従業員の定着や成長につながるとして、副業を解禁する企業が昨今増加傾向にあります。とはいえ副業の解禁は、企業や従業員にとってメリットだけでなく思わぬリスクを生むこともあるため、解禁にあたっては正しい知識が必要です。
本記事では、そんな副業解禁のメリット・デメリット、近年の副業事情などについて解説しています。また、実際に副業を解禁した企業の事例も紹介していますので、副業の解禁や支援を検討する際にぜひ参考にしてみてください。
この記事でわかるポイント
- 働き方改革やキャリアの多様化により、副業を解禁する企業が増加しています
- 副業には収入増だけでなくスキルの向上や人脈拡大、企業にとっては人材定着など多くのメリットがあります
- 一方で、副業が与える本業への影響や、情報漏洩リスクといったデメリットも考慮が必要です
- 副業を推奨している株式会社SBI新生銀行や全日本航空株式会社などの事例も紹介しています
- 副業解禁にあたって、従業員との対話や明確なルール整備が重要です
なぜ今「副業」なのか?背景を解説
従業員の副業を解禁する企業が増えている背景には、以下のような要因があります。
政府の推奨や働き方改革の影響
日本の企業が副業解禁へと方針を転換しはじめた大きなきっかけは、2018年1月に厚生労働省が策定した「副業・兼業促進ガイドライン」にあります。
同ガイドラインでは、企業に対して「原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる」との呼びかけがなされ、国として副業・兼業を推奨する姿勢が明確に示されました。
また、多くの企業で「働き方改革」が進んだ結果、時間や場所に縛られない仕事が増加したことや、残業の削減で減少した収入の補填を望む声が大きくなったことも副業解禁の流れに拍車をかけています。
出典:副業・兼業の促進に関するガイドライン (厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
終身雇用の崩壊とキャリアの多様化
副業解禁のニーズが拡大している要因としては、長年の景気低迷による終身雇用の崩壊も挙げられます。同じ企業に勤め続けても確実に収入が上昇するとは限らない、先行きの不透明な現代において、複数の収入源やキャリアを持つことはリスクヘッジとしても有効です。
ほかには、転職や中途採用が一般的となり、労働者のキャリアが多様化していることも副業希望者の増加に影響を与えています。本業を持ちながら別な仕事に挑戦できる副業は、労働者にとってやりがいやスキルアップの面でも魅力的な選択肢となっています。
副業のメリット
従業員が副業を行うことは、従業員と企業の双方に多くの利益をもたらします。ここからは、そんな副業解禁によって期待できるメリットを紹介します。
従業員の収入増加
得られる収入の額や経費は副業の内容によっても異なりますが、多くの場合副業を持つことは従業員の収入を増加させ、生活の安定につながります。
また、収入の不安が軽減されることは、従業員のメンタルにも良い影響を与えます。その結果、本業においても生産性やモチベーションの向上が期待できます。
従業員の成長・スキルアップの促進
本業とは異なる仕事や環境に身を置くことで、新たな知識や技術が身につき、人材の成長や市場価値の向上が見込めることも副業のメリットです。
副業により獲得されたスキルは、担当できる業務の幅を広げ、既存の業務の質や生産性も高めます。さらに、そのスキルがきっかけで新たなビジネスやプロジェクトが立ち上がる場合もあるなど、本業の所属企業にも多くの面で利益をもたらします。
従業員の人脈の拡大
副業を行うことで得られるものには、社外の人間や他の企業・組織との新たな結びつきも含まれます。なかでも、本業とは別の業種の副業を選択した場合には、それまでとは全く異なる人脈の開拓が期待できます。
副業によって築かれた人脈は、従業員の知見を広げ、時として本業に活かされることもあります。そのほか、趣味など仕事以外のつながりや新しいキャリアに発展する場合もあり、従業員自身にとっては退職後も役立つ財産となるでしょう。
優秀な人材の確保・離職防止
企業が従業員の副業を認めて積極的に支援することは、従業員や求職者にとって定着や志望の動機にもなります。現時点で副業の予定がない人材にとっても、副業を希望した際に受け入れてくれる職場であることは心理的に大きな安心材料となるでしょう。
特に、優れた能力を持つ人材は幅広い仕事に挑戦しようとする傾向があり、転職市場における価値も高いため、ひとつの環境に留め置くことは容易ではありません。副業の解禁は、そうした人材の確保や流出防止にも効果的な取り組みです。
副業のデメリット
上記のようなメリットの一方で、副業にはデメリットも存在します。副業の解禁や支援にあたっては、以下のようなリスクを把握したうえで検討することが大切です。
本業への影響
本業の合間の時間に別な仕事を行う副業は、過重労働や睡眠時間の減少の原因となります。こうした副業によって生じるストレスは、従業員の心身に健康に悪影響を与え、本業のパフォーマンスを低下させることもあります。
一方で、勤務時間外かつ社外で行われる副業の労働状況を、本業の所属企業がすべて把握・管理することは現実的ではありません。そのため、対策が従業員の自己管理に委ねられる点も企業にとってはリスクといえます。
情報漏洩・その他コンプライアンス違反のリスク
副業には、業務を通じて顧客や社員の個人情報、会社独自のノウハウなどの秘密が流出する危険性もあります。情報の管理に関しても、従業員自身の努力に委ねられる面は大きく、会社としての対策には限界があります。
ほかにも、同業他社に勤務することをはじめとした競業避止義務違反など、同一人物が複数の企業や仕事で働くことには多くの法的リスクが存在するため注意が必要です。
いまどきの副業事情とは?
