DX研修の目的とは?研修の内容やDXに繋げるポイントを解説

ビジネス環境の変化に拍車がかかる昨今、企業の競争力を維持するためにはDXが必須になっています。しかし、非IT企業などでは、経営層のDXに対する理解が薄かったり、全社におけるIT知識・ノウハウが乏しかったりすることで、DXがなかなか進まない企業も多いでしょう。

このような課題への対策としてDX研修の導入が有効です。一方で、以下のようなことを感じている方も多いのではないでしょうか。

    • DX研修に組み込むべき内容がわからない
    • DX研修が実務に活かされるイメージが掴めない

実際、多くの企業にとってDX研修を内製化することは難しいでしょう。本記事では、経済産業省が策定した「デジタルスキル標準」をベースに、DX研修の内容やDX研修を通じてDXを成功に導くポイントを解説していきます。研修の事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

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あらゆる企業においてDXは不可欠となっていますが、DXを推進するための人材が不足している企業が多いため自社でDX人材を育成する企業が増えてきています

・DX人材を育成する環境を整えたい
・どのようにDX人材育成を進めるか知りたい

そのような方に向けて、【DXをリードする人材を育成するポイントとは】を公開しています。
DX人材の育成・採用にお困りの方はぜひご活用ください。

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目次

DX研修とは

DX研修とは、DXについての基礎知識やDXに取り組む上でのマインド・スタンス、そしてDXに必要なスキルなどを身につける研修です。 DXを実現するためには、経営層を含めた社員がDXを自分ごととして捉え、企業全体で一体となって進めることが重要です。したがって、DX研修はあらゆる企業にとって欠かせないものだといえるでしょう。

DX研修の目的

DX研修の目的は、自社のDX推進を担う人材を育成することです。現状、多くの企業がDXの必要性を痛感している一方で、その推進を阻む要因としてDX人材の不足を挙げています。 総務省の「情報通信白書」によると、DXを進める際の課題として、53.1%の企業が「人材不足」をあげており、米国やドイツと比較しても圧倒的に人材が不足していることがわかります。

【出典】総務省「令和3年版 情報通信白書

DX人材不足を解消する手段として、外部人材の確保があげられます。しかし、日本全体でDX人材は不足しており、採用難易度は高くなっています。そのため、今いる人材をDX人材に育成することがDX推進の第一歩といえるでしょう。

DX研修の必要性

DXを進める方法として、「DX支援サービスを活用する」という選択肢もあります。DX支援サービスの中には、戦略策定からツールの導入・運営をワンストップでサポートしているものもあります。そのような状況のなか、自社でDX研修を行う必要性はどこにあるのでしょうか。

DX推進には全社的なDXリテラシーの向上が求められる

DX推進においては、経営層含め、人材・組織の改革が重要になります。DX戦略を策定する経営層の間では、しばしばデジタル化やDXに対する理解や危機意識が低いこともあり、DXの必要性を自社の経営戦略と結びつけることが難しい状況に陥っていることがあるためです。また、現場でDXの各施策を実行に移す社員にも、全社横断的な取り組みに対するイメージの欠如や、実際の施策に必要なスキルを持ち合わせていないなど、さまざまな課題が生じます。

したがって、全社的なDXリテラシーの向上を意図した研修を実施し、「自社におけるDXとは何か」「具体的に何をやっていくべきなのか」といったことに対して、目線合わせをおこなうことが重要になります。

運用ノウハウがブラックボックス化する

リソースの不足を補ってくれるDX支援サービスですが、開発・運用を丸投げしたり、社内のスキル育成を行わなかったりすると、ノウハウの蓄積と引き継ぎが行えず、ブラックボックス化してしまう可能性があることも理解しなければいけません。ノウハウがブラックボックス化すると、導入したシステムの長期的な運用が困難になります。長期的なサポートを受けられるように契約期間を長くすることもできますが、それではコストがうなぎ登りになり、コア業務に十分なリソースを集中させられなくなってしまうでしょう。

そのため、DX支援サービスを利用するにしても、最終的には内製化が行えるように、自社に引き継ぎが行える体制を用意しておく必要があります。その体制を整えるためにも、継続的なDX研修の実施が必要です。

外部環境の変化にも柔軟に対応できるようになる

DX研修をおこなって内部人材を育成するメリットとして、自社ビジネスを深く理解した社員によってDXを推進できる点が挙げられます。DXに精通した社員で「推進組織」を構築し、統制された指揮系統を整えることで、外部環境の変化にも柔軟に対応できるようになるでしょう。

