父の借金返済→28歳の歯科衛生士が起業し年商5億に。“はたらくWell-being”をかなえた理由

歯科衛生士として8年間はたらいたのち、28歳で株式会社ボーテを起業し、ホワイトニングやデンタルエステサロンの業務委託運営などを手がける柏野紗耶加さん。「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2025」では、ボーテは非上場部門1位にも選ばれました。

そんな柏野さんは、幼少期は複雑な家庭環境で育ち、歯科衛生士時代には年間40人が離職する店舗を経験されました。起業のため会社を退職するも、開業後5年ほどは自転車操業が続いたと言います。それでもていねいに目の前の仕事に向き合った結果、信頼は着実に積み上がり、2024年には年商5億3,000万円を達成しました。

一つひとつ困難を乗り越え、「魂が喜ぶはたらき方」にたどり着いた柏野さん。その歩みを通して、“はたらくWell-being”とは何か、そしてはたらきがいを感じるにはどうしたらいいのか、ヒントをお届けします。

社員の才能が花開くとき、“魂が喜ぶ”ほど満たされる

──株式会社ボーテを経営する柏野さんが、最もはたらきがいを感じる瞬間を教えてください。

会社のメンバーや、ご相談をいただいている歯科医院のスタッフなど、周りの人の才能が開花したときですね。「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2025」でもボーテは「人的資本開発」の指標で高く評価していただき、非上場部門1位を受賞しました。

みんな一人ひとり才能や強みを持っているのに、そのことに自分では気付けず、花開かずに終わってしまうのはあまりにももったいないと思うんです。

経営者としてメンバーを見ていると、花が咲くまでに7〜8年ほどかかる人も少なくありません。それでも一度開花すれば、その人の力が世の中のニーズと重なり、大きな価値が生まれます。事業の成長だけでなく、本人の仕事のやりがいや、人生の目的・使命感にもつながります。

私は、そうして社員一人ひとりが幸せになっていく姿を見たときに、「魂が喜ぶ」といっていいほど、満ち足りた感覚になりますね。

──才能を開花させるために、柏野さんは経営者としてどのような工夫をされていますか?

ボーテでは、歯科業界で活躍している外部の方をお招きし、ボーテのメンバーが新たな視点を取り入れながら常に学びつづけられる環境をつくっています。また、半年に1回はスタッフ一人ひとりと面談を行っていて、その人の潜在的なスキルやかなえたいことを把握するようにしています。

私自身、20歳のころに地元の歯科医院の先生にいろいろな場所へ連れて行っていただき、世界が広がった経験があります。スタッフにも同じように外の世界に触れて、自分の可能性に気付いてもらえる機会をつくりたいんです。

周りが変わっても、本人が動かなければ花開くことはありません。私には環境を用意することしかできませんが、会社を一つの舞台としてもらえるよう体制を整えています。

柏野さんが花開くまで。長期目線・人間関係を大切に

──自分の花を咲かせるには、時間をかけて努力したり、困難を乗り越えたりする必要もありますよね。柏野さんご自身は一つひとつの壁をどのように乗り越えてきたのか、これまでのキャリアと併せて教えてください。

私は高校1年生のときに、祖母の通う歯科医院でアルバイトを始めたのがきっかけで歯科衛生士を目指すようになりました。

当時は家庭に借金があり歯科衛生士学校に行くための資金がなく、アルバイトを掛け持ちして、すべて自分で用意しました。高校卒業後は2年制の歯科衛生士専門学校に進学し、国家資格を取得しました。

──そこから起業を志すまでには、どんな転機があったのでしょうか?

