日系企業の中国進出|最新動向や採用・人事・労務の基礎知識

約14億人の人口を擁し、世界第2位の経済大国である中国。日本から約3万3000社が中国に進出しており、その数はアメリカに進出している日本企業の3倍以上に上ります(2019年)。しかし、日中間のビジネス環境の違いにより、日系企業が現地でトラブルに巻き込まれることも少なくありません。

本記事では、中国進出を目指す企業が押さえておくべき採用・人事・労務のポイントをご紹介します。

目次

進出先としての中国、3つの魅力

驚異的な経済成長を続けている中国ですが、近年はその成長に陰りが出てきたとも言われています。とはいえまだ伸びしろは大きく、業種によっては大きなビジネスチャンスがあります。

1.日本の数十倍もの高い経済成長率

中国経済は1978年に「改革開放政策」を開始したことをきっかけに大きく飛躍し、2010年には名目GDP(国内総生産)で日本を抜き、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国に躍り出ました。

2000年代には10%台という驚異的な経済成長率を維持していたものの、徐々に低下。2019年には6.1%にまで縮小し「成長は頭打ちだ」という見方も出てきました。一方で、同年の日本の経済成長率は0.3%にとどまることからすれば、格段に高いことに間違いはありません。これからでも中国に進出する意義は十分にあります。

中国のGDP成長率

 

【出典】JETRO「中国のマクロ統計」

2.コロナ感染拡大抑止による経済の早期回復

中国では世界で最も早く新型コロナウイルスの感染が広がり、2020年1-3月期の実質GDP伸び率は、前年同期比マイナス6.8%となりました。しかし、感染拡大を強力に押さえ込んだ結果、経済活動の早期立て直しに成功。世界銀行は2020年の実質GDPについて、アメリカや日本をマイナス成長とする一方、中国の成長率をプラス2%と推計、さらに2021年は7.9%と予測しています。

第2波、第3波の感染拡大に苦しむ先進諸国と比べて格段に高い値となっており、「中国一人勝ち」の様相を呈しています。

主要国・地域の経済成長率(実質GDP伸び率)

 

【出典】JETRO「ビジネス短信」(2021年1月6日)

また、中国に進出している日系企業を対象とした調査でも、コロナからのビジネス活動正常化の時期について、2020年8-9月の調査時点で3割が「すでに正常化している」と回答。「2020年内」「2021年前半」の回答と合わせると、7割近くの企業が2021年前半までに正常化すると見込んでいます。

新型コロナウイルス感染拡大後ビジネス活動が正常化する時期

 

【出典】JETRO「2020年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

3.内需拡大に注力、“マーケット”としての中国を目指す企業にチャンス

中国政府は2021-25年の第14次五カ年計画において、経済政策のキーワードとして「双循環」を掲げました。これは内需拡大を図りながら、対外的にも市場開放を進めて、国内・国外市場の両輪で経済発展を推し進めていくという施策です。

米中貿易摩擦などにより中国経済は不安定な外部環境にさらされていますが、内需拡大に軸足を置くことで、今後は中国国内市場がより活発化していくものとみられます。

となると、今後は中国を“マーケット”として捉え進出する企業に大きな勝機が到来します。たとえば、中国人向けの飲食業や小売業の展開、中国の大学や企業向けの機器販売など、日本の技術力を用いつつ中国企業と提携して生産・販売するといったケースが該当します。

労働者に有利な法律が特徴。進出前に知っておきたい中国のはたらく人々、はたらく環境

14億人の巨大なマーケット、高い経済成長率を誇る中国は進出先として大きな魅力があります。しかし、日本と中国では人事・労務環境が大きく異なるため、進出する前に両国の違いをよく理解しておくことが大事です。ここでは日系企業が特に直面しやすい問題についてご紹介します。

1.賃金の上昇

中国では賃金の上昇が続いています。たとえば北京市の場合、2008年の最低賃金は800元(約1万3,373円、2021年1月24日時点)でしたが、2019年は2,200元(約3万6,775円、同)と、11年間で2.75倍にもなりました。

