日本的雇用慣行の崩壊は、生涯学び続ける時代の号砲。グローバルの先端事例に学ぶ、今後の人材育成戦略のあり方とは?

東京 人事

株式会社ベネッセコーポレーション
大学・社会人事業開発本部 部長
飯田 智紀 氏
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社みずほ銀行
グローバルキャリア戦略部 部長
松浪 慶太 氏
株式会社パーソル総合研究所
執行役員
ラーニング事業本部 本部長
髙橋 豊

従来型の日本的雇用慣行と人材開発モデルは、もはや激変する社会環境に対応できなくなっている。加えて、高齢化の進む日本で今後一層の活躍が期待されるミドル・シニア層が「自ら学ばない」ことが、深刻な課題として顕在化してきている。本講演では世界最大級の学習プラットフォームと提携、最新の社会人のリカレント教育を提供するベネッセと、グループ一丸となって新たなキャリア形成支援・人材育成に取り組むみずほグループが登壇。具体的な事例を交えた講義と対談により、いま企業に求められる人材・キャリア育成の新たな姿と、そのための環境作りに必要なことを明らかにした。

目次

深刻な人手不足が進む中、日本的雇用慣行が衰退
ミドル・シニア層の「自ら学ばないことが常態化」が課題

冒頭、パーソル総合研究所 ラーニング事業本部 本部長の髙橋豊より、新卒一括採用・無限定雇用、年功序列・終身雇用といった日本的雇用慣行では、これからの環境変化に対応できないと解説した。数年で転職する社員が増加し、定年までの雇用を前提としない社員が増加していることに加えて、定年自体も引き上げられる、もしくは、定めがなくなるといった変化が起きているためだ。

また、髙橋はこれまでの日本企業の「新卒時に大きく投資し、あとはマネージャー期に少し投資するだけ」という人材開発モデルについても問題点を指摘。「2030年には644万人の人手不足*1 が迫る中で、これから一層の活躍が求められるなか、日本のミドル、シニア層は生涯学び続ける必要性を知りません。自ら学ばないことが常態化しているのです」と解説した。

髙橋はその裏付けとして、最新の「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」*2 のデータを紹介。「日本は成長志向度、成長実感度、さらに社外の学習・自己啓発において、いずれもアジア諸国の中で際立って低い数値を示しています」。

*1出所:パーソル総合研究所「労働市場の未来推計2030」
*2出所:パーソル総合研究所「APAC の就業実態・成長意識調査」(2019)

グローバルの「社会人教育事例」から学ぶ、これからの人材育成のあり方

これを受けて株式会社ベネッセコーポレーション 大学・社会人事業開発本部 部長の飯田智紀氏も、同調査の結果*2から「勤務先以外での学習、自己啓発」について「何もしていない」と回答した人が日本では46.3%、アジア14か国平均の13.3%と比較して飛びぬけて高いというデータを紹介。「日本はアジア一、大人が学ばないことが常態化している国なのです」と危機感を示した。

そのうえで飯田氏は、「日本はSociety5.0の実現および人口減少の課題先進国となるために、リカレント教育の拡充による人材育成が喫緊の課題です。その社会人教育事業の成長の方程式は『スキル定義×仕組み化×文化の醸成』です」と解説する。今後、日本にジョブ型の雇用が定着していくことになると、このスキルがあるとこの仕事ができるといった、スキルとジョブを連結させた定義が必要になる。また、定義だけでなくそれらを推進していくための仕組みを作ること、現状の「大人が学ばない文化」を「大人が学ぶ文化」に変えていくための文化づくりも重要だと飯田氏は続ける。

その下支えとなるのが学ぶためのコンテンツと、学んだことを証明する学習履歴データだ。ベネッセではそれらの“学ぶための環境整備”を実現させるべく、2019年6月から「企業版Udemy」の提供を開始。

Udemyは、4,000万人以上が利用する世界最大級の動画学習プラットフォームであり、5万人以上の講師による50万時間以上、約3,200の講座から、自身の必要なスキル、業務課題に合ったテーマを取捨選択して、必要なだけ学習できる。

そして飯田氏はDX(デジタルトランスフォーメーション)やAIなどの先進技術の取り込み、働き方改革と関連する生産性向上といった「いま、企業が取り組むべき課題」に対し、世界190か国で展開しているUdemyのスケールメリットが活かされる、と説明。豊田通商、伊藤忠デクノソリューションズなど、この取り組みを実践する国内事例を紹介し、コンテンツと学習履歴データの可視化により企業のスキル定義、仕組化、文化の醸成にもつながる、と解説した。

加えて飯田氏はシンガポール(Skills Future Credit Program/Civil Service College)、インド(CSC Academy)、オーストラリア(TAFE)の海外事例も紹介。「これらは国民に対してのスキル向上プログラム、リカレント教育を国が主導している事例です。日本の社会全体でも「学び続けるってかっこいい」という文化の醸成が必要なのです」と訴えた。

