地域の色を保つデータベースになる。「うなぎの寝床」に聞く、地域文化商社における「はたらく」とは

今回お迎えするのは、福岡県八女市にて地域文化を軸にした事業を展開する株式会社うなぎの寝床 代表の白水 高広さんです。COS KYOTO株式会社の北林 功さんと一緒にお話を伺っていきます。

プロフィール

白水 高広

株式会社うなぎの寝床 代表取締役。福岡県八女市を拠点にした地域文化商社として、小売・メーカー・ECサイトといった事業を通した地域文化の本質を伝える他、現在は株式会社UNAラボラトリーズ 共同代表、サイセーズ株式会社 代表取締役としても事業を展開。地域文化をプロダクトの物流に止めることなく、文化的価値や機能としての価値を伝えながら体験やサービスを提供している。

北林 功

COS KYOTO株式会社 代表取締役。大阪市立大学法学部卒業後、エネルギー系企業にて関連設備の営業に従事。人材育成コンサルタントとして転職した後、同志社大学大学院ビジネス研究科を経て起業。COS KYOTO株式会社を設立し、「現代の素材・技術・人を融合し、『京都』でリデザインする」というコンセプトで多くのプロジェクトを進行する。地域で培われてきた地場産業や無形の文化に「自律・循環・継続する心豊かな社会構築」の叡智があるという視点から、日本の地域の企業・働き方についての本共同研究に参画。

この記事でわかるポイント

  • うなぎの寝床は福岡県八女市を拠点に、地域文化をリサーチ・可視化し、商品やサービスとして発信する地域文化商社です
  • 店舗運営や旅行・アップサイクル事業などを通じ、地域と都市の循環型の仕組みづくりを実践しています
  • 地域文化の担い手を支える立場を取り、製品はすべて買い取り制で公正な関係性を築いています
  • 組織内では「自分で考える力」を重視し、人材評価は数値よりも意識や成長を重視しています
  • 地域に根ざしつつ、時代に応じて柔軟に事業や役割を変化させる姿勢が特徴です

今日はうなぎの寝床さんと白水さんご自身について、Well-beingという切り口でお話を伺いたいのですが、まずは会社の概要を教えていただけますか。

白水さん:うなぎの寝床という会社で、2012年に創業し地域文化商社としての事業を展開して10年目になります。地域文化とは、ある地域における文化の総体のことで、私たちは土地や人、人と人が関わり合って生まれた独自性のある風習や現象と捉えています。そうした地域文化を改めてリサーチし、経済活用を起こせるような運用や地域価値への還元を行なうのが私たちの仕事です。理念とミッションは、本質的な地域文化の継承と収束、そして、その在り方を思考して行動し続ける生態系を築くこと。私たち自身は地域文化の担い手ではないので、もしも担い手の方々が「自分たちの稼業はここで閉じよう」と決めたならその意思を尊重する、という想いで「収束」も含めています。

白水さん:具体的な事業としては、八女市内でお店を4店舗、福岡市内で1店舗を経営しています。NATIVE SCAPE STOREと名付けた旧寺崎邸では九州を中心としたつくり手の製品を取り扱っていて、旧丸林本家ではオリジナルプロダクトを扱うメーカーとして、久留米絣(くるめがすり)など全国のテキスタイル産地の生地からもんぺをはじめとした洋服を製造販売しています。3店舗目はOHAKO、旧大坪茶舗で、アート作品とかジュエリーなどをここで扱っています。4店舗目はうなぎBOOKS、本屋です。
あと、UNAラボラトリーズという旅行業と、サイセーズというリサイクルとかアップサイクルを軸にした会社も始めました。これらをあわせて、現在はたらいてくれている人が60名ほどいます。

このような色々な事業をどう取りまとめているのでしょうか。

白水さん:会社全体としては、地域と都市に見立てたそれぞれの領域をイメージしています。(上記イラストでは手前が地域、奥が都市部)地域は7段階の階層を含む、植物のようなものとして捉えていて、そこに実る果実が地域の商品となり、地域内でこの果実を販売しながら循環を成立させるのにどうしたらいいのか、とリサーチを重ねるんです。循環できることがわかったら、隣の都市や他の地域に届ける流通や情報発信を考えて行っていく、という感じですね。

私たちはただ物販しているお店に見えるかもしれませんが、やっていることは、届ける・伝える、ということなんです。商品の前にはつくり手の存在があり、さらにその先には地域資源や土地の特性、場所によっては先住民のような人たちがいる。そうした背景を伝えるために、コミュニケーションが取りやすいように物を取り扱っていると考えています。

