2021年01月27日
同一労働同一賃金の考え方はどういうもので、どう対応すれば、そのメリットを上手に享受することができるのでしょうか。
本記事では、魅力ある職場環境を整え、人手不足を解消し、優秀な人材を確保し、ひいては業績アップするためには何ができるのか、わかりやすく説明します。
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コロナ禍によって人々のはたらき方は大きく変化し、それに伴い人事・組織戦略の新たな課題も浮かび上がっています。人事施策や組織戦略の展望にお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
パーソルグループでは、経営・人事・マネジメント1000人を対象に、コロナ以降の人事・組織戦略における最新動向を調査。組織戦略の展望、雇用管理や人事施策の動向についてまとめた【コロナ以降の人事戦略 最新動向レポート】をお届けします。
今後の人事戦略の方針、新型コロナウイルス感染症の影響による変化等の実態をご覧いただき、ご参考にしてください。
同一労働同一賃金とは、「同じ職務には、同じ賃金を払いましょう」という考え方です。働き方改革の目玉のひとつが長時間労働の是正、そしてもうひとつの目玉が同一労働同一賃金です。
同一労働同一賃金の実現によって、労働者側、特に非正社員側には以下のようなメリットが期待できます。
厚生労働省のガイドラインによれば、正社員と非正社員(パート・バイト、派遣など)とのあいだに、不合理な待遇差をもうけてはならないとされています。それが、以下の3点です。
そして非正社員は、「正社員とのあいだに待遇の差があるか」「待遇差の内容と理由」について、使用者に聞くことができます。
上記で挙げた雇用者側のメリットは同時に事業者側のメリットとしても考えられます。厚生労働省は、同一労働同一賃金の根幹にある働き方改革の実現により、以下のような好循環が生じるとしています。
魅力ある職場づくり → 人材の確保 → 業績の向上 → 利益増
つまり、労働者がどのような雇用形態を選択しても納得感が得られて多様なはたらき方が選択でき、人手不足が解消できるうえ、優秀な人材の確保が可能になり、さらに業績・利益の向上が期待できるわけです。同一労働同一賃金が求めているのは、正社員と非正社員を全く同じ賃金にすることではありません。それぞれが求められている能力や技術、責任等に応じて合理的な理由があれば、正社員と非正社員のあいだの待遇差は許されるというものです。
対応する方法を具体的に見ていく前に、まず企業に同一労働同一賃金が求められる背景から見ていきましょう。
日本では日本型雇用の慣行、たとえば新卒一括採用、終身雇用、年功序列といった慣習から、雇用形態による賃金格差、特に正社員と非正社員の賃金格差が生まれてきました。
各国の正社員・非正社員等による賃金格差
【出典】EU各国はEurostat, Stracture of Earning Surbey 2014,Hourly earnings by economic activity and contractual working time (enterprises with 10 employed persons or more)よりパートタイム時給/フルタイム時給、日本は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2019年)より企業規模、年齢、性、雇用形態別賃金から正社員・正職員以外給与/正社員・正職員給与(男女計)
上の図は、EU各国はフルタイムとパートタイムの賃金格差、日本は正社員と非正社員のあいだの賃金格差ですので、正確な比較はできません。ただ先進国のなかで、日本は非正規の賃金が低い水準にあることが知られています。同一労働同一賃金によって、この状況を是正することが期待されています。
では、企業としては同一労働同一賃金にどのように対応しなければならないのでしょうか。企業が対応すべきステップを解説します。
まず使用者は、同じ職務に対して正社員と非正社員のあいだに、賃金をはじめとする待遇に格差があるかどうかを確かめる必要があります。格差がなければ問題ありませんが、非正社員は賃金などの待遇格差があるかどうか、またその内容と理由について使用者に聞く権利があるため、使用者はこれに納得できる回答ができなければなりません。納得できる回答ができない格差があれば、まずは解消に努めなければいけません。
このとき、使用者に求められるのは「不合理な待遇差の禁止」でした。そしてこれは、「不合理でさえなければ、賃金などの待遇格差は許される」ということでもありました。注意しなくてはならないのは、厚生労働省の同一労働同一賃金のガイドラインでは、労使の合意なく正社員の給与を下げることによって待遇差を解消することは、望ましくないとされていることです。つまり、格差がある場合に人事担当者がしなくてはならないのは、「現実にある雇用形態による賃金などの待遇格差を、合理的に説明できるようにする」ということです。
もちろん、合理的に説明できない賃金などの格差があるときは、解消に努めなければなりません。そしてこのとき、「合理的な説明」は、将来の役割期待が違うから、といった主観的・抽象的説明ではいけません。職務内容、または職務内容や配置の変更範囲といった客観的・具体的な実態に照らして、説明しなければならないのです。
