#23

遊ぶように働く

「デイリーポータルZ」 編集長 林雄司さん

仕事は真面目にするもの。そう考えるビジネスパーソンは少なくありません。しかし、「デイリーポータルZ」(以下DPZ)編集長の林雄司さんは遊ぶように働き、それでいて「ネット界の奇才」と称されるほどの活躍をされています。”遊ぶように働く”とは、どのような働き方なのでしょうか。

更新日:2019年1月24日

仕事が遊び、遊びが仕事

林さんは仕事をしながら遊んでいるように見えます。それでいて記事は最高に面白いし、熱烈なファンも多いですよね。仕事とプライベートの境目はあるんですか?

ないですね。休みの日くらい仕事から離れればいいのに、特にすることがなくて(笑)。結局、ネタ探しに出かけたり、変なイベントに参加して、あわよくばDPZのネタにしようとする自分がいます。家族を持ってから、その傾向は強まりました。うちの奥さんもDPZのライターをしているので、家でも仕事の話ばかり。

四六時中、仕事モードだとストレスになりませんか?

好きなことしかしていないのでノンストレスです。人には得手不得手があるじゃないですか。僕の場合、マネタイズしろとか、事務作業しろと言われても、向いてないのでストレスになるし、イヤイヤやっても成果は上がりません。一方、コンテンツ作りは得意なので、誰に言われるまでもなく昼夜没頭できます。

苦手を克服しようと頑張るよりも、勇気を持って「好きなことしかしない」方が大切だと僕は思います。絶対的に成果が上がりますから。

 

林さんは、1996年にプライベートで個人サイト「東京トイレマップ」「webやぎの目」を立ち上げ、多くのメディアに取り上げられるようになりました。これらのサイトを立ち上げるきっかけはなんだったのでしょうか?

デジカメを買ったことです。自宅でネットができる時代になり、HTMLの書き方も仕事中に習得したので、もはや自分でなんでもできると思ったんです。

当時、社会人3年目で、仕事はそれほど忙しくありませんでした。21時から22時には自宅にいたので、そこから寝るまでの数時間を作業にあて、深夜1時から2時に就寝する生活を送っていました。文章を書いたり自分で撮影した写真をレイアウトする編集作業は僕にとってただただ楽しい作業。まったく苦になりませんでした。

 

その後投稿企画の「死ぬかと思った」は2000年に書籍化されましたね。これも大人気となり、シリーズ化されました。ちょうどこのころ、DPZを立ち上げられていますね。

立ち上げたというより、乗っ取ったんですけどね(笑)。DPZは、会社が運営していたポータルサイト「portal.nifty.com」を乗っ取ってできたものなんです。

乗っ取った、と言いますと?

当時僕が担当していた「Travel@nifty」というサイトがうまくいってなくて、会社からマネタイズを命じられたんです。ところが僕はお金儲けが苦手。「外部ライターさんのギャラをケチってまで収益を上げたくない。もっと面白いことをさせてください」と上司に直談判して、担当から外してもらいました。

手が空いたので、“僕が本当に面白いと思うことをするために”「portal.nifty.com」を自己流に変えていったんです。最初は会社のサービスとまったく関係ない僕のランチ日記をコソコソ載せて、誰も気付く気配がなかったので、おかしな記事を増やしていきました。それで、2002年に「デイリーポータルZ」という媒体名に僕が変えてしまって、いまの形になりました。

そんな林さんの才能を摘もうとしなかった会社も理解がありますね。

僕みたいな変わり者に寛容な会社でした。それと、「ネットメディアだから許された」というのも大きいと思います。運営費がさほどかからないですから。会社の莫大な資産をつかう一大プロジェクトで「おふざけ」はさすがに許されないと思います。

 

社外評価が社内評価を上げる

会社がDPZを認めてくれたのはいつ頃なんですか?

立ち上げから約2年後ですね。きっかけはニフティの展示会でした。「DPZのブースを出さないか」と会社が声を掛けてくれたんです。単にスペースが空いていただけのことなんですけど、DPZとしてはまたとないチャンスでした。DPZを見てくださる方が徐々に増えている手応えがあったので、サイト内で告知すれば集客できる自信があったんです。予想通り、多くの方が会場に足を運んでくださり、DPZの存在価値を会社も認めてくれました。

それと、社内で評価されたければ、社外で評価されるコンテンツをつくると強いです。僕個人でいうと、個人ブログが書籍化されたりだとか、DPZでいうとメディアで紹介されたりだとか。先日、NHKさんからのご依頼で動画制作をさせてもらいました。そんな風に社外で何かしらの反響があると、社内の人が信頼してくれるようになります。

行き詰まったときこそ、不真面目になろう

立ち上げから16年経つ現在は、編集者6名、外部ライター約50名の大所帯になりました。人が増えると“遊ぶように働く”のが難しくなりそうですが?

そうですね。なので、意識改革をしています。もっと不真面目になろうって。

ネットでウケるネタは、実用的なネタと良い話だったりするじゃないですか。その方がSNSの反響が良いので、書き手がそっちに振りがちになるんです。

これは褒められたものじゃないです。短期的に閲覧数が伸びたとしても、サイトの人格がブレるからです。DPZってこんな真面目だったっけ?とか。
そういうときはライターさんに直接会って、「もっといい加減なことやろうぜ」とけしかけています。「僕が面白いと思う記事は面白いんだから、信じて大丈夫だから」って背中をどーんと押した割には世間の反応は薄くて、「10いいね!」くらいの記事が並ぶこともありますけど(笑)
それでいいんです。
うまくいかないときや追い込まれたときこそ、ふざけた方が物事は好転することが多いです。難しい顔してパソコンに向かっても周囲が萎縮するだけ。本人も自分が振りまいた不穏な空気に飲み込まれてしまいます。

 

そんな林さんの「はたらいて、笑おう。」とは?

僕は、働いているときは、いつも笑ってる気がします。取材はいつでも楽しいし、それにニコニコ笑ってるほうが、なにかと得だと思っています。

最近僕が目指しているのは、「ビジネス朗らか」です。朗らかな人は愛されるし、人に好かれるじゃないですか。いてくれるだけで重宝されるから、集客できる。朗らかはお金になる…と気付いてしまったんです。

朗らかであることがお金になるのですか…? イメージがわかないので、まさに体現されてる方の例をあげていただけますか。

ご本人に怒られそうですが(笑)、例えば、「酒場放浪記」(TBS系)で有名な吉田類さん。吉田さんのイベントは、毎回、即完売なんです。たぶんですが、僕が思う人気の理由は、吉田さんのお人柄です。非常に朗らかな方で、そこにいるだけで、みんなが幸せになる。これって、すごいことなんですよ。参加者は、吉田さんに笑いを求めてるわけでもビジネスのヒントを求めてるわけでもないと思うんです。朗らかな吉田さんと一緒にお酒を飲みたくてお金を払っていると思うんです。

なので、僕は今後も仕事をしながら笑って、ついでに「ビジネス朗らか」を目指そうと思っています!

取材・構成:両角 晴香
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

「デイリーポータルZ」 編集長 林雄司さん

1971年東京生まれ。1996年から個人でサイト制作を始める。2002年にデイリーポータルZを開設、以来ずっと編集長。主な編著書は「死ぬかと思った」シリーズ。2014年から地味なハロウィンを主催している。海外のメイカーフェア、SXSW、アルスエレクトロニカなどのイベントにも積極的に参加している。好きな食べ物はアスパラ。

デイリーポータルZ

Twitter(林雄司)