アクセンチュアの働き方改革は生産性から価値の向上へ。ハードワーク、長時間残業が当たり前だった組織風土はどのように変革されたのか?

東京 経営者・役員 人事

アクセンチュア株式会社
代表取締役社長
江川 昌史 氏

企業の「働き方改革」の取り組みの中で注目を集めるアクセンチュア株式会社(以下、アクセンチュア)。かつてはハードワーク、長時間残業の激務で知られた世界的コンサルティング企業だ。アクセンチュアは組織風土改革「Project PRIDE」により劇的な変化を遂げ、残業時間の大幅な削減や女性採用比率の向上といった職場環境改善にとどまらず、社外調査の「働きがいのある企業」や「新卒就職人気ランキング」で上位となるなど、大きな成果をもたらしている。アクセンチュアはなにをきっかけに改革を決意し、どのように成し遂げたのか― 講演はその改革を推進した経営トップ、江川昌史氏自らが語るとあって、会場は超満員の聴衆が詰めかけ、熱気に包まれた。

アクセンチュアはなぜ、変わらなければならなかったのか

きっかけは江川氏が社長に就任する1年ほど前、パーソルキャリア(当時インテリジェンス)社長の峯尾から告げられた、衝撃的な一言だったという。「アクセンチュアさんは採用関係でものすごく評判が悪い。激務で長時間労働という噂が立っていて、人が紹介できません」 ―この一言に強烈な危機感を覚えた江川氏は、長時間労働、マナー軽視、ハラスメントなどのこれまでの悪しき働き方を捨て、インクルージョン、ダイバーシティ組織を目指す本気の組織風土改革を決意する。それが「Project PRIDE」だ。

改革のための体制づくり―トップダウンで協力に推進

2015年9月、社長に就任した江川氏は「絶対に会社を変える」ことをコミットメントとして掲げ、自らがリーダーとしてトップダウンで強力に推進するべく直轄の事務局を作る。人事部門の責任者、「組織改革」専門の社内コンサルタントなど5名のスタッフを集め、役員クラスの部門長もコアメンバーとした。さらに江川氏は「スタッフが部門ではなくプロジェクト単位で動き、さらに客先に常駐して働くという特性もあり、プロジェクト単位で進捗を管理しなければなりませんでした」とコンサルティング企業ならではの苦労を語った。

アクセンチュアジャパンが直面したチャレンジ

 

●「ダイバーシティチャレンジ」:女性、外国人、クリエイターなどこれまで少ないタイプの人材を活かす
●「リクルーティングチャレンジ」:急成長し続けるスピードに合わせ、継続的に優秀な人材を獲得・維持
●「ワークスタイルチャレンジ」:より短い時間で高品質の価値を生み出す働き方を定着させる

江川氏はワークスタイルの改革に先駆けて、事業成長と関連がより深いダイバーシティチャレンジからの着手を決断した。その理由を江川氏は「最初に手を付けたいのはワークスタイルでしたが、経営会議の8割のメンバーが変革に猛反対だったのです。皆が忙しく業績も悪くない中で、これまでのやり方、カルチャーを変えることに対する抵抗感は非常に根強かった。部門長メンバーが強く意識するのは自部署の売上と存続です。そこで、私は彼らにこのままの人材と組織で継続して成長できるのか?と2か月かけて一人ずつ説明、説得して、多様な人材確保の必要性を自分事として理解してもらい、皆が納得感のあるゴールを設定することが最初の1歩でした」と語る。

その後、全社員に向けてオリジナルビデオと共に「Project PRIDE」のキックオフを宣言。以降継続して、江川氏や事務局がプロジェクトの意義を伝えるメッセージを発信するとともに、詳細に設計されたロードマップに沿って改革は実行に移された。

「凝り固まったワークスタイルは一朝一夕では変わりません。まずは互いに”さん”づけで呼び合う、感謝の気持ちを伝えあう、といった基本的なマナー向上の取り組みから始めて、会社の変化に気づいてもらいました。社員にとって働きがいのある会社、お客様にとって必要とされる会社になるために、プロフェッショナルとしてのあり方をもう一度考え直して、自信と誇りを持てるようにするための取り組みなのです」。

組織風土変革フレームワークを活用した4つの取り組み

改革は、アクセンチュアの「組織風土変革フレームワーク」を自ら実践する形で展開した。江川氏は4つの取り組みを説明する。

 

① 方向性提示と効果測定
会社は何を目指し、何を実現しようとしているのか。社内に反発やどこまで本気なのか、と疑問視する声が高かったこともあり、江川氏自らが「改革は経営上の最優先課題である」と周知し、ビデオにより概要を伝え、目指すべき姿を粘り強く、全社に共有していったという。

効果測定については「徹底的な数値化を行い、各種KPIを設定すると共に、モニタリングとPDCAのサイクルを構築しました。残業できないからアウトプットしないで帰社してもいいのだ、など社員が誤解しがちなポイントについては私から徹底してメッセージングしました。ビデオを作成して、期初の度に何度も目的や進捗を話し続けるなど、初年度は私も30%の時間をプロジェクトに割きました」と江川氏は語った。

