金融業DXとは?重要性・導入メリットや課題などのポイントを徹底解説!

昨今のデジタル技術(テクノロジー)の進展や顧客の行動変容、さらには非金融事業者の参入などにより、金融業界ではDXの推進による 業務効率化や事業変革への取り組みが注目されています。

本記事では、金融業DXのメリットや課題、必要とされるスキルなどのポイントを徹底解説します。

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目次

金融業DXとは?

銀行や証券会社、保険会社などが含まれる金融業では、DXが積極的に推進されています。ここでは、金融業DXの概要や必要とされる背景、具体的な事例などについて解説します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

DXとは、直訳すると「デジタルによる変革」のことです。デジタル技術を活用して業務効率化を進めつつ、ビジネスモデルや組織体制の変革を進める取り組みを指します。

DXについて詳しくは「DXとは?意味や取り組み内容、必要性をわかりやすく」も併せてご覧ください。

金融業DXとは

金融業DXとは、金融業界におけるDXを指します。

銀行や信用金庫、証券会社、保険会社など、事業として貨幣の信用取引を行う金融業界では、資金や顧客情報の管理業務は負担が大きく、また定型的な作業が多いことから、デジタル技術の導入が積極的に進められてきました。そして、近年はAIやブロックチェーン、ビッグデータなどの活用が進み、金融業DXと呼ばれる新しい取り組みが広がっています。

金融業DXが注目される背景

金融業DXへの取り組みが進む背景には、以下のような金融業界が直面する課題があげられます。

①複雑化・ブラックボックス化するレガシーシステム

金融業界では1960年代からオンライン業務が開始され、さらに1990年代後半頃からはインターネットが普及し、金融業全体のデジタル化が進みました。しかし、金融業界では、資金や顧客情報などを扱うことから、業務にも秘匿性や安全性の確保が求められます。こうした業務特性から、各企業は独自にシステムを設計し、拡張を続けてきました。その結果、金融業のシステムは複雑化し、ブラックボックス化していると言われています。

システムトラブルからの復旧に時間を要することや、他の技術との連携のしにくさなど、複雑化したシステムには多くの課題があります。

②進む社会のデジタル化への対応

近年、金融業で進む規制緩和を背景に、小売業や情報通信業などから金融業へ参入する企業が増加しています。インターネット型銀行の設立ラッシュや、スマートフォンの普及に伴う事業会社の決済サービス導入などです。金融業に特化して事業展開してきた企業にとっては、競争が激化しているのです。

さらに、消費者側の利便性を考慮した商品・サービスの開発も求められています。昨今はインターネットを利用した消費やキャッシュレス決済が拡大してきました。将来のメイン顧客世代への対応として、事業のデジタル化は避けられません。

③人材不足への対応

金融業は、これまで人材不足を大きく指摘されることはありませんでした。しかしながら、近年はインターネットの普及に伴い、デジタル技術に対応ができる人材が不足しています。さらに、今後は業務の自動化や実店舗の減少などにより、従来型の業務を担ってきた人材が社内で行き場を失う懸念もあります。デジタル化が急速に進む業界であるがゆえに、人材のミスマッチが発生しているのです。

金融業のDX推進状況

金融業DXは、実際にどの程度進んでいるのでしょうか。

総務省の「令和3年情報通信白書」によると、金融業・保険業ですでにDXに取り組んでいる企業は44.7%、「実施していない、今後実施を検討」の19.7%を加えると64.4%となり、これは他の業界と比べると進捗が早い結果でした。

しかしながら、DXへの取り組みが比較的進んでいる業界でも、35.7%の企業は「実施していない、今後も予定なし」と回答しています。これらの傾向からも今後はさらにDXに取り組む企業が増加すると予想されます。


【出典】総務省「令和3年情報通信白書」より加工・作成

金融業DXの事例紹介

金融業DXに向けて、どのようなデジタル技術が導入されているのでしょうか。

金融業DXにおいて欠かせない事例はフィンテック(FinTech)でしょう。これは、金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた言葉です。この技術とは、特に情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)を指します。金融業では、デジタル技術を用いた新しい、革新的なサービスが生まれています。

