2005年に熊本県で民間病院としてスタートして以来、医療・介護・予防医療にとどまらず、まちづくりやエンターテインメント、ビジネスソリューションへと領域を広げてきた桜十字グループ。「人生100年時代の生きるを満たす。」をミッションに掲げ、2025年には創業20周年の節目として、新たなビジョン「WELL-BEING FRONTIER」を打ち出しました。
M&Aや事業拡大に伴いグループが1万人規模へと成長する一方で、拠点や部門が離れているがゆえに良い取り組みが「点」で止まってしまう現状や、主観的で定性的な“Well-being”をいかに現場へ届けるかという課題に直面。そこで2025年7月、人事・広報・カルチャー醸成とそれぞれ異なる領域を担う有志によって、横断型推進チーム「FLOW(フロー)」が結成されました。東京・福岡・熊本と拠点が異なる3人が連携するなかでの試行錯誤や、現場で起きた変化、そして今後の展望について、日髙さん、松枝さん、柴田さんにお話を伺いました。
プロフィール:
桜十字グループ 人材開発本部 東京人事部 日髙 由子
桜十字グループ カルチャー&クオリティー本部 松枝 留美
桜十字グループ 企画広報マーケティング部 柴田 彩音
この記事でわかるポイント
- 創業20周年を迎えた桜十字グループは、医療の枠を超えてQOL向上を目指す新ビジョン「WELL-BEING FRONTIER」を掲げています
- 1万人規模の組織で「点」の取り組みを横につなぐため、人事・広報・カルチャー担当による部門横断チーム「FLOW」を結成
- 「5か年計画」の初年度として全社アンケートを実施し、多忙な医療・介護の現場からも約1,000名の声と広く共感を集めました
- 事例を通して社員一人ひとりの「はたらく幸せ」を可視化し、Well-beingを伝播させる取り組みを実施しました
- 「成果が見えにくい」立ち上げ期の葛藤を乗り越え、共通言語をつくるブランドブックの制作など「種をまく」次なるフェーズへ進んでいます
目次
メディカルからヘルスケア、そして「WELL-BEING FRONTIER」へ
──はじめに、桜十字グループの事業内容やこれまでの歩みについて教えてください。
日髙:桜十字グループの原点は、病院再建事業にあります。2005年に熊本で桜十字病院の運営を開始し、地域医療の課題解決に取り組みながら、経営改善と医療サービスの高度化を実現してきました。そうしたノウハウを基盤に、介護や高齢者住宅、予防医療、在宅サービス、さらには海外医療へとメディカル領域を大きく拡大。そしてメディカル領域に紐づく形で徐々に、地域の未来を育むまちづくりや、暮らしに活力を届けるスポーツ&エンターテインメント、カフェ&ダイニング、リゾート事業といったエクスペリエンス領域へも進出しました。現在では、これまでの事業知見を生かして事業承継・M&A支援やマーケティング事業といったビジネスソリューション領域まで幅広く展開しています。
松枝:当グループは、フィロソフィーとして「HAPPY SPIRAL」を掲げ、桜十字に関わる全ての人が幸せとなるモデルを全国、そして世界へ広げてまいります。さらに、その実現に向けたミッションとして「人生100年時代の生きるを満たす。」を掲げています。
柴田:そして、創業20周年の節目を迎えた2025年、新たなビジョンとして「WELL-BEING FRONTIER」を策定しました。創業からの10年は「メディカルグループ」として病気やケガの治療に向き合い、次の10年は時代のニーズに応える「ヘルスケアグループ」として歩みを進めてきました。人生100年時代を迎えた今、求められているのは身体的なケアだけではありません。心の充実や人とのつながりまで含め、一人ひとりのQOLを高め、Well-beingを実現していくことが重要です。医療・介護にとどまらず、さまざまな領域で「生きるを満たす。」価値を創出し、より豊かに生きられる社会をつくっていく。それが、私たちの次なる使命だと考えています。
──一般的に、Well-beingには「身体的充実」「精神的充実」「社会的充実」の3つが重要と言われています。事業としてメディカル領域に携わる貴社としては、新ビジョン「WELL-BEING FRONTIER」を策定された際は、自然と受け入れられたのではないでしょうか?
日髙:そうですね、事業との関連性は近しい概念だと思います。ただ、私自身は初めて聞いたとき「WELL-BEING FRONTIERってなんだろう……?」と正直戸惑いました。というのも、そもそもWell-beingという言葉自体に馴染みがなく、「横文字で少し難しそうだな」という印象を受けたんです。ただ、人事部として今後社員や求職者の方に新ビジョンを伝えていく必要があるだろうなと思い、経営層との対話や打ち合わせのなかで少しずつ理解を深めていきました。そのなかで、いち社員の私がパッと聞いて戸惑うということは、社内外へ浸透させるには大きなハードルがあるだろうなとも感じたんです。そこで、「WELL-BEING FRONTIER」を根付かせるための推進チーム「FLOW(フロー)」を2025年7月に立ち上げました。
点の取り組みを全社へ。部門・拠点を超えた3人で結成した「FLOW」
──日髙さんが主導となってFLOWを立ち上げられたんですね。FLOWとはどのようなチームなのでしょうか?
