多くの製品で世界トップクラスのシェアを持つ総合素材メーカーのAGC株式会社。祖業であるガラスのほか、電子、化学、ライフサイエンス、セラミックスなど幅広い分野で事業を展開しています。そんなAGC株式会社は、社員が自由にチャレンジできる風土づくりが評価され、「はたらくWell-being AWARDS 2025」組織・団体部門を受賞しました。
今回は、AGC株式会社でデジタル・イノベーション推進部兼プロフェッショナル・ファシリテーターを務める磯村 幸太さんに、AGC株式会社が組織開発にどのような想いを持っているのか、社員の“はたらくWell-being”を実現するためにどのような取り組みをしているのかを伺います。
プロフィール:
AGC株式会社
東京都千代田区丸の内に本社を置く総合素材メーカー。1907年創立。「ガラス」「電子」「化学品」「ライフサイエンス」「セラミックス・その他」の事業領域で新たな価値創造に挑戦している。「はたらくWell-being AWARDS 2025」組織・団体部門を受賞。
目次
「人財のAGC」を支える、社員が自主的にチャレンジできる風土
——この度は「はたらくWell-being AWARDS 2025」組織・団体部門の受賞、おめでとうございます。
ありがとうございます。弊社は人的資本経営を推進するために「人財のAGC」という言葉を掲げ、「社員が自主的にチャレンジする風土」作りに力を入れてきたので、とても嬉しく思います。
——なぜ「社員が自主的にチャレンジする風土」が重視されているのでしょうか。
1907年の創立以来、私たちは時代の変化に合わせて、世の中に不可欠な素材を提供する事業を続けてきました。実は、新しい素材の開発には10〜15年もの長い時間がかかります。つまり、「この素材がこれからの世の中で必要になる」「これは将来需要がなくなる」という予測がしにくい中で、未来を想像しながら開発や技術を行っていく必要があるのです。
だからこそ、社員それぞれの個性や関心・興味をいかしてチャレンジできるカルチャーを育むことで、個人のエンゲージメントが高まり、どのような時代であっても、世の中の変化に合わせた新しい素材の提供ができると考えています。「AGC、いつも世界の大事な一部」というパーパスを実現するためにも、この風土を大切にしています。
——事業の特性上、パーパスを実現するために、社員のエンゲージメントを高める必要があるのですね。
はい。旭硝子(現AGC)の創業者である岩崎 俊彌の「易(やす)きになじまず難きにつく」という言葉は、今でも我々のスピリットになっています。社員のチャレンジを奨励し、主体性を重視する風土として根付いていると言えますね。
年間100回を超えるCEOと社員の「対話会」
——社員のエンゲージメント向上のために、具体的にどのような取り組みをされていますか?
取り組みは数多くあるのですが、2015年からCEOを始めとしたトップ層と現場社員の対話会が設けられていることが特徴的かと思います。
例えば2023年度には、CEO自ら海外を含めた各拠点に赴き、年間107回もの対話会を実施しました。CFOやCTOなどを含めるとより回数は増します。
——CEOだけで年間100回以上も!
実は、この取り組みを始めた2015年頃、AGCは液晶ディスプレイ事業に偏った利益構造になっており、需要がひと段落したことなどによって減益していた時期でした。そういったこともあって、社内の雰囲気が内向きになっていたんです。
そこで当時CEOに就任したばかりの島村(現会長)が、利益構造の変革を進めるとともに、組織カルチャーをよりよくしていくために「対話会」の実施を打ち出しました。
——島村現会長が「対話会」を発案したのはどうしてなのでしょうか。
彼のリーダーシップのスタイルだと思いますね。島村は「人の心に火を灯すリーダーでありたい」とよく話しており、社員の自立性をとても大切にしています。変化の激しい時代に必要なのは、「こうしていこう」と導くリーダーではなく、行動を促していくリーダーです。社員一人ひとりに直接会い、言葉を重ねることで心に直接火を灯そうと考えたのだと思います。
最初は、私をはじめ多くの社員が「対話会」にピンと来ていなかった様子でしたが、草の根的に年間100回以上の実施を続けてきたことで社内の雰囲気が明らかに変化しました。
——対話会ではどのような話をするのですか?
現CEOの平井は国内外を巡り、ビジョンを示して社員の視座が上がるような刺激のある対話を、会長の島村も各拠点をめぐり課長などのミドル層の悩みを聞き、背中を押すような対話を実施しています。
——組織のトップとの会話となると、なかなか本音を話すのは難しい気がしてしまいます。スムーズな対話のためにどんな工夫をしていますか?
おっしゃる通り、何の準備もないまま対話に臨むのはなかなか難しい。そのため、対話会を実施する際にはファシリテーションのスキルを持つ私が参加し、リードすることで一定の品質を担保できるように努めています。
実はこのファシリテーションは私が個人的に興味を持ち、勉強を始めたものだったのですが、社内に還元できることがわかってからファシリテーターの専門職として認められました。同じように、対話や会議を絵と図式を使ってリアルタイムで可視化するグラフィックレコーディングのスキルで活躍するメンバーも存在します。
——そのようなモデルケースがあると、個人的なチャレンジも前向きに取り組めますね。磯村さんは、対話会を実施するメリットをどう感じていますか?
