ウェルビーイングは「ゆるさ」ではない。エンゲージメントとの違いから考える理想のはたらき方

「ウェルビーイング」という言葉を見聞きする機会が、この数年で一気に増えました。けれども、その意味を改めて説明しようとすると「エンゲージメントと何が違うのか」「はたらきやすさの言い換えなのか」と、曖昧に感じる人も少なくありません。

実際にウェルビーイングについての調査を見るとその認知度は高まっており、エンゲージメントを上回る水準に達しています。一方で、はたらく人の幸福感がそれに比例して高まっているわけではないという現実も見えてきました。

それでは、なぜ今「ウェルビーイング」が注目されているのか、そしてエンゲージメントと何が違い、はたらき方にどのような意味を持つのか。本記事では、「はたらく人のウェルビーイング実態調査 2025」(※)をもとに、「理想のはたらき方」を改めて整理していきます。

※参考:「はたらく人のウェルビーイング実態調査 2025」を発表 「ウェルビーイング」認知度は2年で倍増の27.1%に

監修者プロフィール

株式会社パーソル総合研究所
上席主任研究員 井上 亮太郎

営業、マーケティング、組織・人材開発の実務経験を経て、現在は人や組織、社会が抱える複雑な課題をテーマに調査・研究を行う。はたらく人のウェルビーイングや組織行動に関する知見をもとに、企業・個人双方に向けた示唆を発信している。

この記事でわかるポイント

  • エンゲージメントは仕事への熱意を指し、ウェルビーイングはその熱意を支える基盤として、健康状態や人間関係まで含めた概念です。
  • エンゲージメントが高くても、私生活とのバランス崩れや報酬の不満などにより、満たされないはたらき方となっているケースもあります
  • 単なる「ゆるさ」ではなく、適度な負荷や挑戦、他者との関係性があることで充足が得られます。
  • 企業は、抽象度の高い定義にとらわれず、自社にとっての理想の状態を具体的に定義・明文化することが望ましいです。

なぜウェルビーイングが注目されているのか

近年、ニュースやビジネスコラムなどで「ウェルビーイング」という言葉を目にする機会が増えています。その背景にあるのは、大阪・関西万博やSDGs、健康経営、人的資本経営など、さまざまな場面でこの言葉が使われるようになってきたことです。

古くは哲学や宗教、経済学といった領域で扱われていた概念ですが、「人がより良く生きること」「より良くはたらくこと」という共通点でつながり、ウェルビーイングという言葉に集まってきたことで、一般にも企業にも広く知られるようになりました。

(引用:https://rc.persol-group.co.jp/news/release-20251016-1000-1/

ウェルビーイングの言葉自体の認知度は2023年から2025年にかけて上昇し、それに伴い「意味を理解している」層も増加しています。また「エンゲージメント」や「人的資本経営」といった関連用語と比較しても、ウェルビーイングの認知は上位に位置していると言えるでしょう。

井上さんコメント

大阪万博やSDGs、健康経営、人的資本経営など、さまざまな文脈でウェルビーイングという言葉が使われるようになったことが大きいと思います。

もともとはそれぞれ別のテーマとして語られていたものですが、“人がより良く生きる”“より良くはたらく”という共通の視点で整理されたときに、ウェルビーイングという言葉に集約されてきた印象がありますね。

企業がウェルビーイングを誤解しやすい理由

ウェルビーイングという言葉が広がる一方で、言葉の広がりと理解の深まりはまた別の話です。

ウェルビーイングはよく「幸せ」「幸福」と理解されるケースが見受けられますが、この解釈がかえって混乱を生むことがあります。なぜなら「幸せ」という言葉は極めて主観的で、人によって意味が異なるからです。

そのため、ウェルビーイングを「幸せ」「幸福」と解釈した結果、以下のような問題が起きやすくなります。

  • ・何をどのように測ればよいのか分からない
  • ・施策の目的が曖昧になる
  • ・社員が仕事場面での自分事として捉えにくい

また、ウェルビーイングの理解を「幸せ」に寄せすぎることで個人の感覚に委ねられてしまい、企業が目指すものが見えづらくなることもあるでしょう。

井上さんコメント

ウェルビーイングの認知が高まる=“主観的な幸福感が高まる”という構図ではないかもしれないですね。ウェルビーイングという言葉自体はかなり広まってきていますが、それによって一人ひとりの実感が高まっているかと言うと、必ずしもそうとは限りません。

