企業の成長を加速するリスキリングとは?事例や導入成功のためのポイントも解説

リスキリングとは、既存の従業員に新たなスキルや知識を習得させることで組織全体の能力向上を図る戦略のひとつです。急速な技術革新や市場の変化が進む現代において、従業員一人ひとりのスキルアップが不可欠と考えている企業も多いでしょう。実際に、これまで多くの企業がリスキリングを導入し、DX推進や業務効率化、人材定着率の向上といった成果を上げています。

しかし実際のところ、リスキリングをどのように実施すればよいかわからない人もいるかもしれません。そこで本記事では、リスキリングとは何か意味と目的を解説しながら、国内外の成功事例やリスキリングを成功させるための5つのポイントを紹介します。

この記事でわかるポイント

  • リスキリングとは、時代や業務の変化に合わせて新たなスキルを習得することです
  • 推進や事業構造の変化を背景に、国内外でリスキリングへの注目が高まっています
  • リスキリングの推進には、社員の自律的な学びと企業の支援体制の両立が不可欠です
  • 実際に導入した企業では、成果創出や人材定着といった効果も報告されています
  • 国内企業と海外企業のリスキリング成功事例を紹介します

リスキリングとは?意味と目的

リスキリングとは、現在持っているスキルを別の職種や分野に活かすために再学習することです。技術の進展や業務の変化に対応できるため、キャリアアップや転職に役立つ手段としても知られています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が世の中に浸透してきた際、DX人材として活躍するためにITやデジタルに関する知識を学び直す目的から、リスキリングもあわせて注目を集めるようになりました。2020年に開催されたダボス会議においては「リスキリング革命」が発表されたり、流行語大賞にノミネートされたりするなど、国内外でも注目されています。

岸田前首相も「日経リスキリングサミット2024」で新しいスキルを習得する重要性を発信したり、教育訓練給付の要件になる指定講座の追加を発表したりしているなど、リスキリングが推進されている傾向にあるでしょう。

出典:日経リスキリングサミット (首相官邸)
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202409/04reskillingsummit.html

リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングと似た言葉に、リカレント教育があります。いずれもスキルの更新または再学習を意味する言葉ですが、目的や方法(主導者)が異なります。

リスキリングは労働市場の変化や技術に対応するのを目的に、従来の職務や役割を超えて学ぶことを指します。主にDX人材の育成を目的に、企業主導で行われるのがポイントです。DX人材の育成以外にも、ビジネススキルやコミュニケーションのブラッシュアップを目的とするケースもあります。

一方でリカレント教育は、仕事に活かす前提で個人が能動的に学ぶものです。そのため、必要に応じて「学習」と「就労」を交互に繰り返すのが特徴。リスキリングの一部も、リカレント教育といえるケースもあります。

リスキリングと生涯学習の違い

生涯学習も、リスキリングやリカレント教育に似た言葉のひとつです。リスキリングやリカレント教育と生涯学習の大きな違いは、目的にあります。

生涯学習は、文部科学省によると以下のように定義されています。

“一般には人々が生涯に行うあらゆる学習,すなわち,学校教育,家庭教育,社会教育,文化活動,スポーツ活動,レクリエーション活動,ボランティア活動,企業内教育,趣味など様々な場や機会において行う学習の意味”
出典:第3章 生涯学習社会の実現 (文部科学省)
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201901/detail/1421865.htm

豊かな人生を送ることを目的とするのが生涯学習のため、広義ではリスキリングとリカレント教育も生涯学習といえるかもしれません。

経済産業省が示すリスキリングの重要性

労働市場の活性化や経済成長、企業の競争力強化を目的に、経済産業省もリスキリングの重要性を発信しています。

2017年に経済産業省が第四次産業革命スキル習得講座認定制度を創設して以来、企業のDXニーズは急速に増加。少子高齢化が進み人材不足が深刻化する昨今、限られた人的リソースのなかで業務を効率的に推進する必要があるでしょう。

そのため、業務効率化を目的としたDXの担い手を増やすべく、リスキリングを加速することの重要性が一層強調されているのです。

出典:第四次産業革命スキル習得講座認定制度 (経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/reskillprograms/index.html

国内外のリスキリングに対する意識の違い

引用:2023年-2024年人事トレンドワード解説 (パーソル総合研究所)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/hito/trendword2023.html

日本国内では、リスキリングの必要性が高まりつつあるのが現状です。そのため、職業訓練や再就職支援プログラム、各種補助金など、政府からの支援も徐々に拡充しています。しかし、教育制度や支援体制に課題が残ります。諸外国と比較した際にリスキリングに対する意識はやや遅れ気味といえるかもしれません。

企業がリスキリングを実施する理由

企業がリスキリングを実施する理由は、主に以下の4点です。

  • ●    業務の効率化のため
  • ●    人材不足に対応していくため
  • ●    従業員のエンゲージメント向上のため
  • ●    DX推進のため

