データが組織を見える化する。一人ひとりの能力を最大限に活かす人事<インタビュー前編>

「人事のデータ活用」に注目が集まる中、人事データにはどんな可能性があるのでしょうか。パーソル総合研究所の佐々木に、人事データの活用の意義や、それが求められている社会背景について話を聞きました。

プロフィール

株式会社パーソル総合研究所 執行役員 コンサルティング事業本部長

佐々木 聡

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科でMBAを取得。株式会社リクルートを皮切りにHR領域一筋。2013年7月より現職。専門はリーダーシップ開発。

テクノロジー分野では遅れているHR領域

――「人事におけるデータ活用」ということで、人事が扱うデータというと、給与計算や労務管理などに使われるイメージが強いですが、パーソル総合研究所(以下:パーソル総研)が扱うデータはもう少しハイテクな印象ですよね。

佐々木 用語として使い分けているのですが、HRテックと呼ばれるいわゆる「ヒューマンリソース×テック」の領域があります。最近は、フィンテックやヘルステックなどいろいろありますが、HRテックは遅れている領域だと言われています。さすがに最近では、人事情報もエクセルだけでなく、「タレントマネジメントシステム」に入れている企業も多いと思うのですが、うまく活用しているかというと、日本企業は遅れていると言わざるをえないと思います。それをHRテックの領域では、業務系と位置付けています。

一方で「人事データの活用」を我々は「ピープルアナリティクス」と言っていて、HRテックとは若干異なる定義づけを行なっています。

HRテックを、人事業務よりの管理としたならば、ピープルアナリティクスはもう少し戦略的に人事を推進していくという考え方なのかなと思います。より付加価値が高く、人材をどうタレントマネジメントしていくかという文脈が強い。もちろん重なる部分もあるんですが、あえて使い分けています。

情報を持っていることと、活用することは全然違う

佐々木 ピープルアナリティクスがより戦略的な人事を目指すものとしたなならば、中長期の組織・人事のあるべき姿に近づけるために当然データ活用が前提になります。なぜなら、データを見える化をするためです。

データとは、個々人の能力や性格、過去の実績や語学力、個人にまつわる情報です。生年月日に始まり家族構成なども含めて個人情報、属性情報、どこの企業も必ず持っており、組織の課題を映し出すものです。組織診断とか、業績面、あらゆるものがデータとして見えるようになってきています。

ピープルアナリティクスでは情報を3段階に分けています。

まず、年齢や住所、家族構成、入社後の人事評価や研修の履歴、どんな部署を移ってきたかなど基本情報をレベル1とすると、レベル1を持っていない人事はいません。

レベル2はもう少し進化しており、アクティブに取るデータです。周囲からその人がどう見えているか360度サーベイ、SPIのような性格適性検査、TOEFLなど様々なアセスメントがありますが、人事が何らかの意図を持って調査しているものをレベル2と呼んでいます。

レベル3はさらに進化したもので、例えば一人ひとりの体調やコンディション、モチベーション、顔認証で目の静脈の動きを読み取ったり、脈拍を取ったりもします。他にもマイクロソフトのOffice365や、GoogleのG Suiteなどのコミュニケーションプラットフォームもそうです。メールを送ったり、ファイルを見たり、会議を依頼したり、ビジネスに加勢するツールのログを使い、日頃どのようなコミュニケーションとって、どのようなことに興味があるのかといったことが、リアルタイムにわかリます。あるいは、センサーをつけてどこにいるのか、誰と喋っているのかといった位置情報もありますね。

レベル1はどこでもやっていますが、レベル2はある程度進んでいる企業で上場企業などでは大体やっているのではないでしょうか。レベル3までいくと、やっているところは一握りだと思いますね。

ただし、レベル1でもデータを持っていることと活用することは全然違います。あくまで人事業務としてしか使わないので、必要最低限の情報として眠らせていることが多いですね。データの見える化・データ活用は、レベル3になると色々できるようになりますが、残念ながらデータそのものがないという壁があります。レベル2も非常に有用だと思いますが、そういったものを持っている企業は少ない。あるいは、過去やったことはあるが継続的にやってないので情報が断片的だったりします。

