人生100年時代のキャリア自律と副業・兼業。解禁3年を経たロート製薬に学ぶ、パラレルキャリアを推進する意義とは?

東京 人事

人生100年時代を迎え高齢化が進む日本では、従来の“60歳で引退した後は余生”といった考え方が通用しなくなりつつある。企業においても、多くの業務が特定のスキルを持った人が集まって活動するプロジェクト形式へと移行しつつあり、そこではキャリアの自律が求められる。そのような中、注目を集めているのが、企業に属しながら他社でも働く副業だ。導入を躊躇する企業もまだ多いが、ロート製薬では2016年に副業を解禁。約80人が副業を実施する中、まったく問題は起きておらず、ほとんどの副業者が本業でも成果を上げているという。本講演では、まず法政大学大学院 政策創造研究科 教授・研究科長 石山恒貴氏が副業の背景やキャリア自律の実現方法、副業の事例などを語った後、ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部 副部長 矢倉芳夫氏が同社の具体的な取り組みや成果を紹介した。

法政大学大学院 政策創造研究科
教授・研究科長
石山 恒貴 氏
ロート製薬株式会社
広報・CSV推進部 副部長
矢倉 芳夫 氏

目次

肩書よりも明確なスキルが求められる時代に

2017年の日本の労働力人口は、半分以上が既に45歳以上であり、その数は増加傾向にある。政府は70歳までの雇用を努力義務とする方針を打ち出しており、その選択肢として、企業内の定年延長や廃止、再雇用だけではなく、他社への再雇用やフリーランス、起業への支援、NPO活動への資金協力などの方向性を提示。雇用以外の選択肢を含めた多様な方法で、社員の活躍をサポートする方向へと切り替わっている。

第4次産業革命、AI活用などにより働き方も変わってきている。2016年8月に厚生労働省が発表した『働き方の未来2035』では、「2035年には企業という枠が溶け、働き方はミッションや目的が明確なプロジェクトの塊となる」と指摘。従来大企業で長時間かけて行っていたような大プロジェクトが、テクノロジーの進化により少人数の知らない同士でも実現できる時代になってきた。「これからは企業名や肩書で仕事をするのではなく、何ができるかが大切です。必要なスキルを持った個人が集まりプロジェクトを作って働く、言わばハリウッド映画の『オーシャンズ11』型のスタイルになるでしょう」(石山氏)。

越境学習とサードプレイスで刺激を受け続ける

このような働き方において、自己認識と価値観に基づいて主体的にキャリア開発していくのが「キャリア自律」である。では具体的にはどうすればいいのだろうか。副業・兼業と関連する活動として石山氏が推奨するのが「越境学習」である。これは、自らが準拠する状況(ホーム)と、その他の状況(アウェイ)を分ける境界を往還することにより、常に刺激を受ける活動だ。

チャールズ・ハンディによると、人生には次の4つのワークがある。お金を稼ぐ「有給ワーク」、家事、育児、介護などの「家庭ワーク」、地域活動やNPOなどの「ギフト地域ワーク」、趣味・サークル、リカレント教育などの「学習趣味ワーク」である。この4つを複数以上持っていればホームとアウェイを往還でき、常に刺激を受け続けることができる。

もう一つ石山氏が推奨するのが、アウェイの一種となる「サードプレイス」を持つことだ。サードプレイスとは、家庭でも職場でもない、とびきり居心地の良い場所のこと。サードプレイスには地元の居酒屋や趣味のサークルなども含まれるが、石山氏が現在注目しているのが、目的交流型のサードプレイスだ。「地域のNPOや子ども食堂、勉強会などの活動は、副業・兼業と同様の刺激を受けられ、大きな学びになります。最近は、地域の消防団やPTAに自律的に参加する人も増えています。会社と違って上下関係がないので共有型リーダーシップが身に付き、実験や失敗を経験でき、多様性に慣れるといったメリットもあります。また、改めて自分が本当にやりたいことや得意なことを再認識できます」(石山氏)。

副業を解禁した企業では大きな成果が出ている

では副業の実態はどうか。総務省によると副業を行っている人の割合は現在4%、正社員に限ると2%と決して多くない(※)。企業側も8割が未解禁で、自社の社員が副業するだけでなく、副業者の受け入れも敬遠する傾向にある。一方解禁している企業では、人材の育成や採用、新しいアイデアの創出などの効果がでているという報告もある。

