「“生きる”を、進化させる。」をミッションに掲げる株式会社CNC(以下、CNC)は「人とつながり、まちを元気にする」という行動哲学のもと、島根県雲南市を拠点に、新たな相互扶助のあり方「コミュニティナース」を軸とした事業を展開しています。
コミュニティナースとは、「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得て、CNCが独自に提唱・普及してきた考え方です。職業や資格ではなく、暮らしの身近なところで、元気なうちから「毎日の嬉しいや楽しい」や「心身社会的な健康を」一緒になってつくっていく。誰もが実践できる行為・あり方であり、その実践のあり方に名前をつけています。
こうした取り組みを一過性の“良いこと”で終わらせず、構造として社会に定着させるため、CNCはあえて株式会社という形態を選びました。公益を持続可能なかたちで設計・実装することを通じて、「社会にとって本当に必要な仕組み」を現場から磨き続けています。
地域のウェルビーイングを支えるために、日々現場に向き合う人たちは、どのような価値観ではたらき、どのように“はたらくWell-being”を実現しているのでしょうか。そのヒントを、株式会社CNCで、CRO(Chief Relationship Officer)を務める渡邉 綾香さんと、池山 翔太さんに伺いました。
プロフィール:
株式会社CNC CRO(Chief Relationship Officer) 渡邉 綾香
株式会社CNC CRO(Chief Relationship Officer)池山 翔太
この記事でわかるポイント
- 株式会社CNCは、「“生きる”を、進化させる。」をミッションに、新しい相互扶助のあり方「コミュニティナース」を軸に事業を展開しています
- コミュニティナースは職業や資格ではなく、人と人の関係性を起点に、地域のウェルビーイングを育む“実践のあり方”です
- 多様なライフステージや役割を尊重するため、メンバーとは業務委託(当社では「プロフェッショナル契約」と呼称)を基本としています。※1
- 一人ひとりの強みや希望を土台とした、委託内容・成果の振り返り(レビュー)を通じて、個の裁量とチームとしての成果を両立させています
- 社内の情報透明性を高め、実践知を共有・蓄積することで、チーム全体の学習と成長を促進しています
目次
CNCが提唱する「コミュニティナース」という新しい相互扶助のかたち
——今回初めて「コミュニティナース」という考え方を知ったのですが、どのようなものなのか教えてください。
渡邉さん:コミュニティナースとは、そのまち・地域に暮らす人と顔の見える関係性を築き、日常生活のなかの小さな変化に気づくことで、心身ともに健康でいられる状況を一緒につくっていく行為・あり方です。「ナース」という言葉から、看護師や白衣を着た人をイメージされるかもしれませんが、職業や資格を指すものではありません。ナースの語源である「育てる」「手当する」といった意味合いをもつ「ナーシング」をベースに、「人とつながり、まちを元気にする」ことを目指して、相互扶助の関係性を育んでいく取り組みです。
国が定めた医療や福祉の制度があり、それらももちろん大切ですが、制度内だけではどうしてもリーチできる人が限られてしまいますよね。たとえば、病気にならなければ病院には足を運ばないことが多いですし、介護が必要にならなければ制度を利用することもない。だからこそ、制度を利用する前、元気なときから地域のなかで、「誰もが誰かの元気を応援できる」信頼を土台とした関係性が築ければ、自ずと人もまちも、そして地域にも活力が生まれます。その役割やきっかけづくりを担うのが、コミュニティナースなんです。
——具体的には、どのような事業展開をされているのでしょうか?
