「10秒で即クビレ」。そんなキャッチコピーで2017年に販売がスタートした日本製コルセットブランド「Enchanted Corset(エンチャンテッドコルセット)」。発売当初はたった5分で完売したほどの人気ぶりで、話題を呼びました。
同ブランドの立ち上げ・開発・販売を手掛けるのは、Xのフォロワー数15万人超(2025年2月時点)の元鈴木さんこと、大橋 茉莉花さんです。29歳のときに会社を設立し、現在はアパレルブランドも立ち上げています。「20代は日銭を稼いで暮らしていました」という彼女は、どのようなキャリアを歩んできたのか。そして経営者になったことで見えた“はたらくWell-being”を聞きました。
プロフィール:
大橋 茉莉花さん
実業家、インフルエンサー。株式会社Alyo取締役社長。1988年生まれ。獨協大学外国語学部を卒業後、アルバイトなどをしながら26歳までその日暮らしをした後、ウェブの美容ライター、エッセイストとなる。29歳でAlyoを設立。アパレルブランドの「CINEMATIQ」「SERPENTINA」、コルセットブランド「Enchanted Corset」に続き、2024年にはナチュラルスキンケアのJuwanを立ち上げる。「はたらくWell-being AWARDS 2025」ビジネス・行政部門を受賞。
目次
4ブランドを手掛ける実業家。モノづくりの起点は、お客様の声から
――大橋さんは実業家であり、インフルエンサーでもありますが、具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか?
会社の経営全般と、商品企画・広報が主な仕事ですね。今、株式会社Alyoでは6人の社員が在籍し、4つのブランドを運営しています。日本製コルセットブランド「Enchanted Corset」、600mlのペットボトルが入るマジカルポケット付きアイテムなどを販売するアパレルブランド「CINEMATIQ(シネマティック)」、クラシカルでありながら機能性を兼ね備えたアパレルブランド「SERPENTINA(セルペンティナ)」、そしてナチュラルオイルブランドの「Juwan(じゅわん)」。これらのブランドで販売するアイテムのほとんどを、私が企画しています。
――デザイン性はもちろんのこと、「10秒で即クビレ」のコルセットや、600mlのペットボトルが入るマジカルポケットなど実用的なアイテムばかりですよね。商品のアイデアがどのように生まれているのか気になります!
私のモノづくりは、お客様の声をもとに企画することがほとんどです!たとえば最近、マジカルポケットに加え、通常サイズのポケットもあるダブルポケット仕様のパンツを販売しています。これは、SNSで「マジカルポケットだけだと、サッと取り出したいスマホやリップの収納には向いていない」という声を見かけたことがきっかけでした。確かに大容量も良いけれど、用途に応じてポケットを分けられたほうがもっと良いと思い、商品を作りました。そもそも、マジカルポケット自体も「女性向けのお洋服にはポケットが少ない」という投稿を見かけたことが始まりです。
SNSはお客様の声を聞けるツールなので毎分毎秒チェックを欠かしませんし、SNSでいただいた質問にはできるだけ答えるようにしています。それに、「コルセットをつけて自信がついた!」「元鈴木さんのお洋服が好き!」といった声を直接いただけるのもSNSならではですよね。こうした声をいただくことで、社会の役に立てたという実感を得られるんです。
――確かに、アパレルショップでは、販売した後にお客様がどのように商品を楽しんでいるかを追うのは難しいですよね。
ありがたいことに売上は好調で、会社は今年で9期目を迎えることができました。ですが、恐らくまだまだ私が気づけていないお客様の課題もあると思っています。販売しているアイテムたちは自信をもっておすすめできますが、より良いものへと改善を重ねたい。
Enchanted Corsetも最初は1シリーズでしたが、お客様の声をもとに、コルセット初心者さんや産後の方におすすめのSylphide(シルフィード)シリーズ、メリハリボディを求める方向けのSirene(シレーヌ)シリーズ、長時間座る花嫁さんやオフィスワーカー向けのMiss Grace(ミスグレース)シリーズなど、現在は6シリーズまで拡大しています。お客様の声を形にしながら、より多くの人に喜んでもらえるアイテムを作り続けていきます。
就活せずにフリーター生活へ。バズった記事がきっかけでコルセット販売を決意
――そもそも、どうして大橋さんは会社を立ち上げたのでしょうか?もともと起業したい思いがあったとか?
恥ずかしながら、起業したのは友人から「法人にしたほうが税金安いよ」と言われたからなんです(笑)。正直、まさか自分が起業するなんて思ってもみませんでした。だって20代の頃の私は、その日暮らしができればいいと思いながらはたらいていたんですから。
――えっ、就職活動などは……?
