2021年03月19日
ジョハリの窓とはアメリカの心理学者によって考案された自己分析モデルです。
本記事では、「自分が知っている・知らない自分」「他人が知っている・知らない自分」を認識し、未知の自己を知ることでコミュニケーションを円滑にし、人材育成に応用する方法を紹介します。
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1950年代、アメリカの心理学者であるジョセフ・ラフトとハリー・インガムによって発明された「ジョハリの窓」。一般的には「自分のことは自分がよく知っている」と思いがちですが、実は個人の中には「他者だけが知っている自分」や「自分も他者さえも気づいていない自分」が隠されています。それらを図解することで、周りとのコミュニケーションの円滑化を図る考え方、手法が「ジョハリの窓」です。
「ジョハリの窓」では、「開放」「盲点」「秘密」「未知」の4つの窓に自分を分類します。ワークは複数人で実施するため、自分自身はもちろん、他者にも自分について分類してもらうことで自己理解を深めることが狙いです(実践方法は後述)。
【出典】「RSNPを用いた自己開示を促す会話エージェント」(山田竣也、加納政芳、中村剛士、中京大学、名古屋工業大学)他より
・開放の窓(open self)
自分も他人もわかっている自己を表します。該当する項目が多い場合は、自分について理解し、また、その認識が周りと乖離していないことになるでしょう。一方で、あまり項目があがらない場合は、他者から「よくわからない人だ」と思われている可能性があるかもしれません。
・盲点の窓(blind self)
考え方の傾向や口癖など、自分は気がついていないものの、他人は知っている自己を表します。他人から挙げられる項目が多いと、自己分析が十分でない傾向にあります。周りの目に映る「自分は知らない自己」について、しっかりと受け入れることが大切です。
・秘密の窓(hidden self)
自分ではわかっていても、他人は知らない自己を表します。コンプレックスや過去の失敗、トラウマなど「こんな自分を知られてしまうのは恥ずかしい」と、隠している部分です。あてはまる項目が多い場合、それだけ自己開示ができていない傾向にあると言えます。
・未知の窓(unknown self)
自分も他者も気づいていない自己を表します。誰にもわからないため、そこには未知の可能性が秘められているという考え方もできますが、一般的には「未知の窓」を狭めていくことが、自己を知って他者に理解してもらうことへの第一歩だと言われています。
「ジョハリの窓」は、自分が見ている「自己」と、他人が見ている「自己」の情報がないと完成しません。そのため、5~10人ほどでワークを実践するのが良いといわれています。
この際に注意しなければならないのは、初対面の人物を入れないという点。自己を開示するコミュニケーションを伴うため、メンバーは必ず関係性を築けている人同士であることが必要となります。
人数が集まったら無地の紙とペンを用意し、自分自身はもちろん、メンバーそれぞれに対して感じている印象や性格を互いに記入し合います。ただ、人の性格を表す言葉は膨大で、一説によれば1万を超えるともいわれています。自由記述にしてしまうと統一性がとれない可能性もあるため、あらかじめいくつか項目を用意しておくとスムーズに進みます。以下は、その一例です。
able(できる) | accepting(素直、従順) | adaptable(順応性がある) |
bold(大胆、度胸がある) | brave(勇敢) | calm(落ち着いている) |
caring(思いやりがある) | cheerful(陽気) | clever(賢い) |
complex(複雑) | confident(自信家) | dependable(頼れる) |
dignified(堂々としている) | energetic(精力的) | extroverted(社交的) |
friendly(友好的) | giving(寛大) | happy(陽気) |
helpful(助けてくれる) | idealistic(理想主義) | independent(自立している) |
ingenious(器用) | intelligent(知的) | introverted(内向的) |
Kind(親切) | knowledgeable(博識) | logical(論理的) |
loving(愛情深い) | mature(成熟している) | modest(控えめ) |
nervous(神経質) | observant(観察力がある) | organised(几帳面) |
patient(忍耐力がある) | Powerful(強い) | proud(誇りをもっている) |
quiet(静か) | reflective(思慮深い) | relaxed(のんびりしている) |
religious(信心深い) | responsive(敏感) | searching(徹底的) |
self-assertive(自己主張できる) | self-conscious(自意識が強い) | sensible(賢明) |
sentimental(多感) | shy(内気) | silly(ひょうきん) |
spontaneous(積極的) | sympathetic(思いやりがある) | tense(臆病) |
trustworthy(信頼できる) | warm(温厚) | wise(知識・経験が豊富) |
witty(機知に富んでいる) |
気をつけるべきは、ネガティブな言葉を使わないこと。コンプレックスに関わる項目もあるので、一人ひとりが無理なく進められるよう、できるだけポジティブな表現を使うようにすることが大切です。
これらの項目の中から、まずは「自分の性格にあてはまる」と思うものを複数選び、紙に書きだします。次に、相手ごとに用意した紙に「この人にあてはまる」と思う項目を書き(複数回答可)、終わったら一人ひとりに渡します。これで、手元には自分が書いた用紙と、参加メンバーが書いてくれた用紙が揃っているはずです。