「システム+概念」データを集め、分析する

――ピープルアナリテイクスの話も出てきましたが、タレントマネジメントとピープルアナリティクスはどのような違いがありますか?タレントマネジメントシステムのようなシステムがないとピープルアナリティクスはできないんでしょうか。

佐々木 システムがなくてもピープルアナリティクスはできますが、システムがあれば利便性が高まり、より高度な戦略人事を実現できると考えられます。例えば、人事が個人情報をエクセルで管理しており、そのファイルが点在していたら情報を探しにいかないと全データが見えないですよね。しかし、一つに集約できる“箱”を作っておけばいつでもどこでも情報を取り出すことができます。タレントマネジメントシステムが“箱”だとすると、中身がピープルアナリティクスで活用できるデータのことですね。

――そうすると、ピープアナリティクスとは具体的にどういったものでしょうか。

佐々木 ピープルアナリティクスというのは考え方です。ツールでもない、概念です。人事の科学化といったら良いのかもしれません。アナログでやっていた人事を科学化する、デジタル化して戦略的に使うのがピープルアナリティクスですね。

――ピープルアナリティクスというとAIを使うようなイメージもありますが。

佐々木 人材の見える化、科学化はAIを使っても使わなくても良いですが、まず見える化するためには、素材=データがないといけません。データは、個人・組織の特徴を示すもので、これがなければ当然アナリティクスはできません。「データありき」です。データを分析して、考察して、解決策につなげる。この一連の動きがピープルアナリティクスを指していて、それを便利に使うためにシステムがあります。情報を整理し、手早く入手し、分析に使うことができますよと。

一人一人の能力を最大限に活かす考え方

佐々木 さらに上位概念に「タレントマネジメント」があります。一人ひとりの持っている能力を最大限に生かすという考え方です。

これまで企業や組織が成果を生み出してきたのは、優秀な2割が8割の成果を生み出しているという「パレートの法則」ですよね。優秀な人材を採用し、選抜して一部の人を中心にローテーションを行い、育成し、成果を上げてきたのがこれまでのモデルです。

それがビジネスの変化や人材の多様化、働き方の変化で通用しなくなってきました。そこで、ごく一部の選ばれた人たちではなく、全員野球とまではいわないのですが、6割か8割か、多くの人を最大に活かさなくてはならないというスキームにきているわけです。そうしないと勝てないんですね。一人一人の持っている特性を把握しなければ、当然、活用はできない。

つまり、ピープルアナリティクスの考え方が必要になってきます。2割の人だけだったら大した情報はなくてもよかったわけです。

――やはり社会的な現象、グローバル化や競争力の激化、人口減少、若年の働き手が少ないといったようなところからそういう考え方が出てきたんでしょうか。

佐々木 そうですね。今後さらに加速していくと思います。労働力不足になってきているので、外国人や女性、ミドルシニアも増えるでしょう。多様な人材をどうモチベートし、彼らの持っている力を引き出していくのか、新たな人事施策が必要になってきています。価値観の違う人材をマネジメントする必要があるのです。これまで特に日本は、阿吽の呼吸、ハイコンテクストで一本調子で通用していましたが、徐々に通用しなくなっていますので、科学的に考えないといけません。

――日常的にも活かされるようなものですか?例えば上司と部下との接し方や離職防止でも役立ったり。

佐々木 そうですね、かなり直接的に活かされます。パーソル総研がご支援した事例はいくつもあります。

たとえば、人事異動させたものの異動先で振るわず辞めてしまう、ローパフォーマーが異動して違う仕事をしたらMVP取った、といったことが起きたため、戦略的に人材を配置させたい、ということでご相談をいただき、ピープルアナリティクスの取り組みを行いました。ピープルアナリティクスをもとにした異動配置のパターンと、使わない異動配置のパターン、2つのパフォーマンスを検証しましたが、やはり前者が伸びました。

人事の中でも最も遅れているのが“異動配置”で、これまでは経験・勘・記憶、『オールド3K』と呼びますが、これらを頼りに異動配置を行っていました。これからは、異動配置においてもデータを活用した記録・客観性・傾向値の『ニュー3K』が主流になると考えています。

後編はこちら
※本記事は2019年3月14日時点でのインタビュー内容です。

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