やっとの想いで歯科医院ではたらきはじめた20歳のときに、父親の借金が発覚して……。奨学金の返済に加えて、父親の借金も払わねばならなくなったんです。親への葛藤を抱えながらも、日中は歯科医院ではたらき、夜もアルバイトをして、とにかく疲れ果てる毎日でした。

そんな20歳をすごしていたある日、思い切ってとある講座に参加してみたんです。

講座での学びや「親も借金も、自分になんの制限もなかったら何がしたい?」との問いをきっかけに、「どうにか状況を変えてお金持ちになってやる」という不屈の闘志がみなぎってきて。起業を考えはじめるようになりました。

──具体的にどのような講座だったのですか?

主に学んだのは「目標達成」と「人間関係」の2つです。

この講座で数年単位の長期目標を立てたことが、その後に直面する多くの困難を乗り越える上で、大きな支えとなりました。

長期的な視点を身につけたことで、目標を常に意識できるようになり、今の立ち位置を客観的に捉え、自分の課題に向き合いつづけられるようになりましたね。

私の場合は、20歳から28歳までは学習の段階、28歳で起業し、28歳から35歳までは挑戦の段階、というように区切って人生プランを決めていきました。

──挑戦の段階である20歳から28歳までは、どんな職場でどのようにはたらいていたのでしょうか?

最初は奨学金の条件で地元の奈良ではたらく必要があり、奈良の一般歯科医院で3年間はたらきました。

次の24歳から28歳までの5年間は、大手フランチャイズの歯科医院ではたらきました。「起業するのであれば、まずは大きな会社で伝説になるような結果を残そう」と決めていたんです。

最終的に、全国500人いる社員の中で「5年間連続売り上げトップ」にまでなりました。

──目標があったとはいえ、はたらく中で投げ出したくなることはありませんでしたか?

もちろん、あります。年間約40人が離職する店舗に配属されたこともあれば、上司との関係性に悩んで会社を辞めようと思ったこともありました。

ただ、そのとき読んだ本に、「自分にとって一番難しい相手を満たすことができたら、どんな人とも関係を築くことができる」と書いてあったんです。

そこからは、相手が何を求めているのか、何を大切にしているのかを聞いて、「何かやってみたいことはないですか?」と積極的に相手を理解しようと努め、一つずつ乗り越えていきました。

──28歳まで大手フランチャイズではたらいたあと、どのように起業に向けて行動していきましたか?

とにかく28歳で起業すると決めていたので、資金などの用意ができていない状況ではありましたが、会社は退職しました。実績や経験を積み重ねたら、最後は覚悟を決めて実行するしかありませんから。

講座への参加をきっかけに20歳のころから「起業する」と決め、周囲に「やります!」と言い続けていたこともあり、迷いなく決断ができたのだと思います。

28歳で会社を退職した後に開業するまでの流れとしては、まずフリーランスとして研修事業を始めました。徐々に実績が積み上がり、貯めたお金で2014年にホワイトニング・デンタルエステ専門のクリニックを心斎橋にオープン。その後、株式会社ボーテを設立しました。

──事業内容について教えてください。

現在の事業としては、全国11店舗ある「ホワイトニング・デンタルエステ専門クリニック」の運営をはじめ、全国の歯科医院向けにスタッフ育成・接遇・マネジメントなどの研修を展開しています。

2022年からは創業時のメンバーが代表を務める子会社「株式会社ラビット」で、ホワイトニング関連のオリジナル製品の開発・販売も行っています。一貫して、「女性が自立して輝ける歯科業界の未来を創造したい」という想いで事業を行っていますね。

──2024年度には、会社の収益が5億3000万円に達したと聞きました。

開業当初は自転車操業でしたが、おかげさまでスタッフも売り上げも徐々に増え、開業してから約10年でここまで成長できました。クリニックの運営だけでなく、歯科医院向けの研修や経営相談も多くご依頼いただいています。

──研修や相談では、特にどんな内容が多いのでしょうか?

