神奈川県に本社をおく家具メーカー、株式会社オカムラ。オフィス環境事業をはじめ、教育・文化施設、医療・福祉施設、研究施設、商業施設など、幅広い空間事業を展開しています。
そんな株式会社オカムラは、はたらき方やはたらく場をさまざまなステークホルダーとともに考える「WORK MILL(ワークミル)」プロジェクトを2015年からスタート。ウェブマガジンの配信や、ビジネス誌の発刊、加えて東京・大阪・名古屋・福岡の4拠点で共創空間の運営をしています。
東京にある共創空間「Open Innovation Biotope "Sea"」で、コミュニティマネージャーを務めているのが、今回お話を聞いた岡本 栄理さんです。なぜ、オフィス家具メーカーの中でコミュニティマネージャーという職種を担うことになったのか。そして、「はたらく」を軸にした活動を行う中で、彼女にはどんな“はたらくWell-being”が見えたのでしょうか。
プロフィール:
岡本 栄理さん
大阪市出身。関西学院大学で社会学を学ぶ。
株式会社オカムラでは経理、営業事務、秘書を経て2017年6月よりWORK MILLコミュニティマネージャーに。「はたらく」をテーマにした共創空間・Open Innovation Biotope “Sea”を拠点に、全国の共創を創発するリーダーとして活動中。2023年6月より一般社団法人demoexpo理事に就任。街から万博を盛り上げる活動に力を入れている。「はたらくWell-being AWARDS 2025」FR(Future Generations Relations)部門を受賞。
目次
経理から営業アシスタント、秘書、そしてコミュニティマネージャーへ
――共創空間「Open Innovation Biotope "Sea"」にお伺いさせていただきましたが、とても素敵な空間ですね。
ありがとうございます!ここは、オカムラのWORK MILLプロジェクトが運営する共創空間の1つで、「波打ちまざり、つながる場」をコンセプトにしています。ビジネスマンだけでなく、周辺に住む方と交流することもありますし、学生とのワークショップの場として活用することもあるんですよ。
――その中で岡本さんは、コミュニティマネージャーを担っているんですよね。具体的にはどのようなお仕事をしているのですか?
共創空間を利用したイベント作りや、共創パートナーとのプロジェクト作りが主な仕事です。たとえばイベント作りでは、「はたらく」や「はたらき方」をテーマに、ゲストを招いたトークセッションを企画することもあれば、インターナショナルスクールの小学生と一緒に、好奇心が弾ける空間を考えるワークショップなんかも実施したことがあります。
プロジェクト作りでは、ディベロッパーの方とビル単位で「はたらき方」を考えるコミュニティ設計することもありますし、最近では赤坂にある商店会の方々と街づくりに関するプロジェクトも進めています。
――街づくり!?
そうなんです(笑)。共創空間Seaの最寄り駅が東京都の赤坂見附駅なのですが、せっかくこの街ではたらいているのに意外とこのエリアのことを知らないなと感じまして。そこで商店会の方をお繋ぎいただき、一緒に街歩きや語らいの場を開くことになりました。その中で、住んでいる方が意外といらっしゃることや歴史のある街だということを教えてもらい、そこから暮らす人とはたらく人を繋ぎ、ともに赤坂の街の未来を考えるプロジェクトに発展していきました。
――「はたらく」を起点に、お仕事が広がっているのを感じます。岡本さんは、いつからコミュニティマネージャーというポジションになったのですか?
コミュニティマネージャーになったのは、2017年6月からです。ただ、2年ぐらいは支社長の秘書と兼務で仕事をしていましたね。
――秘書と兼務!?いろいろ気になりますが、まずは岡本さんが歩んできたキャリアについて教えてください。
私は新卒で、株式会社オカムラの関西支社に経理として入社しました。2年ほど経ったあと、営業職のサポートをする営業アシスタントと兼務となり、10年弱はそこではたらいていました。その後、2017年に当時の支社長から「頼むわ!」と言われて秘書業務とコミュニティマネージャーという新しい仕事を兼務でスタートすることになりました。
2017年はWORK MILLプロジェクトが発足して2年が経ち、大阪で共創空間の設立が決まったタイミング。共創空間を担う役割、つまりコミュニティマネージャーをアサインする必要があって、支社長から「岡本がいいんじゃないか」と任命してもらったんですよ。
正確さと大胆さの間で。支社長のひと言で訪れたキャリアの転機
――どうして支社長は、岡本さんに声をかけたのでしょうか。
なんでしょうね……。あくまで主観的になりますが、私自身仕事が好きで、積極的に仕事を良くしていきたいという思いが強いタイプだからでしょうか。
当時から、より良くするために「もっとこうしたらいいんちゃいますか!」と提案することもありましたし、必要があれば話し合いの場を設けることもありました。コミュニケーションをとることも好きで、能動的に動くタイプではあって……そういった点を評価いただいたのかもしれません。
それに、WORK MILLプロジェクト自体は知っていて、「面白そうな活動やな」と興味を持っていたんです。
――コミュニティマネージャーを打診され、引き受けたあとは何から始められたのですか?