それぞれ詳しく解説します。

業務の効率化のため

リスキリングにより従業員のITスキルが向上すると、業務フローを見直して効率化できる可能性があります。たとえば、これまで手作業で行っていた作業を自動化ツールやソフトウェアで効率よく処理できるようになることで、時間の節約やミスの削減が実現できるでしょう。また、新しいスキルの習得により、多様な業務をこなせるようになるかもしれません。

人材不足に対応していくため

企業がリスキリングを実施する理由に、人材不足に対応していく目的もあります。リスキリングを通じて既存の従業員が新たなスキルを習得することで、社内異動や役割変更を行える可能性があります。また、マネジメント層に相互理解やフィードバック、傾聴、若手の成長支援といったリスキリングを実施することで、人材の流出を防げる場合もあるでしょう。

従業員のエンゲージメント向上のため

従業員のエンゲージメントを向上させるのも、企業がリスキリングを実施する理由のひとつです。自分の成長を実感し、自己効力感が高まることでエンゲージメントの向上につながります。また、新たにスキルを習得した従業員は、視野が広がって新しい視点で物事を捉えられるようになるケースもあるかもしれません。

DX推進のため

リスキリングは、かならずしもDXのためのものではありません。しかし、DX推進のためリスキリングを実施する企業も増えている傾向にあります。

デジタル技術に精通した人材は採用市場での需要が高く、採用が難しいでしょう。そのため、既存の従業員にリスキリングを通じてデジタルスキルを習得させることで、DXの推進ができる人材の確保を図っているのです。

リスキリングの成功事例

次に、国内外の企業のリスキリング成功事例を紹介します。

国内企業のリスキリング成功事例

国内企業のリスキリング成功事例として、富士通株式会社の取り組みを紹介します。同社は、国内のグループ企業を含む約12万人の従業員を対象にリスキリングを実施。従業員が必要だと感じたタイミングで学べるよう、オンデマンド教育を拡充し、一人ひとりのスキルアップを支援しています。

また、キヤノン株式会社では、リスキリング施策の一環として2018年に「Canon Institute of Software Technology(CIST)」を設立しました。希望者をAIやクラウド技術を活用できるソフトウェアエンジニアへ育成し、社内で配置転換することでジョブチェンジを実現しています。

さらに、株式会社三菱UFJ銀行では、2019年3月から全従業員を対象にeラーニングを活用したデジタル教育を開始。業務の効率化やDX推進につなげる取り組みを進めています。

出典:Career & Growth Well-being (富士通)
https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/education/

出典:人材育成と成長支援取り組み (キヤノン)
https://global.canon/ja/sustainability/society/growth-development/initiatives/

出典:人材育成 (三菱UFJ銀行)
https://www.saiyo.bk.mufg.jp/education/

海外企業のリスキリング成功事例

続いて、海外企業におけるリスキリングの成功事例を紹介します。米国の老舗電話会社であるAT&T社は、2008年に従業員のスキルを検証したところ、全25万人のうち約10万人が、今後10年以内に不要になる可能性のあるハードウェア技術者であることが発覚しました。

そこで、同社は2018年に約1,500億円を投資し、従業員向けにリスキリングを実施。ソフトウェア技術者として再教育を行い、必要なスキルを習得させました。これにより、外部からソフトウェア技術者を採用するよりもコストを抑えつつ、従業員のキャリアの選択肢を広げることに成功しています。

また、Amazonも従業員のスキル向上とキャリアの発展を目的に、2025年までに30万人以上の従業員を対象としたスキルトレーニングの提供を発表しています。

出典:Our Upskilling Commitments (amazon)
https://www.aboutamazon.com/news/workplace/our-upskilling-2025-programs

リスキリングを導入する具体的な手順

次に、リスキリングを導入する具体的な手順を解説します。

現状分析・目標設定:自社のゴールを明確にする

リスキリングを実施する前に、自社の経営状況などの現状を評価し、今後の目標を設定することが大切です。目標に対してリスキリングを実施することで最終的にどのような状態を目指したいのか、ゴールも明確にしておきましょう。

業務効率化なのか、DX推進なのか、新規事業の開発のためなのか、目的別にリスキリング戦略を構築していくのがおすすめです。必要があれば、ポジションや部署を新設するのもよいでしょう。

学習プログラムの選定:最適な研修・学習方法を決める

ゴールが明確になったら、次は最適な研修・学習方法を決める必要があります。オンライン講座やインストラクター主導の学習、ワークショップ、教育機関の活用、自社内のカリキュラム開発など、さまざまな方法から最適な学習プログラムを選定しましょう。

従業員のモチベーション向上のために、学習方法やプログラムをいくつか用意し、自ら選んでもらうのもおすすめです。いずれにせよコストと成果のバランスを考慮し、選定するとよいかもしれません。

なお、学習状況は第三者から進捗を確認できる状態にしておくとよいでしょう。他社から見られている意識が、さらなるモチベーション向上につながる傾向にあります。

実践・運用:習得したスキルを業務に活かす仕組みをつくる

リスキリングを実施した後は、習得したスキルを実際の業務に活かすことが大切です。具体的には、習得したスキルをほかのメンバーに教えたり、社内勉強会やワークショップを開催したりする方法です。