フィンテックの具体的事例には、身近なところでは生体認証技術、電子マネーやデジタルバンキングなどの決済システムなどが挙げられます。AI(人工知能)を活用した非対面型のチャットボット、すなわち顧客対応サービスもフィンテックのひとつです。

この他、業務効率化やデータの活用に向けたツールの導入も進んでいます。定型業務の自動化を図るRPA(Robotic Process Automation)や、蓄積されたデータを活用する将来予測や顧客ニーズ分析などです。また今後は、暗号技術によって分散的に保存することで信頼性を確保するブロックチェーン技術や、暗号資産(仮想通貨)の活用も広がるでしょう。

金融業DXを推進する3つのメリット

金融業DXを推進することで得られるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。本章では、代表的な3つのメリットについて解説します。

①業務効率化の推進とコスト削減

金融業界は、資金や顧客に関する情報の管理や、それらの運用が主要業務です。事務作業ではデータ入力や確認作業など、従業員によるアナログ業務の多さが特徴でもありました。デジタル技術によりこうした業務の業務効率化が進めば、コスト削減が期待できます。

②顧客体験の向上

金融業の顧客は、企業や消費者など幅広いため、顧客に合わせた商品・サービスの開発が進められてきました。

顧客体験とは、顧客が商品・サービスと接する機会のことです。認知・理解・購買する過程はもちろんのこと、商品・サービスを提供する企業側とのコミュニケーションも重要な接点です。顧客側の立場から、ニーズを反映した商品・サービスの開発や利便性の向上に向けた取り組みが進んでいます。異業種からの参入やフィンテックの導入が進む金融業では、顧客体験の向上が差別化に繋がるのです。

③データ利活用による価値創造の推進

金融業は、顧客の資金や情報を大量に扱います。デジタル化により得られた情報を分析することで、顧客ニーズの把握や、自社業務の改善、新しいサービスの創造などの効果が期待できます。

金融業DXは、顧客ニーズを満たし、さらに同業他社との差別化を図る新しいビジネスモデルやサービスを生み出す絶好の機会です。

金融業DXを推進する上で直面する3つの課題

前章では金融業DXのメリットを紹介しました。一方で金融業DXを推進する上で直面する課題には、どのようなものがあるのでしょうか。

①レガシーシステムからの脱却の難しさ

金融業界ではこれまで、独自のシステム構築が進められてきました。システムは時代と共に拡大・複雑化し、維持管理業務の増大や対応する人材の確保など、負担するコストが膨らんでいます。そうしたシステム基盤を前提に、今後はさらに新たなデジタル技術への対応も必要です。

しかしながら、既存システムの複雑さゆえに改善が進まず、レガシーシステムからの脱却が難しい実態もあります。金融業では勘定系システムと呼ばれる預金管理の仕組みを導入する企業が多く、その処理量は膨大です。不具合が発生すれば、修復にも時間を要するでしょう。また、業務を内製化してきたことで対応できる人材の不足や人的な操作ミス、手順書の更新の遅れなどの問題も発覚しています。


【出典】金融庁「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」p2~3

②求められる盤石なセキュリティ対策

金融業が業務で扱う資金や顧客情報などに対しては、盤石なセキュリティ対策が必須です。金融機関のシステムがレガシー化している背景には、セキュリティ対策の強化に向けた取り組みもありました。

以下の表は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実際に発生した脅威から導き出した情報セキュリティ脅威のリストです。それによると、「ランサムウェアによる被害」が2年連続で1位になりました。

ランサムウェアとは、不正なアクセスにより保存されているデータを暗号化して使用できない状態にするソフトウェアのことです。復元と引き換えに「Ransom(身代金)」として金銭を要求します。その他、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」や「標的型攻撃による機密情報の窃取」などが続きます。

その他、フィンテックやクラウドサービスの拡大などにより、対応しなければならないセキュリティリスクも増加しています。対応策として、モニタリングや新たな認証制度づくりなど、安全対策の強化が推奨されています。

強固なセキュリティ体制は維持しながらも、金融業を取り巻く環境変化に対応しなければなりません。金融業DXは、そのような難しい舵取りが必要でもあるのです。


【出典】独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威2023」より加工・作成、金融庁「金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取り組み方針 概要

