最先端の脳科学で人材開発をアップデートする。今、必要な企業における教育とは?

東京 人事

株式会社ダンシング・アインシュタイン
Founder CEO & Neuro-Inventor
青砥 瑞人 氏

脳神経科学の専門家として教育や企業研修の現場で活躍する株式会社ダンシング・アインシュタインFounder CEO & Neuro-Inventorの青砥瑞人氏。脳神経科学と聞くとなにやら難しく聞こえがちだが、ドーパミン、アドレナリンなど神経伝達物質の名称は日常会話でもよく用いられている。しかし、何となく知っていても、それを生活や仕事に活かせている人は多くないだろう。その分野の専門家である青砥氏の講演は、いくつもの脳トレクイズなどを盛り込み、面白く、かつ企業人事にとっても、刺激的な示唆に富んだ内容で展開された。

青砥氏は米国のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で学んだ脳神経科学を人の成長、教育分野に応用するべく、「脳×教育×IT」の掛け合わせによる「NeuroEdTech®︎ / NeuroHRTech®︎」という分野を立ち上げ、複数の特許を取得。ダンシング・アインシュタイン創設後は教育者、学生、企業と垣根を越えて人々の成長に関わり、数々の大企業の人材育成や組織活性化に従事。学校教育の現場にも独自のメソッドを展開する、いま注目の研究者だ。

目次

「脳科学が人の成長に寄与する」とは

青砥氏は、「脳のナレッジは人々の成長に寄与しうる」と語る。そもそも人が学ぶ時、考える時、感じる時、全て脳が関与している。脳神経科学は、人の脳を細胞や分子レベルから読み解く学問。脳神経科学は基本的には、医学や薬学の応用が多いが、人の学びにも幅広く役立つのではないかと考えた」からだという。

そして脳神経科学を教育や人事の現場に応用する、橋渡し役になることを決意。海外のスペシャリストの元を渡り歩きながら学びを深め、新たなジャンルでの事業を立ち上げた。

青砥氏は「脳神経科学は、多面的に応用できますが、まずは、仕事をする上でどんな職場にでも存在する、最低限学ばなければならない知識のインプットを効率化させることも可能」と解説。

あらゆる人間の活動において、インプットは重要な要素であり、インプットなしにアウトプットはあり得えない。そして、インプットの質を高め時間を短縮することで、よりアウトプットに時間を割くことができる、と言う。これは企業の文脈に置き換えれば「インプットの効率を高めることで、生産性を上げられる」とも言える。

他にも、自分の中にいる「2人の自分」を再認識させてくれる、と語る。

“気づき”のための「サリエンスネットワーク」とは

人間の脳は、あたかも2人の自分がいるように異なる脳のネットワークを使い分けます。まずは、無意識的にオートマチックに情報処理してくれる「デフォルトモードネットワーク」。これは過去の体験の記憶があなたの思考や行動を導いてくれます。一方の「セントラルエグゼクティブネットワーク」は、意識的なあなた、意識的な思考や行動を導いてくれます。そして、その間を取り持つのが、「サリエンスネットワーク」と言われ、自分の脳内あるいは体内の内部環境の変化をモニタニングし、“気づきのためのネットワーク”と言えます。

今の世の中は、外の世界にあまりに魅力的なもの、いや刺激的な物が増え、自己の内面と向き合う機会、自己との対話の機会が減っており、このデフォルトモードとセントラルエグゼクティブな自分に気づけていないことが多い。この2人の自分を意識的にうまく付き合っていけると、物事の見え方は、考え方、世界が変わってくる。

そのための第一歩として、青砥氏は「自己の内面の反応に気づく、サリエンスネットワークを日ごろから働かせることが必要」と語る。世の中で、マインドフルネスや瞑想の価値が再認識されるのもうなずける。しかし、そんな難しいことをしなくても、まずは気持ちのいい朝に、気持ちいいなと感じている自分に気づく。そして、それを味わう。紅葉の色づきがきれいになってきた、と気づき、味わう。そうやって、自己のハッピーの表面積を広げていく中で、自己のサリエンスネットワークを育むことを勧めている。

「学びの習慣が大切」とされる理由を脳科学から解析する

「学びの習慣が大切」というのはよく言われることだ。青砥氏は、それを脳科学的にこう解説する。

脳を構成する神経細胞は筋肉のように成長する。使われたら、それだけ太くなるのです。専門的には、「Use it or Lose it」と言います。使われれば神経細胞は育まれますが、使われなければ、そのままではなく失うのです。脳を使う神経細胞だけを優先的に残す仕組み。使わない構造は、持っているだけでエネルギーの無駄遣いだから、プルーニング(刈り込み)をする仕組みを持つ。そして、学びの習慣によって、実際に神経細胞ではミエリン鞘と呼ばれる絶縁体が太くなり電気信号の電導効率を高めたり、化学物質を受け取る受容体の密度を高め伝達効率を高める物理的変化が観測されたりしている。そして、そこに年齢制限はない。大人になっても幾らでも学べるし、大人ならではの学びもある。習慣化されたものは、脳の情報処理機構からすると、省エネだ。これはいい意味では効率化、悪い意味ではバイアスだ。その特性をうまく知った上で最適に付き合っていくことが望まれる。

