株式会社TimeTreeは、「あの人と共に生きる未来へ誘おう」というビジョンを掲げ、カレンダーシェアアプリ「TimeTree(タイムツリー)」を運営しています。2025年5月時点で日本・アジア・ヨーロッパ・北米といったグローバルの累計登録者数が6,500万を突破しました。「アジア太平洋地域における急成長企業ランキング」に2年連続でランクインするなど、企業としての注目度も高まっています。
5人の創業メンバーとともにスタートした当社は2024年9月に創業10年、アプリ「TimeTree」開発からも今年で10年が経ち、従業員数は100名を超えました。拡大期にあるいま、どのように従業員一人ひとりの“はたらくWell-being=はたらくことを通して、その人自身が感じる幸せや満足感”を高めているのでしょうか。TimeTree“らしい”組織の在り方を、代表取締役社長・深川さんに聞きました。
プロフィール:
株式会社TimeTree
代表取締役社長 / 最高経営責任者 CEO 深川 泰斗
目次
「Why」から始まる組織づくり。“目的共有”がTimeTreeの強さを支える
——カレンダーシェアアプリ「TimeTree」のグローバル累計登録者数が6,500万を超え、それに伴い従業員数も100名を超えました。御社では、どのようにして従業員一人ひとりの“はたらくWell-being”を育んでいるのでしょうか?
まず、TimeTreeという組織をつくるうえで大切にしていることからお話させてください。僕が最も大切にしていることは、「Whyを明確にすること」です。つまり、「なぜするのか」「なんのためにするのか」という目的を共有すること。このスタンスは、5人で創業した当初からメンバーが100名を超える現在に至るまで変わっていません。TimeTreeは「『誘おう』をつくる」というミッションを掲げているのですが、会社としてのあらゆる行動がこのミッションとつながっているべきだと思うんですよね。
——あらゆる行動がミッションとつながっている。
たとえば、アプリのアップデートやメンテナンスはもちろん、社内の打ち合わせルームを掃除することでさえ、ミッションにつながっているはずです。組織づくりのなかでも、「なぜこの制度があるのか」「なんのためにこの取り組みをしているのか」をメンバー一人ひとりが必ずたどれるようにしています。そのため、議事録をはじめとした社内のドキュメントの1行目には「Why(目的)」を明記することを大事にしています。
——そこまで「Why」の共有を大切にされるのは、どうしてなのでしょうか?
単純に、なんのためにやっているか分からないことって、しんどいと思うんですよね。先日、メンバーがとあるプレゼンで、イソップ寓話の「3人のレンガ職人」の話をしていました。旅人が建築現場で出会ったレンガ職人に「何をしているのか」と尋ねると、1人目は「見れば分かるだろう。仕方なくレンガを積んでいる」と答え、2人目は「家族を養うために、レンガ積みの仕事をしている」と答える。そして3人目は「歴史に残る大聖堂をつくっている。いつか大勢の人が救われるためにレンガを積んでいる」と答えるそうです。このお話からわかるように、同じ作業でも目的が明確であれば、そこにはやりがいやはたらきがいが生まれます。
また、目的を共有することは、メンバーが主体的に動くきっかけにもなり得ます。「いいからやれ」と言われても、どう動けばいいか分からないですよね。でも、「〇〇のためにアイデアを考えてほしい」と伝えれば、「それならこういうのはどうですか?」と提案できる。「あのデータ見せて」とだけ言われるよりも、「〇〇を知りたいから、データをもらえる?」と言われれば、「それなら、こっちのデータも参考になるかも」と返せる。「なぜするのか」「なんのためにするのか」が共有されていれば、一人ひとりが「こうするともっと良くなるかも」と自発的に考え、試していけるようになります。
すると自然とやり取りが深まり、組織としてもより良い方向に進んでいくと思うんです。自発的に考えて行動できるプロセスって楽しいですし、きっとはたらきがいが感じられる瞬間でもあるはず。TimeTreeにとっての「『誘おう』をつくる」というミッションは、まさにレンガ職人にとっての大聖堂のような存在なのかもしれません。
理解のずれも、組織の財産に。“ヘルシーな衝突”を歓迎する
——とはいえメンバーも増えるなかで、目的の共有をし続けるのは難しさもあるのではないでしょうか?
