グローバル人材とは?必要なスキル、社内育成の方法を具体的に

日本経済が停滞している現代において、海外で事業を展開することで売上の最大化を図る企業が増えています。海外売上高比率が6割を超える企業も珍しくありません。

海外事業を成功させるためには、事業をけん引してグローバルに活躍できる優秀な人材が必要です。しかし優秀な人材を採用することは、人材不足の昨今では難しいと言えます。こうした課題を解決する鍵となるのが、グローバル人材の育成です。

本記事では、社内からグローバル人材を選定し、育成するために必要な具体的な方法や、育成までの5つのステップについて解説します。

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グローバル人材の育成には、異なる価値観や考え方を受容できることができる環境、つまりダイバーシティの推進が欠かせません。

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目次

グローバル人材とは?定義と背景

グローバル人材について、文部科学省では以下のように定義しています。

・要素Ⅰ: 語学力・コミュニケーション能力
・要素Ⅱ: 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
・要素Ⅲ: 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

このほか、幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークと(異質な者の集団をまとめる)リーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー等。

【出典】文部科学省「グローバル人材の育成について

グローバル人材とは、高い語学力を持ち、コミュニケーションや問題解決能力に長け、主体性やチャレンジ精神、責任感や使命感を持った人材と定義されています。

日本で成功している事業が海外で通用するとは限りません。日本企業が海外で成果を出すためには、異なる文化や価値観を理解した上で、現地のニーズに合致した商品やサービスを展開していくことが重要です。

そのため、グローバル人材は語学力だけでなく、コミュニケーションスキルや問題解決能力といった部分を併せて身につけている必要があります。

グローバル人材に必要な9つのスキル

グローバル人材は語学力だけでなく、コミュニケーション能力など多くのスキルを身につける必要があります。本章では具体例を紹介します。

1.コミュニケーション能力 自己の主張だけでなく、相手の意見をよく聞き、意図を正確に理解して互いが納得できるラインを探れる
2.語学力 幅広いシチュエーションにおいて対応可能な語彙力と文法力を兼ね備える
3.主体性やチャレンジ精神 失敗を恐れず、自己の責任において物事を決定し、目的に向かって効果的に行動できる
4.協調性・柔軟性 現地の外国人労働者や顧客とスムーズな交渉を行える
5.責任感・使命感 自らの使命や立場を認識し、事業をけん引する
6.リーダーシップ 周囲を巻き込み、人の能力を引き出して成果を上げて行く
7.日本人としてのアイデンティティー 国境を越えてさまざまな人と関わる中で、自国の文化や強みをしっかりと説明できる
8.異文化理解 社会や文化、価値観の違いに関心を持ち、理解する姿勢を持つ
9.クリティカルシンキング 物事の本質を見極めて論理的に思考する力を持ち、客観的な視点から課題を特定し、問題解決に向けて動くことができる

グローバル人材は採用難易度が高い

グローバル化が進む現在、企業のパフォーマンスに大きく貢献してくれる高度なスキルを持った人材が常に求められています。しかし労働人口が減少し、労働力が不足する中、高い知識と語学力を兼ね備えた人材を中途採用することは簡単ではありません。

課題を解決するためには、グローバル人材を自社で育成できる環境を整えることが必要です。

グローバル人材育成の5ステップ

グローバル人材は、語学力以外にも多彩なスキルが求められます。そのため、長期的な視点を持ち、計画的にプログラムを実施していくことが重要です。本章では、グローバル人材を社内で育成するために必要な5つのステップをご紹介します。

1.候補者のリストアップと選定

人事考課やキャリアプランなどの人事面談の結果をもとに、候補者をリストアップします。考課や面談の記録は、普段から人事データとして社内で一元管理することをおすすめします。

また選定と並行して、候補者の上司や周りの社員から本人に関する情報のヒアリングを行います。本人の性格や人格、普段の勤務状況に問題はないかなど、周囲からの評判や素行面も確認しておきましょう。定量データだけでは評判や素行面の把握は難しいため、注意が必要です。

