神戸市に本社を構える、通信販売会社大手のフェリシモ。ラテン語で至福を意味する「フェリシティ」に、強調の意味を持つ「シモ」を添えた社名に加え、コアバリューには「ともにしあわせになるしあわせ」を掲げるなど、1965年の創業以降、今ほど注目を集めるよりずっと前からWell-beingに向き合ってきました。
その取り組みの全貌を、コーポレートスタイルデザイン本部の宇野 加恵さん、そして新事業開発本部の猪川 恭兵さんに聞きました。
プロフィール
宇野 加恵
2007年にフェリシモへ入社後、女性ファッションの企画に従事。2度の育児休業を経てコーポレートスタイルデザイン本部総務部 人事労務担当となる。労務業務のほか、フィジカル・メンタルヘルスや育児・介護・傷病休業関連に関わり「ともにしあわせになるしあわせ」の社内推進を目指す。育休後アドバイザー。
猪川 恭兵
2019年に株式会社フェリシモに入社後、新しい領域での事業立ち上げをミッションとした子会社を設立・出向。やさしいガジェットの企画・販売やオンライン保育サポート事業、シニア期を人生の収穫期としてどう過ごすかを研究・企画・事業創発する白秋共同研究所発足に従事。2021年より、 フェリシモにおいて新事業開発本部に配属され、新事業の立ち上げを手がける。現在は、こどもの創造性や、それぞれの才能(個才)を伸ばす事業開発を担当するかたわら、WPCや組織文化発達プロジェクトなど組織力向上をテーマにした事業に携わる。2児の父。
この記事でわかるポイント
- フェリシモは「ともにしあわせになるしあわせ」を理念に掲げ、創業当初からWell-beingを重視してきた企業です
- 組織内では役職でなく名前で呼び合い、立場に関係なく意見を交わせる風通しの良い文化があります
- 「いる」と「する」の循環を目指し、WPCでは人間関係を可視化する相関図の作成など独自の研修を行っています
- 読書会や空間改善なども通じ、従業員の心身の居心地を整える工夫を日常的に取り入れています
- 企業間連携によるWell-beingの推進にも意欲を見せており、社内外のつながりを大切にしています
「しあわせ」に真摯に向き合ってきた
御社は経済産業省の「健康経営優良法人2020(大規模法人部門)」に認定されるなど、従業員を大切にされていらっしゃる印象です。どのようなきっかけで取り組みを始められたのでしょうか。
宇野:何か一つのきっかけというよりも、元々フェリシモには、従業員が元気でしあわせな状態になければ、しあわせな社会を作ることはできないだろうとの考え方が根付いていました。そこですべての従業員がはたらきやすい環境を整えるためにさまざまな手立てを打ってきたのですが、「健康経営優良法人」に関していえば、「いまある施策を集めたら認定いただけるのでは?」という思いで申請したところ、幸いにしてスムーズに認定に至ったというのが真相なんです。これまで行ってきた取り組みを、自然とご評価いただけたのは良かったですね。
世の中にWell-beingという言葉が浸透する前から、従業員のはたらきやすさを向上させるための取り組みは進めていたわけですね。
宇野:そうですね、全社的に大切にしてきたポイントではあったと思います。ですから、たとえばパートタイムではたらく従業員についても、非正規雇用という捉え方はしていなくて、等しく同じ舞台に上がる人材であるという意味を込めて、「キャスター」と呼んでいるんです。こうしたちょっとした取り組みも、すべての従業員がはたらきやすい環境を整えるための工夫ですね。
猪川:それでいうと、私は転職組なので、こうした風土には当初、驚きがありました。なにしろそれまでの職場では「しあわせ」について考えたことはなかったので、コアバリューの「ともにしあわせになるしあわせ」という言葉自体が珍しかったんです(笑)。もっとも、そこに惹かれて転職を決意したわけで、この「しあわせ」という言葉について本当に真面目に考えていて、そのための方法論を言語化するフェリシモという会社が、非常に魅力的に見えました。
宇野:この「ともにしあわせになるしあわせ」という言葉は、実際に社内でも頻繁に使われていますし、商品開発の上でも重視している価値のひとつです。
「ともにしあわせになるしあわせ」を通じて、しあわせ社会の実現を目指している。
役割ではない組織図。人と人との「関係」を描く挑戦
近年Well-beingという言葉が台頭してきたことで、組織として目指すものがより具体的に言語化された面もあるのではないでしょうか。最近の具体的な取り組み内容を教えていただけますか。
宇野:いま着手しているのは、Well-beingの第一人者である石川 善樹先生にサポートいただいて進めている、「ウェルビーイングプロモーションコミッティ(以下、WPC)」というカリキュラムです。これまで研修といえば、外部から講師を呼んでインプットしてもらうことが主でした。しかしWPCでは、参加する当事者全員で一緒に取り組みながら、同時に参加者間の関係性を形成していくことを目指しています。
猪川:これは「いる」と「する」を理想的に循環させることを目的としています。会社というのは何かを「する」ために集まる組織ではありますが、この取り組みには「いる」だけで許される“村”でありたいとの思いが込められています。よく「いる」ことが“Well- being”なら、よく「する」ことは“Well-doing”で、この両者をうまく循環させるために、試行錯誤を重ねているところです。「いる」と「する」の循環、“村”でありたいというのは、会社として取り組みたいテーマでもあるんです。