むしろ“幸せとは何か”を強く意識することで、自分の現状とのギャップに目が向いてしまうケースもあります。自分に足りていないものが明らかになると、途端に不満足につながるケースもあるでしょう。

エンゲージメントとウェルビーイングの違い

以下の図表は「仕事におけるウェルビーイングとエンゲージメント概念のイメージ比較」を表したものです。一見すると似た言葉として扱われやすい両者ですが、その対象範囲や意味合いには違いがあります。

(引用:https://rc.persol-group.co.jp/news/release-20251016-1000-1/

上記の図を見ると、両者には共通点も多い一方で、焦点の置きどころが異なることが分かります。

<共通点>
  • ・意欲的にはたらいている
  • ・前向きな状態である
  • ・継続的に取り組めている
<違い>
  • ・ウェルビーイング:心身の健康や余裕、私生活も含めた「状態全体」
  • ・エンゲージメント:仕事や組織への関心や熱量といった「仕事への向き合い方」

エンゲージメントは「どれだけ仕事や組織に関心や熱量を向けられているか」を示す指標であり、いわば「仕事への入り込み具合」を表すものです。一方でウェルビーイングは、仕事だけでなく健康状態や人間関係、生活全体のバランスまで射程に含めた「はたらく状態の質」を捉える概念です。

つまり、エンゲージメントはウェルビーイングという土台の上に成り立つ概念として捉えることができます。

井上さんコメント

いわゆる”エンゲージメント”という用語は、幕の内弁当みたいなもので、中に入っているおかず(構成要素)は定義によって異なります。たとえば同じ“幕の内弁当”でも、お店によって中身が少しずつ違うのと同じように“エンゲージメント”も使う人によって含めている要素が違う。だからこそ、言葉だけを追うと誤解しやすいんです。

一方で、仕事にしっかり向き合えるかどうかを考えると、その前提にウェルビーイングがあります。たとえば心身が消耗していたり余裕がまったくなかったりすると、仕事にエネルギーを向け続けるのは難しいですよね。

反対に心身のバランスが整っているからこそ、人は主体的に仕事に関わり、エンゲージメントを高めていける。そう考えると、ウェルビーイングとエンゲージメントは同義ではなく、基盤(ウェルビーイング)と、その上で成り立つ仕事への関わり方(エンゲージメント)という関係だと言えます。

エンゲージメントが高くても、満たされないはたらき方はある

仕事に強くコミットしていても、それだけで満たされるとは限りません。

仕事自体へのエンゲージメントが高い状態を、とりわけ「ワーク・エンゲイジメント」と言います。ワーク・エンゲイジメントは、あくまで「仕事に対して熱意や活力を持って向き合えている状態」を示すものです。しかし、はたらく人のウェルビーイングは、ワーク・エンゲイジメントの高さだけで語れるものではありません。

たとえば仕事そのものにはやりがいを感じていても、以下の状態が続けばそのはたらき方が「健やか」だとは言いにくいでしょう。

  • ・報酬に納得できない
  • ・上司を尊敬できない
  • ・休息が取れない
  • ・私生活とのバランスが崩れている

目の前の仕事に没頭できていたとしても、生活全体で見ると無理が重なっていたり、どこかで違和感や消耗感を抱えていたりすることは十分にありえます。

むしろ、仕事への熱量が高い人ほど「期待に応えたい」「成果を出したい」という思いから、自分の不調や負担を後回しにしてしまうこともあるかもしれません。周囲から見れば意欲的にはたらいているように見えても、本人の中では休めなさや孤立感、報われなさが積み重なっていることもあるのです。

井上さんコメント

仕事に対しては前向きで責任感もあって、すごく頑張っている。でもその一方で、休めていないとか、生活全体では無理が出ているとか、報われていない感覚を持っていることは十分ありえます。そういう意味では、ワーク・エンゲイジメントが高いことと、その人がウェルビーイングにはたらけていることは必ずしもイコールではないんです。

