組織高年齢化時代におけるミドル・シニア躍進の科学。ミドル・シニアが活躍するための人材・組織マネジメントとは?

東京 人事

40~60代のミドル・シニア層の従業員が増大している。年功賃金が主流の日本企業ではミドル・シニアの賃金は高くなりがちだが、それに見合った活躍をしていないという課題を感じる企業が多い。しかし、空前の人手不足を迎え新規雇用が難しい中、既存の戦力が活躍しなければ立ち行かなくなってきているのも事実だ。
本セッションでは、ミドル・シニアの働き方の実態から課題、具体例、活躍に向けた提案などを紹介。前半はパーソル総合研究所 シンクタンク本部 主任研究員 小林祐児が調査結果などを紹介しながらマクロな視点で語り、後半にパーソル総合研究所 シンクタンク本部 シニアマネージャー 石橋誉が具体的な取り組み例を基に、ミクロの視点からミドル・シニアが活躍できるマネジメントを探った。

パーソル総合研究所
シンクタンク本部 主任研究員
小林 祐児
パーソル総合研究所
シンクタンク本部 シニアマネージャー
石橋 誉

目次

戦後75年間の人事管理の中心原理が崩壊

ミドル・シニアに関する課題の構造的な背景には、現代日本の人口構成がある。1970年は団塊の世代が10代半ばから20代、団塊ジュニアが0~4歳頃で、2つの大きな山があった。一方2020年になると団塊の世代は60代後半から70代、団塊ジュニアも40代から50代半ばと、2つのボリュームゾーンが引退世代とミドル・シニアに重なっている(※1)。

では、現在の日本企業の状況はどうか。大企業の社員の年齢構成は、ひょうたん型が40%、ひし形32%(※2)。いずれもミドル・シニアが最大のボリュームゾーンとなっており、あまり活躍できていないミドル・シニアが多いが、賃金水準は高いという課題感を持つ企業が多い。その結果、上場企業での早期希望退職募集が増加している。

戦後75年間の人事管理の中心原理は、未経験者を入社させ、組織内昇進機会を広く・平等に長く与え、頻繁な異動により職務に紐づかない競争と成長を実現するというものであった。その結果、賃金カーブが世界で最も年功的に上昇している(※3)。その前提には、能力は蓄積される、会社は伸び続ける、人は供給され続けるという市場環境があったが、既にその前提は崩壊してしまった。小林は、「技術革新により能力・スキルの陳腐化が加速し、経済の低成長が続き、人手不足が深刻化しています」と語る。

一方で、未経験者に平等に昇進機会を与えて競争させるという中心原理そのものは、工員、一般事務職、アルバイトといった「内なる外部=雇用はしているが、その原理には入らない層」を常に作り出すことで、温存されてきた。同様のことは業務内容や成果に比べて賃金が高くなりがちなミドル・シニア層に対しても行われ、出向、早期退職、役職定年、定年制度といった方法で外部化されてきた。しかし、小林は、「現在はこの構造も変わりつつあります。構造的な人手不足、高齢者再雇用義務、求人ブランドの毀損回避などを背景に、多くの企業が社内人材の活躍を積極的に考え始めているのです」と指摘する。

ミドル・シニアの躍進を阻害するマイクロ・マネジメントと特別扱い

このような構造の中で、社員はどのようにキャリアを築けばいいのだろうか。

ミドル・シニア社員は、ハイパフォーマンスタイプから不活性タイプまで5段階に分けられるが、小林はその真ん中で約4割と最も数が多い「伸び悩みタイプ」に注目。各タイプの満足度を調査した結果、伸び悩みタイプは会社、人間関係、上司への満足度のいずれもが5%前後と極めて低いと判明した。就業意向についても、勤め続けたい、機会があれば転職したいとの回答が低く、この状態のミドル・シニアが4割もいることは、会社にとっても社員本人にとっても問題だ。

では、躍進の差を生み出すものはどこにあるのだろうか。小林は、ミドル・シニアの躍進を規定する因子として次の5つを挙げる。

・<まずやってみる>因子(Proactive)
・<仕事を意味づける>因子(Explore)
・<年下とうまくやる>因子(Diversity)
・<居場所をつくる>因子(Associate)
・<学びを活かす>因子(Learning)

小林は、この5つの頭文字を並べて「PEDAL=自走する力」と名付けた。この因子ごとに「新しい仕事や業務でも、まずやってみる」、「年下の上司でも、割り切って仕事を進める」などの行動特性を仕分けた。さらに、それらの行動特性に良い影響を与える「躍進エンジン」と、負の影響を与える「躍進ブレーキ」を特定した。

