「お通夜みたいな朝礼」を変えた、ヤッホーブルーイングの相互理解から始まるチームビルディング

  • #インタビュー
  • #はたらくWell-being Lab.

インタビュー企画第1回目となる今回、採用倍率100倍という圧倒的な人気を誇る株式会社ヤッホーブルーイングにお伺いし、ユニークな企業文化とその背景にある取り組みについてお伺いしました。教えてくださったのは同社社長室ディレクター、社内では「みーしー」のニックネームで親しまれる清水 俊介さんです。理想的ともいえる自由な社風はどのようにして作られたのか、そして表には現れにくい問題点なども教えていただきたいと思います。
パーソルと共にお話を伺うのは、COS KYOTO株式会社の北林 功さん、株式会社ウエダ本社の岡村 充泰さん、インタビュアーはNPO法人ミラツクです。

プロフィール:
清水 俊介
ヤッホーブルーイング社長室ディレクター。ニックネームは「みーしー」。横浜市立大学大学院(理学)を修了後、日本IBM 戦略コンサルティング部門を経て、2014年ヤッホーブルーイング入社。ブランド戦略・バックオフィスBPR・営業・社長秘書などを担当した後、社長室を立ち上げ、2020年度より現職。

(お話を聞かせてくださった清水さん。同社のアイコン的看板製品「よなよなエール」を片手に)

ヤッホーブルーイングさんはコーポレートサイトからもユニークでパワフルな雰囲気が伝わってきます。今日は改めて、その企業風土が社員の幸せにどう影響しているのかなど教えていただけると嬉しいです。まずは御社のことと、清水さんの業務からご紹介いただけますか。

清水さん:私たちは97年に創業したクラフトビールのメーカーで、看板製品は「よなよなエール」です。本社は長野県軽井沢町にあり、普段私は事務やマーケティングのスタッフと一緒に、軽井沢の隣町、御代田町のオフィスで働いています。

まず弊社のことからですが、日本のビール市場は大手5社の製品が99%を占めている状態にあり、残りの1%に私たちを含め500社くらいのクラフトビールメーカーがあり、弊社はその500社の中でシェア1位です。業績はおかげさまで19期連続増収となっています。日本のビール市場は25年以上右肩下がりなので、その中でこうして成長を続けていられることはありがたいことですね。

私自身は2014年に前職から転職してきました。初めは受注業務、その後は業務改善、プロモーション、営業など色んな業務を担当して、現在は社長室の責任者をしています。社長室と言っても特別な部屋はなく、オフィスは全て同じワンフロア、スタッフみんなと机を並べています。そうしたオフィスの造り自体もそうですが、フラットな企業文化を志していることから役職名で呼び合うこともなく、社長以下全員がニックネームで呼び合うことにしているんです。私はみんなから「みーしー」と呼ばれています。

長い赤字時代を脱却できた取り組みとは

ヤッホーさんのはたらき方は注目されることも多いですが、いつ頃から今のようなかたちになったのでしょうか。

清水さん:今のような文化は創業当初からあるわけではなく、社長の井手が就任後に明文化し、だんだんできてきたという経緯です。弊社の創業者は星野リゾート代表の星野 佳路氏で、井手は立ち上げからのスタッフでもありました。1997年に地ビール事業として始めた頃は世間でも地ビールがブームだったこともあり、業績を後押ししてくれたようです。しかしブームはすぐに去ってしまい、2003〜2004年くらいまでは業績も下がり続けていました。

2005年からインターネット通販での業績が少しずつ上がり、ファンが醸成され始め、2006〜2007年でやっと業績が成長軌道に転じはじめたのですが、まだ皆で同じ方向を向けていない時だったために、売れ出したことを「仕事が増えた」と感じてしまう人もいたそうです。

2008年に井手が社長に就任し、そうした社内の雰囲気を良くするために色んなことを試みた結果、今の形につながっていきました。スタッフ全員が同じ方向を向いて働けるように、まずミッションを作り、次にビジョンができて、組織文化、価値観と整理していきました。よなよなエールはじめ私達が顧客に支持される価値についても、時間をかけて整理し、これらをまとめて経営理念として、時間をかけて少しずつ作り上げ・浸透してきたものです。

具体的にはどのようなことをされたんでしょうか?

