ヤマトが変われば物流が変わる。デジタルトランスフォーメーションと経営構造改革の一体推進

東京 経営者・役員 人事

ヤマトホールディングス株式会社
常務執行役員 社長室長
牧浦 真司 氏

1976年に宅急便を開始以来、成長を続け、宅配便市場シェアの約4割以上を占めるヤマトグループ。その一方で、宅急便個数は増加傾向にもかかわらず、宅急単価の下落が進むなど、新たな対応を求められている。それを実現すべく、経営構造改革とDX(デジタルトランスフォーメーション)を一体推進。その実現に向けて用意したのが、1.社長直轄の組織に於けるDXと経営構造改革の一体推進、2.オープンイノベーション、3.人材と風土の改革という3つの仕掛けだ。日本でも話題となった宅配分野での自動運転の取り組み「ロボネコヤマト」や、「空飛ぶトラック」など成果も見え始めてきた。デジタルイノベーションに関わるチームでは、異能を持つ人材を敬意を込めてヤマト出身者は「ミュータント」、外部採用者を「エイリアン」と称し、「それらを上手く組み合わせることでイノベーションを起こすことができると実感した」とヤマトホールディングス 常務執行役員 社長室長 牧浦真司氏は語る。

目次

今求められる、DXによる新たなイノベーション

「宅急便個数の増加にもかかわらず、宅急便単価が下落傾向にあるのはなぜか?」という疑問が、ヤマトグループにおける経営構造改革の出発点になったと、ヤマトホールディングス 常務執行役員 社長室長 牧浦真司氏は語り出す。2015年7月、外資系金融機関メリルリンチからヤマトホールディングスに入社した牧浦氏は、ヤマトグループが直面する課題の根幹を探るべく、宅急便の生みの親である小倉昌男氏の足跡を辿ったと振り返る。

「小倉昌男は、戦略、経営システム、風土という経営のトライアングルを、宅急便という商品を軸に完璧に創り上げた天才経営者です。その卓越した経営のトライアングル・モデルによりヤマトグループは、その後40年以上成長を続け、宅配便市場シェアは約4割以上、社員数22万人、売上高1兆6,000億円以上の大企業に成長しました」。
しかし40年以上が経過し、宅急便開始時と現在でヤマトグループの3C(顧客Customer、競合Competitor、経営資源Company)分析を比較してみると、戦略の前提条件が大きく変化していると牧浦氏は話し、続けて次のように説明する。「顧客は個人から法人へ、真の脅威は同業他社からメガプラットフォーマーへ、経営資源も働き方改革の推進や人的資源の逼迫、EC荷物の急増、デジタル化への対応など課題は山積し複雑化しています。さらにデジタル化の進展により、VUCA (Volatility変動性、Uncertainty不確実性、Complexity複雑性、Ambiguity曖昧性)と称される、予測困難な時代に持続的成長を果たしていかなければなりません」

現在の課題は、経営環境の大きな変化に対し、ヤマトグループの経営構造がいまだに宅急便を軸とする姿から変わっていないことにあると牧浦氏は話す。「ヤマトグループの歴史を紐解くと2つの大きなイノベーションを起こしています。第1のイノベーションが1929年に、決められた時間にルートを巡回し荷物を運ぶ路線便を日本で初めて開始したこと。第2のイノベーションが1976年の宅急便の開始です。そして今求められる新たなイノベーションが、DXによりデジタル時代にふさわしい経営モデルへの大変革です」(牧浦氏)。

DXをどう進めていくか、牧浦氏は「新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるものだ」という有名な聖書の言葉(マタイによる福音書 第9章 17節)が、ヤマトグループのDX推進における基本的な考え方だと述べる。その意味について、デジタルテクノロジーという新しいぶどう酒を、デジタル時代に適した経営構造という新しい革袋に入れていくことだと説明する。重要なポイントとして、デジタルテクノロジーの導入だけではDXは実現できないと牧浦氏は指摘し、「ヤマトグループにおけるDXを実現するためには経営構造改革とDXを一体で推進していかなければならない」と強調した。

経営構造改革とDXの一体推進を実現するための3つの仕掛け

どのようにして経営構造改革とDXを一体で推進していくのか。最初のステップとして、2016年1月、経営構造改革を専任で検討するプロジェクトチーム「プロジェクトD(通称Dプロ)が設立された。DプロのDは「生き残る種とは、変化に最もよく適応したものである」との言葉を残した生物学者ダーウィンにちなんだと牧浦氏は話し、こう続ける。「Dプロにおいて、社訓と経営理念以外は、すべてゼロベースで見直しました。Dプロの活動の骨子は中期経営計画『KAIKAKU2019 for NEXT100』に盛り込みました。中期経営計画に沿い、DXと経営構造改革の一体推進のために3つの仕掛けを用意し取り組んでいます」