僕は、メンバーが増えて組織が拡大しているから大変だとか、苦労しているとは感じていません。ただ、コミュニケーションの取り方には、より工夫が求められるようになったなとは思っています。たとえば、会社としての方向性や戦略を伝えたとき、一見するとメンバー全員の足並みが揃っているように見えても実際には、理解の度合いや深さ、受け止め方は人それぞれ異なるんですよね。その理解の違いや差が、人が増えたことでより見えやすくなっただけじゃないかと僕は思っていて。
振り返ると、創業メンバー5人の頃も実は「分かり合えた」と思い込んでいただけで、当時も5人全員が完全に一致した理解をしていたわけではなかったと改めて気づかされました。だから今は、メンバー全員の理解を完全に一致させることよりも、社内で交わされるすべてのコミュニケーションがポジティブな誤解のもとで成り立っていると念頭に置いた上で、それでも基本的な方向性さえ同じであれば問題はない、という考え方に変わってきています。そう思うと、価値観も考え方も異なるメンバーたちと一緒にはたらけていることが驚きですし、嬉しいですよね。
——しかしながら、理解の差がある状態では、メンバー同士の衝突も生まれてしまうように思います。
それはもちろんあります。誤解がどこかで表面化し、衝突が起きることもある。ただ、TimeTree社内では「衝突は避けるべきものじゃない」という意見もあるんですよ。なぜなら、衝突や議論そのものが、理解を深めるきっかけであり、組織の学習機会のチャンスでもあるからです。むしろズレが表面化したタイミングこそが、お互いをより深く理解し合う機会だと捉えています。逆に言えば、「あれ、違うかも」と思っているのに議論に発展しない組織は、「分かり合うこと」を諦めてしまっているのかもしれませんよね。だからこそ、衝突は悪いものではないし、むしろヘルシーに衝突することを大切にしたいと思っています。
——衝突は悪いものではなく、ヘルシーに衝突したい。
はい。「あの人とは一緒にはたらきたくない」「あの人のことがきらい」といった感情的な話ではなくて、「どこから方向性がズレたのか」「なぜそう思うのか」といったお互いの違いに歩み寄る健康的な議論になるならば、ぶつかることも大切だと思うんです。実際、TimeTreeでもそうしたヘルシーな衝突が何度もありました。評価制度や人事制度、はたらく環境についても、職種や職位に関係なく、メンバーと「なぜそうするのか」を軸に話し合いながら、一緒につくり上げてきましたからね。
1つ過去の事例でいうと、全メンバーの職級、いわゆるグレードを社内で公表しようという意見が出たことがありました。というのも、グレードCのメンバーがDに上がりたいと思ったとき、Dのメンバーが誰かを知っていれば参考にできたり、相談できたりするからです。
——なるほど。グレードを公表することについて、社員の方々はどのような反応だったんですか?
社内で「グレードを公表することについて、どう思うか?」というアンケートをとったところ、公表したい・したくない双方の意見がでまして、どちらも納得できる理由を持っていました。その両者の意見をじっくり検討した結果、最終的にグレードの公表はしないことにしたのですが、重要なのは、自分とは相反する意見の人がどういう背景でそう考えたかを知ること、「なぜそう思うのか」を渡し合うことです。「なるほど、それも一理あるね」「確かにその意見にも納得できる」と丁寧に合意形成していく。そのプロセスがあったからこそ、結果に対して一人ひとりが納得感を持つことができました。
組織もプロダクトも“勝手に”良くなる。ニックネーム制度でつくるフラットな空気感
——そう思うと御社は、入社歴や年齢に関わらず、誰もが意見を言いやすい空気があるように感じます。どのようにそうした環境を作っているのでしょうか。
一番寄与しているのは、「ニックネーム制度」だと思います。TimeTreeに入社すると、最初にニックネームを考えてもらうんですよ。ポイントは、それが本名をもじったり、家族や友人から呼ばれていたあだ名ではないこと。社内だけで呼ばれる、新しいニックネームを考えてもらうようにしています。たとえば僕の場合、前衛ギタリストのフレッド・フリスにちなんで、社内では「Fred(フレッド)」と呼ばれています。取材に同席してくれている広報のメンバーは、バーニーズ・マウンテン・ドッグという犬種が好きなので「Berney(バーニー)」と。社内では「社長」や「深川さん」と呼ばれることはなく、みんなから「Fred」と声をかけられますね。
——面白い制度ですね。ですが、慣れないと呼びづらい気も……なぜ、ニックネーム制度を取り入れているのですか?
