企業の成長と社会の活性化を支える「健康経営」を~はたらくWell-being AWARDS 受賞者の素顔~

経済産業省は、健康長寿社会の実現に向けた取り組みの1つとして、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」を推進しています。2014年から、東京証券取引所の上場企業の中から特に優れた健康経営を行う企業を選定する「健康経営銘柄」制度をスタートし、さらに2017年には日本健康会議と共同で、上場企業以外でも健康経営銘柄が取得できる「健康経営優良法人認定」制度も始まりました。

企業の「健康経営」の重要性が高まるなか、株式会社イブキは健康経営やダイバーシティ経営推進のコンサルティングやwebサービスを提供しています。創業したのは、2015年に株式会社DeNAで健康&ウェルビーイング経営の専門部署、CHO(Chief Health Officer)室を立ち上げ、健康経営銘柄取得の立役者として活躍した平井 孝幸さんです。はたらくうえで欠かせない「健康」に注力するようになった理由、そして平井さんの“はたらくWell-being”を聞きました。

プロフィール:

平井 孝幸さん
2015年にDeNAで健康&ウェルビーイング経営の専門部署を立ち上げ、南場会長にCHO(Chiief Health Officer)への就任を要請し、健康経営銘柄を2年連続で取得するなど、7年間の活動を経て独立。現在は㈱イブキの代表取締役として、主に大企業の健康経営やダイバーシティ経営推進のコンサルティングやwebサービス提供(1Minute1Action)を行う。ゴルフ上達×健康増進事業も展開し、プロゴルファーや医師と55歳以上向けの動画プログラムや施設運営(神田)を手がける。著書に『仕事で成果を出し続ける人が最高のコンディションを毎日維持するためにしていること』(東洋経済新報社刊)。「はたらくWell-being AWARDS 2025」新たなはたらき方部門を受賞。

営業の現場で芽生えた、自分のスキルを生かしたい思い

――DeNAでCHO室を立ち上げ、健康経営銘柄の取得に寄与。その後、独立されたとお伺いしましたが、もともと起業への思いがあったのでしょうか?

学生の頃から「いつかは」と考えていましたね。きっかけは、大学4年生のときに起業家育成のインターンシップにたまたま参加したことです。当時、周りが就職活動に精を入れるなか、私は入りたい会社が見つからず本腰を入れられない時期でした。そんなタイミングで、インターンシップを通じて初めて起業家と呼ばれる人たちに出会い、仕事やはたらくことに対する熱意に圧倒されたことを覚えています。自然と「自分もいつかはこういう生き方をしたい」と思いましたね。そのインターンシップで、のちに入社することになるDeNAを紹介してもらいました。

――のちに入社する、ということは新卒では入社しなかった?

はい。有難いことに入社させていただけることになったのですが、なぜか魔が差して、ファーストキャリアはメーカー系のベンチャー企業に入社しました。営業職だったので、とにかく外回りをし続ける毎日。「名刺を配ってこい」と言われれば、担当エリア内の全中小企業をリストアップして訪問し名刺を渡して、商談の場を設ける、を繰り返していて、同期の中でもかなりハードにはたらいていました。そうした行動量が一因となり、嬉しいことに営業成績も上々で、自分には何かを売る力、いわゆるセールス力があると気がついたんです。ですが半年ほど経った頃、自分のそのスキルを上手く生かしきれていないように感じてしまって。

――というと?

売り先の企業が、自分が売った商品により、その後永続的に幸せになるかと客観的に考えたとき、実はそれほど必要のないものを売り込んでいるような気がしてしまったんです。もちろん、本当に必要で欲しくてご契約いただく場合もありますが一方で、「平井くんに言われたから」と関係性からご契約いただくこともあり……そのときに、「せっかく売る力があるのなら、売り先がもれなくみんな幸せになるもの、そして社会も幸せになるになるものを売りたい」と思うようになり、結果として会社を辞め、模索期間に突入しました。

人生を賭けるテーマを探し求め、そして出会った「健康」

――模索期間に突入、ですか。

自分も相手も、そして社会も幸せになるものはなんだろうと、半年間をキャリアブレイクの期間として図書館にこもりました。何のテーマも決めず、毎日通っては気になった本を手当たり次第に読み漁っていたんです。何百冊と読み進めるうちに、ふと気がつくと「健康」に関する本ばかり読んでいたんですよ(笑)。時間だけはたくさんあったので、本で読んだ健康法や運動法などを実際に自分の生活に取り入れ、これまた手当たり次第実践してみました。

「健康」って面白くて、実践してみると腰痛が改善されたり姿勢が良くなったり、必ず変化があるんです。「健康」であれば相手も幸せになるし、健康長寿社会に貢献できれば社会も幸せ、そもそも自分も幸せで、一挙三得。「健康」に関する仕事をしたいと思い、ちょうどその頃は食生活に興味があったことから野菜・農業関係のベンチャー企業へ就職することにしました。

――「何を売るか」を見極める半年間で、「健康」に辿り着いたのですね。

……と私も思っていたのですが、振り返ると実は、高校生のときからその片鱗があったように思います。というのも、ゴルフ部だった私は、とにかく上手くなりたい一心で、「長時間練習したい。そのためには、長時間練習できる身体づくりが必要だ」と考え、当時から歩き方や普段の姿勢、食生活を見直し、ベストなライフスタイルを模索していたんです。

――高校生のときから!?

