APAC・中国において、必要な日本人駐在員のマネジメント力とその育成とは?

東京 人事

高度成長が続くAPAC・中国では、現地企業の躍進などを背景に、日本企業の優位性が薄れ、現地での優秀な人材の採用と維持が難しくなっているという声を聞く。今後、海外現地で強い優位性を保っていくには、こうした事業環境の変化に対応し、経営のローカライズの促進や新規事業開発を行うことが日系企業には求められ、推進・牽引するために日本人駐在員には従来とは異なるマネジメント能力が必要とされている。

パーソルグループでは、2019年7月に「APAC・CHINAで勝つために必要な日本人駐在員アップデートとは」と題したセミナーを開催。

第一部「海外駐在員に求められるマネージメント力」では、長く中国・APAC地域で人事コンサルティングを経験してきた、パーソルケリーコンサルティング アジアパシフィックの木下が登壇。日本企業の現地法人で抱える問題にふれ、課題解決に取り組む企業事例などを紹介。

第二部「海外でのマネジメント経験を次世代経営人材の養成につなげる」では、主にミドルマネジャー養成の分野に力を注ぐ、パーソル総合研究所 ラーニング事業本部の種部が、海外でのマネジメント経験を次世代経営人材の養成につなげるための手法について講演を行った。

※セミナーにある経済実態、役職名は2019年7月時点のものです。

日本的なマネジメントスタイルと決別し、リーダーの役割を理解すべき

第一部はASEANの概況から話が始まった。2017年1人当たりのGDPが各国ともシンガポールの57000ドルを筆頭に成長を続けるASEAN諸国。第3位のマレーシアは世界平均と同じ10000ドルに達しようとしている。それに伴い、昇給率も大きな伸びを見せている。パキスタン、バングラディシュ、インド、ミャンマーは中国の2倍近くの10%で推移。このエリアでの人件費の高騰は今後も続いていくと述べた。

また日本の企業においては、業種や規模によって差はあるものの海外生産比率、海外売上高比率、海外収益比率が右肩上がりという傾向は明らかであり、今後も海外事業は拡大していくと考えられる。

パーソルケリーコンサルティング
アジアパシフィック ディレクター
木下 毅

「約40〜50年前、安価な労働力を求めてタイやマレーシアに生産拠点を置くところから始まった日本企業の海外事業は、受け入れ国の発展に伴って生産から販売と内容が変化してきました。ここ数年はマレーシアやタイにおいてJETROと各国の機関が協力し、現地のスタートアップ企業と日系企業をマッチングさせるという動きが出てきています」(木下)

続いて、パーソル総合研究所がAPAC各国に対して行った、ダイバーシティや仕事を選ぶ基準、働き方など「個人の仕事についての考え方」に関するアンケート結果を紹介。ダイバーシティ&インクルージョンや働き方等、多くの面で日本人の仕事に対する価値観がAPAC各国と大きく異なることが示されていた。

また転職回数や意向、独立・起業への志向は日本よりもはるかに高く、「若い人が入っては辞めていく」という現在の状況を生み出す一因となっているという。さらに多くの国で転職理由の1位が「給与に不満がある」となっている点について「『給与に不満がある』を理由にするのは、それが一番わかりやすくて使いやすいから。実際にエグジットインタビューをしてみると、『あんな日本人と働いてられない』といった人間関係の問題が出てきます。できればエグジットインタビューを行って、きちんとした理由を把握することをおすすめします」と説明した。

これまで紹介してきたマーケットの全体的なイメージ、国民性や仕事に対する考え方の傾向を踏まえ、グローバル経営にみる日本企業の課題は、ダイバーシティ経営とマネジメントの複雑化への対応ができていないことだと、見解を述べた。

「事業環境が大きく変化し、いろんな課題が起こりつつある中で、暗黙知や忖度文化、不明確な役割、ホウレンソウ、純血主義といった日本的マネジメントが未だに行われています。現場では駐在員のローテーションとともに方針や役割、権限が変わるなど、一貫しない方針や曖昧なマネジメントに対し不満が募り、特に優秀な人材ほど流出するという問題が起きています」(木下)

また組織のフラット化の影響から、日本企業では意思決定をする環境が減少し、リーダー・マネジャーの意識が乏しくなっているという。まずはビジョン・方向性の明確化、人材育成などリーダー・マネジャーとしての役割を理解することが必要と、具体的なケースを交えながら指摘した。

最後のまとめには、「日本企業が勝つために」必要なこととして、
 1.日本の伝統的なマネジメントスタイルとの決別し、新しいお作法をインストール
 2.自身の役割を理解し、言語化して共有
 3.部下育成は最重要ミッション
 4.駐在員制度、任期の廃止
の4点をあげて、第一部は終了した。

海外でのマネジメント経験を、人材育成に活かすためには

第二部は日本人駐在員に必要な「グローバル共通のマネジメント」とは?という話から始まった。

これまでさまざまな企業の部長、課長へのインタビュー経験や、10年を超えるマネジメント研修への登壇経験を通して、第一部で紹介された「リーダー・マネジャーの役割」の6つの項目は、業績管理を除いてほぼ理解・実践されていないという見解を示した種部。

そこでマネジメント能力を向上させる手法として「基本理論を学ぶ」「持論を整理する」「部下の見方を知る」という3つを提案。

パーソル総合研究所 ラーニング事業本部
人財育成ソリューション部 部長
種部 吉泰

「基本理論に関しては、ビジョン策定や戦略立案、コーチングなどの理論や手法を個別を学ぶことも重要ですが、まずはマネジメントの全体像を俯瞰して学ぶことがマネジメント教育のポイントです」(種部)

更に、海外赴任において、多様な背景をもつ人材をマネジメントすることになるので、「ビジョン」「理念」「価値観」「方針・戦略」といったマネジメントでの判断軸となる部分を明確に持たせる機会(場)を持ったほうがいいと加えた。

海外でのマネジメントでは、個人や文化の違いを理解することが相互理解を深める上で必要となってくるが、その理解のための方法として種部が紹介したのは、パーソナリティ診断ツールであるFacet5。パーソナリティ心理学ではよく知られたビッグ・ファイブ理論をもとに開発された5つの基本要素「Will(意志)」「Energy(エネルギー)」「Affection(配慮)」「Control(自律性)」「Emotionality(情動性)」を用い、個人の違いだけでなく、文化や国民性の違いも表現する。

多くの外資系企業では、マネジメントチームが新しくなった場合、パーソナリティ・データを使ってチームビルディングを行い、組織を早く立ち上げようとしている。また部下育成の場でもパーソナリティが積極的に活用されているという。

最後にマネジメント人材育成には、最初に紹介した3つの手法に加え、経験学習サイクルを回すことが必要だと語った種部。経験学習モデルとは、経験したことを立ち止まってふりかえり(内省的省察)、そこから何が言えるのかと俯瞰し(抽象的概念化)、実際に試すというサイクルによって人は成長していくという考え方である。

「海外勤務が誰にとっても『一皮むけた経験』となるとは限りません。修羅場というか、質の高い経験が必要です。ただ海外でマネジメント経験しただけでは能力は向上しません。また経験学習サイクルの中の内省的省察と抽象的概念化のステップは多くの人に欠けており、多忙な中でサイクルをしっかりと回すのは、よほどの自制心がない限り難しいでしょう」(種部)

パーソル総合研究所では海外からの帰任者を対象に、海外勤務経験を振り返る機会を提供していることが紹介され、講演が終了した。

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