③DX人材の確保・育成

金融業DXを推進するには、自社事業に導入するデジタル技術や、得られたデータの分析力はもちろんのこと、何よりもセキュリティに対する理解が不可欠です。これらの能力を備えた人材の確保・育成に向けた手法としては、「人材採用(新卒・中途)」「外部人材の活用」「従業員教育・リスキリング」などがあげられます。

しかしながら、DX人材の獲得競争は激化し、採用難易度が高まっており、今後もこの傾向は続くことが予想されます。そのため、従業員教育・リスキリングは効率的に人材の確保・育成を進められる手段だと言えます。

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金融業DXに求められる人材とは

金融業DXを担う人材には、具体的にどのようなスキルが求められるのでしょうか。本章では、金融業におけるDX人材のスキルについて解説します。

①個別業務のデジタル化から全体の最適化への対応

金融業のシステムは、主に「勘定系」「情報系」「チャネル系」の3つがあります。勘定系システムとは、入出金や資金の決済、残高管理、利息の計算、融資処理などを行う会計勘定処理を行うものです。金融業の根幹を成すシステムと言えるでしょう。続いて情報系システムは、事務処理や情報共有、コミュニケーションなどに利用されるもの、チャネル系システムは、インターネットバンキングに代表される、窓口業務をサポートする仕組みです。

金融業では、それぞれが独立したシステムとして導入が進められ、それに合わせた人材の確保が進められてきました。しかし今後は、顧客体験の向上に向けて、それぞれの機能を連携させ、全体最適化に対応できる人材が求められるでしょう。

②高度なセキュリティ対応能力

金融業はセキュリティ対策が最重要課題と言える業界です。一般的に指摘される技術的、物理的、人的な対策はもちろんのこと、金融業で想定される具体的なセキュリティリスクに対応するスキルが求められます。

具体的には、情報セキュリティポリシーや運用指針(マニュアル)の策定、日々の業務におけるチェック体制の構築、従業員教育、情報漏洩時の対応や復旧プロセスの準備など事故時の具体的な対応策などです。こうした高度なセキュリティ対応能力が必要です。

③様々な部署や関係者の間での調整力、コミュニケーション能力、リーダーシップ

これからの金融業は、フィンテックの導入や、デジタル技術を活用した業務効率化などがますます進みます。それに伴い、全社的な連携も増えることになります。DX推進を担う人材として、部門間の調整やコミュニケーション、時にはリーダーシップなどが必要な要素となるでしょう。

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外部リソースを活用したDX人材の育成

金融業DXを進めるとき、DX人材の確保・育成は避けられません。金融業におけるDX人材には、業務に関わるデジタル技術への理解や習得に加え、セキュリティへの対応力がますます重視されています。

DX人材は、外部から新たに確保するよりも、既存従業員へのリスキリングを通して育成する手法が効率的です。しかしながら、専門性の高いデジタル技術やマインドセットの醸成などを日々の業務を行いながら、学ぶ場を作るのは負担がかかります。

DX人材育成に必要な新規スキルの習得と定着を支援する「リスキリングキャンプ

パーソルイノベーションが提供する「リスキリングキャンプ」は、オンラインコンテンツを活用し、着実に力が身に付くスキル習得の仕掛けと、潜在能力を引き出すマインドセットの仕掛けを提供する、大企業に特化したプログラムです。個別最適化したカリキュラムの設計と、キャリアコーチ、テクニカルコーチによる学習伴走により、学びの継続と、着実なスキル定着が期待できます。
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まとめ

金融業ではこれまでも、デジタル技術の導入が進められてきました。しかし、セキュリティ対策を重視するあまり、そのシステムは複雑化・ブラックボックス化していると言われています。一方、異業種からの参入による競争激化や顧客ニーズの多様化などに伴い、業務効率化や新たな商品・サービスの開発による顧客獲得への挑戦も避けられません。

こうした状況下で、業務効率化による企業体質強化、業界内における差別化などに向け、DXへの取り組みが注目されています。また、その際には金融業DX人材の確保・育成も不可欠です。しかしながら、日々の業務を行いながらDX人材の確保・育成に向けて取り組むのは負担が大きいのが実情と言えるでしょう。


企画・編集/パーソルイノベーション株式会社 リスキリング キャンプ コラム編集室 三浦 まどか