MS&ADインターリスク総研株式会社は、保険会社が中核となったMS&ADインシュアランスグループに属し、リスク関連サービス事業の中核としてコンサルティングによる企業経営サポートをしています。
お客さま企業・自社双方にウェルビーイング経営を伝え、推進している同社。その旗振り役であるリスクコンサルティング本部 企画室 兼 総合管理部 人事グループ部長 主席コンサルタントの森本さんに、ウェルビーイング経営の定義について伺います。(※以下敬称略)。
プロフィール:
MS&ADインターリスク総研株式会社
リスクコンサルティング本部 企画室 兼 総合管理部
人事グループ部長
主席コンサルタント
森本 真弘
2017年よりMS&ADインターリスク総研株式会社に立ち上がったヘルスケア関連サービスを所管する「健康・医療サービス開発室」に配属、健康経営に取り組む企業の支援、また自社での取り組みに着手する。企業価値向上をゴールとして目指す「健康経営」の本質を伝え続け、現在は「ウェルビーイング経営」と称して、社員のWell-beingを高め、企業価値を向上させる経営戦略の担い手となる。
この記事でわかるポイント
- MS&ADインターリスク総研では「健康経営」から発展させた「ウェルビーイング経営」を推進しています
- 社員の健康だけでなく「社会的に満たされた状態」が業績向上に重要と位置づけています
- 委員会は多様なメンバーで構成され、社員のやりがいを引き出す施策を年間30回以上実施しています
- WHO定義や「幸せの4因子」を軸に施策を企画し、委員のウェルビーイングも重視しています
- 外部公開やアンケートを通じて成果を可視化し、社内外への発信と継続的な改善に取り組んでいます
「仕事のパフォーマンスに効くのは健康なのか?」疑問が導いたウェルビーイング経営への道
――貴社は2017年より従業員の健康に着目した取り組みをはじめ、森本さんはその旗振り役として推進されていますよね。いわゆる「健康経営」から「ウェルビーイング経営」へと変化した経緯を教えてください。
森本:私が携わり始めた2017年は「健康経営委員会」と称して取り組みをしていました。その後「ウェルネス委員会」と名前を変え、2021年より「ウェルビーイング委員会」として活動しています。
ウェルビーイング委員会は、CWO(Chief Well-being Officer)を務める社長とアドバイザー(CWA)である前社長、私、そして各部から1人ずつ選出された17人で構成されています。年代・性別・経歴は多様です。強く意識したわけではないですが、結果的に多様なメンバーの多様な視点が取り組みに反映されています。
委員会の名称が変わる過程で、僕自身も健康経営からウェルビーイング経営へと意識が変化していく気づきがありました。「健康経営委員会」時代は、その名の通り従業員の身体的健康がテーマの中心にあったのですが、取り組みの中で漠然と疑問が生まれました。「健康診断の結果がよくなっても、仕事のパフォーマンスが大きく向上するわけではないよな?健康以上に必要な要素は何だろう?」と。
健康であることはとても大切ですが、それ以上に「幸せであることが仕事のパフォーマンスに大きく影響する」との思いに至ったんですね。健康以上に必要な要素は?と思っていたタイミングで、偶然ですが、慶應義塾大・大学院SDM研究科 前野隆司教授の登壇イベントを拝見する機会があり、そこでお話しされていた「幸せの4因子」に「これだ!」と腹落ちしたんです。大きな会場で前野先生に話しかけることができなかったので、すぐにパソコンを広げて前野教授のメールアドレスを調べ、その場から「お会いしたい!」とラブコールのメールを送りました。本当は一度断られたのですが、「本を三冊読んでからお目にかかりたいので推薦図書をお願いします!」としつこくメールして、ようやく面談のOKを頂戴しました。お会いした前野先生からは「健康経営の流れでお話しに来られた方は初めてですね」と言われました。それからWell-beingにまっしぐら、今に至っています。
――貴社が掲げるウェルビーイング経営について、教えてください。
私はウェルビーイング経営について自社・お客さま企業共に推進していく立場にありますが、まずは取り組む目的をしっかりお伝えしご認識いただくことが重要だと考えています。多くのお客さま企業は、当社同様「健康経営」を推進する過程で、「健康経営の取組みって本当にこれでよいのか」と疑問を抱えたり、「取組みをもっと深化させたい」との想いを持たれたりします。
ですので、まずは「健康経営」の振り返り・捉え直しをしていただくようにしています。その出発点が「取り組む目的・目指すゴールは何なのか」です。「社員の健康度アップ」が目的・ゴールではなく、「企業価値向上」がゴールであることをしっかり認識いただくことが重要です。そうすれば、私が抱いた疑問「身体の健康だけで足りているのだろうか?」に自然と辿りつくと思っています。
この気付きを促しながらも、「健康経営」の枠組みから大きく外れないよう、WHO(世界保健機関)の「健康」の定義を持ち出すようにしています。その定義は、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます(日本WHO協会訳)」となっています。健康経営に取り組まれている企業の方々に、「御社が取り組む「健康経営」における「健康」の定義は?」と問いかけますと、ほぼすべての皆さんがこのWHOの定義を挙げられますので、無理に持ち出しているわけではありません。ところが、定義にある「社会的に満たされた状態」について問いかけると、多くの企業ではあまり意識されていないように感じます。
私はこの「社会的に満たされている」という部分が仕事のパフォーマンスに密接に関係していると考えていて、健康経営をウェルビーイング経営に深化させていく際の1つの拠り所ともなっています。社会的に満たされるとは、他人に必要とされ、何らかの役割を持ち、居場所があると感じられる状態であること。これが会社でも実現できれば、一人ひとりがやりがい・働きがいを感じて、幸福度が上がり、生産性も高まり、企業として業績向上も見込める。そう感じています。
ウェルビーイング委員会の面々からまず、ウェルビーイングに
――どのように施策を企画して、実施しているのでしょうか?
