企業の変革を促す、新たなメッセージの必要性
和泉氏は、2018年に公表された最初のDXレポートに込めたメッセージを再度確認した。世界的にDXが推進される中、日本の企業にはレガシーシステムが多く、それらがDXを推進する際の障壁となる可能性がある。これを「2025年の崖」と称して、企業は老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システムを見直し、必要なものは刷新しDXを実現すべきというメッセージだった。
このメッセージが正しく伝わらず、産業界の一部に逆の反応を起こしてしまったという。現行システムを2025年で止めないための、クラウドへのリホストやRPAでの自動化といったテクノロジー活用に重きが置かれ、これからの産業はどう変わるのか、その中で企業はどう変革していくべきなのかというDXの本質に触れた議論がなかなか上がってこなかったのだ。
このような状況を踏まえ、和泉氏は「現行のビジネスを継続することに力点がおかれ、本質である企業変革が先送りされたのではと感じました。そこで反省の意味も込めて、物やサービスではなく、新しいデジタル中心のビジネスに経営をシフトするような政策を推進します」と語り、新たなメッセージを発信した。
DXとは、企業文化の刷新である
そして、2020年12月に「DXレポート2」が公表された。経済産業省はコロナ禍でテレワークをはじめとした環境変化に迅速に対応できた企業もある中、対応できなかった企業も多く存在することを危惧する。急速にデジタル化が進む中、変革を実現するためには、経営トップが将来へのビジョンや変革するマインドセットを持つことが重要で、それは端的に言うと企業文化の刷新ではないか、と述べている。
「DXレポート2」から9か月後の2021年8月には「DXレポート2.1」が公表された。DXの本質を企業文化、カルチャーの変革と定義し直した上で、本質的なDXを推進するために「自社で刷新すべき企業文化とは何か」という問いを投げかけている。

和泉氏は、経営トップがマインドを変えるためには「今までの知識を捨て、頭をからっぽにして物事を見る」「DXが完全なる変化なら、目指すべきは何か」を考えるべきという。事例として、日本古来の「アンマ」をロボット化する話を紹介した。
「アンマは、針やお灸で疲労回復を目指すものです。そこに、今までの発想でロボットを入れようとすると、ロボットが刺す針は怖いとか、間違って髪の毛にお灸をつけるかもといった話になりがちで、これでは生産性も上がらないから実施しないとなります。でも本来は、疲労回復が中心であり、針やお灸はその手法です。最新疲労回復の科学に則ったロボットを作り、最後の仕上げだけ人間が行うといった新しいプロセスを創造することも可能なはずです。生産性の向上を目指すなら、こういった方向を考えてほしいと思います」(和泉氏)
つまり人(専門家)の作業のうち、どの部分を機械化するかではなく、新しい機械(デジタル)中心にプロセスを再設計し、専門家(人)の役割を再定義することが重要と語った。