では、具体的にはどうすればいいのでしょうか。その答えが「職務分析」です。
「職務分析」とは、職務の内容と責任の程度などを明らかにすることです。そうしてその職務を評価し、下の図のような「職務説明書」をつくっておくと、パート・アルバイトの人への説明責任を果たすことができ、彼/女らに納得してはたらいてもらうことができるでしょう。多様なはたらき方を自由に選択でき、より仕事のやりがいが高まり、能力をいかんなく発揮することで好業績につながり、事業主のメリットにもなる、という好循環が生まれます。
厚生労働省によると、職務分析をして、その職務を評価し、職務説明書をつくっていく手順は、まず「情報収集」することから始まります。情報収集のためには、複数の正社員に実際にインタビューすることが推奨されています。
インタビューする対象は、「アルバイト・パート」など非正社員と同じ業務範囲の正社員です。ヒアリングすべき4つの内容と情報収集時のポイントは以下です。
業務によっては、月サイクル、週サイクル、日サイクルで動くものがあります。典型的な1日をとりあげて、何をどれくらいの時間しているのか、順を追って聞いていきます。そうして、どのようなサイクルでその業務がまわっているのか、全体のサイクルがわかるまで明らかにしていきます。
たとえば「発注業務をしています」とヒアリングできたとします。このとき、その発注業務の目的も確かめましょう。統計的手法を用いて、より売れる商品を予測し、売上をあげる目的でやったのかもしれません。あるいは、在庫管理が目的で、リードタイムを計算して欠品が出ないようにしていたのかもしれません。もしかすると、その両方かもしれません。これは次の知識・技能にもかかわります。
もし統計的手法を用いた売上予測を行っていたなら、その知識と技能の獲得に、どれだけ時間がかかったのかをヒアリングします。同様に、在庫管理はたいへん高度な知識と技能によって行っているものかもしれません。たとえばリードタイム算出など、在庫管理のための、どのような知識をもっていて、その知識はどのくらいの期間で習得したのか、技能はどのくらいで体得したのか、具体的に聞き出します。
部下はいるのか、何人なのか。権限の範囲はどの程度か、役割の範囲はどの程度なのか。トラブルが発生したとき、どの程度の権限をもって対処できるのか。ノルマなど、成果への期待はどの程度されているのかなどを聞き、書き出していきます。
これらをヒアリングできたら、次に「主な業務」を抽出していきます。
「主な業務」を選び出すときのポイントは、以下の3つです。
このポイントに沿って選んだ「主な業務」それぞれについて、取り扱う対象と範囲を整理していきます。こうして、下の図のような一覧ができていきます。
このとき、「必要な知識や技能の水準」についても、合わせてポイント化して評価しておきましょう。たとえば、マニュアルを読めばその場ですぐに遂行可能な業務なら、もっとも簡単なレベルD。マニュアルを読んだだけでは習得できず、数日の経験を積むことで身につくなら、次のレベルC、というように設定していきます。
次に、対象となる労働者が負っている責任の程度を評価、整理していきます。このとき整理するのは、以下の項目です。
これらはたとえば、下の図のようにまとめることができるでしょう。
ここまでできたら、先にあげた「職務説明書」に、まとめていきます。「必要な知識や技能の水準」「責任の程度」などをポイント化して表示し、明確に見える化するのも有効な手段のひとつです。これで、職務分析と職務説明書の作成は完了です。
また、注意点として、雇用形態にかかわらず同一の条件が求められるのは、賃金だけではなく、教育訓練の機会や、福利厚生なども対象です。実際には基本給の算定にはさまざまな要素がからみあい、ここにあげきることのできなかった専門的な知識などが必要になることも、実際にはあるかもしれませんので、必要に応じ項目を追加することも検討しましょう。
以上、比較的簡便な方法による職務分析を紹介しましたが、より詳細な職務分析の方法もあります。国などによる支援ツールや助成金、問い合わせ先もありますし、専門家に相談する、というのも方法のひとつかもしれません。以下に事業者が使えるツールなどをまとめてみましたので、活用してみてください。
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/shindan2/
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html
同一労働同一賃金は働き方改革の一環であり、正社員と非正社員のあいだにある不合理な待遇差を解消するための施策です。たとえ職務内容が同じでも雇用形態の差で待遇が違っていたら、法に違反するばかりでなく、労働者のモチベーションにも関わります。ただし、賃金の差については合理的な理由が説明できるのであれば認められます。そのためにも、自社内で職務分析を行い、業務内容とその責任を明確化した職務説明書を作成しておくことが望ましいでしょう。
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