働き方改革を実現するタイムマネジメントと、求められるリーダーシップ

福岡 経営者・役員 人事

2019年11月1日、福岡市にて経営者、人事担当者を対象とした講演会「人と組織の未来アカデミー 九州」(主催/地域情報センター ふくおか経済、協賛/パーソルグループ)を開催。東レ経営研究所の元代表取締役社長で、佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表の佐々木常夫氏が登壇。「これからの時代のマネジメントとリーダーシップ」と題した講演を行った。

1969年、東レに入社。肝臓病とうつ病を併発した妻、自閉症の長男を含む3人の子どもの育児・家事のため、毎日18時に退社する必要にせまられた佐々木氏は、30年以上前から長時間労働の改善や生産性の向上といった「働き方改革」に取り組み続けてきた。今回の講演では、苦境から編み出された佐々木氏ならではの仕事術やタイムマネジメント、「働き方改革」の実践に求められるリーダーシップが紹介された。

家族のために時間を使いたい 
最大の障害は「長時間労働」と「非効率労働」

佐々木氏には子どもが3人、長男が自閉症という障害を持って生まれた。自閉症にはこだわりの強さ、そしてコミュニケーション能力に欠けるという特徴があり、学校ではトラブル続き。高校を卒業してからもサポートが必要だった。

1984年には妻が急性肝炎になり、3年間はほとんど入院生活。1997年には肝硬変とうつ病のために3回入院。これまでに41回の入院を繰り返し、2000年には最初の自殺未遂、次の年にも2回の自殺未遂があった。しかし、佐々木氏が東レ経営研究所の社長となった2003年以降は入院することもなく、妻は回復傾向にあるという。

「当時は子どもがまだ小さかったので、毎朝5時半に起きて子供たちの朝食と弁当を作りました。84年には課長になっていたので、部下より1時間早く出社し、自分と部下の仕事の段取りを決めて、あとは一直線に仕事。18時には退社し、家で子どもたちの食事・宿題・お風呂。土曜日は病院で妻の見舞い、1週間に1回しか行けませんから、なるべく長い時間いてあげます。日曜日は1週間分の掃除・洗濯・買物です」(佐々木氏)

家族のために自分の時間を確保しなければならない。会社での長時間労働と非効率労働が、その最大の障害だった。

タイムマネジメントとは、「最も大事なことは何か」を正しくつかむこと

現在、様々な企業や組織が、働き方改革、ワーク・ライフ・バランスの実現に取り組み始めているが、ただ単純に「仕事を定時に切り上げて、生活の時間を創出しよう」ということではないと佐々木氏は言う。

「ワーク・ライフ・バランスとは『個人も組織も共に成長する経営戦略』です。定時に帰っても、それまでと同じかそれ以上の結果を組織に残さなきゃいけない。つまり、ワーク・ライフ・バランスは、仕事の改革なしには実現できません。そこで必要となるのが『きちんとしたタイムマネジメント』です」(佐々木氏)

佐々木氏が課長になってから東レ経営研究所の社長をやめるまでの20数年間、タイムマネジメントのために部下に向けて発信し続けてきたのが<仕事の進め方の基本 10か条>だ。

<仕事の進め方の基本 10か条>
1. 計画主義と重点主義
2. 効率主義
3. フォローアップの徹底
4. 結果主義
5. シンプル主義
6. 整理整頓主義
7. 常に上位者の視点
8. 自己主張の明確化
9. 自己研鑽
10. 自己中心主義

「私は『良い習慣は才能を超える』と思っています。少々能力が足りなくても、良い習慣を持っている人は、毎日確実に成長していき、才能のある人を抜いていきます。そしてタイムマネジメントとは最も大事なことは何かを正しくつかむことです。組織の仕事はピンからキリまであって、雑用もたくさんあります。それを拙速にやって、肝心要の仕事を完璧にやる。タイムマネジメントは、時間の管理ではありません。仕事の管理です」(佐々木氏)

プアなイノベーションより優れたイミテーション

佐々木氏は東レで実践してきた働き方を、2冊目の著書「部下を定時に帰す仕事術」にまとめた。内容は「計画」「効率化」「時間を増やす」の3つが柱となっている。

1.計画先行・戦略的仕事術
「戦略的計画立案によって仕事は半分になります。同じ仕事でも2週間かかる人と1週間で済ませる人がいます。これは能力の差ではなく、仕事の重要度をどう考えているかということと、段取りの差なのです。私は部下に業務計画書を出させ、仕事の内容と重要度によって納期を決めました。私の着任前は一人当たり月60数時間の残業が、一桁になりました」(佐々木氏)

