100人100通りのはたらき方は、福利厚生じゃない。サイボウズ株式会社が事業成長のために多様なマッチングを尊重するワケ

サイボウズ株式会社は、「チームワークあふれる社会を創る」を掲げるグループウェアの会社です。その独自の人事制度は先進的かつ常にアップデートされることが特徴で、従来掲げていた「100人100通りの働き方」も、2024年に「100人100通りのマッチング」へと進化させるなど、常に注目を浴びています。

人事ポリシーにも「チームの生産性とメンバーの幸福」を掲げ、人的資本経営を推進している同社。社内のチームワークと社員の“はたらくWell-being”はどのように実現しているのか。人事本部の恩田さんに、お話を聞きました(※以下敬称略)。

プロフィール:

恩田 志保
サイボウズ株式会社
人事本部 副本部長

この記事でわかるポイント

  • サイボウズは「100人100通りの働き方」を「100人100通りのマッチング」へ進化させました
  • 多様な働き方を制度化し、時間や場所の選択肢を広げる取り組みを2007年から実施しています
  • 個人の希望とチームの理想をすり合わせることで、成果と幸福の両立を目指しています
  • 制度は福利厚生ではなく、生産性向上を目的とした人的資本経営の一環です
  • 毎年のヒアリングで個々の働き方と報酬の希望を言語化し、上司と調整しています

離職率28%。企業規模拡大に伴う「サイボウズのはたらき方」の再定義

――貴社は、世間ではたらき方の多様化と叫ばれるようになるもっと以前から、独自のはたらき方を実践されている印象があります。「100人100通りのマッチング」など、個人の希望を尊重する形で人的資本経営に踏み出した経緯を教えてください。

恩田:サイボウズは、1997年に創業したグループウェアの会社です。2000年8月に東証上場、2006年7月に東証一部上場と事業規模の拡大をしていく中で、M&Aにより多様な文化が混ざり合った影響もあり、2005年に離職率が28%となってしまいました。ともにはたらく仲間が定着しない状態では、企業としての継続的な成長は難しいと考え、改めて「サイボウズのはたらき方とは?」を見直しました。一人ひとりに向き合い、多様なはたらき方を受け入れる体制作りを人事戦略の一つとして取り組み始めたんです。

――どのように進めていったのでしょうか?

恩田:最初は、改善点を見つけるために離職者に対して「なぜ辞めるのか?」を聞くことから始めましたね。でも、理由は本当にさまざまで...。いろいろな人事施策を試しては、たくさん失敗してきた経験があります。「100人100通り」に辿り着くには、大きく分けて3つの過程があったと思います。まずは、「はたらく時間の選択肢」を広げたことです。

2007年に導入した「選択型人事制度」は、当時「長い時間はたらく人が成果を出す」という価値観を見直し、ワークライフバランスに配慮した制度です。残業なし・もしくは短時間勤務のライフ重視型(DS)と、月間残業時間40時間程度のワークライフバランス型(PS)。仕事にどのくらい時間を割きたいのか?は一人ひとり違って当たり前ですし、同じ人でもタイミングによって変化するものです。希望に合わせて、はたらきたい人ははたらく、ライフを重視したい人はライフを重視する。「お互いの価値観を尊重し、チームで協力して事業を成長させていこう」というメッセージを添えていました。

――2007年は内閣府が「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を定めた年ですよね。時代の流れはありつつ、実現が早い印象ですね。

恩田:世の中の流れに合わせたのではなく、そういう希望を持ったメンバーがいて、そのメンバーと向き合うところから始まったので、そのおかげかもしれないですね。次に着手したのが「はたらく場所の選択肢」を増やす取り組み。2010年に在宅勤務制度を導入しました。これもきっかけの1つはメンバーの産休育休後のはたらき方についての悩みだったのです。「出勤できる時間は限られているけれど、もし自宅でもはたらけるようになればもう少しチームの力になれる」という前向きな意見がでたんです。仕事が嫌で辞めたいわけではなく、はたらきたいけど今の制度では難しいとなった時に、それならば我々はグループウェアの会社ですから工夫ができるのでは、と考え導入しました。