2.必要なスキルの抽出

リストアップが完了したら、候補者のポジションやキャリアに合わせて必要なスキルを洗い出し、一覧化します。

候補者が身につけるべきスキルを体系的に把握できるため「このスキルは成熟した人材が少ない」など、育成の優先順位も洗い出すことができます。またスキルの育成・指導漏れも防げます。

一覧表は年次ごとに更新していき、グローバル人材育成の進捗を測るものさしとして活用しましょう。

3.人材育成プログラムの作成

特定された課題をもとに育成プログラムを作成します。育成には研修やOJTの実施などさまざまな手段があるので、スキルの優先順位や費用対効果などを考えて、実施内容を使い分けましょう。

例えば、語学力やコミュニケーション能力などは、外部研修を活用することで短期間でのスキルアップを図れます。一方でリーダーシップ力など、習熟難易度が高く育成に時間がかかるスキルは、研修とOJTなどの実務経験を組み合わせることで長期的な育成を促せます。

■グローバル人材育成プログラムの一例

項目 概要
1.異文化理解 日本とのビジネスの違いや、現地採用の社員への指導方法、接し方の理解
2.異文化コミュニケーション ハイコンテクスト、ローコンテクスト文化の理解
3.海外におけるリスクマネジメント リスクの洗い出し、リスクマネジメントのポイントの理解
4.海外での人材マネジメント 海外におけるチームマネジメント、人事評価、労務管理のポイントの理解
5.英文契約の基礎 日本の契約と英文契約の違いや特徴
英文契約書の構成や注意すべき点の理解
6.プレゼンテーションの方法 海外でのプレゼンテーションの目的、構成、資料作成のポイントの理解

4.育成プログラムの実施

作成した育成プログラムは、3カ月、1年、2年など、時系列に分けて実施します。候補者は普段の業務と並行して受講するため、無理のないスケジューリングが必要です。

また自社の海外戦略と併せ、具体的に「いつまでに」「どのような人材が必要なのか」を候補者へ提示した上でプログラムを進めましょう。選抜された本人に明確な配属イメージがある方が、モチベーションを保ちやすくなります。

グローバル人材育成プログラムは長期にわたる計画のため、実施途中で海外事業自体に変更が発生することもあります。また、経営計画が変更されたり、候補者自身が退職してしまったりという事象が発生することも考えられます。

このような事態に対し、育成スキルの優先順位を変えたり、研修計画を変更したりと、臨機応変に対応することが求められます。

5.フィードバック・配属

年次別に立てた育成プログラムが計画通りに終了すれば配属となります。配属では、育成した人材と現場が求めるスキルのマッチングが重要です。誰がどのスキルを持っているかを改めて確認しながら、それぞれの社員が最も活躍できる現場へ送り出しましょう。

一方で、当初の計画通りにプログラムが進行するとは限りません。リストアップした候補者が、思ったようにスキルを取得できていないことや、海外事業計画そのもののスケジュールがずれてしまうこともあります。

そのため、人材育成では候補者を絞り込みすぎず、数多くのグローバル人材の候補者を常に育成している状態を作っておくことが必要です。長期的な話にはなりますが、中途採用や新卒採用の段階で海外赴任の希望者を募り、人材を確保しておくことも大切です。

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グローバル人材育成を推進するポイント

社内でグローバル人材育成を推進するためには、経営陣や社内の理解は欠かせません。また、組織全体が人材育成をバックアップするような仕組みや環境づくりが必要です。

企業全体で取り組む

社内理解を得るためには、経営陣の発信が必要です。人材育成が経営戦略とどう結びついているのか、スキルを上げることでどういった成果が見込めるのかを社内報や方針発表の場で表明しましょう。経営陣が自ら発信することで、プロジェクトの重要性を社内に伝えることができます。

また、評価制度の整備も同時に行いましょう。コミュニケーション能力や語学力、リーダーシップ力などグローバル人材に必要なスキルを持つ人材を高く評価し、査定や給与に反映することで、社員のモチベーションやスキルアップ意識の向上につながります。