ですが、そのときは「健康になりたい」というわけではなく、それよりも「ゴルフがうまくなりたい」が第一優先でした。結果的に風邪や腰痛などに悩むことはなく、健康にはなりましたが、もしかするとその経験が最初の原体験かもしれません。

野菜・農業関係ベンチャー企業に入社してからは、食に関わる業務を行いながら、嬉しいことにゴルフ事業の会社を立ち上げさせてもらえることになりました。そこで約7年間、ゴルフ上達施設の運営責任者を行っていました。そんななか、2011年に東日本大震災が起こります。震災を契機にこれからのキャリアを考え、「好きなことだけではなく、より社会に貢献できる仕事をしたい」と思うようになり、学生時代に不義理なことをしながらも懇意にしていただいていたDeNAに入社しました。

「健康経営」を極めるために、ついに起業へ

――2011年に入社し、2015年にCHO室を立ち上げるまでの4年間は何をしていたのでしょうか?

総務や人事など、別の業務を担当していました。ただ、あるとき同僚から「腰痛に悩んでいる」と相談されたんです。そして、ふと周りを見渡してみると、彼だけでなく健康面での悩みを抱えている社員が多いことに気がつきまして。腰痛をはじめ、メタボや睡眠不足などの病院に行くほどではない不調に悩んでいる彼らを見て、もしかしたらベストなパフォーマンスを発揮できていないのではないかと思うようになりました。そこで最初は、ゴムチューブを使った独自の健康グッズを作り、同僚たちに配り歩いていたんです(笑)。

――独自の健康グッズ!?人事の役割を超えていますね。

50個近く自作して、渡したかな。相談されたら、アドバイスをすることもありました。すると同僚たちから、「腰痛が和らいだ」「仕事に集中できるようになった」といった明るい声が聞こえるようになったんですね。

そんなタイミングで雑誌に特集されていた「健康経営」の文字をたまたま見つけ、「これだ!」と。「健康」と言っても、食事や姿勢・オーラルケア・スポーツ・睡眠など様々な分野があります。ですが「健康経営」はすべてを網羅していて、かつ従業員の健康状態を向上させることで国から評価され、企業価値向上にも繋がる可能性がある。「趣味だった健康が、仕事になるかもしれない」とチャンスを感じ、急いで企画書をつくりCHO室の立ち上げを会長の南場さんにプレゼンしました。何度も話し合いを重ねた末、2015年にCHO室を設立。その後ヘルスリテラシーを高めるセミナー開催や、ポスターでの啓発活動などの取り組みから始め、結果として2019年から2年連続で「健康経営銘柄」に選定されました。

――お話をお伺いしていると、「健康」のことになった途端、自らのライフスタイルでの実践や表彰を獲得されるなど、平井さんのエンジンが加速する印象がありますね。

やっぱり、やりたいことだし、好きだからでしょうね。そもそも私は、好きなことにしか情熱を傾けられないタイプなのだと思います。今となっては笑い話の1つですが、「健康経営」を始めるまでの4年間は、同僚から言わせれば「まったくバリューを発揮していなかった」そうです。確かにパソコン作業も苦手で低水準のアウトプットしか出せていなかっただろうし……そんな自分を受け入れてくれて、CHO室の設立も叶えてくれたDeNAの懐の大きさには、今でも感謝しかありません。

だからこそ、今は起業し「健康経営」について考え続けられること、そして事業として「健康経営」に取り組む企業に必要なサービスを提供するために自らのセールススキルを使えることが、とても“はたらくWell-being”だと感じています。自分のやりたいこと、他者が求めていること、社会が求めていることの私なりの最大公約数を見つけていった先に、「健康経営」がありました。

健康の本質は「引き算」。健康経営が導く、個人と社会の未来

――「健康」ははたらくうえでも重要ですし、生きることにも直結していますよね。

健康というのは、悩み・課題がない状態だと私は考えています。そもそも健康は生きる上でのベースなので、プラスではなく引き算だと捉えていて。今ある不調を改善し、不調がない状態をいかにキープできるかが重要です。

なので、相手の行動変容を起こせたときに大きなやりがいを感じますね。たとえば、予防目的で歯医者さんに行く回数が増えたと報告を受けたり、食生活を改善したことで日中に眠くならなくなったと言われたり。健康に気を使うことは、その人の人生を変えることにも繋がります。起業してから、そうした声をより広くいただけるようになったことが幸せですね。

――昨今、企業の「健康経営」に注目が集まっていますが、平井さんはどう感じていますか?

まだまだ伸びしろがあるなと感じています。「体調不良だけど休むほどではない」と思いながら、はたらいた経験ってありませんか? 軽度の健康リスクによる生産性損失のことをプレゼンティズムと言うのですが、DeNA時代に専門家の協力を得て独自の基準で算出したところ、プレゼンティズムによるDeNAの経済損失は年間で推計23.6億円になることが分かりました。これは、あくまで1企業の数字です。

企業が質の高い健康経営を行うようになれば、結果として日本社会の活性化にも繋がっていくと考えています。先ほどの経済損失も、日本社会に当てはめて考えたらいや数千億~数兆円になるはずです。それだけでなく、個人の生活に寄せて考えても、ヘルスリテラシーが高まり健康に気を使うようになることで、人生100年時代における健康寿命を伸ばすことにもなりますし、何より不調による本人の苦しみや身近な人の苦しみを減らすことにも。自分、相手、そして社会にとって必要な「健康」を、これからも突き詰めていきたいです。

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