社員とともに成長する―<みずほ>の新しい人事戦略

続いて登壇した株式会社みずほフィナンシャルグループ/株式会社みずほ銀行 グローバルキャリア戦略部 部長の松浪慶太氏は、2019年4月にみずほグループが発表した「5ヵ年経営計画 ~次世代金融への転換」について紹介。「基本方針は、『“前に進むための構造改革”をビジネス・財務・経営基盤の三位一体で推進すること』で、お客さまのニーズと働く人の意識変化を踏まえた、新しい人事のあり方が必要になってきています」と語る。

大学生に聞いた「AIによってなくなる業種アンケート」では銀行がトップに挙げられ、「就職人気ランキング」でも年々、順位が低下している。こういった環境変化への強い危機感を背景として、これまでの画一的なキャリア形成と人材育成を根本から見直し、金融業界特有の「閉じた社内の競争原理」から「社員の成長や、やりたい仕事へ」への移行を目指している、と松浪氏は話す。

みずほグループでは、テクノロジーの活用、オープン&コネクト(他者・社外)、意欲に着目した自己研鑽や社内外の研修、兼業・副業の認可、アルムナイ(離職者とのネットワーキング)など、さまざまな取り組みを推進している。そこではこれまでの年次、職位をベースとした会社が社員に提供する教育研修の仕組みから、社員自らが見つけ、選び、共創し、互いに勧め合うEtoE(エンプロイー トゥ エンプロイー)への移行が模索されているとのこと。その方法論としてAIやスマートフォンによる双方向のテクノロジーや企業版Udemyなどの活用があり、それらによって社員一人一人のニーズに応じたコンテンツの提供と、学びのパーソナライズ化を実現して社員の自律、自主、挑戦を後押ししたい、と語った。

その後、3者によるディスカッションが繰り広げられた。

まず、飯田氏は「みずほグループはなぜ今、新たなキャリア形成と人材育成への取り組みを強く推進するのでしょうか」と改めて理由を尋ねた。これに対し松浪氏は「今までの銀行員像というのは、決められたことを正確にやるということが重視されており、その仕事ぶりが信頼につながっていました。しかし、経営環境の変化やお客様からのニーズの多様化、価値観の変化に応じて、スピードと創造力を持った人材の育成が重要になってきています。当社としても従来までの人材育成には危機意識を持っていて、画一化からの脱却を目指して抜本的な対応が必要だと考えました。会社として変化が難しい業界でもありますが、時代の変化に合わせて我々も変わらなければならないという意識のもと、会社として後押ししていく考えで、人材育成の取り組みを推進しています」と明かす。

取り組みに対する社内での反応について松浪氏は「社員の新しい職務へのチャレンジを後押しするジョブ公募プログラムには、昨年比約1.5倍の820名もの応募がありました」と話し、確かな手ごたえを感じているという。

その中での懸念として飯田氏は、ミドル、シニア層ヘのアプローチについて言及。これからより一層活躍が期待されるものの、若い世代に比べデジタルラーニングへの親和性が低く、学びに対する意欲も低いのでは、という指摘だ。この点について松浪氏は「銀行ではいわゆるバブル世代のシニア層が、“斡旋”制度で社外に出る機会が増えています。そのため、企業側のみならず、本人にとっても人材価値を高める必要があるのです。また、若手のデジタル世代を束ねる上司力教育としても、ミドル層のキャリア開発は欠かせません」と語り、人生100年時代における中高年層のリカレント教育の重要性を示した。

その上で、「ミドル、シニア世代が変わらないのは、新しい情報に触れないからです。だからこそ学びの必要性のインプット、啓蒙が重要なのです」と解説した。

これを受けて髙橋は「働き方改革、女性活躍、リモートワークには隙間時間に学べるマイクロラーニングが有効ですが、ミドル、シニア層がツールそのものにどう対応できるかがカギとなります」と話す。その上で、「学んだことがすぐに仕事に活かせる実感を与える必要があり、コンテンツの充実も大切です」とつけ加えた。

松浪氏も「社員にはとにかくわかりやすく、使いやすいプラットフォームを提供したいと考えています」と語る。また、「学習履歴データを活用することで、これまで把握できなかったことが可視化できるようになります。最終的には、社員に対しブラックボックスだった昇進、昇格の仕組みと、自らの学びが紐づけられるようにしていきたい」と述べた。そして将来的には、各人が持つスキルや能力と会社が求める人材のポートフォリオを視覚化し、AIやビッグデータを活用したタレントマネジメントにも挑む方針だ。

飯田氏から今後の抱負を聞かれた松浪氏は「企業や業種をまたぎ、自ら成長していける人材を育成して、組織としても多様性を持つ社内風土変革により、付加価値を創出していきたい」と、意気込みを語った。

最後に飯田氏は「生涯学び続ける」環境作りのために必要なこととして、
① 大きな変革の推進には、企業や組織のトップのコミットメントが重要
② 学びからの変化への利益の実感値、可視化と情報の浸透
③ 事業部と人事など組織間での役割分担
の3つを提示。

そして「学び続けることは難しいが、すでに環境は整いつつあります。企業として一歩を踏み出し、早くアクションを起こすことが重要です」と締めくくった。

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

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