日本の人口数は減少の一途を辿るなか、65歳以上人口は3625万人と過去最多を記録し、総人口に占める高齢者の割合は29.3%と過去最高の数値となりました。世界の国々と比較してもトップレベルの超高齢化社会の日本で、高齢者のWell-beingに注目が集まっています。
2020年に創業された株式会社AgeWellJapanは、「Age-Well 社会の創造」を掲げ、福祉や介護とは異なる視点から、シニア世代のWell-beingを実現するサービスを展開しています。創業者である赤木 円香さんは、Forbes JAPAN「世界を救う希望NEXT100」にも選出されました。「社会起業家になりたかった」と話した彼女の原点、「Age-Well 社会の創造」を目指す赤木さんの“はたらくWell-being”を聞きました。
プロフィール:
赤木 円香さん
慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学中、人材コンサルティング会社に参画。法人向けのコミュニケーションやホスピタリティ研修の企画・営業を担当。2017年に味の素株式会社に新卒で入社。財務経理部にて決算および原価計算業務を担当。2020年に「Age-Well社会の創造」を掲げ、株式会社MIHARU(現株式会社AgeWellJapan)を創業。シニア世代のウェルビーイングを実現する孫世代の相棒サービス「もっとメイト」や多世代コミュニティスペース「モットバ!」を運営。法人や自治体向けに、シニアDXやシニアWell-being事業の企画・運営を支援。超高齢社会のAge-Wellをテーマにしたカンファレンスイベントを主催。2023年にAge-Wellな生き方をデザインする研究所「Age-Well Design Lab」を設立。「IMPACT STARTUP SUMMIT 2024」のピッチコンテストにて大賞を含む4冠受賞。Forbes JAPAN「世界を救う希望NEXT100」選出。メディア出演も多数。「はたらくWell-being AWARDS 2025」新たなはたらき方部門を受賞。
目次
超高齢社会に必要な「Age-Well」という新たな価値観
――「Well-being」が社会に浸透してきたなかで、「Age-Well(エイジウェル)」という言葉を初めて聞きました。
私が創業した株式会社AgeWellJapanでは、「Age-Well」を「挑戦と発見を通じて、ポジティブに歳を重ねること」と定義し、提唱しています。超高齢化社会の日本において、豊かで前向きなシニアを増やすために、価値観や文化・制度を変革していくことが私たちのミッションです。
シニア向けのサービスというと医療や介護・福祉が思い浮かびますが、AgeWellJapanはそうした専門的な支援を提供しているわけではありません。シニア世代がAge-Wellになるためには、身体的な状態に関わらず、挑戦と発見を通じて変化していく、前向きな気持ちを能動的に持つことが大切だと考えていて。そのために「人生の相棒」として寄り添い、Age-Wellの創出を目指す事業を行っています。
――具体的にはどういった事業を展開されているのでしょうか?
個人向けとして、2つの事業を展開しています。1つ目は孫世代の相棒サービス 「もっとメイト」、2つ目は多世代コミュニティスペース「モットバ!」の運営です。「もっとメイト」は、20〜30代のスタッフ、通称Age-Well Designerがご自宅に訪問し、スマートフォンやパソコンの使い方をレクチャーしたり、話し相手になったり、散歩やお出かけの付き添いなど暮らしの困りごとを一緒にお手伝いするサービスです。「モットバ!」は横浜・二俣川駅にコミュニティスペースがあり、10代〜90代までの幅広い世代の交流拠点となっています。
toC事業を通して得た、シニアのリアルな声や潜在的なニーズ、データを「Age-Well Design Lab」という社内の研究所で集計・分析しており、蓄積されたナレッジを活用し、法人向けのアライアンス事業も展開しています。一例でいうと、「Age-Well×趣味」で大手飲料メーカーと協働したアプリ開発や、「Age-Well×街づくり」で電鉄会社とタッグを組んでイベントを開催したこともありますね。
既存の概念にAge-Wellの視点を掛け合わせると、新たな事業開発の可能性が広がります。AgeWellJapanにはシニアの本質的なインサイトの知見があるので、今後もいろんな企画、たとえば「Age-Well×〇〇」で、いつかは「住まい」「保険」「ファイナンス」「ホスピス」などの分野にも挑戦していきたいと思っています!
「怒り」が強い原動力。自分にできることを探し続けていた
――起業のきっかけとなったのは、おばあさまの一言だったとお伺いしました。
はい。AgeWellJapanを創業するまで私は、大手食品メーカーで経理の仕事をしていました。新卒2年目のとき、当時86歳だった祖母が転倒して足を骨折してしまったんですね。アクティブでチャーミングだった祖母が、怪我を機にできないことが増え、気持ちも塞ぎ込みがちになってしまって。あるとき不意に「手伝ってもらってごめんね。長く生き過ぎちゃったかしら」と漏らし、その言葉がきっかけで起業を決めました。
――もともと起業への想いがあったのでしょうか?もしくは、その言葉で起業を決めた?
社会起業家になりたい、という想いがずっとありましたね。それまでの経験から、社会に対して抱いた「怒り」が私の原動力になっています。世の中にはたくさんの偏見や固定概念があり、ジェンダーやハンディキャップを持つ人が生きづらさを感じている。そうした肩身を狭い思いをしている人がいることが、許せないんです。
――「怒り」が原動力。強い使命感を感じるのですが、原体験があるのでしょうか?