対話をすることで相互理解が得られることに最大のメリットがあると感じます。
同じ会社に属していても、社員によってバックボーンは異なるもの。対話を通して、どんな意志をもってはたらいているのか、どんな景色を見ているのかを理解しあうことができ、結果的に信頼関係の醸成が可能になります。例えば一度CEOと対話した経験がある人と、そうでない人とでは、同じ経営方針についての説明を受けた時でも、理解の度合いが異なると思うんですよね。
もう1つのメリットは、AGCならではの「チャレンジ精神」を具体化できる点にあります。対話を通し、考えを言葉にすることで「この拠点をもっとこんな風に変えていきたい」「こんなチャレンジをしてみたい」というイメージが社員の頭で具体化します。これも「社員が自主的にチャレンジする風土」には重要なことだと感じますね。
年間1万人以上が集う自主活動
—— 「自主的にチャレンジする風土」があることで挑戦へも前向きになりますし、想いが行動になればより働きがいを感じられ、“はたらくWell-being”が高まりそうですね。
はい。さらに「CNA(Cross-divisional Network Activity)」という人事が支援する自主活動を行っています。これは業務に必要なスキルマップを発展させた、組織を横断したコミュニティ活動のことです。予算が与えられ、社員が自主的に勉強会や見学会、会合を開くことができる仕組みとなっており、今では50個以上のコミュニティが作られ、年間1万人以上が参加するほど大きな活動となっているんですよ!
CNAのほかにも、会社が介入しない完全に有志の活動として、自主的に社員が集まるコミュニティも発生しています。こちらも約2,000人のメンバーがテーマや工場ごとに集まって活動をしています。
我々は、対話会で具体的なチャレンジのアイディアを持った社員を有志のコミュニティにつなげ、実際に自主的に活動してもらうという動きも活発に行っているんですよ。
——主体的なチャレンジの姿勢が、社内に根付いているんですね!
有志活動には、CEOなどのトップ層も参加しているんです。経営層自らチャレンジを応援する姿勢を見せていることが、カルチャーの浸透に一役買っていると感じますね。
一例ですが、社内にメールマガジンを配信する有志活動で、新入社員が入社の挨拶を送ったところ、役員が個人的にメッセージを返すことも。チャレンジを応援された社員たちは、ますます自分らしい取り組みに邁進できるという好循環が生まれています。
——取り組みへの本気度が伝わってきます。
有志活動のほかにも、社内SNS「Beatrust」という仕組みを取り入れ、組織や専門性を超えた社員同士の緩やかなつながりを作っています。
このSNSは誰でも参加可能で、自分の得意分野や専門、関心をタグ付けしておくことで、仕事やプライベートに関わることまで気軽に社員同士で相談ができる。今では、ほぼ全ての部門、カンパニーから約1,600人が参加しているんです。
数人の有志活動が経営を変える事例も。エンゲージメントもアップ
——自主的なチャレンジを推奨した結果、変化がもたらされた事例があれば教えてください。
2021年に開設されたAGC横浜テクニカルセンターの新研究棟内には、オープンイノベーションを推進する協創空間「AO(アオ/AGC OPEN SQUARE)」が設けられています。この「AO」のコンセプトづくりはその好例です。
新研究棟の建設にあたり、私を含めた3人の有志メンバーは「検討中のコンセプトをブラッシュアップして、より時代の変化に合わせた空間を作れないか」と考えました。そこで、完全な有志活動の一環として社内外を問わずに飛び回り、自主的に新しいコンセプトを作り上げて公式のプロジェクトチームにそれを提案しました。その結果、そのコンセプトが採用されたという事例がありました。このように有志活動が経営に反映されている例はいくつもありますね。
——個人の活動が経営を動かすことも!ちなみに、社員全体のエンゲージメントには変化がありましたか?
AGCでは3年に1度、社員のエンゲージメントを大規模調査しているのですが、2019年と比較し2022年には全項目でスコアの向上が見られました。特に我々が重要視している「社員を活かす環境」「社員の取り組み意欲」という指標でスコア改善が見られたのは嬉しいですね。
しかし、コーン・フェリー社の社員エンゲージメント・ベンチマークデータにおけるグローバルの平均と比較すると、平均値と並ぶ結果になっているのでまだまだ満足していません。よりエンゲージメントを高める取り組みを目指しています。
自律分散型のチームが“はたらくWell-being”の向上につながる
——最後に、社員の“はたらくWell-being”を高めていくための今後の展望を教えてください。
AGCの組織を、時代の変化に合わせて自律分散型にシフトしていくことが私の目標です。
現状、有志活動のような自律分散型のコミュニティはあるものの、事業そのものを支えるチームはピラミッド型になっています。それらのチームからも、市場の変化やDXの進展にともなって自律分散化を志向する動きがあるので、チームの進化をサポートしています。
そのためには、社員のエンゲージメントの改善や企業理念の浸透が重要です。内発的動機を持ってもらうための一つの手段が「対話」や有志コミュニティの活発化だと思いますので、これからも一歩一歩積み重ねていこうと思います。