② リーダーのコミットメント
改革には現場のリーダーのコミットメントが欠かせない。「経営会議では全社員の労働時間をチェックして、超過しそうなプロジェクトは増員またはやり方の見直しといったアクションを求めました。9人の本部長には自らがプラン化して現場に足を運んで乗り込み、問題があれば解決することをコミットメントしてもらいました。彼らにはチェンジエージェントと呼ばれる右腕を置き、改革案策定などの実務を担当してもらっています。マネジメント層とスタッフ層を分けてヒアリングを実施して、挙げられた課題に対して現場リーダーと解決策を協議するなど、地道な作業を継続しています」。

③ 仕組化・テクノロジー活用
改革を現場で定着させるためには、仕組化やテクノロジー活用も重要、と江川氏は語る。「ハラスメントは窓口が社内の人事部門では相談しにくいので、社外の窓口を設置しました。残業はルールを厳格化して、上司命令による18時以降の会議は禁止としました。ルールを作り、周知徹底と研修の拡充も必要です。併せて採用から教育研修、給与、労務管理など24もの制度とプロセスを見直しました」。

また、ユニークなのが各部門での生産性向上、時短ノウハウを共有する「PRIDE Tool Box」や、管理部門への問い合わせチャットボット、管理事務自動化RPAの開発だ。「客先にて常駐し勤務している社員も多く、例えば出産・育児支援といった人事部門向け問い合わせが18時以降に集中して双方の残業の原因となっていました。社内情報へのアクセスを支援する社員向けチャットボットで、いまでは24時間365日問い合わせ対応が可能になりました。当初はHR向け問い合わせが主でしたが、現在は購買や契約書の申請など機能拡充を行っています。管理業務RPAは社員がボランティアで開発してくれたものもあり、年間60,000時間もの工数削減につながりました。このように社内から自発的なイノベーションが生まれるようになったのも、大きな成果です」。

もう一つ、江川氏は”アンコンシャスバイアス”について言及した。「これまでは納期前日に残業して最後までオフィスにいるメンバーが評価される、という体育会系の意識が高く、そうなると子供を迎えに行く女性は評価面で不利になる、そもそもビッグプロジェクトに参加させない、といった”無意識・無自覚”なバイアスが存在しました。体力勝負ではなく、アウトプットの質で評価することが本質です」。

④ 文化・風土の定着化
成功事例や社員の声などを定期的に発信、オフィスの壁一面に啓蒙メッセージを掲示する、PRIDEアイデアコンテストやPRIDE川柳など「あの手この手で今も継続中」と江川氏は語る。中でも成功を実感した瞬間として「大切な人への”感謝を伝えるキャンペーン”を実施した際、1,000通ものメッセージ応募があった。この発表会の光景を思い出すと今でも目頭が熱くなります。これでこの会社は大丈夫だ、という確信に変わった瞬間です」と語った。

「Project PRIDE」の成果

スタートから3年が経過し、その成果は社内の数字にも表れている。

これ以外にも、社内の「PRIDEサーベイ」アンケート結果では、挨拶や信頼関係、ワークライフバランスなどに対して「変わった」と実感する社員の声が多く寄せられている。

 

この改革の取り組みは新卒就職人気企業ランキングや女性活躍ランキング、また働きがいのある企業ランキングなどで社外からも高評価を獲得している。

さらなる飛躍に向けて

江川氏は、新たに浮かび上がった課題として「管理職層、マネージャー層にしわ寄せが集まっている」現状を挙げた。「プロジェクトが急ピッチで成果を生み出す一方で、品質管理の観点で彼らの負荷が高まっています。また、お客様とデジタル変革への取り組みを推進するのと併せて、我々自身も生産性向上に向けたさらなるテクノロジーの活用と、イノベーション協創型の新しい働き方を模索する必要があります」と語った。

「少子高齢化の課題先進国である日本は、海外に比べてAIやRPA活用をポジティブに捉える特性がある」と語る江川氏は、今後、アクセンチュアが目指す姿を「これまでのフェーズ1は”従来10時間かけてやっていたことを、アクセンチュア基準の質を落とさず8時間で行う”生産性の向上を目指してきました。これからのフェーズ2は、”8時間のままで、クライアントにプラスアルファの価値を生み出す”価値向上を目指します」と語る。

最後に江川氏は「働き方改革を実行すると売上が上がらない、という経営者の方がいらっしゃいますが、正しいやり方で実践すれば、生産性は上がります。改革に決して近道はなく、マナー変革やコンプライアンスなどは特に地道に繰り返し、継続して取り組む必要があります」と語る。実はプロジェクト進行中、社内から前任者否定か?や会社のカルチャーを壊す気か?といった批判も多かったという。それに対し江川氏は「そんな声ばかりではリスクだらけで動けなくなります。“次世代に負の遺産を継がない”という、勇気が必要です」と講演を締めくくった。

社員の反発などあらゆるリスクを恐れず、悪しき働き方の慣行を断ち切る改革を断行したアクセンチュアの挑戦は、まだ終わらない。

本記事は2018年11月30日開催の「人と組織の未来アカデミー」の講演を記事化したものになります。

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