性で20.4%、女性で12.3%です。このことから、特に「若い世代」と「女性」において管理職を望まない人が多い傾向にあることがわかります。

出典:株式会社 パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」を基に作成

日本では、少子高齢化によって今後ますます生産年齢人口の減少が深刻化することが予測されます。また、近年は年功序列に基づく終身雇用が崩壊しつつある中で、人材の流動化も進んでいます。こうした状況で、企業が外部から管理職経験者を確保するのは容易ではありません。

そうなれば自社の一般社員の中から有望で意欲のある人材を見つけ、管理職候補として育成するしかありませんが、前述の通り、そもそも組織内で「管理職になりたくない」という人が増えると、リーダーが不在になってしまい、やがて競争力を失っていくでしょう。

つまり管理職になりたい従業員が少ない場合、会社の経営自体に大きなリスクとなるのです。逆に言えば、管理職希望者を増やす取り組みは、競争の激しい市場において企業が生き残る力につながります。

管理職になりたくないと考える原因【対象者別】

前述の通り、昨今は特に「若い世代」と「女性」において管理職になりたがらない傾向が高まっています。ここでは、それぞれにとっての管理職になりたくない背景と原因を解説します。

若い世代

責任が重い

管理職になると、自分自身のプレイヤーとしての業務だけでなく、部下のマネジメントも担わなければなりません。また部署全体の目標達成への責任を持つため、「自分だけが成果を出せばよい」というわけではなくなります。経営層からの目も届きやすくなることから、プレッシャーを感じる場面も増えるでしょう。

そのため、失敗を嫌うタイプの人は管理職になることを避けたがる傾向にあります。反対に、責任が重くても「大きなやりがいがある」「報酬などが見合っている」と感じられる場合は、管理職を希望する人も多くなります。

昨今の若い世代は、仕事を通じた社会貢献や自己実現を求める傾向にあり、決して責任から逃れたいわけではありません。若い世代が管理職に前向きな印象を持つには、責任に見合った報酬や社会的評価を与えられ、自分自身のキャリアに価値を感じられるかどうかが重要と言えるでしょう。

業務時間が長い

パーソル総合研究所の「中間管理職の就業負担に関する定量調査」では、管理職が感じている業務上の課題において「人材不足」と「自分の業務量の増加」の2つが上位に挙がっています。つまり多くの管理職が、常に忙しく余裕のない状況を「課題」と感じているのです。

管理職は責任の重さに比例して業務量が多く、必然的に拘束時間が長くなるケースがあるため、管理職を避ける若い世代が増える一因となっています。これによって、ますます管理職一人に対する業務量や責任が増大してしまうという負の連鎖も起こり得ます。

報酬が減る可能性がある

前述の通り、管理職は業務量が多く、残業を余儀なくされるケースは少なくありません。一般的に管理職になると手当が支給される代わりに残業代が支払われなくなり、業務量があまりにも多いと手当に見合わない可能性があります。そのため、一般社員として残業代をもらっていたほうが、報酬が高いという逆転現象も起きてしまいがちです。

責任は増えるのに報酬は変わらない、あるいは業務量は多いのに報酬が低いといった現実が見えると、管理職になるモチベーションが低下し、必然的に管理職を希望する人は少なくなってしまいます。

キャリアに関する価値観の違い

はたらき方をはじめ、ビジネスパーソンを取り巻く環境は時代とともに大きく変化しています。若い世代が育った環境や培ってきた価値観は、上の世代とは異なるものであると考えるべきです。例えば、年功序列や終身雇用といった考え方はいまや主流ではなく、若い世代にとって「一つの企業ではたらき続けて出世を目指す」というキャリア観は一般的ではなくなっています。

その半面、若い世代にはスキルや経験を積み、専門性を強みとして活躍したいと考える人が増えています。また、優秀な人材ほど安定志向ではなく、新しい挑戦を好む傾向もあるようです。

そのため、社内に成長の機会がないと感じたり、業務変革が行われず古いやり方が残っていたりすると、早々に会社を去るという選択に至ってしまいます。「会社と価値観が合わない」「管理職のあり方と自身のキャリアビジョンがずれている」という状況は、若い世代が管理職になりたがらない原因になり得るでしょう。

女性

仕事と育児・介護のバランスが取れない

パーソル総合研究所が実施した「働く10,000人の就業・成長定点調査 2024」では、男性よりも女性の回答が多かった項目がいくつかありました。

例えば、「勤務条件を選ぶ上で重視することは何ですか?」との質問に対する、「仕事と育児や介護のバランスがとれること」という回答が挙げられます。この回答を選んだのは、30代女性が最も多い結果となりました。

