#28

好きが原動力

フードジャーナリスト 里井真由美さん

2012年、着物で世界のレストランを訪問する雑誌連載が注目を浴び、現在は農林水産省の委員を務めるフードジャーナリストの里井真由美さん。「食べ手のプロ」として年間700回外食する里井さんの「はたらいて、笑おう。」とは。

更新日:2019年3月1日

好きを仕事にするという概念は母親から教わりました

現在の活動内容についてお教えください。

フードジャーナリストとして国産食材を応援し、食の情報発信をするのが私のお仕事です。1級フードアナリストの知識をいかしながら、テレビやラジオ、Webで食にまつわる情報を発信。農林水産省の委員としても活動しています。

食の仕事に携わろうと思われたきっかけはなんだったのでしょうか?

母曰く、生まれたときから、よく飲みよく食べる子だったそうで、「食べることが好きやねんな」と言われて育ちました。そして母は「好きなことを仕事にしなさい」と私を教育してくれました。物心ついたころから、食べる仕事をすると自覚していたように思います。

けれど、どうしたら食べる仕事に就けるのかがわからない。80-90年代の日本は、今ほど多様な職業がない時代です。現実的には、管理栄養士になるか、料理をして生きていくかの2択でした。

最初の転機が訪れたのは19歳の時。当時、芸能活動をしていたおかげで、テレビ番組のグルメリポーターに抜擢されたのです。

そこで「食べて伝える」楽しさを感じました。けれど、グルメリポーターで一生食べていけるほど人生甘くない。大学卒業後、数年は芸能活動を続けるも、その後、食品会社に就職しました。

食を学ぶために色々な経験を積まれたのですね。

食品会社では、最初に中食(店で買ってそのまま食べられる形態の食事)の商品企画を担当しました。90年代後半の食品業界は、中食事業の出店ラッシュ。総料理長と全国を食べ歩きしてアイデアを練るという夢のようなお仕事をさせていただいたのです。途中、外食事業担当や広報など多くを学びました。会社員としては15年ほどキャリアを積み2012年に独立。いま振り返ると、会社で学ばせていただいた経験は独立してからも大きく役立っています。

 

世界一のグルメを食すためスペインへ。
一食数十万円もの食費と渡航費は、全て自腹

独立を決意された経緯はどのようなことだったのでしょうか?

独立のきっかけは、海外で活動するチャンスを掴んだことと、(社)日本フードアナリスト協会主催の「食のなでしこ」コンテストで準優勝したことでした。海外へのきっかけは、世界一予約が取れないスペインレストラン「El Bulli(エル・ブリ)」の「閉店ディナー」の席にお声がけいただいたのです。当時、私は会社員でしたから有休をとる必要がありましたし、費用もうんとかかりました。数十万円のディナーは自腹でお支払いしましたし、もちろん、スペインへの渡航費も全て自腹。

そうまでしたのは、私が絶対的な「体感主義」だからです。食に関しては、自分の足で食べに行かないと気が済まない。

ただし、単に「El Bulli(エル・ブリ)」に食事をしに行ったわけではありません。体験したことを記事にすれば、多くの美食家にその素晴らしさを共有できると考えました。

「世界最高峰の料理家が腕を振るう伝統料理50皿をいただきます。インタビューはもちろん、写真も撮りますし、雑誌に寄稿ください」と直談判し、雑誌に寄稿するというチャンスをいただいたのです。

おかげさまで「El Bulli(エル・ブリ)」の記事は好評で、その後も雑誌で連載をもたせてもらうことになり、世界の三つ星レストランを着物で訪問する連載は20カ国続き、私の代名詞に。独立する大きな一歩となりました。

 

3分で自分の価値をプレゼンできますか?

「食べ手のプロ」として心がけていることはなんですか?

ふたつあります。一つは先ほども申し上げた「体感主義」に徹すること。年間700回外食しているのは、食べ手としての知識量と経験値を増やすためです。

もう一つは、消費者目線にこだわること。現在、農林水産省で4つの委員を兼務する私に求められるのは消費者目線です。

例えば、「砂糖の消費量が下がっている」という社会問題について議論するとします。ダイエットのため糖質をマイナスに捉える方が多いのは誰もが知る事実ですが、美と健康に関心のある女性が行列のスイーツ店に喜んで並ぶ感覚や、「食のブームにスイーツの存在は欠かせない」といった視点は、消費者目線からなるものなんですよね。そんなことを甘味資源の専門家に共有しながら、問題解決への糸口を探っています。

好きを仕事にするために大切なことは何だとお考えでしょうか。

「やりたいこと」と「やれること」を3分で語れるようにしておくこと。自己分析と要点整理ができていないと、3分では語れませんから。それらが明確になったら、ベストな「手段」を探ってみてください。書いて伝える手段を取るか、話して伝える手段を取るか。はたまた自分の才能がもっとも活かされるメディアが何なのか。テレビ、Web、YouTube、雑誌、ラジオ、イベントなど、自分と相性の良いものを見つけます。

私は、「話して伝える」ことにご縁があるようです。独立のきっかけは「書く・自分で撮影する」でしたが、初めていただいた食のお仕事はグルメリポーターでしたし、現在も、テレビ、ラジオ、講演、審査員など話して伝える仕事がメインです。

そんな里井さんにとって「はたらいて、笑おう。」とは?

私は働いているときはずっと笑っていられるほど、仕事が好きなんです。だって食という大好きなことを仕事にできているのだから。もはや公私混同ですよね(笑)。「好き」が、私の原動力なんだと思います。
好きだから忙しいという感覚もない。心を亡くすと書く「忙」という漢字は苦手です。好きだから、好奇心が芽生えるし、好きだから続けられる。食という恵みに心から感謝したいです。

 

取材・構成:両角 晴香
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

フードジャーナリスト 1級フードアナリスト 里井真由美さん

年間食べ歩きは700軒以上。1級フードアナリスト、1級惣菜管理士、野菜ソムリエ上級プロなど多数の食資格を持ち、テレビや雑誌などメディアを中心に活動。特に世界20カ国以上を着物で食べ歩きグルメ誌に連載するスタイルが話題になる。日本の食・食文化に精通し2015年ミラノ万博日本館公式サポーター任命、同年、農林水産省 食料・農業・農村政策審議会委員に就任。国際的に活躍の場を広げている。

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