副業というと、お金がないから副業で稼ぐというイメージがあるかもしれないが、今はキャリアに生かしたいという副業が増えている。例えば、静岡のある不動産店の店長は、週末ワインバーのバーテンダーもこなしつつ、地域のNPO活動にも関わっている。客からいろいろな話が聞けるので相乗効果があり、本業の営業成績も高い。また、広島県福山市が兼業・副業限定で戦略顧問を1人募集したところ、395人が応募。あまりにも優秀な人が多いために5人採用した。その結果、福山市を映像の街にしようという取り組みが始まり、30代の働く女性向けの一人旅を企画し好評を博すなどの取り組みが次々と起きている。法政大学石山ゼミでは、福山市と協力し副業の効果を検証。「個人はモチベーション向上、会社側はいろいろな人とつながり組織が活性化するという効果があることがわかりました」と石山氏は語る。

従来のキャリアは学生時代までに蓄えた知識を引き出して使っていく“銀行型”だったが、これからはそれでは通用しない。今は1度料理の作り方を学べば、レシピを自分で工夫できる“料理教室型”のキャリアが求められる。ただし、継続して工夫し続けるには常に新しい刺激が必要。「一生越境し、一生学び続けることが重要です」と石山氏は語る。

※ 総務省統計局「平成29年度就業構造基本調査」より

企業と部門の枠を超える制度を導入したロート製薬

ここからロート製薬の矢倉氏が登壇。同社では、経営者が重点課題を掲げ、手上げ式による若手中心のプロジェクト「ARK」が応えるという仕組みがあり、その中で「働き方を変えよう」という提案が2015年になされたとのこと。「働き方改革」という言葉が世の中を席巻した一年も前のことである。同社は農業をはじめとする新規事業にも果敢にチャレンジしており、画一的なルールの運用は適さなくなっていた。そのため、自由度を高め、働き方を変えようと考えたのである。そこで提案され2016年に開始したのが、会社の枠を超える「社外チャレンジワーク制度」と部門の枠を超える「社内ダブルジョブ制度」である。

「社外チャレンジワーク制度」の考え方は、「就業中の内職はできないが、自分の時間は自由に使ってよい。ボランティアなどに勤しむのもよいが、その人のプロフェッショナリティを認められて対価をいただけるのなら、なお上等。」というものだ。そのため許可制ではなく届出制であり、それも強制ではない。競合他社以外ならどんな仕事でもOKだ。当初は入社3年後からとしたが、その後“社会人経験3年後から”とさらに緩やかに変更している。一般的に副業を検討する企業は、新たなルールを作って制約を作りがちだが、そのようなものはほとんどない。矢倉氏は、「自分の時間を自由に使うのは、そもそも当たり前のことです。しかし、例えば少年野球のコーチを無報酬でやっている間は何も言わないのに、5千円でももらったら、会社が『健康管理は大丈夫か』などと言い出しがちで、これは明らかにおかしい。「社員の健康への配慮は、複業をする、しないに限らず、大事な要件。その他の心配についても同様。」と語る。

「社内ダブルジョブ制度」は、複数の部署で活躍したいと思う人が自分で手を挙げ、認められたら辞令を出す仕組みだ。基本的には部の都合優先でなく、本人の意思や可能性を尊重している。

ロート製薬は制度を作ったのではなく、制度を壊した

先進企業の取り組みを知りたいと多くの企業が話を聞きに来るが、真面目な人事担当者ほどルールがないことに戸惑うという。矢倉氏の回答はこうだ。「制度を作ったのではなく、制度を壊したと理解しています」。

では、なぜロート製薬はルールを作らないのだろうか。矢倉氏は、「今の時代は、新しいチャレンジや多様性が活きることによるイノベーションが重要です。そのベースとなるダイバーシティ&インクルージョンと最も相性が悪いのが、画一的なルールです。多様な人材の活躍といいながら、100に1つしかないことを想定してルールを作っても、多様な人の可能性は伸ばせません。実際当社では複業によるトラブルは発生せず、むしろ社員が活き活き働いています。」と語る。

ロート製薬での副業のパターンはあえて分類すれば、おおよそ次の3つ。まず、薬剤師、会計士といった「資格を生かす」やり方。次が「好きなことを生かす」やり方だ。会社ではできない好きなことをするため、会社を立ち上げた人もいる。最後が「経験を生かす」やり方。ある人は目薬の滅菌工程の経験を生かして、地ビールの会社を立ち上げた。

現在ロート製薬で副業をしている人は約80人。そのほとんどで本業の成果も上がっているという。副業は効果がないと始められないという企業もあるが、そういう考え方自体がナンセンスと矢倉氏は次のように語る。「そもそも土日の活動が会社に与えるメリットを提示する必要があるのでしょうか。それは育児に会社にとってのメリットを求めるようなものです。その考え方を変える必要があります」

最後に矢倉氏は、「枠の中にとどめるより、自主性に任せて信頼していると伝えることが重要です。互いに敬意を払い、一緒に仕事をする中では、それぞれの知見を戦わせ、一人ではできない仕事を成し遂げたほうが、結果的に社員の幸福感につながり、業績も伸びるでしょう」と締めくくった。

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

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