職人向けの作業服店として1982年に創業し、全国1,066店舗を展開する株式会社ワークマン。近年は一般客向けのカジュアルウェアやアウトドアウェアが注目を集め、6つの業態を展開しています。
2020年に出版された専務取締役・土屋哲雄氏の著書『ワークマン式「しない経営」』では、社員と加盟店に売上ノルマを課さないことや、社員にストレスをかけないことなどストレスフリーで売上を伸ばし、自分のペースで楽しくはたらくための「21か条宣言」が公表され、大きな話題となりました。
出版から約5年、同社社員の平均勤続年数は18年を超え、離職率も年々低下しています。
ワークマンの社員が感じる”はたらくWell-being(はたらくことを通して、その人自身が感じる幸せや満足感)”とは、どのような教育、職場環境、制度から生まれているのでしょうか。人事部の杉山さんにお話を聞きました。
プロフィール:
株式会社ワークマン
人事部 採用グループ マネジャー 杉山 穂高
自立の鍵は「全員店長」!?──現場で鍛える新卒育成
──貴社のご紹介をお願いします。
株式会社ワークマンは、1982年「職人の店 ワークマン」として作業服・作業用品に特化した店舗をフランチャイズシステムでスタートしました。はたらく人に便利さをお届けすることを念頭に、高機能・高品質でありながら低価格な商品を販売し続けています。現在はWORKMAN、WORKMAN Plus、#ワークマン女子、Workman Colorsなど6つの業態を展開しており、店舗数は全国に1,066店舗あります。そのうち95%超がフランチャイズで、実は社員数は500人に満たないんですよ。
──社員は、どのような役割を担うのですか?
大きく分けて2つあり、1つはスーパーバイザーと呼ばれる現場担当者です。一般的なエリアマネージャーのような役割で、各エリアに配属され、1人あたり8~9店舗の加盟店への運営サポートや経営指導サポートを行います。もう1つは本部社員ですね。バックオフィス関連の仕事や、製品開発や営業企画、広報などを行っています。
──少数精鋭の組織で動いているんですね。
そうですね。なので、社員一人ひとりの責任や裁量は大きく、社員1人あたりの利益率が非常に高いことも、ワークマンの特徴です。そのぶん、自分の役割に対して責任を持つ必要がありますが、やらされ感ではなく「自分ごと」ではたらいている人が多い印象です。そして、チームではたらくというよりは個ではたらくイメージが強いと感じますね。横のつながりが薄いというわけではなく、スーパーバイザーであれば自分の担当店舗、本部の社員であれば与えられた役割など、明確に振り分けられているので、それぞれが自分の役割を全うしていくイメージです。
──個の役割がはっきりしているんですね。一人ひとりが責任感を持ってはたらくことを理想に掲げる企業も多いと思うのですが、そういった自立性はどのように育んでいるのですか?
ワークマンの採用は新卒採用が大部分を占め、会社で育てていくことを基本としています。自立性を高めるという目的では、特に新卒入社からの2年間が重要な時期かもしれません。
──詳しく教えてください。
新卒で入社した社員は、まず直営店で2年間、無条件で店長という立場からキャリアが始まります。他の小売業だと一般社員から店長とキャリアアップしていく流れが多いですが、ワークマンでは店長がスタートライン。さらに3〜4ヶ月ごとに全国の店舗へ異動し、2年間で5〜10店舗を経験します。これは、地域や業態の違う店舗、加盟店から引き継いだ店舗、新規オープン店舗など、さまざまな環境を短期間で経験してもらうためです。
──かなりのスピード感ですね。どのような狙いがあるのでしょうか?