その後、時間と場所を掛け合わせたはたらき方を9種類にわけたはたらき方を提示しました。一人ひとりに「今年はどの選択肢が良いか?」を選択して宣言してもらう「選択型人事制度」ですね。振り返ると、これらの取り組みの頃から「どんなはたらき方をしたいのか」を本人が考え、上司が認識を合わせる環境づくりはずっと続けていますね。

――一人ひとりの悩みごとに目を向けて解決していった結果、その取り組みが先進的と捉えられるようになったのですね。1つの会社には1つの人事制度が当たり前だと思っていたので、9種類もの中から「自分のはたらき方を自分で選べる」となると、健やかにはたらけそうです。

恩田:と思っていたのですが、いざやってみると十分ではなかったんですよ。9つの枠の中でも多様さが出てきてしまい、この枠を使うことでかえってコミュニケーションが複雑になってしまったのです。それならば、枠の中で帳尻を合わせるよりも、いっそのこと一人ひとりに「私は何時から何時まで、どこでどのようにはたらいてどういう成果を出すか」を提示してもらい、それに対して会社が「こういうはたらき方はどうですか?」とオファーするほうが合理的だという結論になったのです。これが、2018年からはじまった「新働き方宣言制度」です。

2012年に「100人100通りの働き方」、さらにそれを2024年「100人100通りのマッチング」と変更して大きく打ち出しましたが、実は一人ひとりの希望のはたらき方を尊重するということは2007年頃から取り組んでいたんですよね。一人ひとりと向き合うのは一見手間がかかると思われがちなのですが、すり合わせをきちんとすることで結果として、はたらきがいに繋がり、成果が生まれ、チームの生産性の向上、さらに事業の永続的な成長につながります。なので、すごく合理的な取り組みだと感じています。

――キャッチーな言葉ゆえ突然生まれた印象でしたが、そもそもの風土としてあったものだったのですね。ちなみに、「100人100通りの働き方」から「100人100通りのマッチング」に変更したのは、なぜですか?

ありがたくも「100人100通りの働き方」が話題になり、サイボウズのある種の顔として浸透したものの、本来の意図とは異なる捉え方をされてしまうようになったのが大きな原因です。前述した通り、個人の健やかなはたらき方を叶えることでチームの生産性の向上、さらに事業の永続的な成長を目指していたはずが、「個人のすべての希望をかなえられる」というメッセージの受け止められ方をされることが増えてしまって。

実際、個人の幸せに寄りすぎたコミュニケーションも見られたので、今一度、企業活動の本質に立ち返り、サイボウズとしては「チームとしての幸せ」に視点を戻そうということになったんです。

サイボウズではたらくメンバー一人ひとりが、所属するチームで幸せにはたらき、成果を出すことで、「チームワークあふれる社会を創る」ことにつながる。事業の成長という大切な軸を見失わないために、表現を変更しました。社外からは「大きな変革だ!」と言われることも多かったのですが、自社内の反応としては「今までやってきたことの本質を見つめ直すために言葉を調整しただけ」という認識で、大きな混乱などはそこまでなかったですね。

チームに貢献するための「わがまま」は、はたらく幸せの種になる

――はたらき方の多様化において、「個人の希望を尊重する」と聞くと確かになんでも受け入れてもらえそうな気がしてしまいますが、まずは企業の成長ありき、ですよね。

会社が人事制度を増やすのは、それによって生産性が向上し、事業成長につながると考えるからです。福利厚生ではありません。本質に立ち返り、同時にこのメッセージも合わせて伝えることで、誤った認識から正しい方向へと軌道修正できた気がします。

――「100人100通りのマッチング」をどう実現しているのかが気になるのですが、今社員の方々は1,000名以上いらっしゃるとのことで、もはやはたらき方は1,000通りになるということですよね。どうやって全員にヒアリングしているんですか?