2.時間節約・効率的仕事術
「私は30代の初めに潰れかかった会社の再建の仕事を行ったことがありますが、残業は月に150時間。東レに戻り、それまでの仕事をフォローアップした結果、相当無駄なことをしていたことに気がつきました。そこで着手したのが書庫の整理です。会議の資料や事業の分析など全ての書類を読み、半分を残し、カテゴリー別に重要度ランキングをつけてファイルリストをつくりました。組織の仕事は、同じことの繰り返しです。誰かがどこかで似たようなことやっています。書庫から3つのファイルを取り出してきて、考え方・フォーマット・着眼点をいただき、最新のデータに置きかえて、自分のアイデアをのせます。一番優れた作品を使うのですから、仕事が早くて優れていて当たり前。私は部下に言います。先輩の優れた作品を盗みなさい、と。『プアなイノベーションより優れたイミテーション』、優れたイミテーションを繰り返すうちに、優れたイノベーションになるのです」(佐々木氏)

3.時間拡大・広角的仕事術
「仕事が発生したら、それをやらないで済む方法はないだろうかと考える。仮にやらなければならないとしても、そのことで一番詳しい人に聞きに行く。一番詳しい資料のありかを知っておきます。

そして私は『会議に出ない、人に会わない、書類を読まない』と決めていました。極めて危険な思想ですから、皆さんにお勧めはしません。ただ私が東レで出た会議のうち、3回に1回は、出る必要のない会議でした。後で議事録でも読めばいいものです。私はできるだけ会議はやりません。そのかわり、そのテーマに関連する人だけを集めてのミーティングはよくやります。また人に会うことも大事ですが、みんなそれぞれ時間に限りがありますから。メールや電話で済むこともあるし、工夫しなければいけないということです」(佐々木氏)

現場を変えるには、トップがその仕組みづくりを

こうして働き方改革のために様々な取り組みをしてきた佐々木氏だが「ひとりが動いても会社は変わらない」という。

「私が異動したら、次のリーダーはやらないので、その職場はあっという間に元の木阿弥。会社は変われないのです。会社を変えようとするなら、1つはトップです。現場を変えようと思ったら、変わるための仕組みをトップがつくってやらなきゃいけない」(佐々木氏)

「変わるための仕組み」をつくった成功例として、佐々木氏がコンサルティングを行ったITベンダー企業の「SCSK株式会社」と島根県松江市にある建設会社「長岡塗装店」のケースを紹介した。

続いて佐々木氏の話は、きちんとしたタイムマネジメントを実行するために必要な<自分と人を活かすリーダーのマネジメント>へ。

<自分と人を活かすリーダーのマネジメント>
1. 自分の考えを確立させる、主体性をもつ
2. 目的を明確に 自分のミッションは
3. 優先順位を決める 何が重要か
4. 仕事の効率化の両輪はコミュニケーションと信頼関係
5. その人に合わせた対応を 人の強みを引き出す
6. 多くを語るな 多くを聴け
7. 時間的(精神的)余裕を持つ
8. 自分流のリーダーのあり方を 自然体で

「働き方というのは生き方のことです。会社だとか、上司だとか、そういうものじゃなくて、自分はどうするのかと主体性を持って考えることです。そして上に立つ人間は時間的な余裕を持ちましょう。上司が忙しいと部下は相談に来ません。すると情報が入らず、仕事は後手にまわります」(佐々木氏)

運命を引き受ける

家族の心と命を守りながら、仕事にも全力で取り組み、数々の事業を成功に導いてきた佐々木氏。その人生観の中心にあるのが「運命を引き受けよう」という母の言葉だという。佐々木氏が6歳の時に父が他界。母は一家の大黒柱として働きに出て、大変な苦労の末に子供4人を大学まで出した。

「母は愚痴を言うこともなく、いつもニコニコしていろいろなことを語りかけてくれました。その中で一番多かったのがこの言葉です。『運命を引き受けて頑張る。がんばっても結果は出ないかもしれないけれど、それでも運命を引き受けよう』と。我が家にもいろいろなことがありましたけど、今は大変幸せな毎日を過ごしています」(佐々木氏)

心にしみる結びの言葉であった。

本記事は2019年11月1日開催の「人と組織の未来アカデミー 九州」の講演を記事化したものになります。

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