DX人材に求められるスキル

DXを進めるためにはどのような知識・スキルが求められるのでしょうか。経済産業省は、DX推進における人材確保・育成の指針として「デジタルスキル標準」を策定しています。デジタルスキル標準は、以下の2つで構成されています。

    • DXリテラシー標準
    • DX推進スキル標準

それぞれについて解説していきます。

DXリテラシー標準

DXリテラシー標準は、全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルです。DXリテラシー標準を身につけることで、一人ひとりがDXを自分ごとと捉え、自社ビジネスの変革に向けて主体的に行動できるようになることが期待されます。

したがって、DXリテラシー標準で定義された要素は、経営層を含む全社員を対象としています。 DXリテラシー標準の全体像は、「Why(DXの背景)」「What(DXで活用されるデータ・技術)」「How(データ・技術の利活用)」「マインド・スタンス」の4項目で定義されています。

【出典】経済産業省「デジタルスキル標準

それぞれ何を学び、どのような状態をゴールとするかは、以下のとおりです。

学習のゴール 学習項目例
Why
DXの背景
人々が重視する価値や社会・経済の環境がどのように変化しているか知っており、DXの重要性を理解している ・日本と海外におけるDXの取り組みの差
・顧客/ユーザーを取り巻くデジタルサービス
What
DXで活用されるデータ・技術
DXの手段としてのデータやデジタル技術に関する最新の情報を知ったうえで、その発展の背景への知識を深めることができる ・データの種類
・データの分析手法
・データの入力・抽出・加工・出力
・データの分析
・AIの最新動向
・クラウドサービスの仕組み
・ネットワークの仕組み
How
データ・技術の利活用
データ・デジタル技術の活用事例を理解し、その実現のための基本的なツールの利用方法を身につけた上で、留意点などを踏まえて実際に業務に利用できる ・AIの活用事例、利用方法
・セキュリティ技術
・データ利用における禁止事項・留意事項
・各種法律・規制に関する知識
マインド・スタンス 社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要なマインド・スタンスを知り、自身の行動を振り返ることができるようになる ・各自が置かれた環境において目指すべき具体的な行動や影響例

上記の項目の中でも特に、経営層を含めた「Why」の教育が重要です。経営層は既存事業を成長させてきた人材が多く、ともすると最新のデジタル事情に疎い場合があります。しかし、AIなどのデジタル技術の進歩が急速に進むなか、これらを活用してどのように競争優位性を保つのかを考えなければいけません。そのため、「Why」を深く学び、現代のビジネス環境にマッチした戦略眼を持つ必要があるのです。

DX推進スキル標準

DX推進スキル標準は、DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルを定義したものです。DX推進スキル標準では、DXを推進する人材の役割や習得すべき知識・スキルを示し、それらを育成の仕組みに結び付けることで、リスキリングの促進、実践的な学びの場の創出、能力・スキルの見える化を実現することを目指しています。

DX推進スキル標準では、DX推進において必要となる人材のうち、主な人材を以下の5つの類型に分けています。

【出典】経済産業省「デジタルスキル標準

ここで重要なポイントは、各人材が他の類型の人材とつながっていることです。他の類型の人材とのつながりを積極的に構築したうえで、協働関係を築くことが重要だと示しています。

DX研修の内容例

「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」を紹介しましたが、研修カリキュラムを設計する際には、これらで定義された能力を階層別にアレンジする必要があります。

全社員向け

全社員向けにはDXリテラシー標準で定義された能力・スキルを幅広く学習できるプログラムを実施すると良いでしょう。全社的な取り組みとなるDXは、ときに部署間で連携しながら進めていく必要がありますが、全社員が一定程度のDXリテラシーを身につけ、共通の言語を持つことで、部署間のコミュニケーションも活性化させることができます。

また、集合研修などで自社DXのビジョンを全社員に周知することも重要です。自社のDXの取り組みを社員一人ひとりが理解することで、企業風土が変わっていくきっかけにもなります。

経営層向け

経営層は目下のビジネスシーンのなかで勝ち筋を見極め、DXの戦略やビジョンを社員に提示していく役割を担います。またDX推進担当部署からの提案を受け、正しく意思決定を行なっていく必要もあるでしょう。

このような役割を担う経営層にとって、DXリテラシー標準のうち、強力な実行力を発揮するための「マインドスタンス」や、社会変化の要因を見極める高い能力「Why」を身につける必要があります。 一方で実務に関する能力については、他の社員に比べて重要度はあまり高くはないといえます。