父も母も経営者なことが影響していると思います。幼い頃から、単に利益を追求する企業の形態には違和感があり、事業を通じて人を幸せにすることの意味を人より早く考え始めた気がします。
私立高校へ進学してからは、学歴や生まれ育った環境、つまり育ちが重要視され、ラベリングすることへの怒りも感じるようになりました。声が大きい人の意見ばかりが通ることにも、「なんで?」と思っていましたし、「私の声はどうして届かないの?」と、学生時代はいつも悶々としていましたね。「こんな社会おかしい!」という想いが、「社会許せない」という怒りになって。
同時に、常に自分への不甲斐なさも感じていました。そうそう!最近当時の日記を読み返したのですが、そこには「優しいだけじゃダメなんだ。強くなくてはいけない」ってめちゃくちゃ書いてありました(笑)。大切な人を守るために、とにかく強くなりたかった。そのときは「私にできることは?」と考え、簿記の資格を取得し、手話や点字を勉強してボランティア活動や支援活動にすごく力を入れていました。
憧れているシニア世代が、「謝る」社会に疑問を抱く
――そうしたなかで、「社会起業家」とは、どのように出会ったのでしょう?
高校生のとき、先生の勧めでマザーハウスの創業者・山口絵理子さんの著書『裸でも生きる〜25歳女性起業家の号泣戦記~』を読んだことがきっかけでした。その本の中で、「ソーシャルビジネスとは、ボランティアでもなければ、単に利益だけを追求するビジネスでもない。ビジネスの手法を用いて社会課題を解決するもの」とあり、「私がやりたかったのはこれだ!」と思いましたね。利益を追求しつつ、持続的でありながら社会貢献もできる。そうした分野があることに、とても救われた気持ちになりました。
――ビジネスと社会貢献の両軸、その2つが赤木さんにとっては重要な要素だったのですね。
はい。なので大学は、山口絵理子さんと同じ大学に進学。ただ、学生時代に絶対成し遂げたい何かを見つけることができなかったから、卒業後は就職しました。
――なるほど。それで、おばあさまの「長く生き過ぎちゃったかしら」の一言を契機に、取り組むべき道が見つかったと。
その一言で、これまた「こんな社会、許せない!」と怒りが湧いたんです(笑)。思い返せば、おばあちゃんを含めて街中で見かけるシニアの方は「すみません」「ごめんなさい」「申し訳ないね」と謝っている姿ばかり思い浮かぶんです。おばあちゃんは「来たくなかったのに、美術館についてきてくれてありがとうね、ごめんね」、あるときシニアの方がバスに乗るのを手伝ったら「手伝ってもらって、ごめんなさいね」とまた謝られて……いろんな経験を重ねてきたシニアが謝るなんておかしい——そう感じていた想いが、おばあちゃんの「長く生き過ぎちゃったかしら」という言葉で一気にあふれ出しました。おじいちゃんおばあちゃんのためなら人生を掛けられるなと、すぐに会社を辞め起業しました。
――シニア世代の方々への思いが、赤木さんを起業家にしたんですね。
私自身おばあちゃん子でしたし、祖母の愛情をたくさんもらって育ちました。それゆえに、昭和世代、団塊世代の方に恋心に近い憧れがあるんですよ(笑)。
戦後何もないところから今の日本の礎を築いてきた世代で、マインドもタフだし、すごくかっこいい。本来は好奇心旺盛でワクワクときめいていけるはずなのに、年齢が上がるにつれて元気をなくしてしまったり、肩身の狭い想いをして頭を下げたりしているのはおかしい。「なんとかしなければ」と感じたんですよね。だから今、自分が人生をかけられる分野で起業できたことが、一番の“はたらくWell-being”です。
年齢を重ねるごとに、輝きを増すAge-Wellなシニアを増やしていく
――2020年に起業されてから5年が経ちましたが、創業時から比べて変化したことはありますか。
新しい価値観を社会に実装するためには、言葉を提唱することの意味と可能性を改めて感じています。起業して5年、「もっとメイト」「モットバ!」を通じて出会った方々や、イベントに参加してくださったシニアの方々が、「私、Age-Wellなシニアでしょ」と言葉にしてくださるようになったんです。それを聞くたびに、私が言い始めたことが周りにもちゃんと伝播していて、一歩ずつ進んできたのだと実感できています。
楽しいと感じられるエイジズムのないAge-Wellや社会を作れると本気で思っています。介護や医療を必要とする方々でも、寝たきりの方でも、Age-Wellを実現することができる。今3625万人いるシニアのAge-Wellを成し遂げるためには、私たちのさらなるパワーアップが必要ですが、何もなかったところから一定の成果や実績ができていることを誇りに思いつつ、これからはより覚悟を持って進んでいきたいと思います。
――今後ますます日本の高齢化は進むと推測されています。これからの目標はありますか?
今年は地方展開を大きな目標として掲げています。1都3県で評価していただいたことを、地方に向けて拡大する予定です。むしろ、地方のほうが過疎化が進み、若者が働いている昼間の時間帯は高齢化率70%という地域もあるほど。同時に世代間の分断も進んでいます。エイジズムをなくす方法の1つとして、多世代の対話が必要だと心理学の研究結果として出ていて、それはまさに当社が強みとしているところです。
会社に関わってくれているメンバーから「年齢は〇“歳”じゃなくて、ダイヤモンドみたいに〇“カラット”にするといいよね」と言われたことがあり、私はその言葉を大切にしていて。何歳になっても、どんな状態でも、新しい挑戦と新しい発見を通して人生を謳歌するシニア世代を増やしていきたいです。
