事業承継とは? 事業継承とは違う?
事業承継とは、経営者が自身の会社、もしくは事業を後継者に引き継ぐことを指します。
この際、株式や不動産はもちろん、役職や経営理念、知的資産など、会社や事業に関するあらゆるものが引き継がれることがポイントです。
「事業継承」という呼び方も散見されますが、法律的な観点からは「事業承継」の方が正式です。「承継」は権利・義務を引き継ぐことを意味する法律用語で、「事業承継税制」など、税制の呼称でも多用されています。前任の経営者から法律上の手続きを経て事業を引き継ぐという性質からも、「事業承継」の方がより正確な呼び方といえるでしょう。
事業承継には10年かかる!? 現状・課題を解説
現在、事業承継は全国的にも大きな課題になっています。
特に中小企業では、事業承継の問題は深刻です。中小企業経営者の平均年齢は20年間で19歳上がっており、若い世代への経営の交代があまり進んでいないことが分かります。このように経営者の高齢化が進むと同時に、廃業を予定している企業のうち29%は後継者難を理由としているのが実情です。
中小企業経営者の年齢分布の変化
後継者の決定状況について
廃業予定企業の廃業理由
中小企業庁が策定した「事業承継ガイドライン」によると、中小企業の引退年齢の平均は70歳です。事業承継の準備には後継者の育成も含めて5年~10年程度かかるとされているので、前述の中小企業経営者の平均年齢を考えれば、多くの企業で事業承継へのタイムリミットが迫っているといえるでしょう。早急かつスムーズな対応が求められています。
事業承継3種のメリット・デメリットと気をつけたいポイント
事業承継には、大きく分けると以下の3種類があります。
1.親族内承継
2.従業員承継
3.M&A
それぞれどういったもので、どのようなメリット・デメリットがあるのか見ていきましょう。進める上での注意点も解説します。
1. 親族内承継
親族内承継とは、経営者の子どもや親族への承継のことです。特に小規模企業で中心になっている承継の方法です。メリット、デメリットは以下のとおりです。
▼メリット
・後継者が、従業員や取引先などの社内外のステークホルダーに受け入れられやすい
・株式、事業用資産を相続などにより後継者に引き継げる
▼デメリット
・後継者の教育のために時間がかかることが多い
・後継者以外の親族との間で相続についての問題が起きやすい
親族内での事業承継は、後継者に対する経営者としてのしっかりとした教育が必要な一方、周囲による後継者の受け入れがスムーズな傾向があります。
親族内承継では、株式や、不動産や各種設備を含む事業資産を相続などで後継者に渡すことができます。株式を買い取りの形式で引き継ぐと、資金の関係で会社の所有と経営の分離が起きてしまうことが少なくありません。オーナーと経営者が分かれてしまうと会社運営のなかでトラブルになりやすいですが、親族内承継ではこれを避けやすいといえます。
ただし、相続での事業承継時は、事業を承継しない親族も含めて、財産分割などについてきちんと話し合うことが必要です。場合によっては親族内の望まぬ争いや、株式の所有者の分散によるトラブルが起きることもあり得ます。
また、中小企業の経営者は事業のための融資に際して、個人保証を付けていることも少なくありません。その場合、個人保証をどう処理するかも検討すべき要素の一つです。事業承継後の経営安定のためにも、税理士など専門家を交えて早めに整理しておくことが重要です。
2. 従業員承継
従業員承継とは、親族以外の役員や従業員への承継のこと。現在の経営者が長く一緒にはたらいてきた社員への承継が多いですが、取引先・銀行などの紹介で外部から後継者を招き入れるケースもあります。いずれの場合も以下のようなメリット、デメリットがあります。
▼メリット
・後継者教育の手間が少なく済む
・後継者の選択肢が広くなり、資質の有無で選びやすい
▼デメリット
・社内での分裂などが起きやすい
・後継者の資金力不足が問題になりやすい
経営者もよく知っている従業員に経営を引き継ぐ従業員承継では、資質を見極めて現経営者の意向を引き継ぎやすい一方で、社内分裂につながることもありえます。慎重な後継者選択と時間をかけた社内調整が重要です。
また、従業員承継においては自社株の買い取りの問題も見落とせません。親族承継では相続など自社株の承継方法は多数あります。しかし、親族外である従業員に自社株を渡す場合、方法は限られます。
近年はMBO(マネジメント・バイアウト)などの手法で、役員・従業員に株式を承継するケースも増えてきていますが、資金面の壁は親族内承継より高いといえるでしょう。個人保証の問題もあるので、専門家を交えての早期の整理を始めるのがよいでしょう。
3. M&A
M&Aとは、Mergers and Acquisitions(合併と買収)の略です。親族、従業員以外の第三者が企業を買うことを指します。M&Aをすれば買い手側に経営権を譲渡して、自社の経営を引き継ぐことができます。
特に近年、M&Aの動きは加速しており、2015年時点で、5年以内の事業承継の4割近くがM&Aによるものというデータが出ています。
経営者の在任期間別の現経営者と先代経営者との関係
M&Aでの事業承継には、以下のようなメリット、デメリットがあります。
▼メリット
・買い手企業による事業への投資拡大、事業拡大の可能性がある
・買い手企業の他事業とのシナジー効果が期待できる
▼デメリット
・買い手企業との交渉などで、成立までに時間がかかる場合がある
・買い手企業による雇用・労働条件の変更により従業員の離職が起きうる
M&Aを行う場合、経営理念や従業員の雇用保持のための十分な確認・交渉が非常に重要となります。また、契約成立前に従業員の不信感を可能な限り解消しておくことが重要です。
このようにさまざまな注意が必要なM&Aですが、これまで培ってきた企業の力をより活かす方向に変革が起きる可能性も期待できます。労働人口が減っていく日本において、有効な事業承継の手段の一つといえるでしょう。