管理職向け

管理職は自分の部署のDXを推進する役割を担うため、各部署が担当する業務やサービスにおいて、どのようにデータ・デジタル技術を活用できるかをイメージできなければいけません。

したがって、管理職向けには、データ・デジタル技術の活用事例に関する幅広い知識や、AIなどの最新技術の動向などが学べる研修を実施すると良いでしょう。できるだけ具体的な知識を身につけることによって、データ・デジタル技術を担当する業務やサービス向けにアレンジする能力を身につけられます。DXリテラシー標準においては、「What」や「How」にあたる能力です。

DX推進担当者向け

DX推進担当者は、経営層からの要求を具体的なスキームに落とし込んでいく必要があります。そして、自社DX推進の中核を担う存在として、各部署との連携も行わなければいけないので、DXに関する知識を幅広く身につけなければいけません。

したがって、DX推進担当者はDXリテラシー標準に定義された能力は当然として、DX推進スキル標準で示されたスキルについても身につける必要があります。

ただし担当者全員が同じスキルを習得するわけではありません。それぞれが担う役割に応じたスキルを身につけさせることが大切です。先に紹介した5つの人材類型を参考にしながら、役割ごとにスキルの優先度を定義すると良いでしょう。 例として、以下の画像は、ビジネスアーキテクト(新規事業開発)が必要なスキルの優先度を示したスキルマップです。

【出典】経済産業省「デジタルスキル標準

IT部署の社員向け

IT部署の社員は、DX推進部署によって提示された要件を、システム開発などで具現化していく役割を担います。したがって、DX推進スキル標準で定められた5つの類型のうち、特に「ソフトウェアエンジニア」の専門的なスキルを身につけなければいけません。

DX研修の実施方法

DX研修の実施形態は大きく以下の3つです。対象者や研修内容に適した実施方法を選びましょう。

    • オフライン(集合型)研修
    • オンライン研修
    • e-learning

オフライン(集合型)研修

オフライン研修とは、集合型の社内研修を指します。自社の社員が講師を務めることもありますが、外部から講師を招くことも多いです。

受講者はみな同じ企業の社員のため、課題の共通認識を持ちやすく、自社に特化した研修が行いやすいメリットがあります。また、グループワークなど社員同士のコミュニケーションを活性化させる取り組みが行いやすい点も大きなメリットの1つです。

オンライン研修

オンライン研修は、受講者がパソコンを通じて受ける研修です。会場まで出向く時間やコストが削減できるほか、遠方の研修にも参加できるなどスケジュール調整がしやすいのが特徴です。 一方で、受講者同士の関わりは生まれにくいほか、研修前後のフォローアップがないと受け身になりやすい点も注意が必要です。

e-learning

eラーニングとは、パソコンやスマートフォンなどのモバイル機器を使い、コンテンツを視聴するなどして学習する研修方法です。受講者は場所や時間を問わず学べるほか、企業側も学習状況を一元管理できることが特徴です。

とはいえ、視聴がメインの学習形態であることから、実技の習得には不向きです。また、場所や時間を選ばない反面、受講態度や学習の進め方が個人のモチベーションに依存してしまう点もあります。 そのため、社員の学習をフォローアップする体制を整えることも大切です。

パーソルイノベーションが提供する法人向けリスキリング支援サービス「リスキリング キャンプ」では、テクニカルコーチが一人ひとりの学習をサポートするため、高いモチベーションを維持できるだけでなく、カリキュラム完了後も主体的な学習するマインドを身につけさせることができます。

DX研修の事例

では、実際のDX研修の事例を見ていきましょう。ここでは、パーソルイノベーションが提供する法人向けリスキリング支援サービス「リスキリング キャンプ」を活用した研修事例をご紹介します。

とある企業では、全社でDXを推進することとなりましたが、受け皿となるIT部門ではリソースが限られている、かつ、DX推進のスキルを持った人材も不足していました。そこで、採用マーケットが激化している状況も踏まえ、内部人材の育成に取り組むこととなりました。

具体的には、非IT人材である営業職の社員をITコンサルタントに職務転換すべく、5か月間のスキル習得カリキュラムをご提供しました。 IT初学者でも無理なく学習できるようなカリキュラムを設計するとともに、一人ひとりの学習をフォローするテクニカルコーチが伴走しながら進めました。さらに、キャリアコーチングを取り入れることで、動機付けを支援したり、職務転換に伴う不安やプレッシャーをケアしたりとマインド面でのサポートも実施しました。

