「面白がる」からすべてをはじめる。面白法人カヤックの新・管理本部長が考える”はたらくWell-being”への処方箋

面白法人カヤック(株式会社カヤック)は、鎌倉に拠点をおき、広告事業やゲーム制作事業を主軸としながら多角的な事業展開を進めている会社です。また、「何をするかよりも誰とするか」を重要視している組織で、自由でユニークな組織のあり方を模索しています。人事制度には社員が毎月サイコロを振って給料を決める「サイコロ給」のほか、鎌倉にまつわる制度や全社員で海外で仕事する「旅する支社」など、他では類を見ない制度に積極的に取り組んでいます。

会社が掲げる大きな旗は変わらずとも、現場から生まれるアイディアをもとに「より良い」を追い求める同社。2025年1月より管理本部長となられた丹治さんに、カヤックにとっての“はたらくWell-being”について、そして今後はどのようなアイディアをもとに役職を担っていくのか。お話を聞きました(※以下敬称略)。

プロフィール:

丹治 拓未さん
面白法人カヤック(株式会社カヤック)
執行役員・管理本部長・M&A責任者

この記事でわかるポイント

  • カヤックは「面白がってはたらこう」を企業理念に、自律的で創造的な働き方を重視しています
  • 社員が給料を決める「サイコロ給」や、焚き火会議室など、ユニークな制度を多数導入しています
  • 内発的動機づけを尊重し、「面白指数」や360度フィードバック制度で自己理解と成長を促しています
  • 職務は立候補制で、自分の「面白がれる仕事」に挑戦できる風土があります
  • 今後も「面白法人らしい幸せ」を追求し、マネジメントのあり方を探求していく方針です

「人に伝えずには、参加せずにはいられない」コンテンツづくりが得意

――事業内容について、教えてください。

丹治:カヤックは広告業を出自として、3名の創業者によって1998年に設立し、26年目を迎えるインターネット企業です。主軸事業は広告制作とゲーム制作、近年は特にモバイルアプリが好調で、世界におけるダウンロード数が日本企業として4年連続で1位をいただきました。

グループ会社は19社、鎌倉の不動産事業や出版事業、ウェディング事業など多岐に渡り、連結の従業員は約600人まで増えました。「一見何をしているかわからない会社」と捉えられがちですが、広告制作における「伝えずにはいられない」仕掛けや、ゲーム制作における「参加性や達成を促す仕組みづくり」に習熟したコンテンツクリエイターが、面白がって新たな挑戦をするうちにライフスタイル領域やコミュニティ領域などに事業が多角化していったという大きな流れですね。

――たとえば、どんなプロジェクトがあるのですか?

たとえば、カップヌードルのフタを猫の耳で止められる「カップニャードル」のプロジェクト。「蓋が猫になっていて可愛い!」と話題になったのですが、実はこれはカップヌードルがフタ止めシーの廃止を決定して年間33トンのプラスチック削減するための施策だったんです。良いことをそのまま伝えても伝わりにくいけれど、面白い仕掛けによって話題になった後に「実は……」と語る流れになる方がコミュニケーションとし伝わりやすいよね、という僕らの考え方も軸となっています。

他にもお笑い芸人の野田クリスタルさんと一緒に制作した『スーパー野田ゲー』シリーズでは、ゲーム開発の際にクラウドファンディングで支援者から素材を集めて、その素材をゲームに使用する仕掛けをしました。そうすると支援者が「実は私の素材がゲームに使われているんだよ」って誰かに言いたくなるじゃないですか。話題になる仕掛けとユーザーの参加性の高さを評価いただいて、ゲームなのに広告賞をいただいた事例なんです。

僕らは強みとして「コンテンツ的な価値創造」という言葉を掲げることがあります。「早い安い旨い」のような機能的な価値と対比的に語っているのですが、映画や漫画をイメージするとわかる通り、コンテンツは一品一様、好きも嫌いもあるものです。個性を尖らせることである意味好き嫌いは分かれるけど、その分好きな人にはとことん愛着が生まれるようなクリエイティブが得意だと自負しています。そのため、趣向的で個性豊か、楽しくて面白い、多様な価値を作ることを大事にしています。この思想に共感してくれた人が集まっていて、社員の9割がクリエイターです。

「面白がってはたらく」ことが幸せにつながる

――人事制度では、「サイコロ給」に代表される独自の給与制度が注目を集めています。はたらく人の制度や仕組みにも、面白がる思想は反映されているんですか?