自社では、社員が取り組む「ウェルビーイング」として、取り組みの内容をコーポレートサイトでも発信しています。昨年(2023年)でいうと、複数開催された同一イベントも含め、のべ30回以上の取り組みがありました。これら以外にも、委員会が起点となって、管理職向けの研修導入・1on1ミーティングの制度化、MS&ADグループ内で統一感を持たせる新たなエンゲージメントサーベイなども、他部門と連携しながら進めています。まだパイロット段階ですが、個々人のストレス特性を踏まえた組織内コミュニケーション=関係の質を改善させる取組みにも現在進行形で挑んでいます。
こういった取り組みはウェルビーイング委員会が中心となって企画・実施されるのですが、以下の要素を意識しています。
- ●自社のコアバリュー・クレド
- ●WHOが定義する健康
- ●前野先生が提唱する「幸せの4因子」
- ●従業員の心身の健康や幸福を示すウェルビーイング実感を測定する調査サービス「伊藤版ウェルビーイングスコア」
より大局的にエンゲージメントサーベイの結果を意識しますが、少し抽象的な質問・内容が多いので、具体的施策をイメージしやすい上記要素を意識し、取組施策を考えるときには「どの要素にアプローチしたいか」を意識することを心掛けています。
また、もう一つ大切にしていることは「ウェルビーイング委員がウェルビーイングな状態であること」。そうでないと説得力がなく、ましてや会社全体にウェルビーイングが広がっていかない。ですので先に挙げた要素は大切にしながらも、「企画する本人がウェルビーイングになれること」「どうしてもやりたい!ワクワクする!」と思える企画を出してくださいと話しています。ウェルビーイング委員会には入社年次の浅い若手社員もいます。本業では上司や先輩の指示で動くことも多いですが、ウェルビーイング委員会では、「自分の企画が通って実現する」。さらに「参加してくれる社員もいて、アンケートでも好反応が得られる」との結果が伴うと、本人にとってのやりがいや達成感に繋がります。委員会が委員個々人のウェルビーイングを高める場としても機能できたらいいなと思っています。実際に委員を務めた若手社員から、活動を振り返っての感想として「自身で考え、企画したことを、自らの手で実現させていくことができ、やりがいを感じ・有意義な経験になった」と言ってもらえたときには本当に嬉しかったです。
――委員会の任期はどのようになっているのでしょうか?
発足当初は任期1年で総入れ替えしていたのですが、最近は概ね半数が続投、半数が入れ替わるという形で安定した新陳代謝を繰り返しています。総入れ替えしてしまうと、委員会で培われた雰囲気やマインド、施策の連続性が損なわれてしまい、改めて軌道に乗せるまでに時間がかかってしまうため、スピード感を維持する意味合いでもちょうどいいですね。
――取り組みの成果はどのようにとっているんですか?
取り組みの実施後は、必ず参加した社員へのアンケートを実施しています。その項目として先に挙げた「要素」が並べられていて、「今回の取組みは、(あなたにとって)いずれの要素を高める効果があったと感じましたか」を聞くことにしています。
外部に向けてこういった情報を開示している理由としては、ウェルビーイング経営というものをお題目として唱えて概念だけでやっているわけではなく、目的をもって具体的取組みに落とし込んでいるということを、社員を含めて広く知ってもらいたいという思いがあります。さらに、健康経営をウェルビーイング経営に深化させたいと考えておられる企業さまに見ていただくことで少しでも気付きを与えられればよりよいですし、一方で「これはちょっと違うのでは?」と意見をいただければ当社のブラッシュアップにもつながると思っています。
そして、このアンケートに正解はないので、「この要素にアプローチしたい」と考えて企画した取り組みに対し、これとは異なる要素に効いた旨の回答が出てきても問題視はしません。各人各様で、感じ方や捉え方に多様性があって当然ですからね。そして、一つひとつの取り組みの成果に固執せず、積み重ねの中でトータルしてウェルビーイングが高まっていく流れが作れれば、十分との思いでやっています。
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