学習後に現場で活かしながらアウトプットすることで、より強固な知識として定着させることができます。また、実践を通じて理解が深まり、応用力も向上するでしょう。

効果測定と改善:リスキリングの成果を可視化する

リスキリングの成果を、可視化するのもポイントです。まずはリスキリングを実施したメンバー自身に「どのようなスキルを習得したか」を棚卸ししてもらうとよいでしょう。

次に業務やプロジェクトが終了した際に上司や同僚から、メンバーのリスキリングの成果に対するフィードバックを行うのがおすすめ。改善点の洗い出しや、スキルのブラッシュアップに役立てることができます。

リスキリングを実施した直後は、成果が出づらいケースもあるでしょう。効果測定→改善といったサイクルを繰り返すことで、学びの成果を効果的に波及させることができます。

企業がリスキリングを成功させる5つのポイント

せっかくリスキリングを実施しても、学んだ成果を業務に活かせないと意味がないと感じるかもしれません。リスキリングを成功させるためのポイントは、以下の5点です。

  • ●    従業員のスキルギャップを分析する
  • ●    従業員のリスキリング意欲を高める仕組みをつくる
  • ●    助成金・補助金を活用する
  • ●    成果を可視化し、継続的な学習文化を定着させる
  • ●    従業員の意思を尊重して取り組む

一つずつみていきましょう。

ポイント① 従業員のスキルギャップを分析する

リスキリングを成功させるためには、従業員のスキルギャップを分析するのが大切です。リスキリングを実施する際は経営戦略に連動して人材戦略を固めていきますが、人材戦略を実現するために必要な人物像やスキルを明確にすることで、限られた研修リソースや予算を効果的に投資できます。

また、従業員の得手不得手を認識してどの分野において研修や教育が必要かを特定することで、効果的な学習プログラムを設計することができるでしょう。

ポイント② 従業員のリスキリング意欲を高める仕組みをつくる

従業員のリスキリングに対する意欲を高める仕組みづくりも、成功のために必要なポイントのひとつです。

たとえばリスキリングの成果を評価制度に組み込み、学びがキャリアアップや給与に直結する点を理解すれば、モチベーション高くリスキリングに取り組めるかもしれません。資格取得をした際に一時金が支給される「資格取得支援制度」なども、従業員の意欲を高める仕組みの一種です。

ほかにも、業務時間の一部を学習に充てても問題ない体制を整えたり、月に一度学習のための休暇を付与したりと、企業側が学習を推進する時間や体制を提供するのも効果的です。

ポイント③ 助成金・補助金を活用する

リスキリングを実施するには、多くのコストがかかります。適切に助成金や補助金を活用することで、企業の負担を軽減しながらリスキリングを実施できるでしょう。たとえば厚生労働省による「人材開発支援助成金」は、雇用する労働者に対して専門スキルや知識を習得させる際に、経費や訓練中の賃金の一部を企業に助成する制度です。

また、経済産業省による「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」では、労働者個人がキャリア相談を受けたり、受講したリスキリング講座の費用の一部を補助したりといった支援を行っています。

ポイント④ 成果を可視化し、継続的な学習文化を定着させる

リスキリングの成果を可視化し、従業員が継続的に学習に取り組める文化を定着させるのも大切です。たとえば定期的に勉強会を開催したり、従業員が学んだ成果を発表する場を設けたりするのもよいかもしれません。ほかには、自主的に学べるオンライン講座を導入するのも学習文化の定着に有効です。

ポイント⑤ 従業員の意思を尊重して取り組む

リスキリングを義務にせず、従業員の意思を尊重して取り組むのも成功させるポイントのひとつです。未知の領域を新たに学ぶことは、従業員にとって少なからず負荷がかかります。また、従業員自身に学ぶ意欲がないと、リスキリングを実施しても効率的に学びを深めることができないかもしれません。

最初は全員にリスキリングを実施するのではなく、意欲を持って挙手したメンバーのみを対象とするなど一人ひとりの意思を尊重して取り組むとよいでしょう。

リスキリングを通じて変化に強い企業へ生まれ変わろう

リスキリングは、技術革新や市場の変化に対応するため、企業が従業員に新たなスキルを習得させる戦略です。業務効率化やDX推進、人材不足への対応、従業員のエンゲージメント向上などに貢献します。

リスキリングを成功させるには、スキルギャップの分析や意欲を高める仕組みづくりが大切です。学習を継続しやすい労働環境に整えたり、リスキリングの成果が給与や評価に直結したりする仕組みを導入するのもよいでしょう。

目まぐるしく変化していくテクノロジーや市場環境では、常に変化をし続ける姿勢が求められます。リスキリングを通じて従業員一人ひとりのスキルアップを行い、変化に強い企業に生まれ変わるための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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