もちろんです!僕らは自らが仕事を「面白がれているか」を自己評価する「面白指数」という独自の指標を重視していて、これは半年に1度計測し、その数値変化を追っています。この指標は評価には直接関係ないのですが、自分は面白くはたらけているか、また面白くはたらくために何が必要なのかを考えるきっかけになっているんですね。一昨年度から有価証券報告書にも載せています。
名刺の裏には「面白法人とは何か」の考え方を3つ記していて、その中でも1つ目の「面白がってはたらこう」が一番重要で、同時に最も実現が難しい。なので、それをどう実現するかが僕らの挑戦であり、企業理念そのものです。

面白法人というと、初めて会った方々に「じゃあ今から面白いことやってもらえますか?」と言われることがあります(笑)。もちろん社会提案性のある面白いことをやりたいと思っているし努力していますが、一番大事なのは「自分たちが面白がる」あり方。これをコーポレート的な価値観として共有し、仕組みや組織文化を設計しています。

今回、“はたらくWell-being”について取材を受けるということで僕らとしてもどうお話するかを迷ったところがありまして……

――というのは?

この取材前にある社員とランチしていたんですけど、「今日Well-beingについての取材を受けるんだよね」って話したら「カヤックほどWell-beingな会社はない」って言うんです。彼女は子育てしながらはたらいているのですが、さっきまでオフィスにいたと思えば、30分後にはお子さんを迎えに行って海辺でコーヒーを飲むことがあったり、「こんな幸せなはたらき方があるんだ」と実感したのだそうです。鎌倉という土地柄もあってこういうWell-being風なエピソードは社内でも数多くありますが、改めてそれを「Well-beingのためにやっているのか」という視点で考えてみると、ちょっと違うなあと思いまして。やっぱり僕らは、「自分たちらしい面白法人としてのあり方を実現する」という観点の方が強いんです。会社が鎌倉にあるのも、創業者3人が好きだったから、がきっかけの1つですからね。

――直球でお聞きするのですが、なぜ「面白がってはたらこう」なのですか?

端的に言うと、その方が幸せだから、だと思います。

人事方針として軸にしていることは、「他社ではたらいたり独立したりすればもっと年収が上がると分かっているにもかかわらず、面白いからという理由でカヤックではたらき続けることを自分の意思で選択し続ける人の集まり」にカヤックをすることです。

なので、非金銭的報酬の部分に資金も思考時間も投資している会社だと思います。

「この仕事を誰が一番面白がれるか?」立候補で管理本部長に

――非金銭的報酬は、給与や肩書き等の手当ではない部分で得られるものという意味合いですよね。具体的な取り組みについて教えてください!

まず、取り組みと言えるのはわかりませんが、個人的に大きいのは、カヤックは様々な事業やチャレンジをしているので、新しい機会が次から次へとあって、自分の知的関心や興味に沿ったはたらき方ができるという楽しさがあるんです。ちなみに、僕は畑違いの部署から、立候補で管理本部長になりました。

――立候補ですか!?

はい。ちなみに、前任もその前の管理本部長も立候補です。僕自身のキャリアは入社して5年間、毎年新しく違うことをしていて、経営企画でアライアンスやIR、なぜか公共図書館の基本計画の策定、M&A案件のリード……そして2025年の1月から管理本部長です。

――立候補で、その役職を担えるものなんですか?