ダイバーシティの考え方を浸透させる

グローバル人材を生み出しやすい環境をつくるために、ダイバーシティを推進する方法があります。ダイバーシティとは「多様性」を指す用語で、異なる価値観や考え方を持った人材を集めた組織をつくることです。

海外事業では、外国人が持つ視点やアイデアを取り入れて事業に反映していくことが特に重要です。日本の教育文化と同じコミュニケーションを取ってしまうと「他の人と同じような行動を取ること」を基調としてしまい、自らの意見を言わなくなるケースも発生します。

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意見を発言しやすい環境をつくる

自己の思いや考え方をアウトプットしやすい組織にすることが、グローバル人材を育成しやすい環境づくりへとつながります。意見の発表や新プロジェクトの企画などを通して、普段の業務から自然とグローバル人材になりうるスキルを磨けるようになるのです。

例えば、会議の場で意見を述べる社員がいないといったケースでは、持ち回りでファシリテーターを経験させることをおすすめします。ファシリテーターとは、会議や研修をスムーズに進行し、高い成果を出せるようサポートする役まわりの人を指します。

ファシリテーターを経験した人材が「メンバーの意見を抽出する」「チームの意見を結論まで導く」というスキルを身につけられるようになるだけでなく、意見が活性化する会議づくりにもつながります。

組織全体に自分の意見をアウトプットしやすい環境がある企業は、新たなグローバル人材の候補者を生み出しやすい企業であると言えます。

グローバル人材育成の企業事例

海外で事業を展開している日本企業の成功事例を紹介します。ここでは2社を紹介しますが、共通点として「グローバル人材に対する理解促進を行う」「教育と並行して制度を整える」ことが挙げられます。

日立製作所

日立製作所では、事業のグローバル化を進めることで海外売上高比率が全体の約43%となり、海外での事業展開に成功しています。グローバル人財マネジメント戦略の策定により現地主導での経営を推進し、2011年7月には「グローバル人財本部」を新設することでグローバル化がさらに加速したのです。

海外拠点が日本の本社の下にあるというそれまでの考え方から、日本を含めた世界6拠点すべてがフラットであるという考え方に変更。各拠点にマネージャーを配置し、コーチングとフィードバックを通じて社員のパフォーマンスを向上させました。

その後、45,000もの業務ポジションをマッピング化することで、全世界約30万人の人材をデータ化し、グローバルで可視化できる仕組みを構築しました。それにより、各ポジションに必要なスキルと経験が明確化され、グローバルに戦える人材集団を確立しています。

楽天グループ

楽天グループでは、社内の公用語を英語とし、全社員をグローバル人材として育成することに成功しました。現在、約80カ国の国籍を持つ社員で構成され、全体の2割以上が外国籍で、約3分の1の社員が海外を拠点とする、グローバル企業へと成長しています。

成功の要因は、役員も含めた全社員が朝礼やミーティングでの会話をすべて英語に変更したことです。日本人同士でも慣れない英語でミーティングする必要があるため、最初は戸惑いの声もあったそうですが、結果的に「英語を勉強したかったため良かった」という社員のアンケート回答が多かったようです。英語という共通の言語を持ったことで、企業内のコミュニケーションが加速しました。

また、楽天グループでは企業内でダイバーシティを推進しています。国籍、スキル、キャリア、価値観が異なる人材たちの相互理解が重要とし「楽天主義ワークショップ」と呼ばれる研修や、異文化マネジメント・マインドセット研修の実施にも力を入れています。

海外拠点だけでなく、日本本社の主幹部門までもグローバル人材化を実現した成功事例と言えます。

グローバル人材の育成課題

多くのスキルと要素が求められるグローバル人材を育成するためには、いくつかの課題を克服しなければなりません。一朝一夕では育成できないため、クリアすべき課題を明確にして戦略的な育成計画を立てましょう。