白水さん:例えば(上記図の)この島のようなイメージです。目には見えにくい資源を含めて価値を見積もりし、サービス化するためのリサーチを重ねます。途中で、他の島を見たり、また新しい資源を見つけたりしながら、世間の価値観と、見えていない価値のギャップを埋めていくようなことだと思っています。
また、活動は地域を軸にしているのですが、グローバルなサプライチェーンを悪いとも思っていません。そうした機能も利用できたらいいと思います。ただそれだけになってしまうと地域の個性は消え、どの街も同じ風景になってしまう。私たちの生活は決してその土地だけで成り立つわけではなくなったからこそ、だんだんアクセスしにくくなったその土地の「文脈」にまでちゃんとアクセスできることと可視化することが重要だと思っています。

地域に溶け込み、文化を文脈に戻す

以前、白水さんが「地域文化が残っていることが地域を豊かにする」とおっしゃっていましたが、地域と都市が経済的にも質的にも循環していくことなのかと感じたのですが、地域が豊かになるイメージについて、もう少し聞かせていただけますか。

白水さん:豊かさの定義は色々あると思うのですが、アイデンティティを確認できる状態にする、ということが重要だと思います。先ほど地域文化の収束について触れましたが、全くなくなってしまうのでは、地域の文脈に誰もアクセスできなくなってしまうし、なくなるって、どうしても寂しいものですよね。
私自身の原体験ですが、高校まで佐賀、大学で大分・福岡と、ずっと九州にいるのに、自分たちの身の回りで服や物がつくられているという意識が全くなかったんです。しかし妻の母の実家は久留米絣の織元であったり、前職時代には地域の事業者さんと関わったりする中で、農業も工業も商業も、こんなにたくさんのつくり手が関わっているのか、と知りました。もしもそうした方々の仕事が誰にも知られないままなくなってしまうとしたら、なんてもったいないんだろう、という想いから事業を始めているんです。

何が残れば地域が豊かである、ということではないんです。でもその地域文化がなくなった場合、他の土地に住んでも変わらなくなってしまうのであれば、他の形で残したり、せめて何かしらの選択ができるような手がかりだけは、みんなが分かるようにしておいた方がいいですよね。知るきっかけくらいは残しておかないと、何も選べなくなってしまう。うちのお店や会社の仕事は、そうした地域文化のデータベース的な側面もあると思っています。

たとえば地元の方でもこんな地域文化があるとは知らなかった、ということもあったりするんですか。

白水さん:そうですね、地元の人ほど知らなかったり興味関心が向いてなかったりするので、再発見や再認識になるというか、ゼロベースに戻すイメージです。そもそも私の中では、地域が豊かになることを「何かをプラスすること」とは認識していなくて、まず全く知られてないマイナス状態からゼロにすること。そこから知る人が増えて、解釈する人が増えていくと思っています。

大学時代、建築と都市計画を専攻していたんですが、当時はまだ建築家たちがリノベーションを含めてどんどん新しく作っていました。でももう飽和状態ですよね。就職しなかった理由は、ゼネコンとか建設会社で新しいものを設計することがイメージできなかったからです。住宅だって供給過剰ですし、物はもうたくさんあるので、今あるものや資源を使えるようにした方がいいと思いました。今でもそうした考えの延長線上で仕事しています。

白水さん:私たちが活動する八女というところは、伝建地区(伝統的建造物群保存地区)に指定されているんですが、平成3年の大型台風で建物が倒壊するような被害がありました。それによって町家が壊されて駐車場になったり、新しい建物ができ始めた頃、危機感を覚えた建築家や有志が立ち上がったんです。それをきっかけに行政も街づくりに意識が向き始めて、町並み保存会を立ち上げるなど、空き家を改修し始めました。しかしあまり大きな物件では移住者や若者たちには借りにくく、結果としてうちが借りることになり、運営店舗が増えていっています。
どちらかというと、私たちというよりも街の方々がどんどん改修を進めて、そこに足りない運営などの役割を私たちが埋めるように事業をつくってきました。

文化は地域と人の間にあるもの

お話を聞いていると、あくまでも主役は地域の人たち、という感じでしょうか。決して、うなぎの寝床がカリスマ的に地域をリードするというわけではなく、もっと地域に溶け込んでいるというか。