池山さん:CNCは「関係性を起点に価値をつくる社会構造」を実装するために、現在2つの柱で事業を展開しています。1つ目が、コミュニティナースの育成事業。コミュニティナースは誰もが実践できるものですが、地域ごとの特性や個人の強みが異なるので、100人いれば100通りの実践方法があります。そのため、すでに地域で実践を行っているメンバーとともに現場のリサーチを行い、それぞれの地域や個人に合った形で実践できる人材を育成しています。
2つ目が、企業や自治体と連携する社会実装事業です。企業・自治体と協業し、コミュニティナースの実践を全国展開しています。一例として、CNCは2020年に日本郵便株式会社と連携協定を結び、コミュニティナースの社会実装を行っているんですね。郵便局は全国に約2万3000局(2025年11月時点)あるのですが、地域によっては住民の多くがメインバンクとして利用していたり、年金支給月に毎回顔を合わせる顔なじみの局員さんがいたりと、住民の生活に深く根付いているケースも少なくありません。
池山さん:そうした場を活用させてもらい、まずは郵便局内で健康イベントやお茶会を開催し、地域の方との接点を生み出します。そうして定期的に関わることで、徐々にコミュニティナースとの関係性が育まれ、ときには相談相手や話し相手になったり、人と人をつなぐ架け橋になったりするんです。
他にも、島根県雲南市では古民家を改装して拠点をつくったこともありますし、商店街・ガソリンスタンドなど人が集まる場所との連携、ヤクルトのような訪問販売業者やガス会社などのメーター計測などの機会に同行していくことから関わりはじめ、はたらきかけていくこともありますね。
——地域に合わせて、柔軟なアプローチ方法があるのですね。
渡邉さん:コミュニティナースの一番の特徴は、医師や看護師、介護スタッフといった専門職としてではなく、一人の人として出会えることなんです。身近な存在になると、不意に「こういうことをしてみたいと思っているんだよね」や「最近体調が優れなくて…」といった住民の声を聞くことがあります。そうした声を聞いたときこそ、コミュニティナースは「じゃあ、〇〇さんに話を聞いてみよう!」や「病院に行ってみるのはどう?」と声をかけるんです。場合によっては、地域のなかで新しい挑戦に一歩を踏み出すことで、新たな交流が促進されることがありますし、また、専門機関につないだりすることもありますね。アプローチ方法に制限はないので、人・場所によって多種多様な実践があるんです。
池山さん:ただ、ここで誤解しないでほしいのは、僕たちは福祉や地方創生を目的にしているわけではないんです。結果的にそれらに結びつくこともありますが、最大の目的はミッションである「“生きる”を、進化させる。」を実現すること。コミュニティナースをきっかけに人と人とのつながりが生まれ、交流が活発になれば、個人の活力が高まり、全体の活力にもつながっていく。社内では「戦略的おせっかい」と呼んでいるのですが、顔が見える関わりを持つことで地域の声に耳を傾け、住民同士の関係性が深まり、ウェルビーイングが連鎖的に広がっていくと考えています。これまでに約1500名以上がコミュニティナースに共感し、それぞれの地域で実践を広げてくれているところです。
画一的に縛らない。CNCが選んだ組織のかたち
――社会に生きる方々のウェルビーイングに寄与していくなかで、みなさん自身の“はたらくWell-being”は、どのように支えられているのでしょうか。社内での制度や仕組みについて教えてください。
池山さん:まず前提として、CNCの本社は島根県雲南市にあります。ですが、コミュニティナースの実践を行うメンバーは全国各地におり、各メンバーとは原則として業務委託契約を結んでいます。当社ではこの契約形態を「プロフェッショナル契約」と呼んでいます。一見すると、社員を持たず成果のみを個人に求めるドライな仕組みに見えるかもしれませんが、当社としてはこの契約形態も一つの挑戦として実施しています。雇用という枠に限定せず、それぞれの状況や強みを尊重しながら、合意した委託内容に基づいて自律的に実践できる関係性を設計しているんです。
第一に、稼働時間や活動場所を一律に固定しないことで、コミュニティナースの特徴である「関係性を起点としたアプローチ」を柔軟に実践しやすくなります。現場では、子育て中の人が生活リズムに合わせて活動したり、地域で声をかけられたタイミングで関わりをつくったりと、状況に応じた“その人だからこその実践”が日常的に起きています。
そして第二に、多様なメンバーが活躍できることです。メンバーはそれぞれ、ライフステージ、年齢、役割、仕事への向き合い方など多種多様です。子育て世代もいれば、20代から70代までと年齢の幅も広い。地域で別の本業を持ちながら、CNCの活動に関わってくれている人もいます。コミュニティナースの実践は、地域の背景や価値観によってアプローチも変わります。だからこそ、画一的な枠組みで一律に働き方を定めるのではなく、合意した委託内容のもとで、それぞれが力を発揮しやすい関わり方を大切にしているんです。