日髙:FLOWは「Front Line Of Well-being」の頭文字をとり、人材開発本部の私、企画広報マーケティング部の柴田、カルチャー&クオリティー本部の松枝の3人がコアメンバーを務める部門横断チームです。
日髙:当グループは、M&Aという形で志を共にする多くの仲間を迎え、ここ数年で急成長を遂げてきました。ただ、それぞれの事業所で素晴らしい取り組みが行われていながらも、個別の「点」として輝いている状態で。これを一つに結びつけることができれば、さらに大きなうねりを作れるはずだという思いがあったんです。新ビジョン「WELL-BEING FRONTIER」を組織全体に根付かせるには、一丸となれる体制づくりが不可欠。「部門を超えて手を取り合えば、さらに大きな価値を生み出せるはず」という思いを胸に、同じビジョンを見据える2人の仲間を誘い、このチームを始動させました。
──日髙さんから声がかかった際、お2人はどのように受け止めましたか?
松枝:私が所属するカルチャー&クオリティー本部は、顧客満足度を高める施策を担ったり、グループの文化醸成を行ったりしている部署です。日頃から現場を巡り、フィロソフィーである「Happy Spiral」を浸透させるための社内報の制作などをしています。そのなかで、全社に広げたい素晴らしい活動や取り組みを見つけても、なかなか横展開しきれないことにもどかしさを感じていました。なので日髙から話をもらった時は「まさにそう、そうなんだよ!」ととても共感しましたね(笑)。
柴田:私は入社間もない時期だったので驚きもありましたが、お声がけをいただいて素直に嬉しかったです。新ビジョンが策定され、広報として「WELL-BEING FRONTIER」をどう周知していくか模索していたタイミングだったので、自部署にとどまらず他部門の2人と手を取り合えることに、とてもワクワクしました。
日髙:実は私たち、ふだんは東京・福岡・熊本と全員拠点がバラバラなんですよ。お互い通常業務がありながらも、自部門の役割と密接にリンクしているため、オンラインミーティングや合宿を通じて連携を深めています。
──拠点も部門も異なるんですね!そうしたなかで、2025年7月の発足後、まずどのようなアクションから始めたのでしょうか?
柴田:まずはFLOWが目指す姿を明確にするため、2030年を見据えた5か年計画を策定しました。1年目の「土を耕す」を皮切りに、「種をまく」「芽生える」「花ひらく」「実る」と段階的なステップとKPIを設定しています。最初の「土を耕す」フェーズとして、まずは社員の意識を知るための社内アンケートを実施しました。「WELL-BEING FRONTIER」という言葉の認知度や受け止め方を問う数十問のアンケートで、最終的に982名もの社員から回答が集まりました。
松枝:総社員数1万人を超えるグループですが、社員の多くは多忙な医療・介護の現場で患者さまや利用者さまと向き合っています。そのため「回答を集めるのは難しいかもしれない」と思っていたので、この数字には正直驚いたと同時に、みんな関心があるんだという嬉しさもありました。
分析してみると、Well-beingという言葉自体の理解にはまだ伸びしろがあるものの、「目の前の人の役に立ちたい」「感謝されることがやりがい」と感じてはたらく社員が多いことがわかったんです。アンケートを通して、桜十字に関わるすべての人を幸せにする「HAPPY SPIRAL」の精神が、すでに現場の隅々にまで根付いていることを改めて実感できました。
“Well-being”には答えがない。だからこそ、波紋のように伝播していく
──社内アンケートで一人ひとりの意識を可視化したあとは、どのような取り組みを行ったのでしょうか?