カヤックが未経験でのチャレンジや失敗に非常に寛容な風土であり、ある意味で勝手に、自律的に挑戦できる文化だから成り立っているのかもしれないです。そもそもIRも全く関連する経験がなく「やってみたい気がします」でチャレンジしていましたし、一人ひとりが自分の動機や関心、面白がれることに繋ぎこみながらキャリアが作れるんです。そういう環境だからこそ、自発的に勉強する人も多いですよ。

就任して4ヶ月。もちろんこの文化を活かしつつですが、大前提として、会社がきちんと成長を続けて、きちんとお給料が上がっていく状況が、従業員にとっての幸せに重要だと思っています。成長できる会社であり個人であるためにどんな仕組みが必要か?そもそもカヤックという組織の面白さや価値って何だろう?から解き直している真っ只中です。

心地よいはたらき方を模索した結果、難易度の高い道を選んだ

――たとえば、どういったことを考えていらっしゃるんですか?

最近動機づけ理論について関心があって調べる中で、マネジメントでもよく用いられる内発的動機付けと外発的動機付けに関連して見つけたのですが、個人的に今後応用していきたいなと思っている教育心理学領域の理論があります。これは、社内の新卒向けの「面白くはたらく」をテーマとした研修用に僕が作った資料なんですけど、こちらを用いながら説明しますね。

個人の内面にある欲求や興味によって生まれる行動特性「内発的動機付け」と、外部からのはたらきかけによって行動する「外発的動機付け」の理論は、1960年代に提唱されました。その後、この2つだけで明確に分類できるわけではなく自律性のグラデーションと掛け合わせだよねという考え方から、「有機的統合理論」が生まれ4段階の尺度項目での整理が設定されました。

主に学習活動においてではありますが、この4つの動機尺度の中で一番パフォーマンスが出た項目はどれか、わかりますか?参考にした論文だと、世界中で同じ結果が出たそうです。

――うーん……どれで一番モチベーションが上がるかというと、一番自律性が高い「内的調整」ですか?

そう思いますよね。でも実は、上から2番目の「同一化的調整」なんです。こうした将来を展望した目標を持っている方が圧倒的に結果に影響する因子となり、より強いコミットメントがセットされているのです。

――目標に向かって折れずに挑戦できる力がはたらくのですね。

じゃあ一番自律性が高い「内的調整」はどうかというと、精神健康に最も関したらしいのです。

――精神健康!Well-beingに近いですね。

ちなみに「内的調整」も最初は成果が出るのですけど、興味が散逸的で続かないことが特徴だと言われているそうで。なので、内的調整だけで長期的に結果を出し続けるのは難易度が高い。

この理論を組織ではたらくことに応用すると、マネジメントの面でも「同一化的調整」で扱うのが一番効率が良いはずだと思います。「夢を見つけてその実現のために今の会社で頑張ろう」という文脈が今の主流ですよね。結果につながることもわかっているから合理的なのだなとあらためて気が付きました。だけど僕らはあえて、自分たちにとっての面白さをモチベーションにする「内的調整」とめちゃくちゃ向き合っている。こう狙ったのではなく、自分たちに心地良い、幸せなはたらき方を模索した結果としてこうなったのだと思っています。先ほどお話しした「面白指数」しかりですが、まずは自分たちが「面白がっているか」にとことんこだわることが最も大切な価値観です。ここが、面白法人としてのユニークネスなんじゃないかなって個人的にはすごく思っていて。

上場企業という立場になってもそのこだわりは保っています。効率が悪い、難易度の高いマネジメントをわざわざやるのはどうなんだという見方もあるとは思うんですけど、僕は胸を張ってこんな会社は他にないと言えるし、そういうところに誇りを感じてカヤックで面白がってはたらいています。そして、中長期的にはこれこそが成長の源泉だと信じていますし、アイデンティティなんだと言い続けたいですね。

――ちなみに、内発的な動機付けの仕掛けになるような制度はあるのでしょうか?