清水さん:代表的な打ち手としてチームビルディングに関する施策があります。弊社では毎朝、雑談をする朝礼の時間があるんですが、2006年頃はその朝礼の雰囲気も暗く、当時新入社員だったスタッフは思わず「お通夜みたいだ」と言っていたそうです。そこから今の雰囲気になるまで、代表の井手が自らチームビルディングを学び直すところから始めています。

当時、楽天市場の出店企業が参加可能な「楽天大学」のチームビルディング講座を井手が受講したのです。延べ3ヵ月ぐらいかかるハードな内容で参加費用も掛かるプログラムです。まだ赤字経営の頃なので、それだけ課題意識があったということですね。そこでの学びを社内で活かすべく、社内でも講座と同内容の研修を開催することにしました。チームビルディングに賛同するスタッフを集めて、井手自身が毎年粘り強く開催していくうちに、社内にチーム意識が広がり始めました。2008年から3年ほどは売り上げ成長は鈍化しているのですが、チームで働く意識の浸透を優先していた時期と言えると思います。

(売り上げ推移にも、内部の転換を図っていた2008〜2010年の動きが読み取れる)

清水さん:その後、2011年以降は成長の幅が大きくなっています。近年ではチームビルディングに関しても進化しています。当時チームビルディングを指導してくれた講師でもある、楽天大学学長の仲山 進也さんやナガオ考務店の長尾 彰さんは、現在弊社の「エア社員」という形で、引き続きチーム力の向上をサポートくださっています。

研修は定期的に行っているんですか?

清水さん:丸1日x5日間のチームビルディング研修は年1回です。研修は5日で、色んな課題があるので結構ハードなため、パートスタッフでも参加しやすいようにライト版を作ったり、時間を分散させるなど、希望者が増えてきたことを受けてここ数年は年に2〜3回開催できるようなプログラムのバリエーションにもしています。

あと、その研修とは別に、全スタッフがストレングスファインダーを受けていて、お互いの強みも弱みも理解し合おうとしています。例えば「いつもあれこれ言ってくる人」だと感じる相手がいたとしても、その人が「指令性」という資質を持っている人だとわかれば、それなりにコミュニケーションが取りやすくなります。そうするとお互いの得意不得意を活かしあえる協働にもつながりやすいですね。

参加した社員さんたちには実際どんな変化が出ていますか?

清水さん:チームがどういう状態か、形成段階が見えているように思います。例えばまだチームができたばっかりだと様子を見合って牽制し、特に揉めたりもしないけど進展も少ないですよね。逆に少し慣れてきて、議論が白熱すると言い合いのようになってしまったり。そうしたときに「まあまあまあ」と制するのではなく議論を通じて壁を突き抜けることで、阿吽の呼吸で高い成果につながる議論ができるようになる。そうしたチームの成り立ち方を学んでいるように思います。おかげでみんな意見の対立を恐れなくなりました。組織文化の中で「切磋琢磨」もキーワードにしているんですが、切磋琢磨しあうためこの議論を大事にする考え方は効いていると思います。

経営施策として作る、意義のある”雑談”の時間

相互理解が深まることではたらく安心感にもつながっていそうですね。

清水さん:そうですね。先程、朝礼で雑談することに少し触れましたが、毎日30分程、業務とは関係ない話をすることがお互いを知る機会になっています。最近は人数が多くなってきたので10人ずつくらいのグループに分かれて行いますが、基本的に全員参加で1人ずつ全員が業務に全く関係ない話をするんです。雑談を通してパーソナルな部分に触れることでその人の背景が見えたり、仮に仕事だけでなくプライベートでストレスを抱えていそうな時も周りがそれに気づきやすくなることがあります。またお互いを知ることは、上下関係の意識も強めずにフラットな組織づくりにも役立っていると思います。例えば、ベテランのスタッフになんとなく話しかけづらいと感じても、雑談の中でかわいい一面に触れたら話しかけやすくなるとか。
こうしたことを続けてきた結果、どんな話をしてもいいんだと認識でき、それが仕事を進める上でも安心感をもたらすなど、朝礼の雑談はいろいろなコミュニケーションの礎として寄与しているように感じますね。

それって、雑談があることだけで成り立っているんですか。もしくは、他にもなにか、企業文化を浸透させていくような仕掛けもあるんでしょうか?