ウェルビーイングは「ゆるさ」ではなく、理想のはたらき方の土台

ウェルビーイングという言葉から「余裕」「ゆるさ」といったイメージが先行する人もいるかもしれません。確かに一部同様のニュアンスを含みますが、実際にはそれだけを意味する言葉ではないのです。

ウェルビーイングには「意欲」「健康」「余裕」「私生活との調和」といった、複数の要素が含まれています。以下のデータからも、単純な「休み」や「楽さ」だけではなく、「役割認識」「自己成長」「他者との関係性」といった要素が重要であることが分かります。

(引用:https://rc.persol-group.co.jp/news/release-20251016-1000-1/

さらに適度な負荷や挑戦がある方が成長実感や達成感につながり、結果としてウェルビーイングが高まるケースもあります。つまりウェルビーイングは「負荷をなくすこと」ではなく、「ほどよい負荷を感じつつ適切な状態ではたらけること」を意味していると言えるでしょう。

企業はいかに定義すべきか。理想のはたらき方を支える「自社なりのウェルビーイング」

それでは、企業はどのようにウェルビーイングに取り組めばよいのでしょうか。ウェルビーイングに取り組む際のポイントは「自社なりのコンセプトを持つこと」です。多くの企業はWHOの健康の定義を参考にしています。しかしそれだけでは抽象度が高く、現場での運用が難しくなっているのが現状です。

大切なのは以下のポイントを明文化し、社員間の理解を深めていくことです。

  • ・誰に対するウェルビーイングか(対象)
  • ・どの視点で捉えるか(視座)
  • ・自社にとってどのような状態を指すのか(コンセプト)

たとえば丸井グループでは、ウェルビーイングを「仕事を通じて喜びや充実感を得られる状態」と捉え、その鍵として「フロー」に注目しています。「フロー」とは「はたらく人が主体的に行為に没頭している状態(※1)」を指しており、心理学者チクセントミハイ氏が提唱した概念です(※2)。

ウェルビーイングは単なるはたらきやすさではなく、目的意識を持って挑戦し、自分の力を発揮できる状態と結びついていることがうかがえます。

また、JALグループではウェルビーイングを社員個人の幸福だけでなく、社会全体との「関係・つながり」を広げることで実現するものとして捉えているのもポイント。経営ビジョン2035では「サステナブルでウェルビーイングな未来」を掲げ、社員一人ひとりのウェルビーイングを起点とした人的資本経営を推進しています(※3)。

自律的なキャリア形成、多様な人材の協働、挑戦を後押しする文化づくりを通じて、社員の活躍と企業価値向上の両立を目指しています。

  1. ※1:丸井グループのウェルビーイング経営
  2. ※2:CREATES WELL‐BEING AND INNOVATION
  3. ※3:Group Management Vision 2035

井上さんコメント

ウェルビーイングを推進する際に大切なのは、自社なりのコンセプトを明文化することです。たとえば“ウェルビーイング=幸せ”と訳した瞬間に、何を指しているのかが曖昧になりやすい。

だからこそ企業は、一般論をそのまま使うのではなく、自社にとってのウェルビーイングとは何かを言葉にして示す必要があります。明瞭なコンセプトがあることで、社員にとっても自分事として捉えやすくなり、施策やマネジメントにも一貫性が生まれます。

まとめ:理想のはたらき方は「熱量」だけでは測れない

理想のはたらき方とは、単にワーク・エンゲイジメントの高さで測れるものではありません。実際に、ワーク・エンゲイジメントが高くても「満たされていない」と感じるはたらき方をしているケースもあります。

また、どれだけ意欲的にはたらいているかだけでなく、以下のような状態が揃って初めて持続的なパフォーマンスにつながります。

  • ・健康でいられるか
  • ・余裕を持てているか
  • ・私生活と調和しているか
  • ・自分の役割に納得できているか

ウェルビーイングとは、その「持続的なパフォーマンス」の土台となる概念です。

結果としての「熱量」だけに注目するのではなく、その熱量を支える土台としての状態に目を向けること。それが、これからの理想のはたらき方を考える上で欠かせない視点と言えるでしょう。

だからこそ企業には、はたらく人の熱量を引き出すことだけでなく、その土台となるウェルビーイングをどう支え・育むかという視点で、制度や対話、マネジメントのあり方を見直していくことが求められます。

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