事業承継の始め方を解説。現状の見直しから始めよう
上記のように事業承継には3つの方法がありますが、どの方法をとるにも自社について客観視し、整理・把握した上で着実に進めていくことが重要です。以下のようなステップを踏んでいきましょう。
STEP1.会社の現状を整理
STEP2.事業承継の方法を検討、後継者の選定
STEP3.事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
STEP4.事業承継計画書を作成・M&A先とのマッチング
STEP5.具体的アクションをスタート
中小企業庁「事業承継ガイドライン」を踏まえながら、それぞれについて解説します。
STEP1.会社の現状を整理
スムーズな事業承継への第一歩は、自社の経営状況、経営課題、経営資源などを「見える化」して、現状を正確に把握することです。
把握した自社の状況や経営課題をもとに、現在の事業の成長性や、商品力・開発力の有無、利益確保の仕組みを見直して自社の強みと弱みを把握していきます。
また、自社の経営資源とは、貸借対照表に計上されるような資産だけを指すのではありません。知的資産をはじめとする目に見えない資産もきちんと考慮に入れて整理していくのがポイントです。経営資源をどう活かし、強みをいかに伸ばすか、弱みをいかに改善するかの方向性を見出すことが必要となります。
このような現状把握は、自社の経営状況を把握している顧問税理士などの身近な専門家や金融機関などに協力を求めると、より効率的に取り組むことができるでしょう。
STEP2.事業承継の方法を検討、後継者の選定
自社の現状整理ができたら、事業承継への課題も整理します。後継者候補の有無、候補がいる場合は、候補者の能力や適性、年齢、意欲といった要素を踏まえて、次期経営者として後継者候補がふさわしいか慎重に検討しましょう。
後継者候補が社内、親族内にいない場合は社外からの後継者招へいやM&Aの可能性も考えます。浮上した後継者候補に対して、株主や取引先といったステークホルダーからの反発が想定できる場合、対応策を事前に検討しておくことも重要です。
また、後継者候補が親族内にいる場合は、親族内承継を前提とした相続税額の試算、納税方法などの検討をしておきましょう。税理士への相談が有効です。
STEP3.事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
事業承継は、経営者交代のみに主軸が置かれがちですが、事業を発展させるチャンスでもあります。経営状態が良いタイミングでの承継が事業発展のカギ。経営状態が思わしくない状態での事業承継では、この機会を逃してしまいかねません。
親族内承継や従業員承継の場合は相続税や資金面の対策に終始することも少なくありませんが、より良い状態で後継者に事業を引き継げるように経営改善に取り組むことが重要です。STEP1で把握した自社の強みを活かして競争力を高めること、経営体制を点検して課題解決をすることで、後継者候補の承継へのモチベーションを上げる効果も期待できます。
また、M&Aを選択する場合は企業価値を上げることが買い手企業との良い条件での交渉につながります。経営改善は必須だといえるでしょう。
STEP4.事業承継計画書を作成・M&A先とのマッチング
親族内承継、従業員承継は計画書にもとづいて行っていきます。このときも事業承継のみで計画していくのではなく、まずSTEP1で把握した自社の状況を踏まえ、事業承継後の成長を見据えながら自社の中長期目標を設定しましょう。そのなかに事業承継の動きを盛り込んでいくことが重要です。後継者、取引先など、ステークホルダーへの告知、情報共有をきちんと行えるような計画を作ることが、事業承継成功のカギとなります。
M&Aでの事業承継は、自社のみでは完結できません。専門的なノウハウを有する仲介機関に相談しましょう。仲介機関には、公的機関である事業引継ぎ支援センターや、M&Aの専門業者や取引金融機関、士業など専門家が多数存在します。通常業務での付き合いやセミナーなどへの参加を通じて、信頼できる仲介機関を探すことが必要です。
仲介機関を選ぶと同時に、経営者自身の承継への希望を明確にしておきましょう。「会社全体を引き継いでほしい」「一部事業だけ残したい」「従業員の雇用・処遇の現状維持したい」「社名を残したい」といった条件が考えられます。最初に条件を決めておくことで、買い手企業とのマッチング後もぶれずに交渉ができます。
このように事業承継を進めていくなかで資金が必要になった場合、条件によっては補助金が利用できる場合もあります。相談している専門家に問い合わせるなどして、経済的負担をうまく抑えて進めましょう。
STEP5.具体的アクションをスタート
STEP1から4を踏まえて、事業承継計画やM&A手続きに沿って資産、経営権の移譲を実行していきます。
実行段階においては、社会情勢や経営状況の変化を踏まえて、必要であれば随時事業承継計画を修正・ブラッシュアップしていくことが必要です。社内、社外での情報共有・調整も十分に行い、後継者がスムーズに事業を承継し、成長させていく土壌をつくることが最大のポイントとなります。
まとめ|コロナ禍は事業承継のチャンス!? 迷ったらまず相談を
コロナ禍の今、事業承継の動きが鈍化しているともいわれています。しかし、一時的に業績が悪化し、株価が下がっているような場合は、株式買い取りの費用や相続税を抑えられるタイミングでもあります。
また、事業承継は自社の現状を見直すことから始まります。コロナ禍で自社の問題が目についたなら、事業承継のファーストステップを踏み出すのに良いタイミングともいえます。事業承継後の事業の成長を見据え、まずは身近な専門家、窓口に相談してみましょう。
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