マヂカルラブリー・野田クリスタルの“はたらく Well-being”とは。苦手なことが、いつの間にか自分をつくっていた

お笑い芸人の野田クリスタルさんは、2007年に相方の村上さんとマヂカルラブリーを結成し、2020年にお笑い賞レース「R-1ぐらんぷり」と「M-1グランプリ」の二冠に輝きました。今ではテレビや舞台で活躍しながら、ゲームクリエイター、マッチョ芸人としてクリスタルジムを経営・プロデュースするなどさまざまな顔をもっています。

今回は、自分の好きなことを仕事にしながら、独自のスタイルでキャリアを築いてきた野田さんに、「はたらく」ことをどう捉えているのか、そして野田さんなりの“はたらくWell-being”とは何かを聞きました。

好きなこと・得意なことで勝つ。野田クリスタルの“はたらくWell-being”

――高校生のときに出演したバラエティTV番組のお笑い大会で優勝したことがきっかけとなり、吉本興業に所属されました。お笑い芸人として20年以上のキャリアを歩む野田さんにズバリ、はたらきがいを感じる瞬間をお伺いしたいです。

日々ありますね。結構意外だと言われることも多いんですけど、僕は、自分が何かしたことで得られる周りの人からの反応が、何よりも嬉しいです。ネタを見て笑ってくれたり、ゲームを作って喜んでもらえたり。

2020年に優勝した「M-1グランプリ」のとき、僕らコンビを紹介するキャッチコピーが「我流大暴れ」で、よく「好きなことをしている」と言われることも多いんです。でも、実際は、周りからの見返りがなかったらやる意味がないとすら思っているくらい、僕は反応ありきです。誰よりも周りの反応が気になるし、ネタにしてもゲームにしても筋トレにしても、リアクションをもらえるのが幸せ。

そもそもお笑い芸人は、お客さんなくして成り立たない仕事だから、反応がすべてなんです。むしろ、リアクションをもらえた瞬間しか、はたらいている幸せを感じられないと言ってもいいくらいです(笑)。

――周りからリアクションをもらえることが、“はたらくWell-being”につながる。そう思うと、周りからの反応がある状態が続けば、常に“はたらくWell-being”でいられるということですか?

いや……はたらくに関するメディアでこんなことを言うのは本当に申し訳ないんですけど、僕の究極の理想は「はたらかないこと」なんですよ。

――え!はたらかないこと、ですか。

僕、本当にはたらきたくないんですよ。すみません、こんなこと言って(笑)。できることなら、好きなことだけをしていたいんです。でも、仕事はそうはいかないじゃないですか。

僕独自の人生理論の一つとして「好きなこと・得意なことだけで勝つのが最強である」と思っているんですね。嫌いなこと・苦手なことをなくすために時間を費やすくらいなら、自分の強みに全振りして、弱みが来たら逃げる。それが一番強いと思っています。

実は、「好きなことをとてつもなく突き詰めるのが、やっぱり一番なんだな」と気づいた、答え合わせのような出来事があって。以前雑誌の企画で、『星のカービィ』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズで知られる超有名なゲームクリエイター、桜井政博さんと対談させてもらったんですけど、彼は真のオタクだったんですよ。当時、僕もある程度プログラミングができるようになっていたので、「話せるかな」と思っていたんですが、もう全然。桜井さんから出てくる単語や会話が高度すぎて、一言も分からなかった。

――『スーパー野田ゲーWORLD』などゲームを制作・販売されている野田さんでも、理解できなかったと。

はい。しかも聞けば聞くほど、桜井さんはゲームにまつわるすべてのことに詳しかったです。通常、ゲーム作りは企画、音楽、グラフィックと、それぞれ役割や職種が分かれています。でも桜井さんは、プランニングもできるし、ゲーム音楽もグラフィックも詳しくて、それを全部一人でできてしまう。好きで得意なことをとことん突き詰めていて、「こんな人には敵わない!」と圧倒されました。それが結果として仕事にもなっているから、やっぱり「得意なことだけで勝つ」は最強なんだなと、改めて思いましたね。

やりたくなかったことが、今の自分をつくっている

――でも野田さんも、お笑い芸人、ゲームクリエイター、筋トレと、好きなことを突き詰めてはたらかれている印象があります。

もちろん、どれも好きなことではあるのですが、仕事をしている以上、好きなことだけとはいきませんよね。やりたくない仕事もあるし、それでお金をもらえているのはわかっています。お笑い芸人の仕事でいうと、僕はロケが苦手。僕にとって、自分の好きなこと・やりたいこと以外は全部つらい「学び」なんですよ。

先ほど話した桜井さんのように、本当に突き詰めて好きなことをしている人ってきっと「学んでいる」とか「頑張っている」とは思っていないように僕には見えるんです。そこがかっこいいですよね。たとえば、ボウリングが好きな人が毎日ボウリング場に通っていたとして、「私はここで厳しいトレーニングをしている」なんて意識は、きっとない。ただただスコアを伸ばしたいという気持ちだけ。でもボウリングが苦手な人は、好きじゃないから道具の名前を覚えたり、ルールを覚えたり、頑張らないといけない。

はたらいていると好きなことだけじゃなくて、どうしてもつらい学びを避けては通れません。だから、僕の究極の理想は「はたらかないこと」なんですよ(笑)。

――「はたらかない」が理想の人は、多いかもしれませんよね。

でも、これもまた面白い話で、やりたくないことや苦手なことをすることで得られた学びが、かろうじて僕をこうしたまともな人間にしてくれているとも思っています。きっと、自分の好きなことだけをする理想の道を進んでいたら、もっとわがままで学びのない、インタビューの受け答えすらまともにできない、偏った人間になっていた気がしていて。

やっぱり、学びこそが僕の人生の一部分をつくってきてくれたことは確かで、間違いない。学びがセーフティーネットになって僕と社会をつないでくれているから、僕は自分の好きなこと・やりたいことだけをする人生に振り切れないんですよね。やりたくなかったことが今の自分をつくっているとしたら、今もそうだし、きっとこれからもそう。このしんどさがなかったら、僕は人間になっていなかったはずです(笑)。

苦手や嫌いから、前向きになるための逆算思考

——そう思うと、やりたくないこと・苦手なことをしなければいけないとき、野田さんはどうしていますか?

