DXレポートから紐解くこれからの人材・組織マネジメントとは

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経済産業省が2018年に発表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」から2年が経過した。新型コロナウイルスの感染拡大もあり、DX(デジタルトランスフォーメーション)に対する危機感を持つ国内企業は増加しているものの、DXの取り組みを進めている企業と、DXの取り組みがうまく進んでいない企業に二極化しつつある。講演では、経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長 田辺 雄史氏を迎え、DXを実現するためにどんな人材や組織変革が必要なのか提言がなされた。

※セミナーにある経済実態、役職名は2020年11月13日時点のものです。

登壇者

経済産業省
商務情報政策局 情報技術利用促進課 課⻑

田辺 雄史 氏

1997年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年以降内閣官房、経済産業省、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)などにおいて、サイバーセキュリティ政策、IT政策に長年従事。2017年よりIPA産業サイバーセキュリティセンターの立上げ・運営を陣頭指揮。このほか、米国コロンビア大学院への留学、日本貿易振興機構(JETRO)デュッセルドルフセンターおよび在オーストラリア日本大使館への赴任など、幅広い海外経験を経て、2020年より現職。米国公認会計士。

目次

DX時代に求められるビジネス変革の在り方

2018年に経済産業省にて発足した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」は、多くの日本企業が成長するためには、デジタル技術を活用して新たな価値を創造し、企業競争力を高めるDXが必要とし、実現できない場合は2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる、いわゆる「2025年の崖」が訪れる危険性を示した。今回の講演は、その資料「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」(DXレポート)の発表から2年を経た現在において、人材・組織マネジメント変革にフォーカスしたものだ。

登壇した田辺氏は冒頭で、「DXとは新たなツールを導入して完結するわけでなく、デジタルというものを理解した上で組織・人材の在り方を検討していくべき」と投げかけ、まずデジタル化によってどんな変化が訪れるかを説明した。

デジタル化により得られる特徴は大きく分けて3つある。1つ目は、人が介在せずともほとんどの処理が可能になることだ。たとえばキャッシュレス決済がすすめば、店舗で人がお金を集計したり、銀行に入金に行ったりする必要はなくなる。予約システムがあれば、それまで紙で管理していた予約台帳への記入も不要となる。場所や距離、能力の制約が少なくなっていく。2つ目は、多くの処理が専用機不要となり、スマートフォンやパソコンなど、誰もが使えるコンピューターと、クラウド上のコンピューティングリソースなどで実現できる。そして3つ目は、業務プロセスが漏れなく記録されることでトレーサビリティが確保できるということだ。これにより可視化されたデータを意思決定や業務改善、AIへの活用に役立てることができる。

これからの人材に求められる能力のひとつは、こうした仕組みを業況にあわせてさまざまなリソースと組み合わせる能力だ。田辺氏はこのような背景を踏まえ「デジタル化によって、顧客が体験するサービスはどんどん便利になっていく。そのため、顧客価値の最大化という観点でビジネスを設計していくことが競争の主戦場となる」とした。

また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、リモートワークが許容されるようになったことを例に、急激な改革の達成にはトップのコミットメントが重要であると付け加えた。

Society 5.0へ向かうこれからの2〜3年では、情報技術を意味するIT(Information Technology)と、製造業などにおいてハードウェアを制御・運用するための技術OT(Operational Technology)が融合した次世代のサービスが提供され、モノを作って売るだけのやり方は通用しなくなる。

技術面においても大規模なシステム・ソフトウェアをつくるのではなく、細かな単位に分けた機能を迅速に開発に反映する考え方にシフトしており、システム開発は外注でなく内製化する動きが促進されている。ITベンダーが、ユーザー企業の担当者に言われたモノをそのまま作るというビジネスは成り立たなくなる。デジタルは業務効率化のために活用するだけではなく、ビジネスそのものを変革するために用いるものだ。DX推進にはレガシーからの脱却が必要で、柔軟性の高いシステムへの移行が求められる。

DXレポートと2025年の壁~その後

経済産業省では、DXレポートの発表以降、法整備も含めて、企業への働きかけを実施してきた。ビジョンの策定やデジタル環境の整備に取り組む事業者向けには「自己診断」、「認定基準」をクリアし、デジタルガバナンス向上への準備を整えている企業には「DX認定」、さらに、積極的にDXを実現した優れた企業を選定する「DX銘柄」の付与といったように、企業のDX推進状況によってツールを整え、体系化している。