清水さん:取り組みとしては色々な施策があります。それも、会社や人事部門が作ったものではなく、スタッフから自発的に発案されることが多いんです。この表(下表)はタテ軸が質の高さと量、ヨコ軸は人数によるコミュニケーションを示したものです。例えば、大人数でコミュニケーション量を増やすのは、先ほどの朝礼ですね。あと、スタッフの数が増えてきたので、掲示板に一人ひとりの写真と名前を張り出したり、トリセツ(自己紹介文)という取り組みはそれぞれの自己紹介として出身や性格だけでなく、「故障かな?と思ったら」みたいな欄には「機嫌が悪そうな時は考え事している時です」といった自分のクセや特徴を共有しあったりしています。

清水さん:そのほか、社内をフラットにするものとしてはニックネームの文化、あとプロジェクト制というのもコミュニケーションに遠慮が起きにくい文化にもつながっていると思います。プロジェクトも立候補制で、頻繁に社内公募が出ています。そもそも管理職も全員が立候補制なので年功序列はありません。立候補者は、どんな戦略を考えていてこの会社で何がしたいかを全スタッフの前で発表し、全スタッフからのアンケートを参考にしながら管理職が選任されます。

徹底して個性を追求。目指すのは「知的な変わり者」

そうした多様な価値観を尊重することが社員のWell-beingにつながっている事例や、清水さんが実感していることはありますか?

清水さん:一般的な企業で言われるところの「多様な価値観」とヤッホーにおける多様な価値観は少し違うかもしれません。一般的にはジェンダーやLGBTQといった属性文脈で語られることが多く、弊社もよく、社員の男女比や女性管理職の比率などを聞かれることがあります。でも、ヤッホーではそもそもそうした区別を意識することはありません。性別による区別自体がないため、女性を増やしたほうがいいといった議論もほとんど起きないんです。私たちが思う多様な価値観とは、1人ひとりの個性をどう認めるか、どう活かすか、という点に尽きます。

ヤッホーの企業文化の中では「知的な変わり者」という表現を掲げています。これは、普通のことを普通にしているだけでは面白くないよね、どうせやるなら楽しくはたらこう、そのためには変わり者でいよう、ということです。変わり者とは、個性を発揮している人のことです。ただの変な人ではなく、自ら勉強し、努力して、変わり者と呼ばれる閾値を越えるくらい個性を突き詰めて欲しい、という想いを込めています。個々人の個性を大切にすることが多様な価値観の尊重であり、みんながお互いの個性を尊重しあう組織にしたいと考えています。

スタッフにとっても、個性を活かしてもいいんだというメッセージとして広がっています。知的な変わり者が鍛錬するためには、その人にとって楽しい仕事であることが欠かせません。やっていて楽しいと思える仕事を通じて成長して、だんだん「杭」として出てくることがあります。私たちの仕事で面白いところは、出る杭が叩かれることはなく、むしろ、もっともっと伸ばしていこうと勧めている点です。

これは続けていくと訓練されていくことでもあるので、どんどん自分の強みの活かし方がわかってくるんですね。自分では普通だと思っていたけどどうやら他の人はあんまり得意じゃないようだ、など自分のことをより理解できるようになり、次はまたもっと良いアイディアで貢献したいと考える。パフォーマンスを発揮するために「この得意なことをもっと磨く勉強がしたいな」と自己研鑽につながっていくんです。結果として、強みを生かせる新しいプロジェクトに参加したり、スキル発揮するポジションにチャレンジしたり。そういう仕事をしていると自分も楽しいうえに周りからも評価されやすいですよね。

(朝礼中の様子。個人の「らしさ」を尊重することでコミュニケーションは円滑になった)

はたらきがいとミッションの好循環のループ

ここまでのお話を受けて、あえてお伺いしますが、御社にとってはたらくとは何しょうか?