日系企業への聞き取り調査でも、中国における経営上の問題点として「従業員の賃金上昇」を挙げた企業が73.7%にのぼっており、もはや以前のような「安価な労働力」は中国の労働市場における魅力ではなくなっています。

2.労働者保護が目的の法律・制度

労働関連の法律で最も注意しなければいけないのが、雇用関係のあらゆる事項を規定した「労働契約法」です。労働者保護に重点が置かれた法律で、日本と同じような感覚で雇用や解雇をしてしまうと、トラブルに発展しかねません。たとえば、以下のような規定があります。

・労働契約を書面で結ばなかった場合、2カ月目から規定の2倍の賃金を支払わなければならない
・違法解雇をした場合には経済補償金の2倍の賠償金を支払う
・会社都合の場合は、労働契約期間満了による契約終止でも経済補償金を支払う
・就業規則の作成・変更は、会社が一方的に行うことはできない

中国人の雇用において頻出する「経済補償金」とは、会社から従業員に対して労働契約を解除する際に一括で支払う補助のことで、離職後の生活補償としての性質があります。

支給基準は勤続年数により違いがあり、6カ月未満の場合は平均給与の半月分、6カ月以上の場合は1カ月分に対して勤続年数を掛けた金額が経済補償金となります。

一例を挙げてみましょう。平均給与が10万円、勤続6年の場合、経済補償金は60万円となります。さらに裁判で違法解雇と認められた場合には、経済補償金の2倍の賠償金を支払わなくてはならないため、120万円になります(賠償金を支払った場合、経済補償金は不要)。金額の多寡にかかわらず、今後の採用活動や評判への影響を考えると大きな痛手となりかねません。

そこで、労働者と交渉した上で経済補償金にプラスαの金額を上乗せし、裁判を回避する日系企業も少なくありません。

3.法律のグレーゾーン、地域による法解釈の違い

中国の法律は、明確な解釈が示されていないものが多く、法そのものの解釈や、いわゆるグレーゾーンの判断も人により変わってきます。また、広大な国土であることから、地域によって運用が異なるという中国特有の事情もあります。

たとえば上海では問題がないとされていた社内規定が、北京に進出した際には違法と判断されることすらあります。そのため地域ごとの事情を把握した上で、労働契約を結んだり、社内規定をつくることが必須といえます。

4.労働紛争は日本の約2000倍!労働者としての権利意識の高まり

中国人はもともと、自己主張や自己防衛意識が強いといわれる民族です。加えて、労働契約法の制定から10年以上が経過し、労働者の権利意識が向上しており、労働仲裁で労働者が勝訴した裁判例も蓄積されてきています。従業員はそれらをもとに戦略的に会社と交渉し、できるだけ優位に立とうとすることがあります。

5.「所変われば人変わる」地域によって異なるビジネスへの考え方

日本の25倍の国土を誇る中国は地域特性も様々です。言語だけ見ても北京語(普通語)以外に上海語や広東語など省や地域により様々な言語や方言が存在します。また、地域により人の考え方にも違いがあることを理解しておくべきでしょう。

一概には言えませんが、北部は「人情優先型」でビジネスにおいても人間関係や人脈を重視する傾向があります。一方で南部は合理主義的な考え方が強く、利益計算をしっかりと行う傾向があります。

中国で優秀な人材を採用するための3つのポイント

中国でビジネスを成功させるためには、優秀な現地人材の採用がなくてはなりません。次の3つのポイントを念頭に置いて採用計画を立てましょう。

1.人材を惹きつける「発展空間」の提示

優秀な人材を確保するためには「発展空間」の提示が欠かせません。「発展空間」とは、いわゆるキャリアアップのことです。中国では、大学卒のいわゆるホワイトカラーは、20代で複数回転職することが珍しくなく、多くはキャリアアップが目的です。中国人に理解されやすい制度を設け、入社後のキャリアパスや昇給システムを明確にすることで人材が集まりやすくなり、離職防止にもつながります。