なるべく最初にたくさんの経験を積めるように、との狙いがあります。というのも、WORKMAN・WORKMAN Plus・#ワークマン女子・Workman Colorsと業種によって顧客層は異なり、エリアによって売れる商品も違います。また加盟店から引き継いだ店舗では、前のオーナーと新しいオーナーの間に立ち、調整が必要な場面もあります。現場でしか得られない気づきを積み重ねることで、次のステップであるスーパーバイザーとしての基盤を作っていきます。
──短期間で経験してもらうことであらゆる状況への適応力を身につけていくのですね。
そうですね。そしてもう1つの狙いとして、「うまくいかないこともある」と知る機会でもあるんです。
──うまくいかないこともあると知る?
1,066店舗もあれば、立地などの条件によって売上が上がりやすい店舗もあれば、そうじゃない店舗もあります。加えて、天気や気温といった外的な要因にもすごく左右される業種なんですね。さまざまな店舗を経験する中で自分たちの努力ではどうにもならないことに直面する機会もあります。そのときに「なぜ売上が上がらなかったのか」と悩むのではなく、「この状況で自分には何ができるだろうか」と考えられる人になってほしいのです。
私たちは、現場で試行錯誤しながら「なんとかしなきゃ」と考えて動くことで、自立的な判断力や行動力が育まれる「トライアンドラン」の考え方を大切にしています。うまくいかないことも含めて、自分で経験することが自立性を育むために大切だと考えています。
専門家だけに頼らない、現場を信じる経営
──2年間の店長期間を過ごしたら、その後はどうなるのですか?
店舗にいる期間は最初の2年のみ、その後スーパーバイザーとして加盟店と関わる経験をし、さらにその後本部に進む道もあります。ちなみに、ワークマンには専門職採用はなく総合職採用が中心なので、誰でも製品開発や広報といった部署にも希望を出せます。
さらにはオープンエントリー制度という形で、全社員が一年に一度、スーパーバイザーであれば希望のエリアであったり、希望の部署を申告できる制度があります。これはジョブローテーションをしっかり運用していくことで、誰か一人のスペシャリストに頼る組織ではなく、誰もがどの部署でも活躍できる組織を目指していきたいという考え方なんです。
1つの会社の中で、ほぼ全員が現場も本部も経験できる環境なので、転職をせずワークマンで長くはたらいてくれる社員が多いのかもしれないですね。
──製品企画や広報といった専門職に、誰でも希望できるというのは、社内でのキャリアの選択肢が広がりますね。
そうですね。外部から専門家を招くことはほとんどなく、プロパー社員が担当しています。そもそも、企画や広報などは昔のワークマンにはなかった役職なんですよ。今のように業態が広がる前は、ほとんどの社員がWORKMANの店舗運営に関わっていたわけで、当時はプライベートブランドの商品も2割くらいしかありませんでした。仕入れを決めるバイヤーはいましたが、ほんの数名。
ここ10年くらいでしょうか、WORKMAN Plusの立ち上げをきっかけにプライベート商品の比率がグッと増えたので、その分社員が製品企画や開発に関われる機会もグッと増えました。広報に関しても、WORKMAN Plusをきっかけにメディアに取り上げられることが増えたので、新たな役割をつくったという感じで。必要だから役割を作り、やったことがある人はいないけれどまずやってみよう!という流れですね。
──ワークマンの現場を知る社員が新たな役職を担うことで、「会社を良くするのは自分だ」という意識も生まれそうです。
そうかもしれないですね。製品企画に関しては、近年はレディースウェアやアウトドアなどこれまでとは違う客層へのご提案も増えているので、外部のデザイナーを招くというのも一つの手段だとは思います。ですが、ワークマンは経営理念に「声のする方に、進化する。」を掲げているので、現場の情報こそ重要なのです。たとえばスーパーバイザーは、担当店舗のオーナーと日々やり取りをしているので、季節ごとのニーズや売れ筋などを自然に把握しています。それを企画部門や製品開発部門と共有することで、新商品に反映されていく。