柴田:次に、社員から「日常でWell-beingを感じた瞬間」のエピソードを募る事例募集を行いました。Well-beingは主観的なものですから、「これがWell-beingだ」という定義は難しいと考え、それよりも、一緒にはたらく身近な人がどういったときに喜びややりがいを感じているのかを知りたい、そして全社にも知ってもらいたいと思ったんです。また、「Well-being」という横文字を、自分の仕事や生活に置き換えて考えてもらうことで、「日常がWell-beingなんだ!」というように身近に感じてもらいたいという想いもありました。集まったエピソードをFLOWで選定し、優秀賞を表彰するアワード形式にして、副賞として自分らしい心地よい時間を過ごしてもらえるような体験型のカタログギフトを贈呈しました。
日髙:優秀賞に選ばれたのは、産休から復職した際に職場が温かく迎えてくれたエピソードでした。彼女自身が仕事と家庭を前向きに両立できていること、そして「ここに戻りたい」と思える職場環境があり、周囲のメンバーも復職を歓迎してくれた場面が彼女のWell-beingにつながったそうです。柴田も言うように、Well-beingは非常に主観的で、感じ方やタイミングは人それぞれ。事例を集めたことで、そのことを再認識しましたね。
──事例を通して、現場のリアルな“はたらくWell-being”が見えてきたのですね。
松枝:実をいうと、このアワードで私たちが一番学びとパワーをもらったんですよ。集まったエピソードを3人で選考しながら、「このシーン、すごく素敵だね」「これは嬉しいよね」と共感し合う時間が、私にとってはすごくWell-beingでした。
日髙:私はそのとき、Well-beingは水面に広がる波紋のように、周囲へゆっくりと波及していくものなんだと感じたんです。一人ひとり、仕事のなかで幸せを感じる瞬間がある。それを拾い上げて全社に届け、浸透させていくことがFLOWの役割なのかもしれないと思いました。
──手応えを得られた一方で、難しさや葛藤もあったのではないでしょうか?
日髙:おっしゃる通りです。ここまでの話だと順風満帆に見えるかもしれませんが、決して平坦な道のりではありませんでした。Well-beingの取り組みは一見ポジティブで受け入れられやすく見えますが、主観的で定性的なため、明確な数値で成果を示すのが難しいんですよね。立ち上げ当初は「FLOWって何をしているの?」「成果は何?」といった声もありましたし、重要だけど緊急ではない課題だからこそ多忙な現場では後回しにされてしまいやすい。だから、これまで本腰をいれて取り組むのが難しかったのだなということも分かりました。
松枝:また、前例がなく自由度が高い反面、「具体的に何から手を付ければいいのか」という答えのない問いに、3人で何度も頭を抱えましたね。ただ救いだったのは、私たちがそれぞれ異なる部門に所属していたことです。自部門の知見や経験をFLOWにどう活かせるかと、各々の専門性や強みを持ち寄ることができたのは大きな支えになりました。年代もキャリアも異なる3人だからこそ、一つの視点に偏らず、多角的な切り口で議論ができたのも良かったなと思っています。
──確かに、人事施策と連携したいときは日髙さんが、対外的な広報をしたいときは柴田さんが、「社内に向けた配信を」となれば松枝さんがいらっしゃる。連携という形だからこそ、アプローチできる幅も広いんですね。
「土を耕す」から「種をまく」へ。FLOWが目指す“はたらくWell-being”の未来
──FLOWが発足して約1年が経ちました。振り返ってみて手応えや変化はいかがですか?
日髙:嬉しいことに、現場での認知度が徐々に高まっているのを感じています。以前現場に出向いた際、スタッフから「今日はFLOWの取り組みですか?」と声をかけられたんです。これまでは人事部の日髙だったのが、FLOWの日髙として認識してもらえていて、グループ内にFLOWが根付き始めていることを感じました。
松枝:今後の目標は、1万人を超える社員みんなから「FLOWがあってよかった」と言ってもらえるようにすること。これからは社内に仲間を増やすことで、新しいアイデアや視点を取り入れ、さらにWell-beingの波を広げていきたいですね。私、Well-beingって未来を語れるものだと思うんです。未来に向けてポジティブな発想を重ねながら、桜十字に関わる全ての人たちがどうすればより幸せになれるか、その循環(HAPPY SPIRAL)をどう大きくしていけるかを考えていく。そうした前向きな土壌を、グループ全体に育てていきたいと思っています。
柴田:私は、発信力や届く範囲にはまだまだ伸びしろがあると実感しています。医療・介護の現場では、業務中にデジタルツールを見る余裕がない社員も多いため、全社へどう届けるかが継続的なテーマです。今後は他部門との横断連携を広げ、発信力の強化を模索していきたいと思っています。
──今後、検討している取り組みがあれば教えてください。
日髙:私たちが培ってきた想いや成果を、誰もがいつでも触れられる形として残したいと思い、その第一歩として現在ブランドブックの制作を進めているところです。これまで紡いできた多様なストーリーや歴史をひとつにまとめ、経営陣から現場までが共通言語を持ち、未来へ一丸となって進むためのスタンダードをつくっています。FLOWの5か年計画は、1年目の「土を耕す」フェーズを終え、いよいよ「種をまく」フェーズへ。「橋渡しとなるアクション」をテーマに、ブランドブックをはじめ、他企業とのコラボレーションやWell-beingの情報交換会など、社内外をつなぐ新たな挑戦を広げていきます。
