#25

勉強動画で子どもを笑顔に

教育YouTuber 葉一さん

元塾講師の“教育YouTuber”葉一さんが投稿する授業は分かりやすいと定評がある。
これまでに投稿した勉強動画は2,900本以上。チャンネル登録数は52万人を超え、教育系動画では断トツで人気だ。
「成績が伸びたと書かれたコメントの裏に、子どもの笑顔が見える」と微笑む、葉一さんの「はたらいて、笑おう。」とは。

更新日:2019年2月7日

無料の勉強動画で教育格差を埋めたい

動画投稿サイト「YouTube」で勉強をテーマにした動画を投稿し、「教育YouTuber」として活動していますが、勉強動画を配信するようになったきっかけを教えてください。

もともと個別指導塾の講師として働いていたんです。僕は学生のころ塾に通ったことがなく、塾講師になって知ったことは、ものすごく月謝が高い。さらに冬期講習や夏期講習、講習会を受けるためには何十万円も払わなくてはなりません。塾で勉強したくても通えない子どもをたくさん目にしてきました。家庭の所得格差があるのは仕方のないことですが、子どもが学ぶ場所を選べず、教育機会の差に繋がるのをなんとかしたいと思ったことがきっかけです。

2012年に塾講師を辞め、独立したときに「YouTube」に目を付けました。これなら、子どもたちが好きな時間に、好きなだけ見ることができる、と思ったんです。そして、思い立った翌日に「とある男が授業をしてみた」というチャンネルをつくり動画を投稿しました。それから7年間、小学生から中学・高校生向けまで、教科書に沿って国語・数学・理科・英語・社会の5科目の授業を中心に投稿しています。

YouTuberは子どもにも人気の職業です。どんなお仕事なんですか?

いまは15分程度の勉強動画を投稿して、その広告収入を得て生活をしています。YouTuberは、「ラクして稼いでいる」と思われがちですが、そんなことはありません。とくにエンタメ系のYouTuberは、毎日ネタ帳を持って、常に企画のテーマを探している人も。5分の動画を作るのに、テロップを入れたり、音をつけたりして丸2日かけて編集したりする。すごく大変です。

それに比べて僕は動画編集作業が少ないので、まだマシかもしれません。それでも、準備をして投稿するまでに2~4時間ほどかかります。まずは問題集を解き、板書案をノートにまとめて、動画で話す台本を組み立て、ホワイトボードに清書します。収録中に間違えたら撮り直しをすることもあります。15分以内の動画ですが、「分かりやすさ」を意識して、丁寧に作り込んでいます。

 

教育YouTuberの第一人者として、大変だったこともあるのではないでしょうか。

そうですね。最初に動画を投稿した2012年は、YouTubeが盛り上がる前でしたし、YouTuberという言葉さえありませんでした。

今でこそ、国立大卒などの高学歴で有名なYouTuberの方々が勉強している動画を投稿したりしていますが、その頃はまだ、「YouTubeで勉強なんてありえない!」という時代でした。そういう背景もあって、YouTuberになった1年目が一番叩かれました。「教職に関わっている」という方から「偽善者だ」という内容のコメントが届いたりとか。

でも、2、3年後には、このような無料で自由に勉強できる勉強動画などが必ず必要になるという確信があったので投稿し続けました。

それに、子どもたちから「分かりやすかった」「点数が上がりました」というコメントも届くようになって、それが大きな支えになりましたね。

仕事にはやりたくないこともある。そこから何を学ぶかは自分次第

 

教育の仕事に関わりはじめたのはなぜですか?

教育に関わる仕事をしようと思ったのは、高校時代の恩師のおかげです。それまでずっと教師を信用できず、大嫌いだったのに、心の底から信頼できる先生に出会って変わりました。鬼のように怖い数学の先生でしたが、本心から自分のことを考えてくれているというのが分かったんです。板書がきれいで分かりやすい授業だったので、苦手な数学が高校卒業時には一番得意になりました。YouTubeの授業はその恩師が目標なんです。

ただ、ストレートに教師を目指したわけではありません。教育に関わる以上、自分自身が一度社会に出る必要があると考えたからです。そうでないと、子どもたちに「社会に出たらこうなんだよ」なんて話せませんからね。そこで、就職するなら一番キツイ仕事がしたいと、新卒で教材販売会社に入社しました。家を一軒一軒まわって教材を売り込む仕事でしたが、嫌がられたり怒られたり。毎日のように鍛えられました。

営業の仕事でYouTuberに結びついていることは?

たくさんあります。先輩から、相手に伝わりやすい喋り方や声のトーン、目線の送り方、セールストークなどを教えてもらいました。それは、分かりやすく理解しやすい動画作りに活かせています。
持病が悪化したことで10カ月ほどしか働けませんでしたが、一度社会に出て経験したことは、自分にとって本当に価値のあることでした。いまの仕事に投影されているのも大きいですよね。

仕事って、始めのころはやりたい仕事ばかりではありません。希望の仕事に就職していたとしても、その仕事内容が求めていたこととは限りません。でも、やりたいことだろうが、やりたくないことだろうが、そこから何を学ぶかは自分次第だと思うんです。

営業は大変な仕事でしたし、成績は微妙でした。一生分怒られたと思うほど、キツい日もありました。それでも、いろいろなスキルが身についたり、伝えたいことを相手に届けるノウハウを学べたことは良かったと思っています。

教育を通して子どもたちの笑顔を増やしたい

 

今後の展望を教えてください。

これまで日本の教育は、公教育と塾や家庭教師など外部のサポートの2本の柱で成り立ってきました。そこに3本目となるYouTubeの勉強動画といった自由に無料で勉強できる「フリーラーニング」の柱を立て、それが当たり前になる世の中を目指しています。
たとえば、学校で子どもたちが、「どこの塾に行ってるの?」と同じ感覚で、「数学の授業、誰の動画見てるの?」という会話が普通になってほしい。YouTubeでの学習が学びの選択肢のひとつになるのが目標です。

そのためには、勉強動画の本数を増やすことだけが解決策ではないと思います。次のステップは、子どもだけでなく、学校や教育者、保護者層などにも、YouTubeの授業を認知してもらうことですね。

そんな葉一さんの「はたらいて、笑おう。」とは?

教育で子どもたちを笑顔にすることです。

教育YouTuberとしての仕事は、「教育で子供たちに笑顔を」がテーマなんです。ネット越しではありますが、子どもたちの笑顔を感じることがあります。「テストの点数が上がりました!」とメールをしてくる子は、きっと笑っていますよね。コメントの先に子どもたちの笑顔があるんです。それを見て、自分も笑顔になれます。

だからこそ、7年間も続けてこられましたし、これからも教育に関わっていく揺るぎない自信になっています。子どもたちの笑顔を増やしていくことが、自分にとって何より大事なことですね。

 

取材・構成:児玉 奈保美
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

教育YouTuber 葉一さん

東京学芸大学を卒業後、営業職、塾講師を経て独立。
2012年6月にYouTubeへの動画投稿を開始。2児の父。
チャンネル登録者52万人。総再生回数1億7000万回。(2018年12月時点)

「とある男が授業をしてみた」

動画一覧などをまとめた公式サイト「19チャンネル」