▼カリキュラム例

これらの取り組みの結果、5ヶ月のトレーニングを経て、離脱者ゼロで全員がITコンサルタントとしてデビューすることができました。自社向けにカスタマイズされたプログラムを構築することによって、継続的にIT人材を確保する仕組みを確立できています。

DX研修の活用で自社DXを成功に導くポイント

DX研修の効果を高めるポイントDX研修は、以下に紹介するポイントを押さえながら実施することで、より研修の効果が高まります。

研修目的を明確にする

DX研修を効果的に進めるためには、まず研修の目的を定めることが必須です。この段階では、自社がどのようなDXを実現したいのかを明確にすることが重要になります。なぜなら、企業のDXに関する展望が具体化することで、求められる人材像や習得すべきスキルセットがはっきりし、それに基づいて各研修の具体的な目的も設定することができるためです。

DXスキルレベルの現状把握を行う

目標と現状のギャップを把握するために、DXスキルレベルの現状把握を行います。この際、現状で社員がどのようなスキルを持っているかを把握するために、「DXリテラシー標準」や「DX推進スキル標準」などを参考に、以下のようなスキルマップを活用すると良いでしょう。

とはいえ、DXに関するノウハウが不足している企業にとって、自社DXに必要なスキルを棚卸しするのは難しいかもしれません。その場合は、外部コンサルタントの力を借りるのも1つの選択肢です。

スキルレベルに合わせた育成戦略を策定する

スキルレベルが把握できたら、社員一人ひとりのキャリアパスを設計し、それに基づいて育成戦略を策定していきます。その際、先に紹介した役割別の研修内容を参考にすると良いでしょう。 また、DXに取り組み始めた企業は、DX推進体制を整えるため、先の事例のように社員に大幅な職種転換を要求することもあるかもしれません。そのような社員に対しては、職種転換に伴う不安のケアを行い、モチベーションの維持を図る必要もあります。こういったメンタル面でのケアも考慮しながら、育成戦略を練っていきましょう。

とはいえ、誰を対象に、どのような研修を行うかなどの研修の組み立ては、リソースが限られている企業にとってはハードルが高いのも事実なので、外部の支援企業の活用も検討すると良いでしょう。先ほど紹介した「リスキリングキャンプ」では、企業ごとのDXの目的に応じた、最適な研修カリキュラムの作成も行なっています。

実務への活用・効果検証を行う

実務に活用するフェーズに入ったら、しっかりと効果検証を行うようにしましょう。定量的に効果測定を行うことで学習のモチベーションを維持し、次の研修カリキュラムの設計に繋げることができます。長期的な取り組みとなるDXにおいて、研修の効果測定は欠かせません。

まとめ

DX研修は、DX人材が不足している今、多くの企業にとって不可欠だといえます。短期的にはDX支援サービスなどで不足しているリソースを補うこともできますが、長期的にはDX研修によってDX人材を確保できる体制を整えておくべきでしょう。研修内容に困っている企業も、「デジタルスキル標準」を活用することで研修の方針を固めることができます。本記事で紹介したのは一部なので、ぜひご自身で一読してみてください。

とはいえ、やはりDXのノウハウがない企業が自社独自の研修カリキュラムを作成するのはハードルが高いため、各社が提供する研修プログラムの活用も効果的な選択となります。パーソルグループでも、リスキリング支援サービスである「リスキリング キャンプ」を提供していますので、ぜひ参考にしてみてください。

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あらゆる企業においてDXは不可欠となっていますが、DXを推進するための人材が不足している企業が多いため自社でDX人材を育成する企業が増えてきています

・DX人材を育成する環境を整えたい
・どのようにDX人材育成を進めるか知りたい

そのような方に向けて、【DXをリードする人材を育成するポイントとは】を公開しています。
DX人材の育成・採用にお困りの方はぜひご活用ください。

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インタビュー・監修

パーソルイノベーション株式会社 『Reskilling Camp』事業責任者/Founder

柿内 秀賢

法人向けリスキリング支援サービス『Reskilling Camp』事業責任者として大手自動車メーカーや商社グループなど多くのリスキリング支援実績を持つ。 自身も人材紹介事業の営業部長から、オープンイノベーション推進部立ち上げやDXプロジェクトの企画推進、 新規事業開発を担う過程にてリスキリングを体験。著書「リスキリングが最強チームをつくる」(2024年.ディスカバートゥエンティワン)にて本テーマをより詳細に解説。