脳科学から見た「モチベーション」と「ストレス」

人事の現場でよく使われる言葉に「モチベーション」がある。青砥氏はこれについても脳科学的な視点で解説する。人が何かをするときに、実はどういう動機で物事に取り組むかによって、分泌される神経伝達物質が異なるのだという。

好きなこと、やりたいことをやっているときに出てくる伝達物質が「ドーパミン」だ。ドーパミンは海馬のエピソード記憶、扁桃体の感情記憶、前頭前夜の集中の中枢など、脳のさまざまなところに作用し、記憶や集中を効率よくする働きがある。主にドーパミンが出ている状態のときは、好奇心が湧いているとき。そして、そんな状態で楽しめているとき脳内では「βエンドルフィン」という快楽物質が出る。βエンドルフィンにはドーパミンを抑制するシグナルを抑制する役割があり、その効果でドーパミンの効果が持続でき、心地よく集中できている感じ、いわゆるフロー状態になると考えられている。子どもに話しかけても目の前のことに夢中で聞こえていない、というときがまさにこの状態だ。

一方、やりたくないけどやらないとマズイ、という状態のときは「アドレナリン(ノルアドレナリン)」という物質が出る。確かに、ノルアドレナリンも記憶や注意などの生産性を高めるが、あらゆるシグナルへの鋭敏化に寄与するため、注意が散漫になりやすい。周りの音が気になりイライラするのがそれだ。また、交感神経を活性化させたり、ストレスホルモン、コルチゾールを副腎皮質から放出させたり、ストレスを溜めやすい。

青砥氏は、ただしこれらの効果には個別性があり、人によって異なることを知り、違いを受しかし、ストレス自体が悪いものではないと青砥氏は言及した。あくまで生物にとって必要な仕組みであり、それとうまく付き合うことが必要。そのためにストレスに対する科学的な理解が不可欠。ストレスにはネガティブなイメージが強いが、確かに記憶定着や集中力を高める効果も知られている。納期前のパフォーマンスアップがそれだ。ただし、一人ひとりのストレスへの反応性、すなわち閾値が異なること、その違いを知り、受け入れ、うまく付き合っていくことが大切と説いた。

その上で青砥氏は「人の集中力は15分しかもたないという俗説はウソ」と続ける。「仕事にしろ、マンガやゲームにしろ、ものすごく長時間集中している人は実際にいますし、脳のメカニズムとしても、何かに没頭し続けることは可能です。ただし、そのためにはドーパミンとベータエンドルフィンが相互作用した状態をつくって、“楽しい”が持続していることが大切なのです」と語る。

最新の脳神経科学から知る、これからの「学び」とは

最新の研究では、脳内には2人の自分がいるとされる。高い理想を求めて行動する自分と、過去の記憶やふるまいによって行動する潜在下の自分だ。そして多くの場合、人は過去の記憶ドリブンの行動に縛られてしまう。

そのため、変化の激しい時代に必要な学びとして、青砥氏は自身を深く知り、客観視する「メタ認知」を挙げた。

また、脳神経科学の観点では「単に過去の成功、失敗を振り返るのではなく、成功体験や成長を、過去の失敗やストレスと同時に脳の中で表現すること」が重要なのだという。脳は、同時に脳で表現されたものが結びつくという原則。Fire together wire togetherという仕組みがある。同時に、脳で成功や成長と、その過程の困難、苦労を脳で紐付けて想起してはじめて、脳は「成功や成長には、苦悩や苦難もあるのだな」と学習してくれるのです。これを繰り返すことで、いま世の中で必要とされる「レジリエンス=折れない心」が育まれるのだ。

結果や成果だけではなく途中のプロセスを共に学べば、変化の激しいこれからの時代にも、新たなことにチャレンジしようという、プロセスドライブのモチベーションを得ることができる。青砥氏は最後に、松下幸之助氏の次の名言を引用して講演を締めくくった。

“失敗したところでやめるから失敗になる。成功するまで続けたらそれは成功になる。
失敗の原因を素直に認識し、「これは非常にいい体験だった。尊い教訓になった」というところまで心を開く人は、後日進歩し成長する人だと思います。― 松下幸之助”

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

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