2.人材マーケットの理解

中国では世代ごとに社会的バックグラウンドが大きく異なり、価値観も違います。特に、一人っ子政策開始後の80年代以降に生まれた「80後」「90後」と呼ばれる世代は、目まぐるしい経済発展と時代の変化の中で育ってきました。そのため、それ以前の世代の人々とは消費活動やライフスタイル、価値観などすべてにおいて大きな違いがあると言われています。

また、先述のとおり、地域事情を考慮することも忘れてはいけません。国土の広い中国では、地域によって就職・転職先として求められる要素が異なります。たとえば生活費の高い都市部では「給料」が、生活の安定を求める地方では「はたらきやすさ」が重視される傾向にあります。条件設定の際にはこの点にも留意してください。

3.事業戦略から落とし込んだ明確な採用戦略の立案

多くの日系企業は中国での採用において、以下のような課題を抱えています。

・語学優先の採用(職務能力より日本語能力を優先)
・市場とかけ離れた給与額(競争相手となる欧米系企業や中国系企業と比較し、低い給与)
・欠員補充中心の採用
・採用ブランドの欠如(日系企業はキャリア形成が難しいというイメージ)
・不明瞭な役割定義
・採用手段の硬直化

中国マーケットの変化に柔軟に対応し、事業戦略から「どのような人材が必要なのか」を考え、さらに、欲しい人材を採用するための手法や条件に落とし込み、採用戦略を立てることがまずは必要です。

「自分の身は自分で守る」、中国での労務リスク回避のポイント

解雇などをめぐって従業員ともめてしまった場合、労働仲裁に駆け込まれ、裁判にまで発展する可能性もあります。仲裁機関が受理した労働紛争は82万件(2016年)に上りました。同年の日本の労働争議件数は391件ですので、約2,100倍です。

労働紛争を回避するには、トラブル防止施策を徹底し、自己防衛を図ることが大事です。

仲裁機関における労働紛争受理件数

 

【出典】厚生労働省「2018年海外情勢報告 第4章 東アジア地域にみる厚生労働施策の概要と最近の動向」

1.法律をふまえた社内規定・制度の整備

まずは、法律に則した社内規定・制度の策定が大前提です。ただし先述の通り法律自体が労働者寄りである上にグレーゾーンの幅が広く、地域によって解釈も異なります。このため法律や過去の事例、最新の法改正など情報のキャッチアップが欠かせません。この点は自社だけで解釈や判断をするのではなく、中国事情に詳しいコンサルタントや法律事務所などに協力を仰いでください。

2.文書によるエビデンスを残しておく

エビデンスを文書で残しておくことも重要です。たとえば遅刻を繰り返す従業員を解雇する場合、処分の根拠規定がなかったり、再三にわたり指導したことを示すメールや書面などのエビデンスがなかったりすれば、違法解雇と判断されるおそれがあります。

また、日本人駐在員の管理意識の甘さにも注意が必要です。相手を無条件に信用して安易に書類に判を押してしまい、後になって不利な内容の契約だと発覚するトラブルも実際に起きています。規定の整備とともに、マネジメントや管理をする上でのスタンスや意識も変える必要があります。

まとめ|一筋縄ではいかない中国進出、パートナー選びが肝心

中国への進出に際しては、国民性の違いに加え、法律対応の難しさなど一定のリスクがあります。中国の法律や人材マーケットに詳しいパートナーがいれば、中国進出を成功させる心強い味方となることでしょう。

PERSOL KELLY中国では1996年の設立以降、中国全土でサービスを展開しており、人材バンク総数500,000名以上と日系企業向けの人材紹介では中国No.1の実績を誇ります。人事労務事情にも精通しており、就業規則の策定や人事制度の設計、従業員研修など、人事労務全般のサポート・コンサルティングが可能です。

進出をお考えの際は、まずはお気軽にご相談ください。

インタビュー・監修

小林 学人

小林 学人

パーソルケリー中国 マネージングコンサルタント
2012年に中国に渡り、翌年インテリジェンスアンカーコンサルティング上海に入社。
2015年インテリジェンス中国天津支社を経て2016年同北京支社に異動。
在中国日系企業向けに採用支援と人事労務面のサポートを行う。2020年1月より現職。

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