逆側から考えるようにしていますね。「これは死ぬぞ」と思ったら、人は自然と死なない方法を考えるじゃないですか。それと同じです。

M-1に優勝したあと、ありがたいことにいろんな仕事をいただくようになって、ロケに行く機会も一気に増えました。最初はとにかくがむしゃらに頑張っていたんですけど、途中で「あ、これ苦手だな」って気づいたんですよね。そう思い始めると、ロケに行くのがどんどんしんどくなって、「ロケきっつ……」と思う日々が続いて。でも仕事だから行かなきゃならない。そうやって気持ちが限界までいった結果、「じゃあ、どうしたら少しでも楽しくなるんだろう?」って、逆算し始めたんです(笑)。

——ある意味、限界突破したんですね。

そこで思いついたのが、「ちょっとだけ友達を作ること」でした。ロケ現場にいるADさんでも、誰でもいいから名前を覚えて思い切って話しかけてみる。そうすると少しずつ関係性ができてきて、別の現場で同じ人がいたときに「あ、知っている人がいる」って思うだけで、ロケが前ほど億劫じゃなくなりました。すると、ロケ自体がちょっとだけ楽しくなって、自分もちょっとだけ笑顔になる。僕は意識していなかったんですけど、それが結果的に絵面にも良い影響を与えていたみたいで、ロケ全体の空気も良くなっていったんです。

嫌すぎて行きたくない、だから楽しくするために友達を作る。友達ができるから少しずつ楽しくなる。そんな小さい好循環が回り始めてからは、ロケに行くことがそこまでしんどくなくなりました。今では、ロケは友達と遊びに行く感覚に近いです。

——しんどいからこそ楽しくなる方法を考え、功を奏したと。

はたらいていると、嫌なことって絶対にあると思います。この記事を読んでいるみなさんも、きっとありますよね。今すぐの解決策が見つからなくても、極限まで行けば、なぜか知らないうちに状況が変わっていることもあると僕は思います。お笑い芸人を始めたばかりの頃も、「これが苦手だから向いていない」「これができないからダメだ」と思うことはたくさんありました。でも今、こうしてお笑い芸人を続けられている。完璧な解決じゃなくても、気づいたらなんとかなっていることって意外と多いんですよね。

だから、苦手なことやできないことがあったとしても、それを理由に立ち止まる必要はないと思っています。やってみないと見えない景色があるし、入口で見えている「苦手」や「できない」は、進んでしまえば本当に些細なことだったりしますから。

好きなことが「見つからない時間」も含めて、はたらくを楽しめばいい

——逆に、好きなこと・やりたいことが見つからないという人は、どうしたらいいと思いますか?

僕からすると、「好きなこと・やりたいことが見つからない」って、そこまで悪い状態じゃないと思うんですよね。引っ越したばかりで、「どんな家にしようかな」って考えている状態に近いというか。いろんなインテリアを見て、レイアウトを考えて、実際に試せる、めちゃくちゃ楽しい時間。もし二度目の人生があるなら、一回その状態に戻ってみたいくらいですもん。視野を広げていく時間そのものが、すごく豊かだと思うんです。だから、「まだ見つかっていない」という貴重な時間を、存分に楽しんでほしいですね。

——1つ気になったのですが、これまでのキャリアのなかで、お笑い芸人を辞めたいと思ったことはありますか?

僕、お笑い芸人って「職業」というより、種族だと思っているんです。種族だから、辞める・辞めないの話じゃないんですよ。分かりやすく言うと、「日本人、辞めればいいじゃん」と言われる感覚に近いです。どれだけ他国の言葉を覚えて、話せるようになっても、日本人であることは辞められないですよね。それと同じで、お笑い芸人であることも、僕にとっては抗えない前提みたいなものなんです。

とはいえ、「辞める」という選択肢が頭になかったからこそ、過去には勝手に自分を追い込んでいた時期もありました。これからどうなるんだろうって不安で仕方なくて。周りから「じゃあ辞めればいいじゃん!」と言われても、「え、辞める……?」みたいな(笑)。言われて初めて、「あ、辞めてもいいんだ」って気づいたくらいでした。

——改めて、野田さんにとって「はたらく」とはどういうものか教えてください。

なんなんでしょうね……抗えないもの、なのかもしれない。人間が作り出したほとんど神みたいなシステム、それが「はたらく」なんじゃないかなって思うことがあります(笑)。よく考えたら、原始時代には「仕事」とか「はたらく」なんて概念はなかったはずで、ただ明日を生き延びるために動いていただけ。でも現代では、生きていくために「はたらく」という選択肢が、ほぼ自動的に用意されている。

だからこそ、好きなことだけをやれる理想を持ちつつも、現実のなかで避けられないこととどう付き合うか。そのなかで、ほんの少しでも前向きになれるきっかけを見つけられたら、それで十分なんじゃないかと思っています。

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