ここからは、昨今の副業の実態と、すでに副業を解禁している企業の事例を紹介します。
副業として人気の仕事
2024年にパーソルが実施したアンケート調査では、社会人15,000人を対象に「現在行っている副業の内容」を質問したところ、以下のような仕事が多く挙げられました。
- 1位:「サービス業(接客・販売)」…21.3%
- 2位:「株/FX」…18.4%
- 3位:「ネットビジネス(通販・アフィリエイト・ネットショップ運営)」…10.6%
https://doda.jp/guide/fukugyo/
また、前回調査からの伸び率では「講師/家庭教師/試験監督」が最も高く、その割合は前回比で1.5ptアップとなる6.3%を記録しました。こうした結果の要因としては、昨今のリスキリングへの関心の高まりや、それに伴う資格試験受講者の増加などが考えられます。
副業を推奨・支援している企業の事例
すでに副業を解禁している企業のなかには、独自の取り組みによって従業員の副業を推奨・支援している企業も数多く存在します。
株式会社SBI新生銀行
株式会社SBI新生銀行では、競合への就業禁止や深夜業務の禁止といった厳格なルールを設けたうえで、2018年4月より副業・兼業を解禁しています。
同社の副業に対する姿勢の特徴は、従業員として雇用される「他者雇用型」の副業だけでなく、業務委託といった「個人事業主型」の副業も認めている点にあります。この体制により、同社では従業員自身が新たなビジネスを立ち上げることも可能となっています。
出典:多様な働き方を後押しするための副業のサポート実施について (新生銀行グループ)
https://corp.sbishinseibank.co.jp/ja/news-archive/news-archive1/news20191227103052/main/0/link/191227_workstylereform_j.pdf
全日本空輸株式会社
「ANA」の略称で知られる全日本空輸株式会社では、以前より非雇用型の兼業は認めていたものの、コロナ禍をきっかけに2020年10月から雇用による兼業も解禁されました。
副業解禁の狙いとしては、「従業員の経験やスキルの向上」を目的のひとつに掲げており、希望者に対しては会社が副業・兼業先を紹介しています。また、雇用による兼業は管理モデルに沿った実施を義務づけ、労働時間管理の負担を軽減しているのも同社の特徴です。
出典:副業・兼業に取り組む企業の事例について (厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001079974.pdf
企業はどう副業と向き合うべき?
ここまで紹介した内容を踏まえ、最後に副業に対する企業の向き合い方を解説します。副業の解禁にあたり、企業には以下のような取り組みが求められます。
明確なポリシー・ルールの策定
トラブルや不利益を回避するためにも、副業を解禁する際には明確な基準を設けることが大前提となります。生じるリスクは副業の種類や形態によっても異なるため、場合によっては副業の内容に制限をかけつつ、あらゆる事態に対応できるよう制度設計を行いましょう。
また、ポリシーやルールを策定した後は、その内容を社員に向けて周知することも大切です。特に、従業員に積極的に副業をしてほしい場合には、解禁の背景にある目的や意図も伝えると従業員のモチベーションをさらに高めることができます。
本業への影響を防ぐ体制の整備
副業の実態管理は、単にルールを設けただけでは不十分です。一人ひとりの副業の労働状況を、会社側が正確に把握できる仕組みもあわせて構築する必要があります。
具体的には、副業の労働時間や健康状態に関して、従業員自らが会社に報告する機会を定期的に設けることが望ましいでしょう。こうした実態管理は人事部門だけで行うのではなく、従業員の所属部署の上長などと連携するとより効果的に実施できるはずです。
コミュニケーションの機会の設定
社会全体で解禁が進んでいるとはいえ、副業のハードルはまだ高く、従業員は副業に関して多くの不安や疑問を抱えています。また、現状では副業を行っている労働者の数も少なく、相談先や情報源も十分とはいえません。
そのため、副業を解禁した後も企業には従業員と絶えずコミュニケーションを続け、適切なサポートを実施していくことが求められます。企業の寄り添う姿勢が伝われば、従業員も悩みを打ち明けやすくなり、トラブルが発生した際も早期解決が見込めるでしょう。
まとめ
本記事では、昨今解禁が進む副業の現状や、副業に関して知っておきたい情報を解説しました。ここまで紹介した通り、副業の解禁は従業員と企業の双方に多くのメリットをもたらす一方で、少なからずデメリットやリスクも存在します。
また、副業をめぐる企業の動きは現在過渡期にあり、今後状況が変わることも考えられます。そのため副業への向き合い方を検討する際は、社会の変化にも目を向けつつ、組織に合った形を模索していくことが重要となるでしょう。