「働き方改革については理解を示す経営者でも、『デジタル化についてはよくわからない』という方も多くいらっしゃる。生活習慣病で例えると、お腹のまわりが気になるから痩やせたほう方がいいと思っている人でも、いま健康だと信じていればなにも行動せず、悪化してから後悔する。DXにおいても、手遅れになってしまわないよう、企業内面の働き方(DX認定等)と環境整備(デジタルガバナンス・コード等)の両面からの挟み撃ちで働きかけるというのが基本的な考え方である。」(田辺氏)

2020年11月からは国が策定した企業経営における戦略的なDXの在り方を示し、優良な取り組みを行う事業者を認定する「DX認定」が本格開始した。また同時に、企業経営におけるDX対応について、投資家などのステークホルダーとの対話を通じて行動するための指針「デジタルガバナンス・コード」も発表された。「デジタルガバナンス・コード」では、DXを推進するためには、デジタル技術の活用を前提としながら、組織づくり・人材・企業文化に関する方策を含む、経営全体の変革が必要だとしている。なお、「デジタルガバナンス・コード」の項目は、DX認定の項目と密接に関連づけられている。

企業が自社のDX推進状況を、0〜5の定性指標によって把握するための「DX推進指標」は、人材育成や人材確保、組織づくり等35の項目を設定している。2019年に集まった指標の分析結果では、全体のDX推進指標の現在地が2019年は1.45に対して2020年は1.59と増加、目標値は3.05が3.19と増加し、いずれもDXについての認識が広まっているとした。

「定性指標の0は無関心、1が部分的に散発的に行なっている、2が部分的にしっかり行なっている、3が全社的に行なっている、4は全社的に行なって継続している、5がグローバル企業と渡り合えると定義されているので、現在は、部分的にDXが採り入れられている状況だといえる」(田辺氏)

IT人材の裾野を広げながら、ミドル人材へ新たなスキルを植え付ける

次に、IT人材育成の政策について田辺氏は、人材不足はどの企業からも課題として挙がっているとしながら、「DXに求められる人材は、自身の専門外の技術にアレルギーを持たずに、いろいろな技術やサービスを組み合わせて、新しい価値を創造できることが、これから求められる人間像である」と述べた。先で述べたデジタル化がもたらす特徴や仕組みを、さまざまなリソースと組み合わせて活用する、柔軟な思考力を持った人材がDXの推進には欠かせない。

政府のIT人材教育体系では、トップ人材の育成や海外人材の確保であるハイエンド人材の育成とともに、ミドル人材のスキル転換や、ITパスポート試験などを活用したリテラシー向上による底上げが行われている。「ITパスポートについては、ITベンダーでは当たり前のことだが、商社や総合サービス業のIT部門でない人も取り組むようになっている。これが浸透してくるとミドル人材のスキル転換につながっていくだろう」と田辺氏は説明した。

ミドル人材のスキル転換に期待がかかるのが「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」だ。これは、ITやデータ活用によって成⻑が見込まれ、雇用創出に貢献する分野において、社会人が専門性を身に付けキャリアアップを図る、専門的・実践的な民間の教育訓練講座を経済産業大臣が認定するものだ。厚生労働省が定める一定の要件を満たし、厚生労働大臣の指定を受けた講座については「専門実践教育訓練給付」の対象となる。

「今のスキルに新しいスキルを融合させ、新たに活用できるような活動を、企業のなかで励行してほしい。このほか、明確な答えのない課題に対して、AIを活用して解決を図りながら人材を育成する『AI Quest』も今年度から始まった。ハイエンド人材については従来から『未踏IT人材発掘・育成事業』を展開している。最近ではプログラム開発というより、実際の社会課題の解決を目的とした人材発掘をしている」(田辺氏)

DXを推進するための必須事項について田辺氏は、一過性の「最新ITの導入」ではなく、デジタルを前提とした業務のやり方や企業文化まで変えることが重要と述べる。そのためには内面、外面から促すことが重要だ。「たとえば今回話題として取り上げなかった副業についても、外部と接して複数のものをつなげることが価値につながるならば有効である。オープンなコミュニケーションが促進されるなら非常に有効だと考える」

本講演のまとめとして田辺氏は、「20205年の崖」だけでなく、現在のコロナ禍という状況も相まって、人材や組織マネジメントは、デジタル時代に向けて変わらざるを得ないと話す。そして最後に、「組織のマネジメントについても柔軟性が必要で、失敗したときの許容なども必要になってくる。失敗や上司の顔色を伺っていてはチャレンジできない。トップがしっかりコミットメントし、文化を変えていく企業が強くなる」と締めくくった。

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