――確かにお話をお伺いしていると、ルーチンワークではないような気がします。
池山さん:その通りです。プロフェッショナル契約だからこそ、プロジェクトごとに必要な連携を取りながらも、各自が自分の裁量で稼働を設計しやすいんです。たとえば、子育て中のメンバーは日中に家庭を優先し、夜にまとまった時間を確保して委託タスクを進めることもあります。また、地域の方から声をかけられたときに、その場で話を聞いたり相談に応じたりといった動き方もしやすくなる。もし雇用契約で就業規則に沿った運用だけに寄せると、時間的・手続き的な制約が強まり、実践の柔軟性が損なわれる場面も出てくると考えています。
渡邉さん:私は2024年にCNCへ参画しましたが、当時から出産を控えていたため、同年10月頃から一度委託業務を調整しました。現在は状況に合わせて、少しずつ業務内容を増やしながら関わっています。生活リズムに合わせて自分の裁量で予定を組み立てられることは、プロフェッショナル契約ならではだと実感しています。
池山さん:CNCという組織は、プロのサッカーチームというイメージが近いかもしれません。それぞれに得意分野や強みがあり、その活かし方は一様ではない。地域をより良くしていくために、各自が何を担うのかを考えながらチームとして機能しています。そのうえで、仕事である以上、個人の定量的な評価やチームとしての目標設定を行っているんです。自律性と責任を前提にした関係性があるからこそ、無理なく、そして前向きに“はたらくWell-being”が成立しているのだと思います。
個を孤立させないための、評価と情報共有の仕組みとは
――先ほど、各個人の定量的な評価やチームとしての目標設定も行っているとのお話がありましたが、プロフェッショナル契約のなかでどのように実施されているのでしょうか。
池山さん:半年に1回、経営陣とメンバーが委託内容・成果の振り返り(レビュー)と対話の機会を設けています。約40名全員分をまとめて行うため、一定期間をかけて丁寧に実施しています。※2
――40名全員ですか!
池山さん:はい。ここでは、一人ひとりが望む関わり方や地域での実践の状況を踏まえ、次の期間に向けて「どんな成果を目指すか」「どんな支援や連携があると進めやすいか」「委託範囲をどう設計するか」を整理します。より深くコミットしたいという意思があるメンバーとは、希望に沿って委託内容や期待する成果を具体化しますし、ライフステージの変化などで一時的に負荷を下げたいメンバーとは、無理のない形で委託範囲を調整していきます。
――一人ひとりの希望に合ったはたらき方や地域との関わり方ができるんですね。
渡邉さん:経営陣も一緒にはたらくメンバーも含め、コミュニティナーシングの実践者が集まっている組織なので、社内であっても「目の前の人の可能性を信じて誠実に向き合う」という姿勢は共通しているように感じます。その人が置かれている状況や背景を踏まえたうえで、どんな環境や後押しがあれば、もっと力を発揮できるのかを考える。その人の力が自然と湧いてくるポイントに目を向け、相互に支え合う文化がCNCには醸成されていますね。
池山さん:加えて、実践知を一人の経験で終わらせずに構造的に蓄積し、共有していく仕組みがあることも、CNCの大きな特徴です。委託業務の遂行や学習に必要な範囲で、情報共有の透明性を高める設計にしており、実践の記録や学びを参照しやすい状態をつくっています。コミュニティナースの実践は、地域ごとに特性も異なり、関わる住民の方の個性もさまざま。そうした一つひとつの実践内容をすべて記録し、誰もが参照できるようにしていて。他のエリアではどのようなアプローチを行ったのか、どんな関係性づくりがうまくいったのかといった実践知を共有し、ケーススタディとして社内に蓄積していくんです。好事例を取り上げた勉強会を開催し、理解を深めることもありますね。
――一見すると、コミュニティナースは個人の取り組みに集約されてしまいそうですが、そうではないのですね。
池山さん:現場での実践は、地道な関係性づくりや試行錯誤の連続で、いわば泥臭い側面もあります。ただ、その知見を個人の経験で終わらせないために、社内では独自のAIシステムを構築しています。そのAIに「こういう状況ではどう考えたらいいか」と相談すると、答えではなく、CNCの思想や行動指針に沿って問いや観点を返してくれます。また、日報をデータ化しAIに蓄積し、個人の経験を組織全体の知として循環させることで、実践の質を高めると同時に、チームとしての安心感や再現性にもつなげていっていますね。この透明性と学習文化があるからこそ、実践は属人化せず、誰もが「関係性の力を引き出すプロセス」を再現・進化させていけるのです。
目指すは、誰もが実践できるようになる「一億総コミュニティナース」
――お2人は、“はたらくWell-being”を醸成するために、どのようなことが必要だと思いますか?
