#31

自分の時間を生きる

「日本仕事百貨」代表 ナカムラケンタさん

求人サイト「日本仕事百貨」の運営や、いろいろな生き方、働き方に出会える場所を主宰するナカムラケンタさん。インタビューの最後に聞く、「はたらいて、笑おう。」とは何かの質問には、時間をかけ言葉の意味を何度も吟味しながら答えてくれた。

更新日:2019年6月19日

いきいき働く人が“いい場”をつくる

“生きるように働く人の仕事探し”をコンセプトにした求人サイト『日本仕事百貨』を運営していますが、はじめたきっかけを教えてください。

幼いころから引っ越しが多かったので、“自分の居場所づくりをしたい”という気持ちが強かったんだと思います。大学では建築学科を選びました。ただ、建築家は施主から注文を請け負う“受け身”の立場。僕がやりたかったことは、人が集う場所をゼロからつくること。それならばもっと川上に行って、建築を発注する側になろうと、不動産会社に就職しました。

やりがいのある仕事でした。でも、やりたいこととズレているように感じて。悶々とした気持ちを抱えていたとき、行きつけのバーで気が付いたことがありました。
場所というのは、食事や酒、内装などだけじゃなく、実は“人”が要なんだと。店の人やそこに集う人が、心地よい場をつくっているんだと気付いたんです。

 

僕にもお気に入りのバーがありますが、そこで働くバーテンダーさんがいつも楽しそうに働いていて、彼がいるだけで居心地がいいんですよね。そういう人がいる場所は、魅力的な場所になる。だから、すれ違いなく場所と人を結びつけることができれば、“いい場”というのは自然と醸成されていくのではないかと。
そして、約3年半働いた不動産会社を退職し、28歳で独立。仕事と人の出会いのきっかけづくりになるような求人サイト『日本仕事百貨』を立ち上げました。
いわゆる一般的な求人広告と違って、どんな人が働いているかその人のストーリーが読める、“読み物のような求人広告”になりました。だから、転職するつもりがない人も訪れるんです。きっと、旅行の予定はないけど旅行雑誌を見て楽しむのと同じ感覚なのではないでしょうか。

20代での独立、さらに異業種の求人メディア運営。不安はありませんでしたか?

漠然と感じていたかもしれません。人脈も経験もなく、周囲からも「上手くいくわけがない」と反対されていましたからね。

最初はいろいろな職場を訪ねて、無料で掲載するからと取材させていただきました。これまで人材業界にいたわけでもなく、インタビューの経験もない。「タダでも、うちはいいや」と断られたり、「こんな文章じゃ全然だめだよ」と言われたりすることもありました。しかも、それでお金をいただけるわけでもなく…。傍から見たら、「よくやるなあ」と思われていたでしょうね。それくらい厳しい状況だったんです。ただ、全然辛くなかったし、苦にならなかったんですよ(笑)

なぜなら、本当にやりたいことをやれているという実感があったから。
自分のやりたいことを、思うがままに続けていたら、少しずつ口コミで広がり、ご依頼もいただくようになりました。いまでは毎月10万人が閲覧するサイトに成長し、この10年ずっと緩やかな右肩上がりに成長を続けています。

夢中になれる仕事を選んできた

いろいろな生き方、働き方に出会える場所『リトルトーキョー』も主宰していますね。

ここでは多種多様な職業や働き方をしている方が、1日バーテンダーとなる「しごとバー」というイベントを開いています。お酒を飲みながら話を聞いたり、会話をしたり。さまざまな人と気軽に繋がることができます。

そういう場をつくりたいと思ったのは、僕がモットーとしている“生きるように働く”人との出会いで、多くを学んだこと。知識や経験を得るというより、“自分もできるかもしれない”と勇気をもらいました。
『リトルトーキョー』は、自分なりの生き方や働き方を模索していく場になればいいなと考えています。

それに、いきいき働く人がいる一方で、仕事が「大変なもの」「息を殺すように過ごす時間」と感じている人は、たくさんいると実感しています。そして、夢中になれないのは、もしかしたら、誰もが持っている“種”のようなものを、どこかにしまったままだったり、“水やり”が足りないからかもしれないと思うのです。

 

“水やり”というのは、いろいろな生き方、働き方をしている人と出会うことを指します。

いまネットやSNSが発達して、どんどん繋がっているように見えるんですが、タイムラインにはもともと興味関心のある分野や身近な人の情報に溢れて、新しい世界との繋がりが失われているように感じます。だからこそ、家族や友達、職場関係を飛び越えて、いろいろな人に能動的に会いに行くことも大切だと思うんです。

僕はそれを“水やり”と呼んでいて、たくさんの人に会って刺激を受けることで、“種”を発芽させ、育てることができると思っています。

「場づくり」をしているナカムラさんは、現在、どのような立ち位置で働いているのですか?