たくさんありますよ!たとえば、一緒にはたらく仲間をお互いに評価する「360度フルオープンフィードバック」は、実質的な人事考には関係なく、仲間と自分自身の成長のためのモデルです。特定の人からの評価と報酬制度によって「本当に見てくれているのか」と思ってしまうとモチベーションが低下することがありますが、360度からオープンにフィードバックをもらうことでそういった不満を減らし、自己理解と内省を進める機会としています。内省するスキルを身につけ、自ら次の行動を変えることで、自己変容し続けることが「面白くはたらく」につながるという思想のもとで設計されているものです。他にも、先程も少し話しした勝手に挑戦できる文化、フラットな組織もそうですね。また、僕らが大切にしているブレスト文化はもちろん、社員全員で1日中ブレストをする「ぜんいん社長合宿」もそういった仕掛けになると思います。主体的に面白がる体質になる仕掛けや、どんどん面白がって探索できる仕掛け、逆に面白がる動機を下げない仕掛けなど、いろいろな制度や文化が折り合ってつくられていると思います。

社内の制度にも、参加したくなるエピソードを

――いかに「面白がってはたらく」気持ちを下げないか、というアプローチもあるのですね。その他にも、非金銭的報酬を高める施策があれば教えてください。

お題であるWell-being的な、肉体的な健康を保ち「気持ちよくはたらくために」という文脈での施策をお話しすると、たとえば「まちの社員食堂」。鎌倉は観光地ゆえランチの価格帯が比較的高いので、従業員の食事をサポートするために社員食堂を作ろうとなりました。ただ、この問題はカヤックの社員だけの課題ではないので、まちに開ける構造を考えて、鎌倉に拠点を持つ企業・団体も関与し利用できる仕組みで運営しています。これによって、食事による身体の健康面と、同じまちではたらく人同士が出会える社会的な健康が掛け合わさる構造になりました。

――こういった取り組みは真面目になりすぎてしまう中で、「面白い」を人事制度にも取り入れられるのだと勉強になります。

他にも、ガーデンオフィスや焚き火会議室もあります。コロナ禍をきっかけにリモートワークが主流になりましたが、カヤックでは「改めてみんなではたらこう!」と100%オフィス出勤に戻そうと試みていました。でも、家でも仕事はできるから出社しなくてもいいと考える社員も当然いるわけで。すると、「どうしたらオフィスに来たくなるのだろう?」という名目でブレストをするのですが、その中で「みんなでワイワイ騒いだり、焚き火して語らえる場所があったりしたら、出社したくなる」という意見が出たので、焚き火会議室を作ってみたんです。実際に焚き火をしたら、近所の方から苦情が来たのですが(笑)。ただ、近隣のご近所付き合いの中で、薪はダメだけれど木炭なら良いとお話していただけて、今ではBBQをやったりしています。屋外ではありますが、Wi-Fiも電源もある会議室です。

ガーデンオフィス
焚き火会議室

――ルールで従わせるのではなくて、「面白そうだから出社したい」と自律的に行動できるように考えるのですね。

社内の制度にしても、「この方が成果が出る」「正しい」と言っても伝わらないですよね。従業員が「面白そう」と興味を持って行動したくなる、その動機付けが大切なのだと思います。鎌倉のまちの中に点在するいくつかのオフィス棟のマグネットポイントにあるので、コミュニケーションの場になりますし、キャンプ好きたちが集まってソロキャンプ飯の披露会をやっていたりしますよ(笑)。

「面白法人らしい幸せ」を追い求め、表明していく

――今後の目標を教えてください!

今後の僕の挑戦の1つは、我々らしいマネジメントの強化ですね。先ほども話しましたが、内的調整をより重視するなど個人の動機を重視している分、マネジメントをするのは難易度が高い会社だと思っています。でも、カヤックにはメンバーの「やりたいこと」を熟知して、仕事を「やりたい」につながるように渡すなど、「部下を面白がらせる」ことに長けた上司もいますし、協力しながら、命令ではなく交渉しながら、成長する組織としての面白法人らしいはたらき方を追い求めていきたいですね。

面白さというのも人それぞれ感じ方は多様ですし、僕らは面白法人カヤックのあり方として大切にしている面白さを追求したいし、忠実でいたい。同じような意味で、今後はたすらく幸せを求めることが重視される中で、会社は何に幸せの価値観を持っているのかを表明することも必要で、多様な幸せの考え方を持つ会社があることが豊かだとも思います。また、個人個人としても、どの価値観を持った会社を選ぶのかが大事ですよね。

関連記事

注目記事

PAGE TOP