10年後を見据えた双日が推進する戦略人事の取り組み。経営戦略を加速し社員の成長を促すニッポンの人事部

東京 人事

企業が持続的成長を遂げていくためには、社員一人ひとりの成長が不可欠となる。そうした成長のスパイラルの実現に向け、日本の人事部門はどのような課題認識を持ち、取り組みにあたっていかなければならないのか。講演ではパーソル総合研究所が実施した「タレントマネジメント実態調査」の結果に基づき、日本企業のタレントマネジメントにおける現状と課題が提示されるとともに、戦略人事に積極的に取り組む双日の河西敏章氏により、企業の経営戦略を加速させるため“ニッポンの人事部”が担うべき役割が語られた。

双日株式会社
理事
人事 総務・IT業務担当副本部長 兼 人事部長
河西 敏章 氏
株式会社パーソル総合研究所
執行役員
タレントマネジメント事業本部
本部長
大下 徹朗
株式会社パーソル総合研究所
シンクタンク本部
リサーチ部
研究員
井上 亮太郎

目次

人事課長・部長300名へのアンケートによって明らかとなった“日本企業のタレントマネジメントの今”

パーソル総合研究所は2019年6月、従業員300名以上の企業の人事部課長、部長職300名を対象として「タレントマネジメント実態調査」を実施した。この調査は、企業における人材マネジメントの実態を明らかにしていくことを目的に行われたもので、登壇した同研究所シンクタンク本部 研究員の井上亮太郎より、その結果が報告された。

優れた人材の確保は多くの企業にとって課題となっており、調査結果から課題の詳細データが示された。例えば「主要事業における、直近3か年の環境変化」について聞いた質問では、「人員の確保が難しくなった」(76.0%)、「優秀な人材が不足している」(77.6%)というように、求める人材が不足していると答える企業は8割近くに上っている。

続いて井上は「次世代リーダー育成」と「キャリア開発」に関する調査結果を提示。「直近3か年における次世代リーダー育成に関する取り組みの変化」に関する設問では、「計画的な選抜・育成を注力・強化している」(57.0%)、「重要なポジションの明確化に注力」(50.0%)、「経営者の関与を強化している」(48.0%)といった回答が上がった。また、「次世代リーダーの選抜において重視する要件」では、「これまでの業績を重視」(34.7%)が最も多く、次いで「将来性を重視する」(29.3%)、「健全な意欲や心構えを重視する」(12%)が上位を占めた。

「キャリア開発に関する取り組みの変化」であるが、井上は調査結果の概要について「個人のキャリアプランを話し合う公的な機会を設ける企業は増えている」と説明したうえで、「ただし、その中身を見ると、残念ながら従業員が人生で成し遂げたいことや仕事に対する価値観といった内面的な事項の把握や記録は一部にとどまっている」と、強調した。

近年、人事領域におけるデータ活用が進むなか、タレントマネジメントシステム導入の実態についても説明。「既に何らかのシステムを導入済み」との回答は24.3%、「検討中」は26.3%と、約半数の企業がシステムを導入、あるいは導入予定であることが明らかとなった。また、実際にタレントマネジメントシステムを導入、検討している企業の目的として、「従業員の人事データの一元化」(26.3%)が最も多い結果となったことが提示された。
そういった人事データの具体的な活用方法としては、「適所適材の異動計画」(13.7%)、「次世代リーダーの育成計画」(12.3%)、「採用における優秀な人材の予測」(9.6%)が上位の回答として示された。

さらに井上は、調査結果に基づき、人事データの活用の実態について次のように強調した。
「年齢や入社年次といった基本属性、人事評価、勤怠情報、保有資格等、比較的把握が容易なスキル面等の情報を活用しているものの、社員にとっての働く意味や価値観、ボランティア等の社外活動の実績といった、内的な側面についてはまだまだ活用されていないことが調査結果から判明しました」(井上)
最後に井上は、システムを効果的に活用する上での課題について「人事戦略と人事諸制度の連携がとれていない」「人事制度が環境適応できていない」「システム活用目的が不明瞭」の3つが示されたことを説明し、講演を締め括った。

経営戦略に基づく人事戦略を推進
個人の成長を企業の成長へ繋げていく

続いて、双日 人事、総務・IT業務担当副本部長を務める河西敏章氏が登壇。同社における戦略人事の取り組みについて講演が行われた。
双日は2004年にニチメン、日商岩井が合併統合して発足した総合商社である。河西氏が人事部長に就任直後、部下との面談を通じて浮き彫りとなった人事上の課題のひとつが、全社での中堅社員層の不足であったという。「現在双日では2,500名ほどの社員が在籍していますが、就職氷河期や合併等の関係で採用を制限した時期がありました。そこで人員シミュレーションを行ったところ若手社員は数多く在籍しているものの、10年後、国内外に存在する400社以上の事業会社の経営層となる人材が圧倒的に薄いということが判明したのです。そこで若手社員を早期に抜擢し、管理職への登用やしかるべき責任を与えることで成長を促すことが急務と考えました」と、河西氏は語る。取組みの一例として、双日の30年後の事業を見据えた未来構想プロジェクトの推進に際し若手社員の自主的な参加を促し、経営人材の育成や若手社員登用の機会としても活用しているという。