白水さん:地域に思い入れはもちろんあるんですが、確かに付かず離れずの距離感ではあります。コロナ禍前から、つくり手さんたちと個人的に飲みに行くとか、そういうのもしませんね。関わりが大きくなるとどうしても癒着とはいかなくても、仲が良いからこの織元さんも入れよう、みたいなことが出てきてしまう可能性もある。

なるほど。距離感として適切なことは重要だと思うのですが、その場合、関係性を大切にするとために何か工夫をされていますか?最初に、取引のあるつくり手さんが200件と聞いて想像より多くて驚きました。

白水さん:基本的には責任もって製品を取り扱う、ということでしょうか。そのために委託ではなく全て買い取りでしています。もしも口では「地域文化が残って欲しい」と言いながら委託で扱っているとしたら、それはちょっと違うと思っていて、2012年に会社を始めた時からずっと買い取りにしています。他には、良いと思ったところはちゃんとご本人に伝えたり、そういうことが関係性をよくするのかもしれませんね。

あとは、リサーチをちゃんとすることでしょうか。今お店で取り扱っている製品は全部で4,000品目くらいになりましたが、それぞれ地域の特性や産地について理解すること。さらに、つくり手自身はどんなマインドか、製品自体に現代生活に向けた提案などがあるか、文化継承を可能にする経済の可能性があるのかなど。地域と人の間に文化と歴史が存在し、そうした歴史や技術や思想といった情報が製品の機能性や価格を高めていきますので、理解を掘り下げること、それを伝えていくのが仕事ですね。

従業員に求めること、会社としてできること

従業員の皆さんについて教えてください。

白水さん:組織図的には代表の私を含めた4人の取締役と、5店舗の運営管理や、倉庫を担当する物流チーム、ECチーム、営業、経理、あとマネジメントのチームがリサーチと、プロマネとして組合や行政の仕事などもしています。
入社の背景は様々ですね。取締役の春口は大学の同級生、富永は高校の友達です。バックグラウンドも個性的かもしれません。マネジメントの中には元々、取引先だった半纏メーカーさんだったり、航空会社にいた方や、本のインフルエンサーをしている人、一級建築士だったり、海外の大学を出ている人やこれから行く人など。パート・アルバイトを含めて、半分くらいが地域の方、もう半分が県外からきてくれた方という感じです。みんなそれぞれですが、理念を公開していることもあって、それをしっかり見て応募してくれる人が多いですね。新卒入社も増えたのですが、聞くと、地域の仕事なら自分の貢献を実感として掴みやすいのではないか、と考えてくれているようでした。

みんな普段それぞれの業務は地味なことが多いと思うんですが、どの仕事においても、誰に対してどんな意識で、何のために私たちの仕事をするのか、といった意識は常にもっていてほしいと伝えています。 社員教育については、先ほど少し触れた、半纏の宮田織物というところから入社してくれた50代のメンバーがみんなに話したりしてくれています。今の40〜50代メンバーがマネジメントに入ってくれるまでは「従業員はそれぞれ自分で考えて動きましょう」と放置していたところがあります。でもだんだん人が増えて、どうしても指示を求める人も出てきました。私自身はマネジメントに関わらないスタンスでいましたが、全部で20名くらいに増えた時、「自分で何をしたらいいのか考えられない」という人も出てきて、以来その状況をみかねた現メンバーたちがマネジメントを整備してくれています。

北林さん:最初からそのスタンスの白水さんの元で、逆によく20名まで成長しましたね。

白水さん:それでも私がいないと回らないようなところもありますし、究極的には株をもっているのは自分なので責任取るつもりはあるからできたのかもしれないです。
ただ、教育管理を個人任せにしたのは私だけの意見で、会社の方針はまた別です。マネジメントのメンバーたちは、どうしたら個人個人の能力を活かしながら前進できるか、を考えてくれています。その上でスタッフさんたちに会社の理念なんかもちゃんと共有してくれて、新規事業など全体のビジョンも店頭スタッフが把握できるように説明してくれています。そのおかげで私自身は年に2回、面談をするくらい。あと普段は主に新規事業のことを進めています。

人材の評価基準のようなものは設定していますか?