近年はアンバサダーマーケティングも強化していますが、インフルエンサーの方の意見はそのまま商品化に活かしています。というのも、キャンプ系YouTuberさんは私たちより遥かにアウトドアに詳しいですし、キャンプが好きな方々への認知を獲得されているので、その声を汲んだ方が、社員一人の考え方よりもお客様の声に近いんです。
製品開発に関してもトライアンドランの考え方なので、サイクルは早く、まず販売してみるのがワークマンのやり方ですね。他社であれば販売しない段階でも、品質をクリアしたうえで、まず販売してみてお客様の動向を確認する。なので正直言うと、一年でボツになった商品も結構あります。「やってみて違ったらやめればいいでしょう」というのがワークマンの考え方です。
──徹底的に現場での反応、結果に注視されるんですね。そのスピード感の早さも、関わる社員さんのモチベーションを高く維持できそうだと感じました。
作業着という強く太い軸があるからこそ新しいチャレンジができ、うまくいかないときは比較的スムーズにやめる判断もできる。現場の肌感覚に価値があると考えている会社なので、社員も「自分の意見が会社を動かせる」という実感を持てるのだと思います。
「世界中の人々の暮らしを豊かに」。変わらぬ軸と、変える未来
──1つの会社ではたらきながらさまざまなキャリアを経験できる、自分で希望を出して選択することもできる、新しい挑戦もできる。“はたらくWell-being”を感じさせるエッセンスがたくさんあると感じました。そうした文化が、離職率の低下にもつながっているのでしょうか?
それはあると思いますね。私自身も、人事に異動したのは入社10年目ですが、「この会社で長くはたらこう」と思える環境がありました。社員の意思を尊重する仕組みもありますし、背伸びせずはたらける安心感もあります。
——ちなみに、福利厚生などはどうなっているのでしょうか?
福利厚生は、生活をすることに関するものに絞っています。たとえば店長やスーパーバイザーは転勤も多いので、寮費の自己負担は6000円、毎月実家に帰る時の交通費を支給、などですね。いわゆる飲み会や会社行事もありません。仕事以外はプライベートの時間ですから、プライベートはプライベートで充実できるよう、仕事を頑張れる体制をつくるのが会社の役割です。ワークとライフは別、仕事に愛着を持っても執着しすぎない。仕事はあくまで「生活の一部」であって、すべてではないという前提です。
──杉山さんご自身は、ワークマンではたらいている上でのやりがいをどのように感じられていますか?
若いうちから裁量を持っていろいろな経験ができ、結果や成果を自分の目で確認できることはやりがいにつながりますね。また、作業服の会社からカジュアルウェアへと業種が広がり会社の認知度が大きく広がるなど、正直、入社した時には想像できない景色が見られていることも面白いなと思っています。うちの商品はわりと一目で「ワークマンの商品だな」と分かるので、街を歩いていて自分の会社の商品を使っていただける光景を見られることも、これ以上なく嬉しいです。
──今後の展望を教えてください。
『しない経営』に書かれていることは、約5年以上経った今でも、8割は実現できている状況です。一方で変化したこととしては、「海外に事業は展開しない」と宣言していた部分。実は先日、2029年に台湾への店舗出店を発表しまして、今会社としてはそこに向けて全力で取り組んでいます。引き続き国内においても1500店舗、2000店舗を目指しながら、海外も見据えていく。芯は変わらず、低価格で高機能の商品を提供し、世界中の人々にワークマンの商品を通じて暮らしを豊かにしていきたいです。
はたらき方についても、今後もトライアンドランで変化していくと思います。会社に合わせるのではなく自分に合ったはたらき方を選べるように、今後ははたらく場所や時間も含めた柔軟な制度づくりにも取り組んでいきたいです。
「自立的にはたらける人が育つ組織」とは、単に自由を与えるのではなく、責任ある立場で“やってみる”環境を整えること。ワークマンの人材戦略には、トップダウンではない現場起点の経営と、育てることへの真摯な姿勢が息づいています。育成と裁量、信頼と効率。その絶妙なバランスが、社員の“はたらくWell-being”の実現を支えているのかもしれません。