同時に、定年後の再雇用者増に対して、そうした人材のスキルを社内の成長に取り込むことも喫緊の課題として取り上げ、取締役会に報告。若手・中堅社員の育成と、再雇用者の活用を軸に据えた人事施策の立案、推進を行っているという。こういった戦略的な人事施策を展開するにあたり、河西氏は「重要なことは、人事における課題認識を持ったならば、それを経営陣と対話していくことです」と訴える。

「会社の経営戦略に対して人事戦略が合致しているのか、独りよがりにならぬよう、しっかりと対話を行い、課題認識を深めて共感と協力を得られるような形にしていかなければなりません。したがって、人事戦略は経営戦略から落とし込まれたものでなければならず、その人事戦略に基づき、人材戦略を定めていく必要があります」(河西氏)

「個人の持続的成長なくして、企業の持続的成長は実現できるのか」という命題は、多くの経営者にとって永遠の課題だ。対して、河西氏は、「企業の持続的成長のためには、所属チームの成長が必要であり、所属チームの成長のためには、個人の成長が不可欠となります。したがって、個人の持続的成長があって、初めて企業が持続的成長を担保できるようになります」と強調する。

最後に河西氏は、「企業として、社員のキャリア志向、成長余力や意欲を見定めながら、個人の持続的成長を支援する場を与えていこうと考えています。そうした個人の成長が企業の成長となり、ひいては株主やステークホルダーの成長にも繋がっていきます。そうした流れを作り、牽引していくのが“ニッポンの人事部”の目指すべき姿であると考えています」と訴えた。

社員の成長を促す“気付き”を与えることが“ニッポンの人事部”がやるべき仕事

講演の最後には、パーソル総合研究所 タレントマネジメント事業本部長 大下徹朗がモデレーターとなり、河西氏とのパネルディスカッションが行われた。

まず大下が「『人事戦略が経営戦略に紐づいていない』という課題を多くの人事部が抱えていますが、そうした課題に対処するため、どのようなことを心掛けていますか」と問うと、河西氏は、「経営戦略に対して人事戦略が追いついておらず、1年遅れの状態にあると感じています。事実、私が人事部に着任した当初、統合報告書やアニュアルレポートを読んだ際に、経営戦略と人事戦略にギャップがあると感じました。これでは次の成長ステージに上がっていけないと危機感を持ち、まずは経営陣との対話を多く持つよう、心掛けました。そうした対話や人事戦略の推進には人事データが不可欠であり、社内に散在していたデータの収集、蓄積にも取り組んでいます」と回答。

さらに「企業の持続的成長のためには個人の成長が不可欠と語られました。そのために人事部が成すべき取り組みをお聞かせください」という問いに対しては、「人事データを最大限に活用することです。企業判断にも委ねられますが、仮に守秘性の高い個人データであっても、本人のキャリアを決める上では人事内だけの情報にせず、積極的に利用することも必要です。無論、データの秘匿性は担保しなければなりませんし、人事部門はそうした機密情報を取り扱っているという責任の重さをしっかりと意識しなければなりません」と河西氏は話す。

「最近の調査では『適材適所』よりも『適所適材』に重きを置く人事戦略を採る企業も増えていますが、どのようにお考えですか。」と尋ねると、河西氏は次のように話す。「明らかに『ポジションがあるから人を置く』という発想はよくありませんが、事業戦略に人事戦略が引っ張られるケースも少なくありません。例えば、海外拠点の設置は経営判断ですが、海外への人事異動は人事部門の判断になります。したがって、適材適所と適所適材はバランスだと考えています。常に適所に適材を充てられるタレントプールを用意しておくことが重要です。また、経営陣と常にコミュニケーションを図ることで経営戦略と人事戦略一体化させるとともに、適材適所と適所適材が相互に乗り入れできるような体制づくりを心掛けています」

最後に、大下は“ニッポンの人事部”としての心構えについて、河西氏から人事担当者へのメッセージを求めた。「人事部門の重要な役割は、共に働く社員に対して、成長のための“気付き”を与えることです。仕事のフィードバックや研修の発言の類いであっても構いません。社員に対して常に気付きを与え、成長曲線の角度を上げていく。その結果として、人が成長する仕組みづくりが実現されるようになります。これこそが、“ニッポンの人事部”がやるべき仕事であると考えています」(河西氏)

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

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