清水さん:色んな考え方の色んな人がいるので、社員全員にとっての表現は難しいですが、1つ共通して言えることは、私たちはみんな、会社の経営理念、特に会社のミッションを重要視していることだと思います。

ヤッホーのミッションは「ビールに味を!人生に幸せを!」ですが、これはつまり日本のビール文化を変えようというチャレンジなのです。ここがベースにあるので、自分たちがはたらくことによって文化が変わると実感できます。自分が取り組んだことが会社のアウトプットとして見えてくる。自分がこれをやったからこうなった、自分はこの文化づくりの礎になることをやっているんだ、という思いがこもってくるんですね。

文化づくりに関わることはスタッフのやる気やモチベーションの源泉となりやすく、ひいてははたらきがいの向上に繋がっているんだと思います。

あともうひとつ、BtoC商材であることも影響しているかもしれませんね。ファンが喜んでくれている顔が見えることは大きなやりがいになります。一般的なメーカーの場合、卸があって、小売店があって、その先にお客さんがいて、顔が見えづらいですが、僕らの場合はファンイベントはじめ、スタッフがファンと直接触れ合う機会をつくったりしているので、ビールをつくっている製造スタッフも、缶に詰めている充填スタッフも、物流のスタッフも含め、みんなが自分事として喜びを感じられています。

敬意があるからこそ、言いたいことは直接本人に言う

岡村さん:聞いてみたいことがたくさんあるのですが、従業員のことについて質問です。これだけ良い循環が実現して、ミッションなどに共鳴した人が入社してくると思うのですが、それでもよく組織論でいわれるところの「2・6・2の原則」、よくはたらくのは2割で、6割が普通、あとの2割ははたらかない、といったことは全体レベルが向上した後も起こると言われています。ヤッホーさんのように全体的にレベルが高まった中でもまた新たな”はたらかない2割”が出るようなことはあるのでしょうか。会社が良い方向に回っていくと、熱い人とか文化をつくろうという人たちが増えていき、でも一部は逆に熱くならない人が出てくるような。そうした人に対してはどんな風にしているのか、ルールみたいなものを決めているのかなど、教えてもらえますか。

清水さん:先に後半の点にお答えすると、うちは価値観、という形でルールを経営理念の中に含めています。その中で「同僚への敬意を持ちましょう」とか、基本的なスタンスとして「言いたいことは言いたい人に直接言う」という考え方があります。上司に「あの人サボっているから注意してください」と頼むのではなく、自分が思っていることを直接本人に伝えてもらうようにしているんです。やはり陰口みたいなものはあまり良くないので、コミュニケーションとして、思っていることは直接言う。ただ相手も人だし、コミュニケーションはチームには重要なものなので、同僚への敬意をもって、受け取り方も含めてちゃんと伝えよう、というベースを作っています。

岡村さん:なるほど。これもやっぱり人間的成長ということですね。知的な変わり者というところに繋がっていればいいのかもしれませんが、伝え方なども指導されているんですか。

清水さん:基本的には気付いた人が伝えるとしているのですが、やはりコミュニケーションの難しさはみんなわかっているところですね。発信の仕方も、受け取り方も、全てをポジティブに受け取る人もいれば、ネガティブに受け取る人もいて、そこも含めて、その人それぞれの個性や資質に紐付いているところでもあります。相互理解によって「あの人言い方は強いけど別に悪い人じゃないんだ」と理解できるような。そこに至るまでが重要なので、相互理解を深めるため、一見くだらなく見える朝礼の雑談時間といった施策がここにも繋がっています。

もう1つ、前半の方のスタッフの温度差についてですが、だいぶ以前の話に戻ると、朝礼がお通夜のようだった時代から会社が変化する際に、合わないと判断して退職した人もいたとは聞いています。ただ、赤字だった時はそもそも従業員の定着率も低かったために人の入れ替わりも頻繁で、社風の変化だけが退職の原因ではないのかもしれませんが。
最近に関して言えば、昔からいる社員よりも新しい社員の文化フィットが高いのが特徴です。一般的には文化は薄まるものだと思いますが、弊社ではその逆で年々濃くなっています。この理由は、採用の基準をかなり明確にしたことにあります。基準というのはスキル軸と、企業の文化フィット軸の2軸です。仮にスキルがものすごく高くても文化フィットしない場合は不採用とさせていただきますし、逆に、スキルはそこそこでも文化フィットがバッチリな方を採用することも多々あります。
これはまた、先輩社員たちにとっても良い刺激になるようで、自主的に社内で取り組みを始めたり、業務改善に取り組んだり、良い好循環になっています。