まずは、チーム作りから始めました。WORK MILLプロジェクトのリーダーからは、「とにかくやってみること!イベントを作ってみること!」と言われましたね。大阪の共創空間を知ってもらうにしても、共創空間からいろんな人と繋がるにしても、まずはその場で何かコトを起こさないといけないと。
チーム作りに関しては一任いただけたので、仕事観が近い人、部署の仕事と兼務になるので兼務でも楽しんでくれそうなメンバーを3人選び、チームを発足。最初のうちは社内のいろんな人に頼りながら、1ヶ月に1回のペースでなんとかイベントの企画と運営を繰り返していました。
同時に秘書業務もあったので、最初は頭の切り替えのアンバランスさに苦労しましたね。秘書業務は、スケジュール管理やドライバーさんとのやり取りなど、ミスなく正確に業務をこなすことが求められます。一方コミュニティマネージャーは、自ら考えて、動いて、とクリエイティブさが求められる役割。正確さと大胆さ、異なる役割を同時進行でこなす難しさがありました。ですが、支社長がそういったバランスの難しさを理解してくれていたこともあり、なんとか兼務を続けること2年。支社長が「岡本さんは絶対コミュニティマネージャー向いているから、専任にさせてあげて」と後押ししてくださり、専任担当になったんです。
――専任になる打診を受けたときはいかがでしたか。
正直、「嬉しいけど……」という感じでしたね。その理由は2つあって、1つはバックオフィス業務から離れる寂しさがあったこと。営業アシスタントや秘書に対して、「私が支えるんだ!」というモチベーションで頑張っていましたし、仕事へのプライドも芽生えていました。やりがいもあったし楽しくはたらけていたので、このままずっとバックオフィス業務でもいいなと思っていたんです。コミュニティマネージャーになると、今までとは関わるメンバーが大きく変わり、そこで築いた人間関係から離れてしまうことや、自分がいなくても回っていく状況に心細さを感じました。
もう1つは、人件費的な観点からの「いいのだろうか」という気持ち。私が専任の打診を受けたとき、東京以外の他拠点の共創空間では、コミュニティマネージャーは兼務がスタンダードだったんです。コミュニティマネージャーの「コ」の字も分からない私が、東京拠点以外で初の専任になるため、ポジションを確立させられるかということに不安がありましたね。
最終的には、「会社が私にその役割を求めてくれているなら一生懸命頑張ろう」と気持ちを切り替えました。実際は、専任として仕事に臨むなかで、「岡本さんがやるなら」と今までの人間関係にも大いに助けられましたし、たくさんの社員の方が応援したり協力したりしてくれたので、うまく走り出せた感覚がありましたね。
「社命」に導かれた天職。自分ゴトから生まれる“はたらくWell-being”
――お話を伺っていて、迷いながらも一つひとつ岡本さんが決意して進まれている印象を受けます。
いや~とんでもないです。もしかしたら「自分で決めた」ように映るかもしれませんが、私からすると自分で決めたことなんて何もないんです。素直にいうと、全部社命で(笑)。
専任のコミュニティマネージャーになることを断る選択肢もあったと思いますが、だいぶ共創活動も盛り上がっていて、「ここはもう覚悟を決めて専任になるしかない」という思いでした。企業に勤める身として、社命を受けるのは当たり前という感覚もありました。でも今となっては、この仕事が自分にとっての天職だと思えるし、“はたらくWell-being”も高い。もしこの先異動の打診があったら、きっと断っちゃいますね。
――なぜ「天職」だと思えるのでしょうか?