多くの女性にとって、出産や育児といったライフイベントはキャリアの分岐点となります。女性が仕事と生活の両立を望んだとしても、社内でフォローする体制が十分に整備されていない場合、仕事を諦めざるを得ず、キャリアの分断が起こってしまうでしょう。これによって、管理職への意欲が薄れてしまう可能性があります。

社内にロールモデルとなる女性管理職がいない

厚生労働省の「雇用均等基本調査(2022年度)」によると、日本における管理職に占める女性の割合は12.7%となっています。これは世界的に見ても低い水準です。しかし、女性就業比率に注目すると、海外と大きな開きがあるわけではありません。つまり、はたらいているのに管理職にはならない女性が多いと言えるでしょう。

女性管理職が少ない環境では、女性社員がはたらく中で管理職として活躍するイメージを持ちづらくなります。また、同じ女性であっても、これから迎えるライフイベントや家族の事情などには違いがあるものです。社内に多様な女性管理職が存在し、自身のロールモデルとなる人材を見つけやすい環境が理想的ですが、多くの企業で実現できていないのが現実でしょう。

社内に仕事と生活を両立させている女性管理職がいない、もしくは少ない場合、管理職になりたい女性も自信が持てずに諦めてしまうかもしれません。さらに女性管理職の少ない企業は、女性の管理職登用に積極的でないというイメージがつきやすく、仕事へのモチベーションが高い女性が集まりづらくなります。労働力人口の減少が深刻化する中で、活躍したいのに活躍できない状況にある女性の存在は社会的にも大きな課題と言えるでしょう。

管理職希望者を増やす施策

ここまでに説明した現状や課題を踏まえて、若い世代や女性はもちろん、一般社員にとってキャリア形成の糸口となり得る施策として以下の4つを紹介します。

    1. 管理職の業務やマネジメントを見直す
    2. キャリアを考える機会を提供する
    3. 報酬制度を見直す
    4. 管理職向け研修を行う

管理職の業務やマネジメントを見直す

管理職になりたくないと思われる原因の一つに、「管理職の業務量の多さ」が挙げられます。これを解決するには、管理職の業務やマネジメントを見直し、改善点を見つけることが大切です。形骸化している業務や分業できそうな業務などを洗い出し、管理職の負担削減と生産性向上につながる対策を講じましょう。

管理職の業務実態でよく見られるのが、「本来は管理職がやらなくてよい業務を他にやる人がいないのでやっている」「非効率的だが、慣習的にやり方を変えずに続けている」といったケースです。チームのことを考えて自分で部下の仕事を巻き取ったり、部下に対して細かく指示したりする管理職も多いかもしれません。

もちろん知識や経験の豊富な管理職でなければ対応できない仕事もありますが、中には部下に任せられるものもあるでしょう。管理職に頼られることで、部下の仕事への責任感や意欲が高まることも期待できます。

このように管理職の負担になっている要因を特定して改善を図るとともに、部下である一般社員側にも業務上での積極的な行動を促す教育を行うことが効果的です。これによって「管理職は業務が多くて大変」という社内のイメージが変わり、「管理職に挑戦してみたい」と考える一般社員が増える可能性があります。管理職が高いモチベーションではたらき続けるためにも、効果的な施策と言えるでしょう。

キャリアを考える機会を提供する

「キャリア」という言葉は、近年になってよく用いられるようになりました。個人がキャリアを考える必要性と同時に、その機会を企業が提供する重要性も説かれています。従業員が自発的にキャリアを考える機会を提供することは、「これからこの会社でどんなはたらき方ができるか」をイメージしてもらう上で重要な取り組みです。

一般社員が管理職になりたくないと考えるのは、キャリアのイメージができないことによる「食わず嫌い」であるケースも珍しくありません。企業から一般社員に対して管理職としての具体的なキャリアプランを提示できれば、管理職のはたらき方へのネガティブな印象を払拭するきっかけにもなるでしょう。

実際に、慶應義塾大学前野研究室とパーソル総合研究所が合同で調査を行った「はたらく人の幸福学プロジェクト」において、「課長相当」以上では職位が上がるにつれて「はたらく幸せ実感」が高まり、「はたらく不幸せ実感」が低下するという結果が出ています。

このような管理職になることで得られるメリットを従業員が理解できるように、企業がはたらきかけることが大切です。

報酬制度を見直す

管理職の責任に見合った報酬を設定するのは、非常に効果的な取り組みです。ただし報酬の原資には限りがある上に、報酬だけが管理職になるモチベーションになってしまうと、従業員が外発的な動機に依存し、短期的な効果で終わってしまう可能性があります。