白水さん:今ちょうどそういうのが必要かどうか議論に上がって検討していますが、現状ではKPI的な達成を基準にした評価みたいなことはしていません。それよりも、伝えたことがちゃんとできているかどうか、とか、人間性としての成長や向上といったところを重要視しています。もちろん数字は重要ではありますが。

究極のところ、この地域で、うち会社でなくても貢献できる人かどうかは、その人の意識でしかないと思うんです。会社の指示を実行するだけではなく、社会課題を自分への問いに変換したり、どうしたら地域に貢献できるかと自分ごととして考えて取り組めるかどうか。会社として私たちができることは、どうしたらそういうマインドセットをしてもらえるかを考えることです。なので言語化するのは難しいこともあります、人のせいにせず、主体的に業務に取り組めているかどうかを見ていますね。

年に2回の面談、「この半年どうでしたか?」と問いかけることが多いです。そうするとみんな思い思いのことを聞かせてくれます。人間関係のことを話す人もいれば、業務のことを話す人、時給を上げてという人など、その人が話したいと思っていることから始められるので、それに沿って話していますね。

北林さん:個を高めるってやっぱり大事ですよね。

白水さん:都市ではなく地域の場合、基本的に何かしらの能力がないと貢献することは難しくなります。つくり手を救いたい、と言っても何もできることがなかったらただ関わりたいだけの人になってしまいます。

北林さん:組織の人数は、売り上げの目標設定に影響したりしますか?

白水さん:あまり考えてないですね。どちらかというと地域文化の規模によって適正の売上幅は変わるように感じていて、あとは産地やつくり手が、うちへの依存が大きくなり過ぎないようには気にしています。
他の地域文化や、宿の事業はまた文脈が変わり、それぞれのセグメントで、解決したい課題と売上の合算になりますよね。なので規模の限界みたいなこともあまり考えていません。

うなぎの寝床にとってミッションを持つ究極の目的はなんでしょうか?

白水さん:ミッションは生態系をつくるということを目的にしていて、都市計画的な観点をもって地域文化の中で足りないところを埋めていき、きちんと機能するようにしていくことを重要視していますね。

一例ですが、他の業者さんが良い取引先を探す目的でうちのお店に来たりすることがあって、そういう時も普通に紹介しています。つくり手にとっては取り扱い先が多い方がいいわけですし、それをうちの会社単体でみて売り上げが減るとしたら競合になりますが、全体を見たときに、製品がより広がるのは良いことだと捉えているからです。その意味では会社の内と外の区切りはあまりないんですね。
会社を永遠に残したい、みたいな気持ちもあまり強くないですね。理念を含めて、私たちのような考え方での活動が定着すれば、地域に流動的な生態系のような活動として維持されるんじゃないか、と仮説のもとやっています。

北林さん:ではうなぎの寝床ではたらいている人たちの一番のモチベーションは、やはり九州筑後エリアを少しでも元気にしたいのでしょうか。

白水さん:県外から来てくれた人の方が、意外にそういうモチベーションがきっかけで入社しているかもしれません。地域の方々の中にはそこまで強い意思ではなく、むしろスマホで調べて出てきた求人だった、という人もいます。それでも自分事にちゃんと変換して、商品に興味をもちつくり手についてたくさん質問してくれたり。どんどん詳しくなって、すごくがんばって社員になり、今は物流のB to Bを取りまとめてくれている人もいますよ。きっかけもモチベーションも、人それぞれかもしれませんね。

北林さん:今日お話を伺い、白水さん自身や会社は、手段をどんどん新しくしているんだけど、でも地域文化をコアにして深掘りしていくことは何年もブレてませんね。外部にいる私にそう伝わってくるくらいですから、スタッフの皆さんは相当理解されているんだと思いました。

白水さん:社内の人たちは特に、変化が多いと思っているかもしれませんね。しかし時代の流れが早いことは否めず、1つの事業が30年続いていたような昔とはもう違いますし、コアは変えず、表層はどんどん変えていかないと成立しないものがあると思っています。

北林さん:すごく共感します。私は京都で活動していることもあって、時代に合わせて変わっていく方がいいことをよく考えるんですよね。

今日のお話は、色んなところで白水さんの緩さと厳しさのバランスが良くて、「みんな自分で考えや」としながら事業は広がっていることがすごいと思いました。仕事の指示って、されるのもするのも、ずっと続くと辛くなっていくんですよね。だから従業員さんや地域の人の楽しさを優先するのかなと。あともしかして、白水さん自身がしんどくなり過ぎないようにしているのかなとも思いました。

白水さん:それはありますね。責任は追う立場にいますが、権限を少しずつ渡していく必要性は感じています。新規事業ばかりを担当しているのも自分の役割をわきまえてのことだったりしますし、できればいつか、権限や所有みたいなものをいい形で分散させながら、少し社会的な役割で地域に貢献できたらいいな、とは思っています。

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