仕掛け1.社長直轄の社長室でDXと経営構造改革を強力かつ一体的に推進 社長室は、ヤマトグループに対するディスラプター(破壊者、脅威)の発見とディスラプト(破壊による変革)できる領域を見つけ出すデジタルイノベーション推進担当(通称YDX)と、構造改革を実行する構造改革担当(Dプロ)の2つの機能を有している。

仕掛け2.オープンイノベーション デジタル時代に対応するためには自前主義には限界があることから、ヤマトグループはオープンイノベーションに大きくシフトしている。「ヤマトでは2025年までに世界で最も無人ビーグルを巧みに使いこなす物流事業者にならなければならないという目標を定めています。その実現に向けてオープンイノベーションにより、空中と陸上におけるテクノロジー開発を行っています」と牧浦氏は話し、業界にイノベーションを起こす2つの取り組みを紹介した。

1つめが、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)との共創による自動運転宅配「ロボネコヤマト」の実証実験だ、ロボネコヤマトとは、ロッカーを積んだ自動運転車がお客様の指定する場所・時間に出向き、お客様が自身でロッカーを開けて荷物を受け取る。「セールスドライバーが自宅に伺って荷物を手渡すのではなく、お客様が自ら荷物を取りに行くという転換が、お客様に受け入れられるかどうかをテストしました。ある程度、成果は得られました」(牧浦氏)

2つめが、米国ベル社との共創による「空飛ぶトラック」の実証実験だ。2019年8月に飛行テストを実施した。今後、時速220km、最大450kgまで荷物を運べる有効性を検討し、市場導入モデルを開発する。牧浦氏は「ヤマトグループは標準貨物ポッドを開発し、それが地上に着いたときの地上でのオペレーションと一体的に運用できるかを確認しました」と成果を語る。

仕掛け3.人材と風土の改革
2018年10月、ヤマトグループチームはシリコンバレーの有力なアクセレレーターである
「Plug and Play」主催の 「Supply Chain & Logistics Fall Summit」 において、そのコミットメントと活発な活動が評価され、「Corporate Innovation Award」を受賞した。牧浦氏は「デジタルイノベーションに関わるチームは、敬意を込めて“ミュータント”と呼んでいるヤマト社内出身の異能者と、“エイリアン”と呼んでいる外部採用の異星人による十数名の構成です。ミュータントとエイリアンを上手く組み合わせ、ダイバーシティを推進し多様な人材を活かすことでイノベーションを起こすことができるのだと実感しました。」と思いのこもった言葉で語った。

DXに最も重要なのはデジタルよりもマインド

「どのように人材を集めたのか」と質問されることも多いと牧浦氏は話し、こう続ける。「22万人の社員の中からどうやってイノベーションに適した人材を見つけ出したのか。大々的に応募を募ったりしたわけではなく、情報のアンテナを高く上げ、常に情報発信していると、自然に“出会い”がやって来たというのが実感です。例えば、『空飛ぶトラック』のプロジェクトリーダーの場合などは、たまたま本社で彼の席の前を歩いていたら、机の上に英語の論文がバサッと置いてあったのを目にしたのがきっかけでした。読んでみるとよく書けている。すぐに彼をチームリーダーに抜擢し役職と権限を与えました。彼はオープンイノベーションの相手を探すために世界中をまわり、世界の名立たる航空機メーカーと話をし、最終的にベル社との連携を決めました。オープンイノベーションの鍵は人材にあると改めて思いました」(牧浦氏)。

DXと経営構造改革の一体推進で最も大事なことは、経営層や従業員のマインドチェンジだと牧浦氏は強調する。「明確にこれという正解は見いだすことができていませんが、人間的アプローチがとても重要であると考えています。デジタルよりも心の持ち方が大事だということです」と話し、1つの例として社長室の三悪(絶対犯してはならない掟)を紹介した。

掟その1.慮るな!
デジタル時代には上司が正解とは限らない。常に自分の意見を主張せよ

掟その2.黙るな!
まず“議論ありき”。年次に関係なく発言しない者は会議へ参加する必要なし

掟その3.抱え込むな!
仕事ができないことは問わない。ただし、ワンチームでやっているのだから、締め切りまで一人で抱え込むな

「社長室の三悪は、DXと経営構造改革の一体推進における鍵ではないのですが、常に言い続け、社内において同志を増やしていくことが大事だと思っています」と牧浦氏は話す。最後に「構造改革における母集団はできているので、そこを核に全社の取り組みに広げていけるかどうかが、今後のテーマとなります。小倉昌男が提唱した『全員経営』のように、多様なバックグラウンドをもった社員一人一人がゼロベースで現状を見直し、全社員が心を一つにして改革にとりくむことが出来るかにかかっている。」と締めくくった。

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

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