恩田:チームごとのヒアリングは部長が担当し、部長のヒアリングは本部長と、全員に対してヒアリングを行っています。毎年給与評価の時期に条件をマッチングすることになっているんです。

項目としては、本人からチームに対してどのように貢献したいのか、給与についてはどのような希望を持っているのかを聞いています。その内容をもとに、マネジャーも、チームから見た貢献度や社内需給などを考慮して、業務内容やはたらき方、給与といった条件を整理しています。採用競争力や給与相場を踏まえた給与レンジを公開し、マネジャーはオファー内容についての説明責任を果たします。

――自分の希望を毎年伝えられるのは魅力的であると感じる一方で、まず自分の希望を言語化する必要がありますね。

恩田:そうですね。はたらくことによって何を得たいのか?どんな幸せを感じたいのか?は、個人で考えてもらう必要があります。仕事で得られる報酬は必ずしも給与だけではなくて、「こういうチームではたらけると嬉しい」「こういうふうに成長していけると幸せ」などそれぞれの価値観が入り混ざってきますから、自分が報酬だと感じられるものは何かを改めて考えてみましょう、という問い掛けは欠かせません。いくら会社が制度を整えても、自分にとっての幸福をわかっていないと実現できないので、まずはここが一番大事なんじゃないかなと思います。

その上で、ただ個人の幸せだけを実現するだけではチームとしての成果をあげられない。なので、マネージャーとメンバーが一緒にチームとしての目標と個人の幸せをすり合わせていく必要があります。各チームがはたらき方のポリシーを掲げ、メンバーはどう自分が貢献するかを常に意識しながらはたらく環境になっているのは、弊社の特徴かもしれないですね。

――条件のマッチングやチームとの連結具合など、常に現在地を見据えているからこそ、これほどアップデートもしていけるのですね。

「自分らしくはたらく」とはどういうことか、人事部としても正解に辿り着けたわけではなく、アップデートし続けている途中です。今時点での一つの解は、「サイボウズで、このチームではたらけてよかったな」と実感できること。いろんな選択肢の中からサイボウズを選び、このチームを選んでいるわけです。それは、チームの理想と自分の理想が重なるところがあるからで、そんなチームの中で貢献できたらやりがいを感じられるのではないでしょうか。その先にはさらに、「チームワークあふれる社会を創る」という会社のパーパスにつながる活動に貢献できたと思える機会があって、それを幸せだと思うから、サイボウズではたらく価値となる。まずは「このチームではたらけて幸せだ」と思える状態が、サイボウズ流の“はたらくWell-being”だと考えています。

チームの理想が、個人の理想を引き上げる

――今後、貴社はどのようなことに取り組んでいくのですか?

恩田:メンバーとマネージャーによるチームごとのすり合わせができてきた次の段階としては、「マネージャーが期待を伝えられるようになること」を重要視していきたいです。自分に対して期待をかけてもらえるというのは、「こんなふうにチームに貢献できるんだ」という新たな発見にもつながると考えています。期待に応えたいとの想いがチャレンジや成長のきっかけになると、はたらくやりがいも感じられるはずです。

――ますます、自分のはたらきが「チームワークあふれる社会を創る」というパーパスに接続されていくようですね。

恩田:まさにそうですね。具体的には、毎年行っているマネージャー研修に「理想マネジメント」というのを予定しています。マネジャーが、会社の理想や中期戦略への理解をより深めて、自分のチームや自身の理想との接続を考える。そして、それをメンバーに伝えることで、メンバーはチームの理想と個人の理想との接続を考えられる、という順番です。そうすることでメンバーは、自分が思い描いていた理想よりも一つ上の理想を意識して活動できるようになると考えています。

まだまだ手探りですし、理想に届いていないことももちろんあります。それでも、我々人事部は「チームの生産性とメンバーの幸福」というポリシーを見失うことなく、一人ひとりのはたらく幸せを支援していきたいですね。

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