渡邉さん:そうですね。私は、自分の得意や個性、強みを存分に発揮できる場があることだと思います。私はCNCに参画する前、看護師としてはたらいていました。職業柄、個性を発揮することよりも、ミスなく丁寧に業務を遂行することが求められる環境だったので、CNCに入ったとき、私自身の可能性を信じてくれて、挑戦したいことにトライさせてくれる環境にとても驚いたんです。今では、この環境に身を置けていること自体が、私にとっての“はたらくWell-being”だと感じていますし、メンバーの一員として、どうすれば一人ひとりがより力を発揮できる組織であり続けられるのかを、日々考え続けています。組織として、はたらくことに対してこれほど柔軟性を大切にしている背景には、「個が力を発揮するにはどんな構造が必要か」という問いが常にあります。プロフェッショナル契約も情報のオープンさも、それゆえです。関係性を基軸に価値を生み出すCNCにおいて、メンバーの暮らしや地域との関わり方に即した関係性のデザインとして設計しているんです。
池山さん:僕は、まずは関係性ですかね。地域との関係性はもちろん、会社やチームの中で、一人ひとりが心地良いと感じられる関係性が築けているかどうか。そのうえで、その人が持つ強みが発揮できているか、さらに、地域や社会に対して抱いている希望や願いが、実現に向かって前進しているかどうか。どの会社ではたらくとしても同じだと思うんですけど、自分が持っている希望や願いに仕事を通して近づけていると感じられることは、すごく大切だと思うんですよね。そのうえで関係性がきちんと整っていれば、たとえば新しい役割やポジションが生まれたときに「〇〇さんにお願いしよう」「あの人に任せてみよう」といったこともできるようになると思っていて。今、僕は、CNCのCROとして、そうした環境をどうすればつくれるかを試行錯誤しているところです。
――最後に、今後の目標を教えてください。
池山さん:僕は、ミッションである「“生きる”を、進化させる。」の実現を粛々と進めていくことですね。先ほどお話した経営陣が1ヶ月をかけた人事評価、社内の情報共有やAIの活用も、すべてはコミュニティナースの実践の構造を社会に広げていくため、前に進めていくための仕組みです。僕個人の体感としては、進捗率はまだまだ数%で道半ば。だからこそ、一つひとつの実装を丁寧に重ねていきたいと思っています。
渡邉さん:私も池山と同じですね。少しずつ好事例やモデルケースも増えてきていて、本当に伸びしろしかないと感じています。今後は企業との協業にもさらに力を入れながら、誰もが誰かの元気を応援できる社会、「一億総コミュニティナース」の実現を目指していきたいです。
※1:本記事でいう「プロフェッショナル契約」は雇用契約ではなく業務委託契約を指します。委託内容・成果、報酬、支払期日等の取引条件は、案件・契約により異なり、法令に基づき書面または電磁的方法で明示します。
※2:本記事中の「レビュー」「対話」「情報共有」は、指揮命令や稼働時間・場所の拘束を意図するものではなく、合意した委託内容の遂行に必要な連携・学習のための取り組みを指します。
