いまこそ、日本型雇用から脱却せよ!日本企業復興のための提言と再生シナリオ

東京 経営者・役員 人事

株式会社パーソル総合研究所
取締役副社長 シンクタンク本部長
櫻井 功

人口減少、少子高齢化に伴う超・人手不足。課題先進国である日本が、国際競争力を維持し、日本企業として生き残るためには、今こそ大改革が必要だ。株式会社パーソル総合研究所(以下、パーソル総研)で産官学を交えた研究と調査を通じて、人と組織に関する問題を研究・発信するシンクタンク本部長の櫻井功が提言する「日本型雇用からの脱却」と、日本企業復興のためのシナリオとは?日本の労働力のこれからを見据えたとき、何が問題で何を変えなければならないのか。最新の推計データを踏まえた、経営層、人事部門必見の講演レポートをお送りする。

日本の労働力の将来~「人手不足」は継続し、2030年には644万人に

株式会社パーソル総合研究所 取締役副社長 シンクタンク本部長 櫻井功は、「少子高齢化や人手不足などの環境下、本来最も問題な「日本型雇用」についてはその問題点を挙げる人や組織は多いが、具体的な解決策の提言はほとんどありません。本日は、将来に向けてどうすべきか、という提言をご紹介します」と語り始めた。
櫻井は、日本の出生数と合計特殊出生率の推移、将来推計人口、年代別人口などの数値を紹介し、「戦後すぐの団塊世代の子供の世代で第二次ベビーブームが起こりましたが、その後、第三次は起こりませんでした。これは高齢化対策を優先して出産、育児支援に政策と予算を割り振らず、子育て世代・家庭に十分な投資を行ってこなかった政治の結果です」と言及。続けて「日本の労働力の将来は、2030年には15~64歳の生産年齢人口が940万人減少すると予測されています」と推計を示した。(図1)

図1  将来推計人口

【出典】国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2017)

深刻化する人手不足については、有効求人者数と求人数、求人倍率の70年代からの推移を紹介し、「求人数は過去、景気循環と共に変動してきましたが、これまでと異なるのはそもそもの生産年齢人口が大きく減少し続けていく、という点です。そのため人手不足は一過性ではなく、これから企業がずっと付き合い続けていかなければならない問題です」とした上で、「パーソル総研では、実質経済成長率を1.2%とした場合の2030年における人手不足数は644万人と予測しています」という推計結果を示した。これは「企業が本来、雇いたくても雇えない不足人数であり、2030年の生産年齢人口の約10%にも上る数値」であるという。
この644万人の人手不足をどう埋めるか?の解決策として以下の4つが挙げられた。

① 働く女性を増やす
② 働くシニアを増やす
③ 生産性を上げる
④ 働く外国人を増やす

これらの推計を踏まえ、櫻井は「人口減少、少子高齢化の中で日本が国際競争力を維持して再興するには、雇用の仕組みを変えるしかありません」と語る。「これまでの適材・適所に加えて、適時、という考え方が必要です。つまり、必要なところに能力のある人を欲しい時に採用することができる社会の実現が必要なのです。70年代のアポロ計画で活躍したフタッフの平均年齢は28歳でした。あれから40年以上が経過しましたが、果たして今の日本は本当に実力ある人が活躍できる環境でしょうか。我々がアジアの13の国・地域で行った意識調査では、高い国・地域では若い世代の80~90%近くが管理職に昇進する意欲があるのに対し、日本は20%台しかありません。これは今の管理職という仕事に魅力がないからです。また、豊富な経験や実績のある人を役職定年で強引に給与を下げ再雇用し、定年制で追い出し、その空いた穴をほぼ未経験の新卒一括採用で埋め、長期の巨額な教育費を投じる、という壮大なムダを国家レベルで続けています。これらを根本的に変えなければ、外国人に選ばれる国になりませんし、国内の優秀な人は海外もしくは外資で働くことを選択し、日本企業は再興しません」。

「日本型雇用」と、欧米の「ジョブ(職務)型」と比較したときの問題点

戦後復興から長く続いてきた「日本型雇用」とは、そもそもどういうものなのか。会場ではチェック項目に対しての挙手が行われたが、日本企業で働く人々からするとどれもごく当たり前、と捉えられる項目だろう。

<「日本型雇用」度チェック項目>
●採用は新卒一括が中心である
●定年制、役職定年制がある
●職能による資格等級がある
●職位ではなく資格に基づく階層別研修を実施している
●職位と年齢の上昇が(比較的)比例している
●資格等級ごとにある程度の想定滞留年数が設定されている
●賃金テーブルは社内マーケット基準で外部マーケットは見ていない
●中途採用で通常賃金テーブルに載らない高い方を採用する際は1年契約の嘱託採用

櫻井は「日本型雇用とは人を基準にしたメンバーシップ型で、欧米のジョブ(職務)型とは異なり、世界的に見ても極めて特殊な雇用の仕組みです」としたうえで、「高度成長、人口増大期には正しく機能して日本の成長に大きく貢献しましたが、ゲームのルールが変わった現在では、採用、獲得、人件費コントロール、モチベーション、イノベーション、生産性などさまざまな局面において問題が多く、制度疲労を起こしています」と指摘する。櫻井が挙げた、「日本型雇用」の問題点は以下の通りだ。