前職に勤めていたときに同じような制度があって「これは良い仕組みだな」と感じて、TimeTreeでも取り入れました。というのも、TimeTreeがつくっているのは、カレンダーシェアアプリという目に見えず、形のないものです。物体として実在していないものを、コミュニケーションで作るのが僕らの仕事。もちろんプロダクトづくりに限らず、仕事のほとんどはコミュニケーションで成り立っています。仮に、「社長、これについてご意見を伺ってもよろしいでしょうか」といった言葉の重さや躊躇があると、それだけスピード感は落ちてしまいますよね。もっとフラットに、自由に、スピーディに意見が流通されたほうがいい。そう考えて、ニックネーム制度を導入しています。
また、「TimeTree」というプロダクトを良くしていきたいと思っても、そこに唯一無二の正解があるわけではありません。たとえばプロダクトマネージャーが、「こうしたほうが良くなるかもしれない」という仮説を立てても、それが正しいとは限らない。けれども、チームとしては何かしらの方向性を決めていく必要がある。そんなとき、上下関係を超えて、誰もがフラットな立場で意見を交わせることが大切なんです。
「ニックネームで呼び合う関係性」は、一人ひとりにリスペクトをもったうえで、気兼ねなくディスカッションができる空気を育ててくれている。さらにそこに「なぜそうするのか」「誰のためにするのか」といった“Whyの軸”がかけあわされると、細かな仕様については柔軟に変えていくことができる。「ユーザーのためにこうした仕様にしたほうが良いよね」「でもやっぱり、こっちの方が使いやすいかも」と、プロダクトは勝手にどんどん良くなっていくんです。
“らしさ”とは、静的ではなく動的なもの。変化のなかに宿るTimeTree“らしさ”
——「Why」の軸と、フラットな空気感、それが御社らしい“はたらくWell-being”の両輪なのかもしれないですね。
今、TimeTree“らしい”という話が出ましたが、実はメンバーたちと「TimeTreeらしいって何だろう?」と話し合ったことがあるんですよ。
——へえ!どういったやり取りだったのか気になります。
“らしさ”とは、変化に対してどう反応していくかという動的なものだと僕は考えています。人間の身体を例にすると、日々細胞は生まれ変わっていて、物質的に見れば半年前の自分と今の自分はまったく違う存在です。でも、僕たちはそれを“同じ自分”として認識していて、ということは、時間や怪我などの外的な変化に対して、それでも一定の形に再構成されることこそが、らしさなのかもしれないですよね。
そしてそれは、組織にも通じるものがあるのではないかと思っています。メンバーが増えたり競合が現れたりする外部からの刺激に対して、どう変化していくか。その変化の仕方に、TimeTreeの“らしさ”が表れるのではないかと。「これまでこうだったから、これからも同じように」ではなく、「これまでこうだったから、これからはどうしていこう」と、そういう変わり方にこそTimeTree“らしさ”があると思っています。
——“変わらないもの”ではなく、“変わり方”にこそその組織らしさがあるのかもしれませんね。
もっというと、実は「TimeTreeにとっての文化とは何か」という社内資料もありまして(笑)。僕が大学時代に文化人類学を学んできたことが影響していて、社内でも「文化とは何か」というテーマでもメンバーと一緒に議論したことがあります。
会社における文化は何か? と問われたとき、それは社内規定でも社内制度でもありません。組織文化とは、基本的に見えないものです。その組織にいる人たちが、日々どんなことに悩み、どんな価値観で試行錯誤しているのか。その積み重ねによって、外から見たときの違和感や独自性として文化の輪郭が立ち上がってくるものだと思うんです。
たとえば「ニックネーム制度」もその一つ。新しく入ってきたメンバーから「面白い制度ですね」と言われて、初めて「これはTimeTreeの文化なんだ」と気づく。そうした気づきの積み重ねこそが、カルチャーの正体なんじゃないかと思っています。だからこそ、中にいる僕たちができることは「なぜそれをやるのか」を問い続け、「このやり方でいいのか」を議論して、試していくこと。その行動と対話の積み重ねが、TimeTreeらしさを育てていくのだと思います。