その結果、躍進ブレーキとして小林が指摘するのが、マイクロ・マネジメントと特別扱いである。特にマイクロ・マネジメントについては、「日本企業では入社年次による先輩・後輩意識が強いため、総じて年上の部下へのマネジメントが苦手です。年下上司は、年上部下の新しいチャレンジを避けたり、ホウ・レン・ソウが不十分といった行動に手を焼き、その結果細かいところまで介入しすぎるマイクロ・マネジメントか、真逆の完全放置といった状況が生まれやすい。それが、ミドル・シニアの躍進を阻害するのです」と指摘する。

研修においても課題がある。日本企業の研修は年齢が若いときは全員参加可能であることが多いが、年齢が高くなるにつれて選抜者のみとなる傾向にある。そのため、選抜から漏れると研修に呼ばれなくなり、伸び悩みタイプほど研修経験が少ない。その結果、意欲が低下すると同時にスキルも向上しない状況に陥ってしまう。しかし、もはや躍進層だけを相手にしていればいい時代ではない。

一方で前述のとおり、ミドル・シニアには組織内のキャリア上昇によるインセンティブは効果がない。その解決方法について小林は次のように語る。「昇進などの外発的動機付けではなく、社内で経験を生かした仕事ができたり、影響力を持てるといった内発的動機付けへの大きなマインドチェンジが必要になります。しかし、企業の支援は新人と管理職に偏り、この課題を個人任せにしています。PEDALへのマインドチェンジは、自転車をこぎだす時と同様最初がつらい。ここを個人任せにせず、組織的に支援する必要があります」。

ミドル・シニア活躍は人事問題ではなく経営課題

講演の後半では、ミドル・シニア活躍への課題解決に向けて、石橋が製造業G社の事例について紹介した。

G社社員の年齢構成は、40代以上が7割以上とミドル・シニアに偏在している。管理職の数は23.1%とコントロールされており、そのため管理職一歩手前が32.1%と最も多い。10年後には現在57%の45~65歳が65%と増加することが予測され、総額人件費の増加が懸念されていた。石橋は、「現状150億円の総人件費が、10年後には190億円に増大する見込みです。G社の利益は約50億円であり、そのうちの40億円を食いつぶす計算になってしまいます。もはやミドル・シニア活をどう活かすのかは、人事問題ではなく経営課題です」と語る。

この状況を生み出す要因として石橋が指摘するのが、まず評価制度だ。「評価が中心に集まる傾向にあり、年齢上昇と共にその傾向が強まっています。中心にいれば賃金は緩やかに上昇していくため、パフォーマンスが今のままでも特に問題ないと社員に受け取られてしまいます」。また賃金が管理職と非管理職で二層化しているため、40代で非管理職に滞留してしまった社員のモチベーションが低下しています。若手においては、中高年層が滞留していることもあり、昇進昇格の遅れが発生していることから中長期的なキャリアの展望を若手が描きづらく離職につながっていました。
さらにはキャリアビジョンやビジョンに向けた準備状況についても、年齢が上がるにつれて低下の傾向を示していた。「このままの状態では、離職を希望するのはやりがいや躍進を求める優秀な社員だけです。今後賃金以上に生産性に問題が出ることが予想されます」(石橋)。

この解決策として石橋が提案するのは、(1)人事制度改革・運用改革、(2)キャリア自律意識の促進、(3)職域の拡大・多様化の三位一体の改革だ。

(1)は年功的な資格給のウェイトを下げ、職務の価値の大きさを反映した役割給に重きを置く。ただし、人事制度は運用が重要だ。石橋は、「設計2割、運用8割であり、定着し効果が出るまでには時間がかかります。評価制度の狙いをしっかり理解してもらい、社員満足度調査なども繰り返しながら実効性を高めていく必要があります」と語る。

(2)は本人と上司双方に対して意識と行動を変えるための機会を与えることになり、最初は研修を実施することが端緒となる。上司には、評価フィードバック研修や年齢逆転マネジメント研修を行い、年上部下に対するキャリア面談やコミュニケーションの進め方などを学んでもらう。本人に対しては、定期的に将来起こりうる複数のシナリオを通して、マインドチェンジと躍進行動を促すためのRealistic Career Preview(RCP)研修を行う。
(2)の研修では、兼業・副業・起業など複数のキャリアシナリオを示して考えてもらうため、(3)ともつながる。意識・行動変容のための研修のポイントについて石橋は、「管理職向けの研修では、なぜこの研修が必要なのかを理解してもらうことが重要です。一方停滞気味のミドル・シニアの多くはキャリアに対する関心が低いため、マーケティングと同じ考え方で、メディアとメッセージを組み合わせて情報を発信し、関心を高めていく必要があります」と語った。

※1:1970年は国勢調査、2020年は「日本の将来推計人口(平成29年推計)」
※2:2016経団連「ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と取組み」
※3:データブック国際労働比較2018。日本:厚生労働省(2017.2)「賃金構造基本統計調査」。その他:Eurostat(2017.10)Structure of Earnings Survey 2014

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

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