僕は経営者でもあり、編集者です。つまり、自分でも求人記事を書くこともあるし、場やメディア、さまざまなプロジェクトを“編集”するのが僕の仕事。そして、アルバイトを含めて約20人の組織をまとめ、チームの「やりたい」を引き出すように、腹を割ったコミュニケーションを重視して運営しています。

僕にとって仕事は、「やりたいことをやる機会」です。
夢中になって遊んでいたら、すっかり時間が過ぎていたという経験は誰にでもあると思うのですが、それが仕事でも起きたらハッピーですよね。

今でも取材に行くと、どれだけ疲れているときも、話を聞いてると目が冴えて、すごく楽しいんです。それは、本当に夢中になれる仕事を選んできたからでしょうね。

未来はきっと仕事と遊びの境目がなくなっていく

今後の展望を教えてください。

実は、将来のことをあまり考えたことがないんです。
面白いことやプロジェクトは、誰かとの会話だったり、いい出会いやご縁の中で生まれたりするものなんですよね。
1年後の姿や長期計画を立てるより、いろいろな事態に直面したときにすぐ行動できるように、反射神経を高めておくことを意識しています。あとは、常に“目の前のことに向きあう”ことに集中していますね。

展望ではないですが、働き方の変化で言うと、きっと、仕事と遊びの境目はなくなっていくのではないでしょうか。たとえば、釣りはかつて食料を調達するための仕事でしたが、いまはレジャーのひとつです。さらに進化して、レジャーとして楽しみながら動画にアップすることで、それを仕事にしている人います。
そうなるともはや、仕事と遊びの境目はありません。生きるように働く人が増えているように感じているし、どんどんそうなっていくと思います。

モットーにしている「生きるように働く」と、「はたらいて、笑おう。」に共通する部分はありますか?

そうですね、どちらも働くことに肯定的ですよね。なんと言えばいいのかな。そう、納得して働いている、ということが似ているかもしれませんね。

このキャッチコピーを新幹線のホームで見たとき、仕事は大変なこともあるけど、たくさん笑わせてもらっているので、「その通りだな」と思ったんです。でも深く考えると、なんだろう…、難しいテーマですよね。色々な感想が生まれる面白い言葉だと思います。

 

僕にとって、「働く」も「生きる」も「笑う」も、“同時に存在”しているんです。生きるように働いているし、働いて笑うこともあるし、笑いながら働いていることもあるし。

では、ナカムラさんにとっての「はたらいて、笑おう。」とは?

自分の時間を生きて、“納得して働くこと”、かな。

夢中になって仕事をしているとき、“自分の時間を生きている”と実感するからです。仕事には、楽ではない瞬間もあるし、切実な思いで取り組むことでもある。それも自分の時間で、納得して立ち向かっていれば、大変なことがあっても肯定できるんじゃないか。

きっとマラソン大会のようなものだと思うんです。ランナーの中には、強制参加でしかたなく走っている人もいるかもしれない。だからといって、自らエントリーしたランナーが楽しんでいるわけではなくて、苦しい思いをして走っていることもある。それぞれ参加する目的はバラバラだけど、ゴールでただただ疲れを感じる人もいれば、その疲れを“苦しさ”ととらえずに喜びや感動として受け取る人もいる。

その差は、自分で選択して納得して走っているかどうかではないかな。

自分で選んで納得すれば、笑えるのだと思う。
そして今後、はたらいて笑う人がどんどん増えていくと感じています。

取材・構成:児玉 奈保美
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

「日本仕事百貨」代表 ナカムラケンタさん

1979年東京生まれ。生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」代表。シゴトヒト文庫ディレクター、2014-2016年グッドデザイン賞審査員、2018年IFFTインテリアライフスタイルリビングディレクター。東京・清澄白河「リトルトーキョー」監修。誰もが映画を上映できる仕組み「popcorn」共同代表。著書『生きるように働く(ミシマ社)』。

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