ご相談の大半は、人間関係のトラブルです。

歯科医院は小さなコミュニティなので、院長とその他スタッフ、歯科衛生士と歯科助手など、さまざまな方の関係が交差します。歯科医師や歯科衛生士として専門的な技術を持っていても、マネジメントやコミュニケーションの学習機会が乏しいまま医院を経営するとなると、戸惑いが生じやすい状況になるわけです。

──“はたらくWell-being”の実現のためにも、良好な人間関係は必要ですよね。第三者として人間関係に踏み込み、トラブルを解決するのはかなり難しいことだと思いますが……。

ある人に何か問題行動が見られる場合、過去や家庭環境による傷を一つひとつ掘り下げて整理していきます。

私自身、家庭環境が複雑だった経験もあるため、一人ひとりの気持ちをより深く理解しながら、家族のように思って向き合ってきました。私が見てきたなかではありますが、心に刺さっている棘が取れることで、行動の改善につながるケースは多いです。

実際にそうした変化を評価いただき、多くの歯科医院から継続的に相談のご依頼をいただいています。

──仕事で人間関係に問題がある場合は、自分や相手の心の棘に向き合うことが大切なんですね。柏野さんご自身も、会社を経営するにあたって、メンバーとの関係性を大切にされているのでしょうか。

そうですね。メンバーと良い人間関係を築くと、前向きな気持ちではたらけますし、一人では立ち向かえない困難にも、メンバーの力が合わさることで解決への一歩を踏み出せます。

2021年にはコロナの影響で、歯科医院が不要不急の治療を制限され、業績が大きく下がりました。「このままの状況が続けば会社が立ち行かなくなる」とスタッフに伝えたんです。

すると、スタッフのみんながカルテ番号1番のお客さまから順番に電話をかけて営業をしてくれて。来院が難しい方には自宅で使えるケア商品を提案するなど、必死で動いてくれました。

ここまで来られたのは、スタッフをはじめ、力を貸してくださったすべての方のおかげです。

誰もが美しい人生を手にいれる権利を持っている

──“はたらくWell-being”をかなえるために、読者がすぐ実践できることはありますか?

どんな花を咲かせたいのか、それをかなえるためにどんな方法があるのかを考えることから始まると思います。

そのために、まずは普段は関わることのない、あなたが尊敬できる人に会って話を聞きに行ってみてください。今ある環境や知識だけでは、知らないうちに視野が狭まってしまっていることも多いですから。

また、自分自身を知ることも必要です。「自分はどんなときにうれしいと感じるのか」「何をしているときが楽しいのか」を、ざっくりでもいいので考えてみるといいですね。変化のある環境でいろいろな経験をするのが好きなのか、安定した環境で安心してすごすほうが合っているのか。自分の特性や、心が求めているものに目を向けることが大切です。

ただ、自分のことは思っているよりわからないものなので、そんなときにも視座の高い、周囲の人から客観的なフィードバックをもらうことも一つの方法です。

目標が決まったら、少しずつでも行動していく。その中で、これまで感じていたやりがいよりも、もっと自分にしっくりくるものが見えてきます。私自身も、起業して関わる人が増えたことで視野が広がり、自分が本当に大事にしたいことが分かってきました。

──“はたらくWell-being”をかなえたい読者へ、柏野さんからメッセージをお願いします。

自分の花を咲かせる過程で壁にぶつかったときは、「もしこれが自分の成長のための試練だとしたら、どんな意味があるのか」と一度考えてみてほしいです。

そうして自分を変化させていくと、成長ができる。成長して目標が達成できるようになると、周りの人から感謝されるようになり、お金もいただけるようになる。そのサイクルをまわす中で、新たなやりがいもきっと見えてきます。

最後に、私が会社を運営する中で見つけた真理を皆さんにお伝えさせてください。それが、10周年を迎えた会社のテーマ、「Life is Beautiful」「人生は美しく、誰もがその美しい人生を手にいれる権利を持っている」という考え方です。

今はたらくことがつらいと感じている方も、「あなたの花は必ずいつか咲く」ということを忘れずにいてほしいです。

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