2・6・2の原則については、下の2割に該当する人はほぼいないと言っていいと思います。これは多分、評価制度も関係していると思うのですが、私たちの価制度では、9項目×5段階評価、これを半期に1回行っていて成果ではなくプロセスを見ることにしています。それも感覚ではなくチェック項目を設けて、こういう行動をできているか、と本人を含めて確認し合い、全部にチェックが入るとこの評点というのが明確なので、スタッフ本人も納得できるものになるんです。仮に、はたらかない2割に該当する人がいても、チームのためにこういう風にしよう、と具体的なフィードバックできるため、本人も改善しやすくなるんですね。

(いくつもの施策を続けることでスタッフ間の心理的な距離も近づいていく)

自分の「好き」の追求が、会社のミッションにつながる

転職された清水さん個人が一番変わったところはどんな点ですか。

清水さん:一番は、仕事が楽しいものだと実感できたことですね。母校の高校生にキャリアセミナーを担当したことがあるんですが、仕事のイメージを聞くと、仕方なくやるものとか、お金をもらうために我慢してやるものというイメージを持っている学生が多く、それはおそらく実際に、企業内で行う業務が自分の仕事として実感できない社会人の気持ちと近いものでしょう。現職では、自分でやったことの喜びがダイレクトで、強みや個性も活かしやすく、それが楽しくはたらいているという実感に繋がっています。

個性を活かすという点から、プライベートでしていたことが仕事にもつながった実例などもありますか。

清水さん:基本的にプライベートが充実していることが、会社での働きも良くすると考えているので、プライベートを大事にしてもらいやすいと思います。分かりやすい事例としては子育てのことで、子どもが熱を出したとき帰りやすいとか、産休育休をとる男性スタッフも多いこと。いわば子育てをしているだけなのですが、でもまだそういう企業や会社員も多くないようでメディアで取り上げられることもあり、積極的な子育てが会社のPRに貢献して採用に効くようなサイクルは起きています。
あとスタッフの中には、料理好きを活かして社内の飲み会で料理を担当し、それが高じてお客様向けの会報誌で料理コーナーを始めたり、アウトドア好きはウェブ上でアウトドア部として活動したりしています。果たしてワカサギ釣りが仕事なのか、という話にはなりますが(笑)でも何かを真剣に偏愛している人の話は面白いので、一般的なプロモーションとは違いますが、会社としても個人としても良い表現活動になっていると思いますね。

 好きなことして良いよ、いうのがユートピア風に聞こえてしまう人もいると思うのですが、実は自由とセットになっている厳しさや、あるいは何か、自律的である必要のような側面もあるのでしょうか?

清水さん:ありますね。僕らは自己裁量が大きいだけで、全く自由なわけではないと思います。よく言っているのは、自立と自律、この2つが重要だということです。たとえば今はテレワークも増えていますが、誰もが出社せず家で仕事していていいというわけにはいきません。すぐ近くに質問できる人がいない環境でも一人でちゃんと仕事ができるような、ある程度のスキルレベルで自立していること。それと、家にいるときの誘惑に負けずに自分を律することも欠かせません。
また、偏愛している好きなことを何でもやっていいよという点についても、好きなら何をしてもいいわけではなく、大切なことは、その好きなことと会社が向かうベクトルとを合わせられるか、という点です。仮にラジコンが趣味だと言っても「ラジコンを走らせる企画をやります」では、会社ともビールとも何も関係ないので、これとこれが接着してなるほど面白い、と納得できる点がありません。そうすると企業文化として知的方向には行かないことになってしまうんですね。

そういう意味でも、会社の方向性や事情、戦略を理解することが、自己開示や自分らしさの理解にもつながりやすいんですね。

清水さん:そうなんですよね。多くの会社では、企業文化や会社のミッションを答えられない従業員さんも多いと思うのですが、弊社では結構そこに力を入れていて、経営理念への理解は高いと思います。また、経営学者のマイケル・ポーター氏による競争戦略論に則って戦略を立てているので、その構造や理解浸透のプロジェクトも並行して行なっているんです。この活動におけるトレードオフはなんだとか。それも、わかる人だけわかっていれば良いということではなく、パートスタッフを含む全員が理解できるように努力を続けています。

十人十色の個性や「好き」を徹底的に追求することが、組織として大きな価値発揮につながっていく。その人らしくいられるからこそ感じられる安心感が画期的な企画や唯一無二のブランディングにつながり、より輝きを帯びて注目されるのだと感じました。
次回はまた別の会社の取り組みを通して、はたらくWell-beingについて考えるヒントを探っていきます。