育成には時間とコストがかかる

グローバル人材の育成には、長い時間とコストを要します。研修を受講すれば終了ではなく、その後に実践を重ねて長期的な視点で育成する必要があります。

チャレンジ精神や責任感などは、机上で身につくものでなく、実践を重ねた上で少しずつ磨かれていくものです。中堅以上の社員が短期間でチャレンジ精神を得ることは困難と言えるため、若手の段階から、本格的な研修を受講させることが効果的です。

海外勤務希望者不足

グローバル人材育成では、海外勤務希望者が不足していて、育成プログラムが計画通り進まないという課題があります。

【出典】産業能率大学「第7回新入社員のグローバル意識調査 | 調査報告書

産業能率大学の調査によると、新卒採用された18歳から26歳までの新入社員を対象としたアンケートでは、60.4%が海外で「働いてみたいとは思わない」という回答でした。理由は、「語学力に自信がない」「生活面が不安」などが挙げられます。

海外勤務希望者を募集しても、そもそも希望する若手社員は半数以下のため、その中から採用しなければならず、計画通りにグローバル人材育成が進まないという課題があります。

国や地域によっては若手社員が興味を持つエリアもあるため、人事面談において配属先の具体的なエリアを説明することで、潜在的に海外勤務に興味のある人材を見つけられることもあります。希望する勤務地へ配属することも可能であることを伝えれば、さらに海外勤務の希望者を増やせるでしょう。

また、採用の段階からグローバル人材を育成していることをアピールし、海外での活躍を希望している人材を積極採用しておくことも、海外勤務希望者を増やす施策となります。

リーダー資質を持つ人材の不足

リーダー資質を持つ人材の不足は、グローバル人材育成を進める上で大きな問題の一つです。パーソル総合研究所の調査によると、リーダー志向のある人の割合は「29.5%」と、50%を大きく下回る結果が出ました。

また、元々リーダー志向を持っていた人材でも、入社後に裁量権が与えられず、リーダー志向が低下するケースも存在します。「鉄は熱いうちに打て」という言葉があるように、若手社員の時代から裁量権を与えてリーダー経験を積ませることが重要です。

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グローバル人材の育成には、異なる価値観や考え方を受容できることができる環境、つまりダイバーシティの推進が欠かせません。

・これからダイバーシティを社内で推進していきたい
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まとめ|海外進出に向けた適切なグローバル人材育成を

グローバル人材を育成するためには、社内の人事データから候補者を抽出し、課題を特定してそれに見合った研修プログラムを実施します。育成を推進するためには、社員が積極的に意見を発言しやすい環境づくりや、社内理解の促進が重要です。

海外展開の計画を成功させるため、中長期的な視点でグローバル人材育成に取り組んでいきましょう。

よくあるご質問

Q1.グローバル人材とは?

A1.グローバル人材とは、語学が堪能で高いコミュニケーション能力を持つ人材を基本としつつ、主体性やチャレンジ精神、責任感や使命感をも併せ持った人物を指します。文部科学省では、課題解決能力に長け、リーダーシップを持ちながら日本人としてのアイデンティティーをも兼ね備えた人材と定義されています。

>>グローバル人材とは

Q2.グローバル人材を育成するポイントは?

A2.グローバル人材を社内で育成するためには、組織全体がバックアップするような仕組みづくりが重要です。具体的には、グローバル人材育成を全社的な重要施策へ位置づけることや、ダイバーシティの考え方を浸透させること、社員が積極的に意見を発言しやすい環境をつくることが挙げられます。

>>グローバル人材育成を推進するポイント

Q3.グローバル人材の育成における課題は?

A3.グローバル人材には多くのスキルと要素が求められるため、一朝一夕では育成できません。クリアすべき課題を明確にし、戦略的な育成計画を立てる必要があります。課題としては、「育成には時間とコストがかかる」「海外勤務希望者不足」「リーダー資質を持つ人材の不足」が挙げられます。

>>グローバル人材を育成する課題