●新卒一括採用:新卒時にチャンスを逃した者の挽回チャンスが少ない
●年功的賃金制度と長期雇用:男性中心の「メンバーシップ型」職務運用が女性の社会進出を阻害
●企業の税制他への手厚いサポート、退職金や年金制度:キャリア自律意識が育たず雇用流動性が低下
●高ロイヤリティを狙った年功的賃金テーブル:ミドル以上のモチベーションと生産性の低下、優秀な人材に対して市場価値に即したプライスが提示できず、適材適所に加えての適時ができない
●終身雇用:若者の価値観の変化と中途採用の増加に対応できない
●長期雇用を前提とした昇給・昇格構造:旧来の職能が役立たない経営環境下では上司のOJTが機能せず、上司がイノベーションの障害に
●企業からの長期の手厚い教育投資:固有の企業でしか通用しないスキル・技術で、労働者の市場でのエンプロイアビリティが高まらない
●短期のみならず長期的な成果に比重:業績への貢献度と報酬が連動せず、ぶら下がり社員の増加と優秀な人材の社外流出

櫻井は「日本型は欧米と比較して、労働分配率は大きくは変わりませんが、社員の成果や企業の業績を上げることより雇用の維持に多くのコストが使われています」と指摘。その結果、生産性の高くないぶら下がり社員を生み、企業内失業者は実に5~600万人ともいわれるのだという。
この日本型雇用は、人の能力が基準(結局は年功的運用)である「職能資格制度」なのに対し、欧米など多くの国で採られているのは職務の大きさが基準の「職務等級制度」である。「職務等級制度」とは、戦略により組織をデザインし、市場価格をベースに、組織に置く職務の責任や権限の大きさに基づき給与を決め、年齢・性別に関係なくそのポジションにふさわしい人を配置していく制度のことだ。
櫻井は日本企業の人事部意識調査(図2)から「国際社会において、という質問では7割の方が職務型が適している、と回答しているのに対し、自社において、となると半数近くが従来の職能型を支持している。まるで日本だけ「グローバル」の一部ではないかのような認識だが、本当にそれで大丈夫でしょうか?」と苦言を呈した。

図2 日本企業の人事部の意識

「日本雇用型」から「ジョブ型雇用」への転換で、日本の国際競争力を回復させる

これらを踏まえ、櫻井は「日本型雇用は企業競争力だけでなく、個人の幸福度も低下させます」と結論付ける。「雇用の流動性もなく、ある一定年齢になるといろんなことを諦めなければなりません。最終的に最も損をしているのは、従業員だと言えるでしょう」と語り、以下の提言を行った。

日本は、強い国際競争力を回復するため、
現在の職能資格制度を中核とした日本型雇用(メンバーシップ型雇用)を早く捨て去り、
ジョブ型雇用を中心とした制度に転換しなくてはならない

この日本型雇用見直しの機運は高まっているものの、ジョブ型雇用は日本人には向いていないというアレルギーも根強いそうだが、それに対し櫻井は「戦前の日本はジョブ型雇用であり、現在のメンバーシップ型雇用はたかだか戦中・戦後からのものなのです。ジョブ型は日本人のDNAに合わない、というのは誤解であり、単なる思い込みです」と反論する。「外資企業で働く多くの人はご存知の通り、チームワークや和を大事にするのは海外のどの企業でも同じです。欧米型では組織へのロイヤリティが醸成できない、という声に対しては、ロイヤリティが高くてもパフォーマンスが低い社員よりも職務パフォーマンスの高い社員が求められるのでは?とお聞きしたい。また、マーケット水準では人件費がコントロールできないのでは、という懸念は、職務ベースでポジションのない人が不要になり、ポジションだけコントロールすればよいことを踏まえれば容易になります。長期的な社内人材育成や安定的な人材確保などの点は、そもそも職務型とは異なる思想ですし、会社都合で職を失うリスクはいずれにしても日本の労働法に従う限り日本企業と変わりはない」と語った。

日本企業においては1998年頃からコスト削減を目的に年功序列撤廃や成果主義制度導入が進んだものの、評価方法の難しさから失敗したケースも多い。しかし海外企業では、就業年数ではなく仕事の内容を評価する制度が一般的であり、日本企業も事業のグローバル化を加速するにあたって2014年頃から再度、見直す動きが活発化しており、政府の進める「働き方改革法案」も、そもそも日本型雇用を起源とする諸問題を解決しようとする動きであり、決して無関係ではない。

櫻井は、「荒唐無稽に聞こえるかもしれないが」と前置きしたうえで、以下3つの要素からなる「アグレッシブ転換シナリオ(案)」を示した。(図3)

●企業内留保を用いたセーフティネットファンドの創設
●企業は雇用制度をジョブ型に切り替えると同時に構造改革
●外部流動市場で賃金の安い仕事に転職する人にセーフティネットファンドから2年間の補填、ソフトランディングを支援

図3 アグレッシブ転換シナリオ

櫻井は最後に、「Fail early, Fail often, Fail better(早く、たくさん、上手に失敗せよ)という言葉がありますが、やるなら早い方がいい。自然に変わるのを待っていると日本の産業は国際競争の中でもたないでしょう。人事制度はエコシステムであり、一部だけを変えても機能しません。実質賃金が下がっている中のですから出血覚悟の人材への投資という大改革を行うべきです」と講演を締めくくった。

本記事は2018年11月30日開催の「人と組織の未来アカデミー」の講演を記事化したものになります。

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