そのため報酬の見直しだけでなく、管理職として得られるやりがいや達成感を醸成するような取り組みもセットで実施するとよいでしょう。例えば、個別コーチングなどを通じて管理職のマインドセットを高めるなどの方法がおすすめです。

また、従業員がはたらきやすい環境を整備することも重要です。社内規定において従業員が実現したいキャリアの障害になっているものがないかを確認し、必要であれば改定を検討します。例えば、育児などのライフイベントによってキャリアが分断されてしまうケースが頻発している場合は、従業員の声をもとに、家庭と仕事を両立できるような支援制度を設けるとよいでしょう。

管理職候補者を対象とした研修を行う

管理職候補者に対して、管理職のやりがいを実感してもらう研修も効果的です。一般社員としてはたらいていると、管理職のやりがいは見えづらいものです。研修を通して普段知る機会がない管理職のよい側面を知ると、イメージの変革やモチベーションの向上につながります。また、管理職になるために必要なスキルも学習できます。

管理職候補者を対象とした研修を行う場合にお勧めしたいこと

「管理職候補ではあるけれど管理職になりたくない」といった方が多い場合の管理職候補者向け研修でおすすめしたい工夫を紹介します。

「自分にも管理職ができそう」という自信を醸成

多くの会社では管理職候補者向けに「リーダー研修」や「昇格時研修」などを実施されていると思います。そうした研修の中では管理職になってからも必要になるヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルを学習することが多くありますが、スキルに習熟してもらうだけなく、マインド面でも「自分にも管理職ができそう」という自信を持たせてあげることが重要です。

まず、管理職になることの意義・重要性や「管理職を目指してもらいたい」という経営からのメッセージをしっかり伝えたうえで、ロールプレイや演習に対する講師や周囲からのフィードバック等を通じて自信を持たせてあげる、といった手法が考えられます。さらに研修の事後課題として職場で実践してもらい、その実践を振り返る場を設けてあげる(振り返りの場でのフィードバックを通じて「できそう」感を高める)、といったことまでできるとなお効果的でしょう。信頼性・妥当性の点で検証されたパーソナリティアセスメントなども併用できるとなお良いでしょう。

こうした工夫を盛り込むと必然的に研修は数か月間にわたって複数回を実施するプログラムになりますが、「管理職になりたくない」「私に管理職は無理」といった感情は「思い込み」「決めつけ」になっていることが多いので時間をかけて対処することでより効果的になるということも言えるでしょう。

「管理職候補者を増やす」といったことが研修の主目的になることはめったにありませんが、こうした工夫を意図して実施した研修では「管理職になる」ことに対する受講者の受け止めが初日と最終日で大きく変わったという事例もあるそうです。

【調査レポート】マネジメントの取り組み実態調査

労働人口の減少など企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、人材育成に課題を抱える企業が増えています。パーソルグループでは、人材育成やマネジメントの実態について調査し「マネジメントの取り組み・実態調査レポート」を公開しました。

レポートでは、離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、各社のマネジメント状況やパフォーマンスの高い企業の特徴をまとめています。
組織をどのように改善すべきか、ヒントを得られる内容になっていますので、人材育成に課題を抱えるマネージャー・人事の皆様はぜひご一読ください。

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まとめ

会社側からすると、管理職の候補となる人材は多ければ多いほど望ましいと言えます。しかし残念ながら、現代の日本では若い世代や女性を中心に、さまざまな理由で管理職になりたくないと考える人が多いのが実情です。

管理職になりたくない人が多い原因を理解し、有効な施策を講じることができれば、管理職候補を増やすだけでなく、組織全体のはたらきやすさや生産性向上にもつながります。「この会社ではたらいて成長し、活躍したい」という、モチベーションの高い人材の創出を目指しましょう。

監修・インタビュー

株式会社パーソル総合研究所
組織力強化事業本部 シニアコンサルタント

土谷 健太郎

早稲田大学教育学部を卒業後、教科書出版社に入社、営業所長・事業部長を経験し、同社が外資系教育企業に買収された際には統合や新規事業開発も経験、その後、営業部長として輸入商社勤務の経験を経て、2014年に人材開発業界に転職、以来、目指す経営成果を実現するための人や組織の問題解決支援(研修、制度設計など)に従事。2019年7月より現職。

  • ビジネス現場での豊富な経験を活かし、階層としては管理職や管理職候補者、領域としてはマネジメント(中でも戦略や財務・人事評価などが絡むテーマ)を得意とする。年間70~90日、研修に登壇。
  • OD Network Japan(個人会員)、はたらく幸せ研究会
  • 2012年 明治大学専門職大学院グローバルビジネス研究科修了(MBA)