次に、4つの窓を印刷した紙を用意します。
「開放の窓」には、自分と他者が書いた項目を記入し、「盲点の窓」には自分は書いていなかったが、他者からは書かれていた項目を記入します。「秘密の窓」には自分が書いて他者が書いていなかった項目を、「未知の窓」には誰も触れていなかった項目を書き込んでください。
4つの窓(書き込み用)
参加人数が多い場合に陥りやすいのは、たくさんの項目をあげすぎてしまい「未知の窓」にあてはまるものがないというケースです。そのため、相手が書いてくれた項目は「正」の字でカウントし、書かれた回数が1回だけのものは「未知の窓」に入れるなど、あらかじめルールを決めておきましょう。全員が完成したら、結果を見せ合いながらディスカッションし、お互いの理解を深めます。
結果に驚く人もいるかもしれませんが、自己開示できていない事実に気づいたり、自分では知らない姿を相手から教えてもらったりすることが、自分自身に対する深い理解につながります。
「ジョハリの窓」は、そのような自己啓発の実現がゴールです。
なかでも、最も大きく広げるべきは「開放の窓」です。この窓の項目が多ければ多いほど、周りとの円滑なコミュニケーションが築けるようになります。
では、「開放の窓」が小さい人はどうすれば良いのでしょうか。
まずは「秘密の窓」を小さくし、ありのままの自分の姿でいることを心がけましょう。そのうえで、他人に対する自己開示をしていきましょう。
また、自分は知らないけれど他者が知っている「盲点の窓」を狭めることも大切です。ここで明らかになった「他者から見た自己」をフィードバックやアドバイスとして受け止め、自分を見つめなおすチャンスだととらえるのです。
自分も他者も気づいていない「未知の窓」を狭めるには、自分の可能性に気づくことが重要です。たとえば「行動力がある」という項目が未知の窓にある人は思い切って大胆に動いてみる。チャレンジしてみたら意外と「行動力のある人間」だと判明するかもしれません。そんな、秘められた自己と向き合うことで次第に「未知の窓」は小さくなっていきます。
ビジネスにおいて、人間関係を円滑にすることは重要です。そのためには自分自身を開示し、他者の意見を素直に聞き入れ、自己を成長させる営みが欠かせません。
自己分析ができるツールはたくさんあり、そのなかでも「ジョハリの窓」は古典的ではありますが、自分を知り相手を受け入れ、良好なコミュニケーションをとるためにもおすすめです。
自分に何が足りないのかは、なかなか自分自身では気づきにくいものです。しかし「盲点の窓」や「秘密の窓」「未知の窓」によって、スキルアップをするために必要なキーワードが見えてくるはずです。まずはこれらとしっかり向き合いましょう。
そのうえで「開放の窓」に書かれた良い項目をさらに伸ばしていけば、自己を高めていくことができるはずです。
「ジョハリの窓」は、社員研修やセミナーでもよく活用されます。
社員が自己を見つめなおすことで自身の強みを理解し、能力を発揮しやすくなるからです。まずは「ジョハリの窓」で自己分析に取り組んでもらい、それぞれが「自分はどうはたらいてくべきか」について思考を巡らせてもらう。そうすればチームの団結力は自ずと高まり、個々が能力を発揮できる職場になっていきます。
さらに、自己開示は信頼関係の構築にもつながります。社員同士でワークを実施することで相互理解が深まり、コミュニケーションが円滑になることもメリットです。
「ジョハリの窓」をグループワークや研修で実践する際は、上記のやり方と同じ方法で進めて問題ありません。なかでも、性格を表す項目に関してはビジネスの場面で重要な能力など専門領域の項目を加えると、より自己理解が深められるでしょう。必要に応じて適宜、修正しながら活用することをおすすめします。
なお、「ジョハリの窓」でこころを開示することに対し大きなストレスを感じる人が出てくる可能性もあります。この場合、強制的に取り組ませるとマイナスの結果を生んでしまう可能性があるため、実施の際にはしっかりと理解をしてもらったうえで進めるようにしましょう。
ジョハリの窓を社内で応用するメリットと注意点
新入社員は、自分の強みを知ることでこれからどのようなはたらき方ができるかをしっかりと考える場を設けられます。また、つい自分のことでいっぱいになりがちな日常において、他者について目を向ける良い機会にもなるでしょう。
今後リーダーとして育成していきたい人材がいる場合は、強みと弱みの両方に気づき、目標を設定してもらうことで、魅力的なリーダーとして成長してくれるきっかけになるかもしれません。
上司の立場で部下と接する際には、「盲点の窓」に気づかせるために新たな視点や考え方をフィードバックして、「開放の窓」を広げるようなコミュニケーションを図ると良いでしょう。また、普段は伝えられていない部下への評価や期待値が「ジョハリの窓」によって明らかになることで、部下のモチベーションアップにつながることも考えられます。
「ジョハリの窓」を研修やセミナーに導入すると、このように個人の力がより発揮されやすくなります。さらに、チームの関係がオープンになることで組織がいっそう成長していくことでしょう。上手に使って、より良い職場づくりをめざしましょう。
「ジョハリの窓」は自己を知り、他者との認識のズレをなくすために重要なツールです。自己啓発に使えることはもちろん、企業の研修などに用いることで業務がより円滑に進む可能性が大いに考えられます。社員一人ひとりの個性を把握した人材育成にぜひ活用したいものです。
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人材やはたらき方が多様化し、「組織マネジメント」の重要性が高まっています。
パーソルグループでは、管理職および一般職1,000名を対象に調査を行い、 【組織マネジメントの実態調査レポート】を作成いたしました。
採用・離職、上司・部下の認識ギャップ、キャリアなどに焦点を当て、 組織マネジメントにおける課題や取り組みについてまとめたものです。
組織作りやマネジメントに課題を抱える経営・人事の方、管理職の方のご参考になれば幸いです。