平成30年間に進んだ破壊的イノベーションの波
「デジタル技術の発達によって、影響範囲はどんどん大きくなり、幅広い産業で大きな変革が起こりつつあります。これにどう対峙するのかが、経営上の重要な課題になっています。企業の大小や業種を問いません」
冨山氏は、現在の産業を巡る状況について語り、DX推進がこれからの経営の課題になるという。
コロナ禍で様々な産業が破壊的な危機を迎えているが、世界を揺るがす危機はたびたび生じていると冨山氏は指摘する。2008年のリーマンショック、2009年の欧州債務危機、2011年の東日本大震災。こういった危機に直面すると、会社が倒産したり、産業が滅びてしまったりすることがある。危機を乗り越えるには、経営者の危機対応能力が重要だ。
さらに冨山氏は、こういった危機と危機の間が平和な時代かというとそうではないと語る。平成に入ってからの30年間、破壊的イノベーション、すなわちゲームチェンジはずっと起き続けているのだ。ひとつは「グローバル化」、そしてもうひとつが「デジタル革命」である。
バブル経済の時代、日本企業は短期的利益にはあまりこだわらず、長期的成長志向で経営を行っていた。短期的利益志向のアメリカ企業は滅びると考えられていた。しかし30年経ってみると、アメリカやヨーロッパの企業は、グローバル化に加えて、デジタル革命で生き延び、さらにこの波に乗った中国をはじめとする新興国が急成長した。ゲームチェンジに対応できない日本だけが低迷しているのだ。
ゲームチェンジはあらゆる産業で起こる可能性がある
80年代にコンピューター産業のトップとして君臨していたのはパソコン市場で圧倒的なシェアを獲得していたIBMだった。しかし、90年代初めにIBMは深刻な経営危機に陥る。IBMを倒産の危機にまで追い詰めたのは、ユニシスや日立、三菱電機といったパソコンメーカーではなく、OSやマイクロプロセッサを提供していたマイクロソフトやインテルだった。
「産業のゲームが変わってしまったのです。古いゲームであればIBMは圧倒的に強かったのですが、新しいゲームが古いゲームを凌駕してしまったのです」(冨山氏)
ゲームが変わると、そこで必要とされる組織の能力や経営のモデルも変化するため、これまでと同じ方法は役に立たなくなる。90年代になると、インターネット革命・モバイル革命が起きた。これからはモバイル通信によるインターネットやコンピューターの時代が到来し、通信機器やコンピューターを製造する企業が飛躍すると誰もが予想した。日本であれば富士通やNEC、アメリカであればモトローラやルーセントなどだ。ところが、現在頂点に立つのはGoogleやAmazon、Facebookといった当時存在していなかった企業である。Appleも当時は倒産寸前のパソコンメーカーだったが、インターネット革命・モバイル革命によって世界一の企業となった。同じようなことが今、あらゆる産業で起きようとしている。
「これまで破壊的なインパクトに見舞われなかった、自動車産業や重工業、重電といった機械系、農業をはじめとする農林水産業、サービス業、物流業、観光業など幅広い産業でこういったゲームチェンジが起こるかもしれない、ということが経営的に大きなテーマになります」(冨山氏)
これから起こり得るゲームチェンジへの対応こそ、経営レベルでDXに取り組み、真剣に対応していかなければならない理由なのだ。
10年後に勝ち残るためのコーポレートトランスフォーメーション
かつて『イノベーションのジレンマ』では「破壊的なイノベーションが起こるときは、常に若くて小さなチャレンジャーが勝ち、既存のリーダー・大企業は破壊的なイノベーションに適応できず、淘汰される」と言われてきた。しかし、デジタル革命、グローバル革命が起こってから30年が経ち、破壊的イノベーションの波を乗り越えた企業を見ると必ずしもそうとは言いきれなくなっている。