今、ライフとワークの境目がほぼない状態なんです。それは、自分の特性と仕事がしっかり結びついていると感じるから。
最初に配属された経理では、数字を合わせたり誤差を探して修正したりする業務が、私はとてもとても苦手でした。経理をしていた2年間、「退職して実家の和菓子屋に入ろうかな」と悩んだこともあります。そんなタイミングで営業アシスタントへ異動になり、初めて仕事が“自分ゴト化”しました。見積作りや電話の取次ぎをする中で、「営業職のみんなのために仕事をしよう」、つまり「誰かのために仕事をしよう」という考え方に変わって。役に立ちたいと思ったし、役に立てることが嬉しかった。
でも「営業職のみんな」は、異動で人が入れ替わりますよね。そこから勤務年数を重ねると営業アシスタントという職種に誇りも生まれ、「誰かのために」ではなく、だんだんと「人が異動したとしても、私がこの仕事をドシッと守るんだ」というモチベーションに変わっていきました。仕事として、役割として、頑張っていくという気持ちだったんです。
一方で、今のコミュニティマネージャーは、私自身を深く投入している感覚があります。仕事としてだけではなく、自分の性格や価値観、生き方すらも仕事に活かされて、また仕事を通じて耕されているんです。人や世の中への興味のアンテナがだいぶ広く高くなったし、共感や「これは大事だ!」と感じたことに真っ直ぐ進み行動することで、役に立てる実感がある。仕事というより“志事”と呼べるようなものに出会えるとは思っていなかったので、これからも大事に励んでいきたいですね。
――業務や役割を超えて、生き方に近くなっている。
そうですね。コミュニティマネージャーになりたての頃の私は、「仕事」や「はたらく」ことに対して、いち労働力に過ぎない私が物申すことに価値がないと思っていました。でも今は、自分が発信すること、動くことに、ちゃんと価値があると感じられています。自分の感情を信じて行動を起こしていいんだと思えるし、人と話すのが前よりも楽しくなった。勇気を持って自分の価値観を世の中に壁打ちすることで成長もするし、ちゃんと言葉や想いが強くなっていく。変な言い方ですが、誰かの借りて来た価値観ではなく、「本物」になっていく。そうすると仕事が完全に、“自分ゴト”になり、はたらくことが生きがいに、自然と繋がっていますね。
――「価値がある」と、どういったところで実感されるのでしょうか?
共創イベントやプロジェクトを進め、いろいろ語っていると、共鳴してくれる人が必ずいるんですよ。その場でちゃんと焚きつけられて、「なんかちょっと頑張ってみようかな」とか「やってみようかな」って踏み出してくれる人がいるんです。
ここ最近メディアやSNSを見ると、前進することに対して批判を受けやすい雰囲気があって、チャレンジしたり一歩を踏み出したりする人が少なくなってしまったなと感じています。誤解を恐れずに言うと、良くも悪くも人は空気に飲まれやすい生き物だと私は思っています。「不景気だ」と言われれば消費を控えるようになるし、「仕事は苦痛だ」と言われればそういうものだと思ってしまう。だから、いかに空気をかき混ぜられるか、変化を起こしていけるかだと私は考えています。
一人ひとりの小さな前向きな変化は共鳴し、広がっていくものだと思います。灯をお互いにくべ合うような温かい関係性がどれだけあるかということが、これからの時代とても大きな価値になっていくと思っていて。そんな関係性をたくさん人と人の間に築き上げていくのがコミュニティマネージャーの役割です。
この仕事を通して感じるのは、現実は今ここから創っていけるということ。人と語り合い価値観を育て合う中で、新しい未来にワクワクできる。それは、少し前まで見えていなかった世界が見えるようになったのと同じこと。今動くことで未来も、そして“今”という現実も創っていけるんじゃないかって気持ちにさせられるんです。
はたらくことは、表現すること。誰かの背中を押すためのきっかけを作り続ける
――仕事を通して、未来、そして今も創っていける。心強い言葉です。
かつて、私も「はたらきがいとか、やりがいって高尚な人たちのものだよね」と思っていました。ですが今振り返ると、当時の私は「仕事は降ってくるもの」だと思っていたんです。クライアントさんの要望があったり、社内の人から「これを」って頼まれたり。自然と受け身になってしまっていた。目の前の降ってきた仕事をこなすのに精一杯で、私自身は何をしたいのかを考える時間を持てていなかったんです。
ですが本来は、もっと素直に自分の「やりたい」ではたらいていいのだとコミュニティマネージャーをしてから気がつきました。いろんな人がもっと自分の声、何をやりたくて、どうしたいのかに耳を澄ませ、「自分は何をしたいんだっけ」って立ち止まって考えられるトリガーをイベントやプロジェクトで作りたいんですよね。
――岡本さんのこれからの目標を教えてください。
「きっかけ」となる場や機会を作り続ける仕事をした先で、「はたらき方」「はたらく」の価値観を変えていきたいです。たとえば、企業に務めている私がこうして縦横無尽にはたらけていることも、モデルケースの1つだと思うんですよ。よく「独立は?」と聞かれるんですけど、私はこれからも企業勤めではたらき続けたいと思っています。それは、企業だからこそある膨大なリソースや、オカムラという社名のおかげでできることもたくさんあると思うから。もっと組織と個人が両想いになっていくといいですよね。サラリーパーソン2.0をつくっていきたい(笑)。
世の中には、言葉にしないけど心の中では熱い思いを持っているサイレントマジョリティーが多くいます。かつての私のように、「自分なんかが」と思っている人も結構いるなと日々感じていて。そういった人たちも、何かきっかけがあれば変われるはず。私自身、これまで周りの人にたくさん背中を押してもらってきたので、次は私が誰かの背中を押す番だと思っています。