まったくしていません!正確にいうと、大学生のときに一度だけリクルートスーツを着て就活説明会に行ったのですが、その初日で「私は社会人にはなれない」と思ってしまって。それは、やりたいことも熱意もなかったからです。当時は本心からやりたいこと・はたらきたい場所を見つけられなかったので志望動機を話せないし、やりたくないことを「やりたいです!」と言うこともできない。かといって、ありのままの自分では恐らくどこにも入社できないだろうなと感じ、結局就職せずに大学を卒業してフリーターになりました。
それからは、グラビアアイドルや神社の巫女、レストランの店員、地下アイドルなど様々なアルバイトをしながら食いつなぐ日々。転機になったのは今の夫との出会いでした。ライフステージの変化を意識するようになり、「このままのはたらき方じゃダメだ」「真面目に継続的にはたらいて、お金がほしい」と思うようになったんです。そこで始めたのが、イベントコンパニオンの仕事でした。毎日イベントや展示会の案内があり、応募してオーディションに合格したら仕事を受けるという仕組みで、そこでオーディションに合格するためにスタイルを良く見せようとコルセットを着るようになったんです。
――コルセットとは、そんな出会いがあったんですね。
でも、1日中ずっとハイヒールで立ちっぱなしの仕事はとにかくハードワークで、結局辞めてしまいました。次に何をしようかと思ったとき、「SNSで思いっきり好きなことを呟いて、暴れまわる」と決めたんです(笑)。今しかできないことを!と思い立って。結果、発信を続けることで影響力がつき、それがきっかけで「記事を書いてみない?」と声をかけてもらいウェブライターの仕事を始めました。
その中で、海外製コルセットを紹介する記事を書いたところ、たまたまバズったんですね。たしか、30万PVくらい反響があったかな。実際にコルセットを手に取ってくださる方も増えたのですが、海外製のコルセットは日本人の体型に合わず「長時間つけていると痛い」「苦しい」といった声を見かけるようになりました。
私も同じように感じていたので、「確かにな」と共感し、同時に「それなら私が日本製で作ったらいいじゃん!」と思い立ちまして。それで全財産200万円を資本に会社を立ち上げ、工場や生地メーカーを探して日本製コルセットの販売を決めました。
“適所”を探した20代。「役立てる場所」を見つけたかった
――20代で多様な「はたらく」経験を積んでいますが、アルバイト時代はどのように仕事を選んでいたのでしょうか?
若かったこともあり、承認欲求が最優先でしたね。可愛い制服や衣装を着て、目立ちたい!と思っていました。ただ、その中で今のはたらき方の原点になった出来事があります。
それは、アメリカンレストランでアルバイトをしていたときのこと。そのお店は店員1人が1テーブルを担当するスタイルで、ドリンクから配膳、片付けまで、オールマイティにこなさなければなりませんでした。実は、私は発達障害がありADHDの特性もあります。そのためかは分かりませんが、複数のことを同時に進行することが得意じゃないんです。なので、そのお店では、使えないアルバイト=私でした。ところが、1杯500円のショットを売るのだけはめちゃめちゃ得意だったんですよ(笑)。6時間で20万円ほど売り上げたこともありました。
――そんなに!苦手なことと得意なことがすごくハッキリしていたんですね。
そうなんです。「何にも向いていない」と焦燥感を感じていた時期だったので、余計に「役に立てることがあったんだ!」と嬉しくなりました。どうしたらもっと売れるのか、お客様にどうアピールしたらいいのかを自分なりに勉強して。お店に迷惑がかからないよう、クレーム対策を兼ねた伝え方・話し方の研究もしましたね。
すると社員さんも、1テーブルにつかせるよりも「自由に売らせたほうが良い」と思ったのか、私だけテーブルにつかず、ショットだけを売る役割を与えてくれたんです(笑)。
――大橋さんがはたらきやすい環境ができた。
そのときですかね、「もしかしたら私は、商人なのかもしれない」と思ったんです。人に何かを売ったり、売ることを通して喜んでもらえたりするのが私の得意分野なのかもしれないと。社会人はいろんな分野をスマートにできなくちゃいけないと思っていたけれど、適材適所の“適所”が見つかれば私にもできることがある、役に立てることがあると分かった経験は、大きな自信になりました。
――そう思うと、経営者は大橋さんにとっての“適所”なのでしょうか?
そうですね。今の仕事が一番自分に合っているし、好きだし、周りの人に還元できることも多い。自分の得意を最も発揮できる仕事です。加えて、有難いことに周りに頼れる仲間がたくさんいるので、自分にできないことは無理にできるようになるのではなく、周りを頼って手助けしてもらえるようになりました。
――「できない自分」を受け入れる葛藤や迷いはなかったのでしょうか?
なかったです。そもそも、実際の自分より大きく見せようとか、完璧でいようと思ったことがない。そうできないとわかっているし、そうしようと思ってもボロがでるのが私だから(笑)。
一方で、現場をとにかく大切にしていますね。ブランドのPOP UPには必ず私が立って接客し、商品の魅力をPRしています。人が足りなかったときは、ほぼ毎日POP UPに立っていたこともありましたね。立っているのが辛くてイベントコンパニオンを辞めたはずなのに!自分の得意を発揮できる、ありのままの私でいられる今の環境が“はたらくWell-being”に繋がっているんだと思います。
周りの“はたらくWell-being”を実現する、新たなステージへ
――20代はご自身の「はたらく」を模索し、今は「はたらく」ことに夢中になっている印象を受けます。
今、ようやく理想に近い生き方ができるというか、20代の私が「こうなったらいいな」と思っていた人生に近づいている気がしています。大した人間ではないし、社会人としてもまだまだな私が、それでもなんとかやれている姿をもっと社会に見せていきたいですね。完璧じゃなくても売り上げを作れるし、社会ではたらける。自分の持つ個性やスキルを含めて、自分らしくはたらける環境があることを、伝えていきたいです。
そしてこれからは、周りの人たちのWell-beingも考えていきたいと思っています。経営者として、自分だけでなく一緒にはたらくスタッフたちのWell-beingを担う立場。若い頃は、自分の身一つで、全部が自分の責任であり、したことは私にだけ返ってきました。ですが今は、私がした決断はスタッフたちにも影響を与えます。「周りの人の人生も守らなきゃいけない」という大きな責任感を感じていて、みんなが“はたらくWell-being”を感じられる環境を作ることが、今後の私の使命だと思っています。