先日、石川先生から「組織図というのはdoingするためのパッケージだけど、beingするための図は存在しない」という着眼点をいただきました。では、それをつくってみようという取り組みを、実際にWPCを受講する6人で行なっています。部署も年齢もちがう6人が集まり、それぞれ自分の部署なりチームなりの関係図を作成するんです。
映画やドラマの人物相関図のようなものですね。
猪川:そうですね。たとえばAさんはBさんをどう思っているのか、逆にBさんはAさんはさんにどんな印象を持っているのか、さらにCさんは両者をどう見ているのか――といった関係図をつくるんです。面白いのは、慣れ親しんだメンバーのつもりでいても、Aさんは自分をどう思っているのか、BさんとCさんはどういう関係なのか、いざ矢印を引こうとしてもわからないことだらけである点です。
そこで皆で集まった時に、「この場合はどう聞くのがいいだろうか」などと議論しながら、それを持ち帰ってチーム内でまたヒアリングすることを繰り返します。最終的に、3カ月かけて矢印を1つずつ引いて図を完成させていくのですが、結果としてチームの関係性に詳しくなるので、コミュニケーションがより捗るようになるんですよ。また、6人が互いの相関図を見て、「隣のチームはそんな雰囲気なのか」と新たな発見につながることもあります。
たしかに、普通に仕事をしているだけでは気づけない情報の宝庫でしょうね。
宇野:一期生は、マネジメント層から6人が集まったのですが、よりはたらきやすい環境をつくるために、マネージャーはチームのメンバーがいまどういう状態なのか当然知っておくべきですから、そこが明確に言語化されたのは大きいですね。人事労務管理担当として従業員のヘルスケアに目を配らなければならない私の立場からすると、本来は一人ひとりと対話しなければわからない膨大な情報が、総務にどんどん集約されるので非常に有意義なところもあります。
一期目は、マネジメント層に絞って行ないましたが、こうしたチームづくりはメンバー全員が意識すべきことなので、二期目、三期目とメンバー層を変えて実施しています。見えている世界や立場がそれぞれ違うので、全然予想していない結果になったりしていますが、それぞれの立場で “村”を考えるきっかけにつながればと思っています。最終的には全社の相関図が出来あがるのではとわくわくしています。
「する」と「いる」の相互作用で好循環が生まれる
他にはどのような取り組みを行なっていますか?
宇野:細かな取り組みはたくさんあって、たとえば先日私が参加したのは読書会です。こちらはメンバー全員で同じ本を読んで、感想や自分がいま置かれている状況との対比などを話し合う、といった取り組みになります。また、「これからのフェリシモをどうするべきか?」を考える、意見交換会のようなことも行っています。
猪川:研修の一環として、自分自身を深掘り、自己開示をし、互いに理解を深めていこうというカリキュラムもあります。あるいは、いまの本社社屋について、物理的にどう居心地よくしていくかを話し合う場も設けています。少しでも従業員の気分が明るくなるように、自分たちでインテリアの装飾をしたり、何らかの設備を導入したりといった案を出し合うんです。やはり自分たちが「いる」場所は大切ですから、これも意外と盛り上がっていますね。
こうしてお話を伺っていると、誰もが自由に意見を言えるムードがベースとして確立されている印象を受けます。
宇野:思いや意見を言いやすい職場であるのは間違いないと思います。弊社が独特なのは、誰もが先輩や上司をリスペクトしながらも、役職名ではなく、個人名で呼び合う文化が根付いているため、意外と相手の役職を知らないことが多いんですよ。これによって余計な壁が取り払われている面はあるのではないでしょうか。新入社員が気さくに喋っていた相手が実は役員だった、なんてことが日常的に起きていますから(笑)。
より良い環境づくりを目指して取り組んでいる貴社ですが、現在の状況に対して、何か感じている課題はありますか。
宇野:従業員それぞれは、やはり何らかの課題や不満と向き合っていると思います。業務も忙しいですし、やりたいこともやらなければならないことも多すぎて、そのせめぎ合いに苦しんでいる人もいるでしょう。意見が言いやすい環境であるとはいえ、誰もが100%何でも言えているわけではないと思います。このあたりは我々としても、少しずつでも改善して前へ進めていきたいところです。
では、お二人はフェリシモではたらく従業員として、はたらきやすさを日々感じられていますか?
宇野:大変ありがたい環境ではたらけていると感じています。ヘルスケア担当として従業員のWell-being向上に取り組む立場なので、どうしても自分のことは二の次になりがちなのですが、いざというときにサポートしてくれる上司にも恵まれていますし、一緒に頑張ってくれる仲間も大勢います。WPCにしても、もっと取り組みを広げていきたいと思っているので、自社内はもちろんのこと、一緒に取り組んでくださる企業さんが増えたらいいなと思っています。企業間でも情報交換しながら、みんなでWell-beingについて考える取り組みに育てていきたいですね。
猪川:手前味噌になるかもしれませんが、WPCのような取り組みが弊社で実現できている大きな要因のひとつが、宇野の存在だと私は感じています。彼女は多くの人にとって話しやすい、コミュニティマネージャーのような存在で、ある意味で非常に“フェリシモらしさ”を体現してくれています。
総務や人事、労務という仕事を「する」の一面だけではなく、なんでも話せる人として「いる」側面を持ち合わせることで、会社自体に良い循環が生まれているのは間違いないと思います。こうした会社としての強みを活かしながら、引き続き誰もがはたらきやすく、いごこちのいい環境をつくるために尽力していきたいと思います。

